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67.レオルドとレズリーとウィリアムと

「本当に実物を拝めるとはな!」


箱に鎮座するポーション、エリクサー


欠損者、不老を希う者、障害を負う者、不測の事態に恐怖する者…争奪戦が勃発するであろう垂涎ものの代物。

これはその劣化版ではあるが、需要は底知れない。


「期待してたんじゃなかったのか」

「しておったわ!だが、出来るとは思わんだろうよ」


ああ、そうだ。レズリーの言う通りだ。

俺も出来るとは思わなかった。只、ルナが納得すればそれで良かった。


完成させなければ良かった。レグの葉の抽出液を捨てるか隠せば良かった。でも、しなかった。


「ルナに無駄な圧掛けやがって」


誰に対しての毒付きか。

胸中の辛苦に反して、眼前の雇主は近年稀にみる笑みを浮かべている。


これまで幾度とない葛藤が、苦悩が、あったのだと察せられる。

きっとルナはウィリアムだけを救いたかったんじゃない。解っていたから止められなかった。


これからルナは色々な人間に狙われ、巻き込まれる。


「ルナが言うには完全なエリクサーではないらしい。先天的な障害には効果がない上に寿命も延びないんだとよ」

「欠損が治ればそれで良い」


レズリーが箱ごと二本のポーションを手に取る。

箱に収められたポーション瓶内の液体がレズリーの弄ぶ揺さぶりに合わせてゆらゆらと波打つ。

それに注がれる感情は計り知れないほどの喜色と、微かな儚さが滲んでいる。


「共にドラスティア国に戻るつもりはないか。シグルスも喜ぶであろうよ」


視線はポーションに注がれたまま、レズリーが問うた。

このままレズリーの庇護下でルナを守護り続ける。一番確実で、安全だと思う。


「ルナ次第だ」


だが、それを俺が決定すべきじゃない。


「全く。おぬしが一人のおなごに惚れ込むとは思わなんだぞ」

「…そんなんじゃない」


ああ。確かに俺はルナに惚れている。

でも、利己的で独善的なこれはレズリーが思うほど綺麗なもんじゃない。


「まあ良い!なればルナの方を堕とすとしよう!」


ぜひともそうしてくれ。

そしたら、俺は…。


「…セリオスは元気か」

「あやつか?あやつなら先の選挙で議員の一員になったぞ!」

「そうか」


父さんと同じ、議院の道を進んだのか。

俺には辿れなかった先に。


「会いたくなったか?」

「今はいい」

「そうか」


慶ぶべきことだ。その筈なんだ。

…どうしても、俺には。


「…欠損回復後すぐに患部が動かせるわけじゃない。慣れが必要な事も伝えておいてくれ」

「そうなのか?」

「俺の実体験だ」

「…それは」

「A級冒険者がそう易々と奴隷に堕ちると思うか?」

「なるほどなぁ。…それだとルナには……」


エリクサー以外にも欠損治癒法があると理解したはずだ。それが回復魔術であることにも推測が及んでいるだろう。


ルナに伝えるように言われた。経験した俺なら知識しかない自分よりも的確なアドバイスができるだろう、と。

無視しても良かった。ルナの転移者の肩書を前面に押し出すべきだった。


結局、只の独裁者で偽善者なんだと理解もしている。


「今は旅を続けるが、最終的にはドラスティアかセルバイドに定住するつもりだ」


本当に何がルナ次第だ。どこにも考慮なんてありゃしない。


「ドラスティアと断言してはくれないのか!故郷であろう?」

「だからだ。ルナは優秀だが如何せん警戒心が皆無だ。奴隷にしようと思えばたった一度の信用さえ得れば、簡単に墜とせる。そうなった時、ルナは現状を嘆きながら力を振い続けるだろうよ。セルバイドの王子サマはんなことはせず、正当に雇ってくれる可能性が高い」

「否定はできんな!…シグルスやセリオスに掛け合ってみるとしよう」


統領も、副統領も、選出された議員でさえも。自由を重んじる冒険者から政治に飛び込む酔狂な奴らなのだ。恣意的でこちらの都合なんてないものとして扱うのが常だ。


それでも。セリオスに協力を仰ぐ、か。


「…父さんだけで良い。頼んだ。てなわけであんたにもこれやるよ」

「…いいのか?エリクサーであろう?」

「まだある」


同じ箱に内包物も同様のそれ。たった二本であれど、額は巨億に昇る。

ルナには何の相談もしていない。完全な独断。


変わりたいと願ったのに、こうしてまた繰り返す。救えたもんじゃないな、本当に。


「ありがたく頂くとする。が、末恐ろしいな!ルナは!」

「有能なだけだ。それ、あんたからウィリアムにちゃんと渡しておけよ」

「任せるが良い!」


すべての精算を済ませ、上機嫌なレズリーからの晩酌の誘いを断って静かな廊下をひとり歩く。

鈴を鳴らしたような虫の音も、自分の靴音でさえもが背後から責め立てる。


夜空に浮かぶ月は、欠けのない見事な真球だった。




ウィリアムの作り笑顔が我を出迎えた。

我に向けられるそれが自然なものではなくなったのはいつだったか。そこに諦念や絶望が乗るようになったのは最近だっただろうか。


「ウィリアムよ。受け取るが良い!」

「…これは?」


閉じられた箱の中にはエリクサーがある。ウィリアムも我も欲してやまなかったポーション。


眉唾物だと笑う者が後を絶たなかった。僅かな希望に縋りついて後ろ指を刺される事も少なくなかった。

それでも我らはやっと手にしたのだ。


「最上級ポーション、通称エリクサーだ!」

「…本物ですか?」

「無論!【天眼】のお墨付きだぞ!」


ルナ、感謝するぞ。レオルドも、ルナに出会わせてくれたことに礼を言う。


ウィリアムのこの表情をまた見られただけで。それだけでも十二分に価値あるポーションだ。


「…これで兄様は…」


箱に額を寄せるウィリアムは肩を震わせている。


この身にどれ程の重荷を背負い込んでいたのか、我には想像してやる事しかできない。

軽くしてやることすらできやしなかった。


「王太子として返り咲けるであろうよ」


これからはヨハネスが以前にも増して道を切り開いていくことだろう。


悲願は達した。エマから予言を告げられて、不確定未来の修正に何度彼女の力を頼ったか。軽々しく多用すべきではないと知りながら無茶を敷いてしまった。悪いことをしたと思う。

だが、後悔はない。また同じ状況であれば、同様の決断をする。


「ありがとうございます」

「我に言われてもの」

「ルナさんですか?」


探るような、面白がるような視線だ。調子が戻って来たのだと嬉しく思う。

考えは同じ。ルナを自陣営に引き込みたいのだ。我であっても手心を加えてはくれなさそうだ。


「どうだろうなぁ?」


レオルドも我にすれば子のようなものだ。ドラスティア国に帰ってきて欲しいと思うのが親心というものぞ。


どんなに可愛く思っているウィリアムでも、これは譲れん。


「隠し事が下手ですね」

「今日くらい良いであろう?」

「ふふふ…」


笑っていておくれ。そうやって、ずっとな。

やっと完成したエリクサーはほんのり甘い緑茶風味!

完全型のエリクサーにはオーロラが発生するのです!………たぶん。

レオルドの複雑で自虐的な主観をちょっとはお届けできていると幸いです…。執筆レベルが圧倒的に足りてない。

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