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59.冷やかし

レズリー達重役が会食に入ると同時に護衛も交代し、昼休憩を取る。


王城内の使用人用の食堂で準備された食事を摂っているのだが、何故かルナと同郷のセイメイ達と同じテーブルを囲んでいた。

俺はこいつらを信用しておらず、会話は当然弾まない。


要因は他にもあるが。


「ルナ。もう食わないのか?」

「ぅ、ん……」


俺の問いに返事とも寝言ともとれる言葉が返された。

食事を開始した時は普通に返答があったのだが、少しずつスプーンを口に運ぶ動作が遅くなっていった。


終いにはスプーンを持ったまま首をカクンと揺らす度にどうにかそれを直しては落ちそうな瞼を何度も瞬いていた。当たり前だが、彼女の食事はなかなか進まない。

本当に冒険者なのかと疑いたくなるほどに無防備な事この上ない。


「ルナ」


自分の分を完食し終えて負担にならない程度に彼女の身体を揺するが「……ぁぃ…」と、辛うじて起きているような有り様だった。


このまま放置していたら、確実に食べ残しの飯に顔面を埋めることになるだろう。で、廃棄したら後々「もったいない…」と言って情けない顔をする。


そこまで見えてしまっているのが何とも言えず、自身のトレーに置いたスプーンをまた手に取ってクタクタになるまで野菜が煮込まれたスープの具を掬い、ルナの口元まで持って行ってやる。


「ほら。口開けろ」

「…あ~……」


俺の行動に外野が騒がしくなったが、注意力がいつも以上に散漫なルナは特段反応を見せず、こっちに顔を向けて食事が貰えるのを待っている。その姿は宛ら雛鳥で何とも言えない間抜けさだ。


口にスプーンを突っ込んで閉じたのを確認してから引き抜くと、いつもより更にゆっくりな咀嚼で噛まなくても飲み込めるような具材を何度も噛み締めていた。

やっと飲み込んだかと思うと、また船を漕ぎ始めている。


「いらないか?」

「………」


この短時間で本格的に睡魔に敗北したらしい。

器用なのか何なのか、スプーンは手にしっかりと握ったままで皿ギリギリの位置に頭を維持して。


こうなったら推測が現実になる前に回避行動を取るに限る。


「運ぶぞ」


念のため断りを入れて抱き上げたが、全く起きる気配がしない。

ルナに割り当てられている部屋へ足早に向かい、以前のようにベッドへ下ろして服を寛げ、布団を掛ける。


最近ずっと無理を続けていたからか、目の下に分かりやすい隈がある。苦しそうな呼吸をしていないところだけは安心した。


充分な休息を取れるようにと、過去の自分が聞いたら驚愕するような感情を抱いて窓のカーテンを引く。

警戒の欠片もない寝顔を晒すルナは、暫くは深い眠りから覚めそうにない。




カーテンを透過して薄らと差す光を、レオルドの影が遮る。






ルナの許から食堂へ戻って俺を迎えたのは、ニヤニヤとした気持ち悪い笑みと生暖かい視線だった。

居心地が悪いったらない。


「戻った」

「おっかえり~」


食べ終えたトレーを返却することもなく、周囲と同様の表情を張り付けたセイメイがひらひらと手を振っていた。

その他の三人は仏頂面と嫌悪と好奇心。それぞれ多様な反応を示していた。


面倒だと思いつつも元の席に座し、ルナの残したすっかり冷めた食事に手を付けていく。


「足りなかったんならおかわりしに行けばいいのに」


わざとらしい通る声で冷やかされて、周囲の関心が改めて自分に向けられた。

その視線が本当に鬱陶しい。


「必要ない」

「ええ~?」


茶化すような声色に年下の戯言だと分かっていてもイラっとする。

セイメイも、マコトも。


「休憩はもう少しで終わりますけれど。あの人をベッドに移動させる意味はありますの?」

「このまま寝かせとけ」


マリアが厭味ったらしく指摘するに、こちらも手を止めずにいい加減な対応をした。

彼女らを視界に入れていないが、空気だけ怒気が伝わってくる。


「怠慢だと思わなくって?」

「思わないが」

「どうしてかしら?」

「今朝まで一睡もせず働いてた時点で」

「それが役割でしょ!」

「その役割を何も与えられなかったあんたが言えた義理はないな」


言い返すほどの成果を上げていない奴が口を噤んだ。


「これからが正念場といって差し支えないのよ?」

「ルナが居ないと不安とでも言うつもりか。シケた実力してんな」

「、そんな話はしていなくってよ!万全を期して挑むべきだと言っているのよ!」

「同じだろ。ルナが空けた穴を塞ぐ自信がないってことと何が違う?」

「~~~!!!よろしくってよ!やってやりましてよ!」


またひとり、簡単な挑発を受け流せず激昂した。

冒険者は総じてプライドが高い。プライドを着て歩いているような輩も居るくらいだ。

エリスも典型的な冒険者の特徴に当てはまっていただけの話。容易くて助かる。


ケンタウロス族との邂逅でルナが何を仕出かすか分かったものじゃない。ポイズンフロッグの時のように暴走しないとも限らないのだ。被害がどこに飛び火するかで立場も危うくなる。


寝ててもらった方が俺としては安心できる。


「おふたりはどこでしりあったです?」

「あ?」


不意の問いかけに反射的に素で返してしまった。


アーシャとかいう見た目だけガキなこいつに調子が狂う。

見た目だけとはいえガキを泣かせるのは大人げないと思うと同時に、すっとぼけた性格とちぐはぐの実力がルナと似ていて強く出にくい。


「何の話だ?」

「るなとのことです!」


こいつが発言したと同時に周囲の者共が興味津々に聞き耳を立てる。

それが手に取るように分かって辟易した。


「俺から言う事は何もない」


毅然とした態度で拒否を示してパンを千切って口に放り込んだ。

そいつは「えー!?しりたいです!」と頬を膨らませて抗議するが、意に介さず食事を継続した。


どいつもこいつも他人事を気にし過ぎだ。知ってどうするというのか。

まあ、冷やかしのネタにするんだろうな。



聞き耳を立てていたいい年した奴らから催促されたのも、これ以上揶揄われないためにもちろん黙秘した。

最後までお読みいただきありがとうございます。

給餌行動。作者はレオルドにこれをやらせたかった…!

ちなみに金獅子族にそんな本能はないです。そういう求愛をする獣人種が多いため特別な相手にしかしないと、獣人内での常識なだけ。これにルナが気付くのはまだまだ先…。

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