6.まさかのダメ出し
レオルドさんは右腕を抱きしめるようにして現実を噛み締めていた。しばらくすると、顔を上げ、椅子に座りなおした。
「右腕を取り戻させてくれたこと、感謝している。ありがとな。」
「いえいえ!どういたしまして…!」
角が取れたような笑顔をして赤い目元をしたまま目を合わせてくる彼に私は治してよかった…!と、心の底から思った。
檻の中の彼は冷め切っているような、それでいてこちらを警戒しているような、怖い印象だったが、今では違う。歩み寄ろうと、知ろうしてくれているように感じる。そのことがうれしいと同時にこの人とならうまくやっていけそうで安堵した。
「これから少しずつ、慣らしていきましょう…!」
「そうだな!…どれくらいの期間で使いもんにすればいいのでしょうか。」
そうしてリハビリについて話し合いをすることになった。そして、大体の内容が決まる頃には、軽く雑談を交わせるくらいにまで打ち解けていたのだった。
そのとき、ふと気になることを思い出したというような素振りをレオルドさんが見せ、尋ねてきた。
「でも、あんな言い合いなんてせずに動けないように命令して無理やり治してしまえばよかったのではないですか?そうすれば…いや、なんでもありません。」
続きが気になったが、言うつもりのないことを聞き出すのもどうかと思い、質問にだけ答えることにした。
「勝手にされるのって、嫌じゃないですか?それに治療のためとはいっても命令するのもなぁって思って…」
「いや、奴隷だからな?…ですので、命令するのも勝手にするのも主人の権利です。」
思わず口に出してしまったのだろう、丁寧に言い直している。実はそれがずっと気になっている。わざわざ慣れない敬語を使おうとしてくれているのだろう、ルナが主人だから。
だが、誰かに傅かれるような、そして、それを受け入れられる精神をルナは持ち合わせていなかった。
「あの、レオルドさん。普通にしゃべってもらって大丈夫ですよ?無理に言葉遣いを丁寧にするの、大変ですよね…?…あ!今更ですけど、レオルドさんって呼んでいいですか?私のことはルナって呼んでください!」
私の発言にレオルドさんはまさに困惑しています、と言わんばかりの表情を浮かべている。
「…好きなようにお呼び下さい。…ルナ様」
「呼び捨てでいいですよ?あ、あと敬語!やめましょう!」
様付けも年上と思われる人に敬語で話しかけられるのも居心地が悪い。なので、断固拒否したい。最悪、命令することも考えている。先程の自身の発言を棚に上げて。
そんな私の考えを感じ取ったのだろう、眉間には皺を寄せて項垂れていた。そして、スッと顔を上げて姿勢を整え、覚悟を決めたような真剣な表情で見つめてきた。
その表情を見て今度は私の方が困惑してたじろいでしまう。
「いくつか言わせて頂いても、よろしいでしょうか」
「は、はい…」
レオルドさんは意を決してという風に小さく息を吸ってから口を開く。
「まず、奴隷が主人を呼び捨てにタメ口で、主人が奴隷に敬称に敬語なんてありえない。ついでに言うと、ベッドや食事が主人と同じものっていうのも聞いたことがない!」
「はい…」
「それから、奴隷商からこの宿までの道で俺の歩幅にあんたが合わせようとしていた。普通逆だからな?!で、次に給金だ。簡単に安請け合いしやがって。騙されても文句は言えないんだぞ!最後は値段も聞かずに俺を買ったことだ。これが一番ダメだな」
「はいぃ…すみません……」
そしてこれらがどうしてダメなのか、危険性とともに懇々と説かれたのだった。すべて正論で反論のしようもなかったので、身を縮こませて落ち込んでいるとレオルドさんは小さく溜息をついた。
「よく今まで生きてこられたな」
「そのために、レオルドさんを買いました…」
「だから買いもんを任せたいのか…」
「はい…」
その後、右腕の治療費について聞かれ、自分のために治したからと遠慮すると「俺の話聞いてたか…?」とまた説教が再開されたのだった。
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