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57. そんなあっさり…

「ワタクシの!ワタクシの杖は?!」


現状を理解できず、一行は半狂乱に騒ぎ立てる。

いきなり気を失って、気が付いたら「ここどこ!?」状態でパニックになるのは分かるんだけど、何でこの人達は「杖がない!?どこ?!」って方向でパニックを起こしてるんだろう…。


自分とは異なる優先順位を持つ彼らに困惑する。



「あ~…コホンッ!少し落ち着くが良いぞ」


彼らの取り乱し様に埒が明かないと感じたのか、レズリー様が場を仕切ろうとする。

が、演出交じりの混合魔術で呪詛を解呪しているため、言葉を鵜呑みにするような従順さも、冷静さもない。


呪詛を振りまいた元凶が呪詛に侵されているという疑念と混乱を生みそうな状況を阻止するために先手を打ったのだが、余計な気遣いだったかもしれない。

呪詛返しを喰らって混沌に陥っていたのも事実であったのだから。


カオスな有様にこの場の誰もがほとほと手を持て余す。


「話が出来るように落ち着かせましょうか?」

「頼むぞ」

「かしこまりました」


レズリー様に許可を得て、彼らとの距離を詰める。

聖魔術で精神鎮静の柔らかく温かな光で照らすと、目を見開いた彼らは静まり返っていた。


しかし、またすぐに「杖どこ?!」と騒ぎ始めてしまった。これが彼らの通常運転のようだ。


「…効いてないようだが?」

「も、申し訳ありません…!」


すぐさま謝罪を口にするが、状況が好転するはずもなくレズリー様と顔を見合わせて途方に暮れる。

その間にも彼ら室内を動き回り、杖の捜索を開始している。


まさか魔術が功を為さないとは思わなかった。それだけ仕込みがうまくいったということでもあるが、ここまで行くともはや失敗だ。呪術士の執着を甘く見ていた。



「ルナ。杖貸してくれ」

「?どうぞ」


レズリー様の護衛として無言で背後に控えていたレオルドさんに頼まれ、魔術鞄から杖を取り出し渡す。

彼の行動の意図を理解しているらしいレズリー様は愉快げに頷いていた。


「そこの喚き散らしてる者共。とっと黙らないとこれ折るぞ」


それ程大きくもない声で発せられたにも拘らず効果は劇的で、ピタリと動きを止めて彼らの視線はレオルドさんの手元にある幻想的な杖に集中した。

ご丁寧にも左右の先端部を持っている所が少し厭らしい。


「あんたらのトップはそこに座れ。他はそいつの後ろに整列」

「「「ハイィッ!!!」」」


不遜な態度でのレオルドさんの命令に、呪術士達は初指令に従う新兵のような緊張感で慌しく指定された位置に着いた。

全員が顔色悪く痩せた男性で、リーダー格の人も特筆すべき特徴がない。


何というか、傍から見ると非力な新兵を威圧する悪徳上官って感じだった。


そんな感想を抱いている内にレオルドさんが護衛役としての定位置に戻ってきた。

その手には杖が握られ、いつでも真っ二つにすると言外に告げていた。


…本当に折ったりしないよね?杖自体はどこにでも売ってる物だけど、付与に使った魔獣素材の魔石は結構いいお値段がする。出来れば破壊しないで欲しい。


使い道は特にないけど。



「では、ここからは我らと話そうぞ!」


やっと話し合いに移れるとレズリー様が声を上げたが、彼らの注目は未だに杖が独占している。


「杖は…」

「この後でな!」

「…仕方ありませんねェ」


ソファに腰かけるリーダーさんは仏頂面を、控える彼らも似たような表情をしている。


「何だかんだそなたとは初対面だからな。まずは自己紹介と行くか!我はレズリー・バーン!ドラスティア国12議席がひとつを任されておる」

「はァ…ワタクシはゼータと言います。それでワタクシ共に何の用でしょうかァ?」


問いかけていてもなお視線は杖に固定されたままで、正面に居る三澄君達には目もくれない。

その一貫した態度はいっそのこと清々しい。


「僕はセイクリッド勇王宰相、真・三澄だ。僕は『鑑定』を所持していて、君達が『呪術』スキルを使用していたことを確認している」

「そうですかァ!それではあれの詳細を教えてくれると嬉しいですねェッ!」


興奮を露わに仲間達と喜色を浮かべて私的な会話を始めた彼らに面喰ってしまう。


あっけなく容疑を認められたんだけど、これまでの苦悩と苦労は何だったの…?

いや、こんなにもあっさり認めるってことは何か企んでいるのだろうか?


「…否定しないんだ?」

「しませんとも!生まれてからずっとこれがどういうスキルなのか疑問でしたからねェ。是非とも教えて頂きたいですなァ!!!」

「……後であそこのメイドに聞くといいよ」


宰相らしい硬派な喋り方をしていた三澄君だったが、彼らに毒気を抜かれたのか呆れたのか、普段の口調に戻った。


そして、その彼が指名していたのは私だった。

しっかりと「杖持った護衛がいるでしょ。あの人の隣の小さいメイド」と失礼な説明も付け加えて。



終わった時にはしっかりクレームを入れよう。



「で、話を戻すんだけど。君達はその力が何なのか分からず使ってたの?」

「出来なければ、待つのは死。ですからなァ」


あっけらかんと発言した彼に悲壮感はない。

彼らを取り巻く環境は、曲がりなりにも平穏とは謂えなかったようだ。







生まれながらに先祖が犯した罪の業を背負わされ。


周辺を闊歩する凶悪な魔獣。


古代文明の謎多き遺跡。


襲い来る自然の脅威。


食事を確保するだけでも命懸け。


現状から脱出するにも人里までどれ程の距離がある事か。


持ち得る力では、辿り着くまでに魔獣の餌となる事は想像に難くなかった。


外部からの知識流入もなく、実験が唯一の娯楽であり、暇つぶしだった。


もしかしたら…という微かな希望を抱いて。


そこへ現れたのが、ケンタウロス族だった。


かの種族は往々にして強靭で、親切だった。


自分たち以外の人型種に会うことなど滅多になく、数少ない遭遇も殆どの場合既に事切れていた。


圧倒的に社会経験が不足している彼らはある意味純粋で、従順。


御することは簡単だったに違いない。


ケンタウロス族の族長に良い様に操られているとも知らずに、彼らは広がりゆく世界に歓喜した。


しかし、ほぼ監禁状態に陥っていた彼らが狭い世界から解放され、偏った価値観と一人の計略は大きな亀裂を生んだ__。






【天眼】で彼等の人生を勝手に垣間見た私としては何とも言えない、というのが素直な感想だ。


実行した彼らが悪いのはその通りだけれど、筋金入りの世間知らずな人達をそのまま外交の場へ連れてくる方も問題がある。


好奇心に突き動かされた人が騒動を起こすのは目に見えていたと思うから。


「君達は人の世に慣れていないよね。ギルスティア連合国の中で過ごすだけでも日々の発見は尽きないんじゃないかな」


ウィリアム様がアスリズド中央国に来訪すべきではなかったと、なぜ来たのかと暗に非難した。


「その通りですよ!毎日毎日見識が増えていくのが楽しくて楽しくて…!」


頬を上気させて口元に笑みを作り、一生懸命に語るゼータは少年のよう。


どのような物を見て、触れて、感じたか。

その純真な姿に気を削がれ、口を挟むことなく相槌を打って傾聴する。


場の反応は大まかに呆れと警戒、苛立ちに分かれた。

イラついているのは発言権が弱いアスリズド中央国の人達が圧倒的に多い。


しかし、一番私的に怖いのはどこの国にも属さず壁際で成り行きを見守っているエリスさんだ。満面の笑みを浮かべているのに、オーラが昏い…。


「…お話し中失礼しますが、貴方方がこの国に来訪した理由を聞かせて下さい」


とうとうアスリズド中央国側の人員が痺れを切らして問いかけ、ゼータは話を遮られたことに怒ることなく、むしろ嬉しそうに口を開く。


「それはですねェ。他国を見て回るのもいい経験になるとケンタウロス達に勧められたからですよ」


ケンタウロス族の存在に実感が湧かない者も当然ながら居る。本当なのかと疑い、鋭い眼光で視られていることに気が付かないゼータはさらに言い募る。


「彼らは偉い人達にも掛け合ってくれましてね!いやァ。本当に優しい」


ニコニコと言葉を続ける彼とは対照的にこちらは押し黙っていた。


ケンタウロス族の族長は最初からこの過程を思い描いて行動に移していた可能性が高く、それにケンタウロス族達は間接的にではあるが、協力した。


「…ケンタウロス族に会わせてもらうことは可能か」

「どうでしょうなァ…?彼らは悠々自適であるが故に」


顎に指をやり思案しているレズリー様の問いに、首を傾げたゼータは曖昧に返答した。


こんな傍迷惑な騒動を起こしている人の言う事じゃない気がする…。


「誘いに応じるかどうかはどうでもいいとして、声を掛けるだけなら出来る?」

「勿論ですとも!ですから是非とも杖を…」

「分かっているよ。お礼はさっき言ったメイドがするから」

「ありがとうございます!楽しみですなぁ!」


三澄君の返答にゼータは素直に喜びを露わにした。

周囲には何となく緩んだ空気が漂い始めたが、報酬の件を丸投げされてしまった。

これから彼らと交渉することを考えると気が重い。

私は徹夜明けだというのに、容赦ない。



国家の重鎮の仲間入りをした三澄くんは人遣いが本当に荒いと再認識したのだった。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

今更ながらに気づいたのですが、この作品の主人公は『ルナ』と『レオルド』で、ほぼ同時期から投稿している作品の主人公の名前は『セナ』と『テオドール』。


…ネーミングセンスを誰か私に下さい<(_ _)>



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