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58.呪術士達の興味

会議は中断され、一時休憩となった。

滞りなく進んでいるように思えた話も、彼らの罪の意識のなさに阻まれてまとまらないのだ。


『呪術』が禁止されていたわけではないという彼らの言い分とこちら側の他者を加害してはいけないという常識的かつ法律的な主張が対立したのだ。

そして、彼ら自身が国家に賠償しうる資産を持ち合わせていないということも進捗がない原因だった。


頭を悩ませる重鎮たちを余所にゼータは無知故の傲慢さで会議をさらに引っ掻き回し、周囲のストレスと疲労を蓄積させた。


一度冷静に判断したいという希望の下、休憩になった訳だが、ゼータ率いる呪術士達は案の定私とレオルドさんへ一目散に突撃してきた。


彼らのあのスピードは確実に止まることを想定しておらず、目も若干血走っている。

怖すぎるので結界を張ろうと魔力を操作した。


が、完成直前で腹部に回る腕の感触と圧迫感を感じて、気が付いた時にはゼータ達の頭上を飛び越えている最中だった。


どうやらレオルドさんが私を小脇に抱えてジャンプし、彼らから距離を取ったようだ。

日本にいた頃では考えられない体験に思考が停止した。


しかし、着地のタイミングで強い圧迫感が腹部を襲い、ちょっとした浮遊感と圧迫感が徹夜明けで身体が万全じゃないことを痛感させる。


結界に衝突して潰れたガエルのようになった彼らを間近で見るよりマシだったかもしれないと思い込んでどうにか気分の悪さを振り払う。


合図を送り、そっと地面に下ろしてもらって彼らを見遣ると、レオルドさんが取った距離がもう既に到達寸前までに詰められていた。


咄嗟に発動直前だった結界を張り、これ以上私達に近づけないように空間を隔てるが、勢いそのままに衝突した事で結局潰れたカエルのような彼らの姿を見る羽目になった。


インドアで陰湿っぽいのに、どこにあんなパッションがあるのか。


「杖をッ!ワタクシ達の杖をォ!!!」


阻まれて足止めを食らってもなお諦めず、ドンドンッと力加減なしに結界を叩く。

その形相と執着が本当に怖い。


「んな勢いで来る必要ないだろうが!」

「お、落ち着きましょう!杖は逃げませんよ…!」


溜まっていた憤慨はどこへやら。今のこの状況に疲労と恐怖の方が勝っていた。


ふたりで何とか鎮静を図ろうと諫めるが、彼らは譫言のように「杖…!杖…!」と連呼している。

まるで麻薬依存者だ。それも重度の。


「~~~そんなに欲しいならくれてやるッ!!!」


堪忍袋の緒が切れてしまったレオルドさんが持っていた杖をぶん投げた。



あ、魔石……。



それを、フリスビーを投げてもらった犬の如く彼らは追いかけていった。しっかりと振りかぶっていたので、綺麗な放物線を描いて思いの外遠くに飛んでいく。



フリスビー……じゃなくて。杖の落下先には偶然なのか狙ったのか分からないが、レズリー様が居た。


この状況を傍観し、楽しんでいた彼はいきなり巻き込まれたことに頬を引き攣らせた。


「我に向かって投げたな!?レオルド!!!」


キャッチするしかなく手にした杖を狙いも定めず適当に投げ返し、レオルドさんへの恨み言を垂れる。


レズリー様が投げた杖の落下地点には誰もいない。ゼータ達が飢えた獣の如く突撃してくるのだから誰も近づきたがらないのは当然だろう。


カラン…っと軽快な音を立てて地面に落ちた杖へ彼らは我先にと手を伸ばす。



が、それよりも先に杖へと辿り着いた人がいた。その人は両手で杖を掬い、そして…。





「フンッ…!!!」


バキィッッッッッ!!!!!




右太腿に振り下ろして真ん中から叩き折ってしまった。




わたしのませき……………。




そこそこお高く売れるはずの魔石が装着された杖の無残な姿に疲労もあってふらりと膝から身体が傾き、そんな私をレオルドさんが支えてくれる。


「大丈夫か…?!」

「わ、私は大丈夫…。でも、魔石が……」


私の視線は数十分前のゼータ達と同様に杖へと吸い寄せられる。

一方の彼らも杖の惨状に膝から崩れ落ちたり、茫然自失となったり、怒りに顔を紅潮させたりと様々な反応を示していた。


「俺が見た感じだと魔石自体には問題なさそうだが…」

「……本当?」

「ああ」

「…良かった…」


レオルドさんの齎した魔石が無事な事実にほっと胸を撫で下ろす。


「で、何で折ったんだ?」


杖を破壊した張本人にレオルドさんが声を掛けるが、返事がない。


私の位置からは彼女の背後しか見えないが、彼女と相対している彼らの顔色がなぜかみるみるうちに悪くなっている、ような……。




「“時は金なり”という言葉を貴方方はご存じ?」



エリスさんが一歩踏み出すと、正面の青褪めた彼らが二歩以上後退った。


私もその声色の恐ろしさにレオルドさんにしがみつく。


「貴方方は私の時間を奪いましたの」



エリスさんが更に一歩踏み出すと、頑丈に作ったはずの床からミシッ…と軋む音がした。


材質は石を使用したはず、だよね…?


その更なる恐怖にしがみつく力が強くなってしまう。



「つ・ま・り!私のお金を奪ったということです!許すまじ蛮行!その身を持って味わい、懺悔なさい!」

「「「ヒギィィイイイィィ!?!?!?!?」」」



彼らの悲痛な(?)悲鳴が室内に響き渡った。


悪鬼羅刹の如く追い回すエリスさんと逃げ惑うゼータ達。その様は正にカオスだった。

彼らのその姿は憐れそのもの。


私も彼らに怒り心頭だったはずなのだが、ぷしゅー…っと風船の空気が抜けるように萎み、心にはエリスさんへの畏怖が残った。


後ろから羽交い絞めにされてなお暴れ狂う彼女と怯えて縮こまる彼らを見てると特に。



「良い事!?貴方方は罪を犯したのです。罪は贖わなければなりません。良いですね!!!」

「「「は、ハイィィィイィ!!!!!」」」




再開した会議では驚くほどに従順となったゼータ達が議論を中断させることは殆どなく、処遇にも是と頷いた。


所々でゼータが話に割って入ると「ア゛?」というヤクザのようなエリスさんの低音が響き渡り、恐怖に縮こまらせた彼らが「何でもありませんッッッ!!!」と叫んで肯定を示すというループが何回も繰り返されていた。


始めの議論は何だったのかと言いたくなるほどのスムーズさ。






会議終了後。


「…何というか、色々想定外過ぎるのだが…」


と、腑に落ちないと言いたげにレズリーが独り言ちていた。

エリスが怒り狂っている最中。


「ごめんねぇ?エリスはこっちでちゃんと叱っておくから」

「謝罪はいい。弁償しろ」

「いいよ!だって付与された魔石は壊れてないし、その杖も量産品でしょ?」

「…チッ」

「そんなことよりも!恋人に抱き着かれて頼られて嬉しかったんじゃな〜い???」

「まだ恋人ではない」

「えっ?そうなの?……………ぅえぇッ!?」


ボッタクリ失敗レオルドと回避成功&既視感のある反応晴明。

ちなみにルナはこの時エリスに夢中で聞いてない。


杖の魔石には『威圧』と『発光』が付与。

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