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65.レシピと不足素材

祭典最終日かつ建国祭当日。


目下の問題がひとつ片付いてポーション製作に進展がない事に焦りが生まれた。調合レシピすら未だに不明なまま式典を終えそうになっているのだから心の余裕もなくなって当然だろう。


与えられた仕事も疎かにはできないから当てられる時間も限られている。


「ルナよ。エリクサーは出来そうか?」

「レシピがないので、なんと、も……?」


ポーションの事で頭がいっぱいでレズリー様の一言に深く考えずに答えている最中におかしいことを理解した。


なぜレズリー様の口からエリクサーの言葉が出てきたのか。それは私の目的がバレているからで…。


「な、なななななな何で…!?」

「おぬしは分かりやすいな!」


挙動不審になっているであろう私を見てレズリー様が盛大にナハハ!と笑い声をあげた。


視線を泳がせてグルグルと考えを巡らせる。が、咄嗟にいい案が出てくるはずもなく、目が合ったレオルドさんに目だけで救援信号を送った。


「鎌掛けはどうかと思いますが?」

「尋ねただけではないか!」

「わざとでしょう」

「当然だ!そなたらがポーション製作に取り掛かった時期は怪我のことを知ったすぐ後だからな!何より使用する機会の殆どないマイナーなポーションばかり作っていたからな。流石に察するというものだ!」


自分では誤魔化せているつもりになっていた。確かに過去の行動を客観視した時、ポーションの種類に違和感が残る。その迂闊さに放心するしかない。


「…どうしたらいい?」


レオルドさんに頼るのが一番だ。私だけで答えを導いたらまた同じ様なミスをする自信がある。


「したい様にしたらいい。ただの善意で無謀なことに取り組んでんだ。ここでやめようが、出来なかろうが文句言われる謂われはないぞ」


…そういえばそうだった。初めからレオルドさんは出来なくてもいいって言ってた。色々な事があり過ぎてやりたい事から成功しなくちゃいけないことにいつの間にかすり替わっていた。


縛っていた義務感がなくなってストンッと肩の荷が下りた気分だった。


「ここまで期待させといてか!」

「勝手に期待したのはそちらでは?」

「しかしだな!任務中だというに調合許可を出したのは我だぞ!」

「それで助けられたのは誰で?優位に立てたのは?」

「我だ!その分依頼料は奮発する話でまとまったであろう!」

「つまり依頼外です」


レオルドさんが適当にあしらうからレズリー様が駄々を捏ねる。

ウィリアム様とレズリー様の関係性からしてきっと彼自身もどうにか助けてやりたいと思っているんだと思う。


「~~~ええい!往生際が悪いぞ!エリクサーが完成するまでそなたらの護衛依頼を継続するからな!」

「そんなことを言われましても」

「今我が決定したのだ!低評価を付けられたくあるまい?」

「姑息すぎる…」


ウィリアム様を想っているからといってもこの強引さはどうにかして欲しい。


「まあ、今更低評価にされた所でそこまで困らないんだがな」

「そう、なの?」

「ルナはもう一生遊んで暮らせるだけの金を稼いだだろ?で、俺は冒険者ランクを上げるのに高評価はもう必要ないからな。金を稼ぎたきゃ普通に魔獣を狩ればいい」

「…確かに」


万能型ポーションは確かに恐ろしいくらいの値段で売れた。S級では色々と選考規準が変わると聞いたことがあるから、レオルドさんには評価にこだわる理由がない。依頼も積極的に受けるタイプではないし。


「ルナもランク上げる気ないだろ?」

「それは、うん…いらない」

「なら、ルナがやりたいかどうかだな」


やりたいか、どうか…。


「…私は、やれるだけやってみたい」

「そうか。出来るだけの手伝いはしてやる」

「うん!ありがとう」

「そうと決まれば!だな!」


レズリー様は喜色を浮かべ、立ち上がった。




後夜祭も終えた翌日。


レズリー様協力の下、ゼウス第三王子によってアスリズド中央国王城書庫へ案内された。

天井まである本棚にぎっしりと本が詰まっている様相は壮観と言わざるを得ない。


「ゼウス殿。礼を言うぞ!」

「いえ、お気になさらず。どうぞご覧ください」

「ではお言葉に甘えるとしよう!」


それぞれがバラバラに書庫内を物色していく。

その様子にゼウス第三王子は若干の難色を示したものの、色々とやらかしている自覚があるからか強く咎められることはなかった。


レオルドさんとレズリー様は古文書を。エマさんは歴史書担当を買って出てくれた。


私達転移者は加護があるので全ての言語に対応できるけれど、まさかレオルドさんが古代文字を読めるとは思わなかった。


彼曰く、ダンジョンには古代文字が壁に彫られていることも多く、攻略に役立つこともあって覚えたらしい。冒険者には世界各国を回る人も大勢いるから、その人達もその土地の言葉だけでなく古代文字も出来るのかと思うと冒険者はその実、頭脳派集団なのではないかと認識を改めることになった。


一方の私はポーションや薬草関連の本を重点的に調べていった。新しい、作ってみたいレシピが沢山発見できたけれど、肝心のエリクサーのレシピは見つからないまま時間だけが過ぎていった。


それからも何日か通い詰めて担当していた本棚をコンプリートして次に移っていく。

隣接していた歴史書の難解な言い回しに手を焼きながら読み進めていた。


「ポーションの作成手順が書いてあるっぽいんだが…ルナ、読めるか?」


レオルドさんが寄せてきた古文書には古代文字でポーションのレシピが記載されていた。が、何のレシピなのかも分からないし、レシピ自体も所々掠れて見えない。



でも、私には【天眼】がある。



「…!これです!ありましたよ!」

「本当か?!」

「はい!」


やっと辿り着いた。探し求めていた最上級ポーション、エリクサーのレシピ。






「…会いたくない」


目の前には豪華な扉が鎮座していた。この先に目的の人物がいる。

でも私はその人達に会いたくないと駄々を捏ねてレオルドさんを困らせていた。


「って言ってもな。ないと作れないんだろ?」

「そう、だけど…」

「さっさと行って話を付けて来れば良い!」


解っている。けれど、会いたくない。


うだうだと言い訳を繰り返している私はガン無視される方向でレズリー様が扉を叩こうとした。

が、それより早く扉が開いた。


「ああ?何しに来やがった」


オーバーサイズのシャツとズボンを来た青年がこちらを認識するなり険悪な態度を取った。


身勝手なケンタウロス族達を私はひとかけらも許していない。レオルドさんだって少しだけど、怪我してた。その前には実行犯ではないとはいえ、毒も盛られた。


大っ嫌いだから、会いたくなかったのだ。


「ゾウラ殿に用があって参った!事前に面会を申し込んでいるはずだが?」

「…チッ。入れよ」

「失礼するぞ!」

「失礼致します」

「…失礼致します」


レオルドさんに続いて渋々扉を潜る。客室はどこも似た構造になっているのか、あんまり目新しさはなかった。


「よく来たな。待っていたぞ」


ゆったりとソファーに腰かけるソーレンさんがいた。

で、さっき私達を招き入れた失礼な人がこの人の弟さんらしい。名前はエズラ。


彼女は男装の麗人って言葉が似合うような人だ。伝統衣装っぽい地味な衣服ではなく、豪奢な服飾品を身に付けていたら、一介の種族の長ではなく、どこかの偉い人だと思っただろう。

他の人達も一人一人が武人といった風格を纏っていて威圧を感じる。


「忙しいであろう所にすまないな!急ぎなのだ」

「なるほど?なれば早速本題に入るがいい」


偉い人達によくある無駄に難解で長い前置きはないらしい。早く受け取る物受け取ってさっさと帰りたい私には嬉しい限りだ。


「…お嬢ちゃん。話が終わるまでこっちで座ってな。茶と菓子くらいなら出してやるよ」

「…えっと……?」


ケンタウロス族の筋肉ムキムキのおじさん達が一人分のティーセットを用意していて私をそちらに促してくる。

理解が全く追いつかない。


「あの。私お仕事中なので…」

「頑張っているのだな。だが、子供が無理に働くものではないぞ」

「え、ええ…?」


本当に意味が分からない。

すごく優しい目で見つめられている事も、皿に山と盛られたお菓子たちの事も。


助けを求めてレオルドさんに目で訴える。生憎とレズリー様の背後に控えているのでそちらはあてに出来そうもない。


「あの!私子供じゃないです」

「どう見ても子供だろ?遠慮せずゆっくりしな」

「ええぇ…」


全く私の言葉は聞き入れてもらえず、レオルドさんも我関せずといった様子でどんどん進んでいく会談に耳を澄ませつつ警戒を怠っていない。


「ほらよ、茶」

「あ、ありがとうございます」


促されるままに席に着いて、咄嗟に受け取ったコップは木製で中のお茶の色が分からなかった。相当色の薄いお茶らしい。

クンクンと何となく嗅ぎ慣れた匂いに恐る恐る口を付けた。


「これおいしいです!」


その味は完全に緑茶だった。


「そうか!そらぁよかった。ほら、菓子も食えよ」

「はい!ありがとうございます!このお茶ってどこで買えますか?」


ケンタウロス族が飲んでるってことはギルスティア連合国内にだけ自生する植物で作られているのかもしれない。

炒ったり、揉み込んだり、乾燥させたり。きっと加工が大変なはずだからお値段もするだろう。


「これか?これは俺らが育ててんだ」

「これをですか?!すごいです!…少し売って欲しいです」

「売ってやりたいんだがなぁ…レグの実の葉っぱでな」

「そ、そんなぁ…」


ギルスティア連合国どころかケンタウロス族にしか入手できない植物だった。今後を左右するかもしれない奇跡の植物だとか何とか言って各国が買い求めているらしいからもうないのかもしれない。

懐かしい味に再会できたのにまた飲むことは叶わないのかと思うと気落ちする。


「よいよい。ほんの少しだけだが、分けてやろう」

「本当ですか?!ありがとうございます!」


ソーレンさんは話の分かる女性だった。いい人だ。


お茶を持ってきてくれたおじさんが袋に詰めて来てくれた。袋の中を少し見せてくれたんだけど、加工も何もしていない普通の丸っこい葉っぱが入っていた。トンデモ色でもなんでもないありきたりな葉っぱだった。


「これってどうやって飲んだらいいですか?」

「お?これはな、ちょっと低めのお湯を注いで少し置いたら飲んでいいぞ。ちと色が薄いだろうが、そんなもんだからよ」


日本の緑茶と違ってこのままでいいんだ。でも、適温とかは一緒っぽい。


「大体これで10回くらいは飲めるはずだ」

「そんなに!ありがとうございます!おいくらですか?」

「なぁに言ってんだ!子供が一丁前に気にすんな!」

「ええ!?でも…」

「では、物々交換でもするか」


ソーレンさんが口を挟んだ。あっちはもう話終えたらしい。

何となくだけど、ふたりが諦めた顔をしているような気がする。


「物々交換、ですか?」

「そうだ。何か貴様が作ったものを貰おう。それで気兼ねしまい」

「作ったもの…」


価値のつけれないレグの葉っぱに見合う物って何だろう?

そこに私が作った物という制限も加わっている。もともと物を買わないからそんな高価で貴重な物はないと言われればそれまでだけども。


「魔道鞄と、偽装の付与魔道具と…万能ポーション、特級ポーション……これは魔石で、こっちはお肉で、これも香辛料だから違くて…」

「ストップストップ!待て待て待て待て!」

「えっと…はい?」


最近製作した付与魔道具を中心にありとあらゆる物を取り出していったが、死蔵品で腐らない物は全部レオルドさんの魔道鞄に収納してある。私の手元には良さげな品があまりない。


相手方の希望を聞いてそれに沿った物をレオルドさんに出してもらった方がよさそう。もしくはこれから製作してもいい。


「これは何だ?」


彼女が手に取ったのは銀素材の腕輪でアーシャさんへの報酬としていくつか作ったうちのひとつだった。


「それは偽装の腕輪です。試作品ではあるんですけど、A級魔獣の魔石を使用した腕輪なので品質は保証できますよ!こっちもアクセサリーの種類は違うけど、同じ付与を施してます」

「…これが、試作品か……。これにさせてもらおう」


何か変な間があったような気がするが、とりあえず腕輪を気に入ったらしい。


ひとまずの試作品。形状を聞き忘れて色々用意した物と大差はない。因みにアーシャさんは斧を持って軟化のスキルを発動するからと、ペンダント型を選んでいた。


「分かりました!他に欲しいものはありますか?」

「ほか…?」


またまたおかしな反応が返ってきた。

話題沸騰中の希少なレグの葉っぱがこれと同等な訳はない。それくらい世間に疎い私でも分かる。子供だからと遠慮されているのだ。


「これとかどうですか?時間停止がないから不便ですけど、馬車三台分の荷物が詰める魔道鞄です!時空魔術がないけど魔獣をたくさん狩りたいって人や武器をたくさん持っておきたいって人にオススメです。で、こっちは万能型状態異常回復ポーション。万能型ポーションって言われるポーションです!毒や麻痺、催眠などなど色々な状態異常に効果を発揮します」

「…これはどの程度の奴だ?」

「どの程度…?何にでも効きます!」

「何にでも!?」

「はい!万能ですから!」

「すべて貰おう!代わりといっては何だが、もう少し持って行くがいい」

「わわっ!ありがとうございます!」


さっき貰った袋と同じ大きさの物を追加でくれた。単純に二倍たくさん飲めるとあって嬉しくないはずがない。


「レグの実も葉も酒も、って酒は駄目か。とにかくもう少し見せてくれ」

「分かりました!」


価値を見出してもらえそうな物を片っ端から見せていく。

収納を圧迫していた私の付与魔道具はどんどんケンタウルス族の手に渡っていった。その対価としてたくさんの葉っぱといくつかの実、それからレオルドさん用のお酒を貰ったのだった。


ケンタウロス族はすごく良い人達だ!




緑茶を味わえて、これからも時々だけど飲めるとあって懐はホクホクだ。ルンルン気分だ。


「交渉の意味はなかったな!いっそゾウラたちが羨ましいぞ」


先頭を行くレズリー様の後ろを足取り軽く付いてると声が掛かった。

そういえばエリクサーに必要なレグの葉っぱを入手するために訪れたんだった。すっかり忘れていた。


ゾウラはあのおじさん達の誰かかな?


「たくさんくれました!良い人達です!」

「ナハハ!良かったな!これは我が国に持ち帰るとするか」

「え…?」

「ん?」


それ使わせてもらえないの…?


「そんなにあるのに必要か?」

「これは飲む用です!」

「はあ?」

「これは私の緑茶なんですよ!」


緑茶を奪われまいと、胸に抱く力を強めた。


「いや、レグの葉だぞ?それは」

「緑茶ですよ!緑茶!」

「…リョクチャって何なのだ?」

「緑茶は、緑茶です!」


緑茶ライフを死守するためにレズリー様という名の強敵に挑んだ。

レオルドさんが間に入らなければきっと危うかった。

対峙とエリクサーのレシピと最後の材料…やっと、やっと!!!

ケンタウロス族のみなさんは擦れてないので、優しい親戚って感じ。お菓子たべるかい?攻撃が標準搭載されているのです!ついつい食べ過ぎるやつです!いつ食べても美味しいのしかない!ダイエットの敵!

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