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60.黒幕

王城内に移動し、応接室にて歓待を受けている。


初外交で実質上の五か国会談に会食まですることになろうとは夢にも思わなかった。

ストレスで胃がシクシクと痛んで、料理の味がよく分からない。

唯一信頼している従者のリヒトと同郷の鈴木さん達が休憩に入っているので、自分だけ孤立無援なのが更に胃にダメージを与えていた。


どうにか孤独と緊張とストレスに耐え、仮眠をとっていたリヒトが昼食を済ませた晴明達とほぼ同時に職務に就いた。今朝よりも多少顔色が良くなっている。


でも、レオルドは戻ってきているのに鈴木さんは一向に姿を見せない。それは呪術士達がケンタウロス族を誘い出しのために出て行っても、ケンタウロス族を呼び寄せる餌が入室してきてもだ。


その人物は餌足り得ない可能性の方が圧倒的に高く、利用価値がないに等しい。しかし、他に手札がないのだ。たったそれだけの理由だけで牢から出られたというのに件の人物は騎士にブツブツと文句を垂れていた。


「鈴木さん来ないねぇ」


大した害もないことに目向きもせず少し体を反らして後ろに控えるリヒトへ声を掛けると、少し屈んで唇を寄せてきた。


「仮眠中だそうです」

「…もし起きてこなかったら僕が鑑定やらなきゃじゃん!」


ここに集っているのは味方ではなく、利害の一致した敵。

敵の敵は味方理論で協力関係を一時的に結んでいるだけだ。

そんな所で加減なしに【天眼】を発動するなんて無防備にもほどがある。激しい頭痛で動けなくなるだけならまだいいが、鈴木さんのように取繕うのがうまい訳でもないからどんなに頑張っても絶対に怪しまれる。


手元に万能型ポーションがあるとはいえ、呪術と同様に自覚症状がない状態異常に侵されればどうにも対処できない。

ドラスティア国の代表にも協力の意思を表明してしまっているのが、痛い。


警戒しない選択肢は、残ってない。


「…陰ながら応援しております」

「代わって欲しい」

「そうして差し上げたいのは山々ですが、不可能です」


それだけ言ってリヒトはスッと元の姿勢に戻った。

自分達人間の物とは少しだけ形が違う耳が微かに上下している。こちらに向けて誰かが近づいているのだろう。


普段は優柔不断の心配性の癖にやる事はやるし、場に応じた対応も完璧にこなす。従者としての顔になった臣下に僕も背筋を伸ばす。


「戻ってきましたぞォ!」


ノックもなしに勢いよく扉を開いたのはゼータだった。

その背後には比較華奢な人物がガッチリとした体躯の男達を引き連れている。



あれがケンタウロス族の族長。名前は、ソーレン。



男達と似た服装を身に付けているが、鑑定上では女性らしい。その前提を意識して観察すれば、女性に見えなくもない…かもしれない。


一応偽装の付与された装飾品で鑑定対策はしているようだけど、性能があまり良くない。レベルの低い鑑定スキルだったら騙せただろうけど、簡易とはいえ【天眼】を欺くほどではなかった。


所有するスキルは全体的に幅広く、浅く。時空魔術や結界魔術、槍術と高めなスキルもあるにはあるが、さほどの脅威も感じない。寧ろやばいのはソーレンを取り囲む男達だ。全員が槍術lv.6以上、中にはlv.8を超えている上に身体強化まで高レベルの者もいる。


レオルドやレズリー殿クラスの実力者であれば勝てるが、自分やリヒトでは相手にすらならない。


身体から立ち昇る威圧に屈服したくなってしまうほど、歴然とした差があった。

その肌身と本能への襲撃に奥歯を食いしばって耐える。


「こちらが彼らの長!ゾウラ殿です」


偽名で紹介されたソーレンは返事をする事もなく、眉間に皺を寄せたまま黙っている。


「…まずはお掛け下さい。本日は要請に…」

「いらん。さっさと本題に入れ」


命令形でリューズ殿の言葉を遮ってソファーにドカッと座り込み、脚を組む。それは各国の代表が集う場においてあまりにも無礼な態度だった。


「…お言葉通り、早速本題へ入らせて頂きます。先日暴行未遂で確保したこちらのダンバ・ディアダスト・メト・ギルスティアの処遇とギルスティア連合国の賠償についてです」


リューズが指し示す方向にちらりとソーレンの目線が吸い寄せられた。が、それも一瞬のことですぐに視線を外し、興味なさげに元の位置に戻していた。


やはり何の役にも立たなかったと内心落胆した。この場の全員が同じように思っただろうが、感情を露わにするような人物はいない。


「そちらのゼータと検討を重ねていたのですが、なにぶん要領を得ず…」

「我も知らんが」

「帰国するまでに内容を詰めておきたく思いまして。容疑者に関しましては建国祭終了後に監視を付けたうえでですが、解放致します。ですので」

「解放だと?何故だ」


ここまで我関せずのスタンスを崩さなかったソーレンが顰めていた表情をさらに険しくした。


一方、その人物はそのブクブクの顔面に見る者の気分を害する笑みを浮かべていた。強者特有の威圧を察知できない図太い神経が少し恨みがましい。


「罪状は暴行未遂だけですから。賠償も各国の代表による会談でしたから総賠償額こそ高額になると思われますが、個々でしたら、適正な額となるでしょう」

「あれひとりの処罰で相殺は出来んと?」


…こいつも呪術士達みたく政治知識がないのか。さっきまで笑顔だったそれも焦りからソーレンへの口汚い罵倒を投げつけていた。


いや。そもそも論、ケンタウロスは伝説上の種族だ。人間社会の制度についても疎いか。

そう考えると、貴族社会で生きてきたあれよりもマシだ。


「出来かねます」

「首でも何でも持って行けばよいだろう?」

「つまり。貴方の望みは戦争、ということですか」


リューズ殿が淡々と結論を突き付ける。

それに伴って部屋の空気が張り詰めて、身動き一つ取るにも圧迫感が付纏う。


「何故そうなる?我はこの諸々の言動の責を、負うべきものが負えばよいと言っているだけぞ」

「そのような個々の問題ではありません。容疑者ダンバ・ディアダスト・メト・ギルスティアは一国の代表として我が国に入国しており、各国も同様です。これはすでに国際問題へと発展しているのです。そして、貴方が発言したように我が国で首を刎ねた場合、大陸全土を巻き込んだ世界大戦が開幕することでしょう」


外交の場とは思えないほどの丁寧な説明によりやっと自身の失言を理解したのか、ソーレンは下唇を噛んでいた。

彼女の考え込む姿に嘘偽りはなく、真の望みは開戦ではないらしい。


そして、圧がもう一段階ギアを上げて息苦しさを増す。

一体、何が目的なのか。


「面倒だからさぁ、率直に聞くけど。何がしたかったの?」


場に不釣り合いな軽口が落ちた瞬間、張り詰めた空気が徐々に和らいでいく。

質問を投げかけた張本人が仲間達に小声で説教を食らい、困り顔で怒り心頭の彼女達を宥め賺していたのが気を緩ませたらしい。


どうにか仲間を落ち着かせた後、こともあろうに警戒心の欠片もなく普段の人好きの微笑みでソーレンへ近づいていく。ソーレン含めた彼らは一様にして突然割って入った晴明に困惑している。


「そやつの言う事も一理あるやもしれんぞ!このまま遠回しに聞き続けても時間の無駄だろうからな!」

「はあ…。彼が正直に話すかどうかはわかりませんよ」

レズリー殿は晴明の提案に乗り気だが、ウィリアム殿はその意見に否はなくただ合わせる気だろう。


どうせ、ソーレン達に権謀術数を求めてもまともな回答が返ってくるとは思えないのだからこれくらい馬鹿正直に真正面から聞くのもひとつの手だろう。

これで簡単に聞き出せてそれがしょうもない事だったら、今までの苦労は何だったのかと怒り狂うかもしれない。


「聞くだけ聞いてみればよいかと」


リューズの投げやりともとれる賛成意見に僕も適当に頷いておく。


「…マコト様」


耳元でリヒトの囁き声がするが、背後の気配は微動だにしていない。お得意の風魔術による伝達だ。


「真偽の確認しておくべきかと」

「分かってる。分かりたくないけど」

「…ご無理は、なさらぬよう」


リヒトの心配が滲んだ声が柔らかな風と共にそっと僕の髪を揺らした。その温かみに背中を押されて尻込みしそうな自分を鼓舞する。




今から苛まれる激痛に。

最後までお読みいただきありがとうございます!

もう60……75までには王都編終わるかな(゜-゜)

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