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48.ギルスティア連合国の呪術士

建国・誕生祭七日目。


本日はガーデンパーティーに参加している。

人生二度目のパーティーに緊張で胃がキリキリと痛んでいるが、レオルドさんに支えられてどうにか気合で頑張ってる。


ドラスティア国側の参加者は先日の夜会と同じであるが、今回はウィリアム様も招待に応じて会場入りしている。彼は結界を切らさないために有効範囲内にて挨拶回りをこなしているのだが、相手を誘導して範囲外から逸れないようにしているのは手放しに称賛するしかないと思う。


さて、私の方はというと先日とは別人の『呪術』スキル所持の容疑者をロックオン中である。

今回はステータスを確認するのに十分な時間があるから遠慮なく視させてもらった。【天眼】をフルパワーで発動したため、激しい頭痛に襲われ、現在の私はどうにかそれを表に出さないように必死である。


「…少し、よろしいでしょうか?」


談笑が途切れ次に向かおうとするレズリー様達に声をかけ、視線で相手を示す。身体の向きは変えずに眼だけを動かして確認したレオルドさんの「あの不健康な奴か?」と失礼極まりない問いにほんの少しの苦笑を漏らしつつも首肯する。


「あれは確か、ギルスティア連合国の…」

「はい。それと、後でお耳に入れたい事が…」

「うむ、時間を取ろう」

「ありがとうございます」


了承してすぐにウィリアム様とコンタクトをとったのち、卒なく挨拶をこなして主催者側のザウス第三王子とニコラウス第二王子にそれぞれ退室の挨拶に向かう。


「ザウス殿。本日のお招きに感謝するぞ!」

「楽しんで頂けましたか?」

「無論だ!」

「それは良かったです」


ザウス第三王子は言葉とは裏腹な、冷淡な無表情が浮かんでいるのだが、レズリー様はまったく気にした風もなく式礼を済ませてその場を後にするため手早く会話を終わらせようとした。


「もし。わたしめにも交流の機会をいただいても?」


しかし、思わぬ人物が会話に乱入してきた。

その人は血の気の失せた顔に暗い盛装を合わせていて不気味さを漂わせている。




【名前】プサイ

【種族】人間

【レベル】lv66

【固有スキル】なし

【スキル】自然治癒lv8

     水魔術lv3

     火魔術lv3

     呪術lv.1

     裁縫lv1

     料理lv1

     罠lv5

     解体lv.3

     直感lv.2

【加護】なし



“ギルスティア連合国の呪術士”という肩書を抜きにしても関わり合いになりたくない男性である。


さっきまでアスリズド中央国の貴族と会談していたはずだったのにいつの間にここまで来たのか。


この事態にウィリアム様はチラチラとこちらに視線を投げながらも、既に主催へ退室を告げた後だ。

不自然にならない緩慢な速度で出口へと進んでいく。


声を掛けていた呪術士に反応を示したのは私達だけではない。ザウス第三王子も無表情に嫌悪を滲ませていた。


「プサイ殿…。いきなり割入ってくるなど、失礼ではありませんか」

「このパーティーは親交の為にあるのでは?そうは思いませんか、レズリー卿」

「…ああ。我は良いぞ?」


レズリー様の承諾に喜色を浮かべ、プサイは近くを通った給仕からワイングラスを受け取って二人へ手渡す。



その際に“呪詛”を込めて。



護衛としてそれを見過ごすわけにはいかない。しかし、証拠が手元にない状態で無礼を働くわけにも糾弾をする事も、ドラスティア国の一団として責任を負っている以上叶わない。

結界魔術の能力を信じて見届けるしかないのだ。


もし、また掛かってしまったら混合魔術で解けばいい。


レズリー様達が手に取る様を注意深く監視する。

結界をグラスが抜けた瞬間、結界に阻まれた呪詛が取り残されて霧散した。


詰めていた息を吐き出すと共に、警戒対象をグラスから張本人へシフトする。


レズリー様達は何のためらいもなくグラスに口を付ける。言わずもがな、ザウス第三王子は疑うことなく既に飲み始めていた。


その様子を観察していたプサイは満足げな笑顔を湛えている。

その表情の変化に他者を策略に嵌めることに適していない人選だと思い、やはり違和感を感じた。


しかし、飲み物を介して呪詛を掛ける事だけが目的だったのか、そこからのプサイは特にこれといった怪しい行動を見せることなく、最後にはヘラヘラと不気味に笑って離れていった。


頃合いを見計らってレズリー様も退室を告げて会場を後にした。






会場を出てしばらく進んだ回廊でウィリアム様と合流を果たし、ドラスティア国の客室に帰還してそのまま報告に移る。


ドレスは重たく、ヒールも踵が痛いので着替えたいし、頭痛も治まりそうもないため休みたいが、文句を言えるはずもない。


「…まず、ギルスティア連合国の人が呪詛を掛けている事に間違いありません」


レズリー様達は会場内で情報共有をしていたため鷹揚に頷くだけに止まる。


「そうか。それで話したい事とは何だ?」

「はい。それは呪術スキル所持者が複数人いる事と、偽装が付与されたアクセサリーを所持している事。それから、他国の王侯貴族の方々にも状態異常にかかっている人が既に何人かいる事です。私達に一番関係のある人物ですと、ザウス第三王子とニコラウス第二王子が掛かっています」

「偽装を付与……厄介ですね」

「しかもあのふたりか…」


憎々し気な声を上げるウィリアム様と悩まし気に呟いたレズリー様はそれぞれ一考を巡らせ、沈黙の末に結論を告げる。


「これは私達だけでどうにかするべきではないかと」

「そのようだ。そのふたりを治癒させ、アスリズド中央国を味方に付ける。良いか、ルナよ」

「かしこまりました。それはポーションと魔術、どちらでですか?」


私の問いにレズリー様がニヤリと笑う。


「もちろんポーションだ!依頼料に関してはまた相談のうえ上乗せしようぞ!」

「ありがとうございます」


対してウィリアム様は柔和な笑みを浮かべていた。


「わたしにも、ぜひお時間を頂きたく思います」

「かしこまりました。ご都合がよい日時をまた教えて下さい」

「私は今からでもいいんだけどね?」


茶目っ気を含むウィンクを私に寄越してきたことに内心「やめて欲しい…!」と本気で願った。ドレスよりはるかに楽な制服にとりあえず着替えたいし、休みたい。


「良いぞ!何事も早いに越したことはない!」

「レズリー様?先日ルナが倒れた事をお忘れですか?」

「すまんなウィリアムよ!ルナは少し休憩を取らせる事にする故、昼食後に時間は空いておるか?!」

「え、ええ…。予定はありません」

「では、後程また訪ねてくるが良い!」


エマさんのおかげで休憩の時間が設けられ、少しだけ仮眠も取った。そしてレズリー様同席の下、レオルドさんと共にセルバイド王国とも依頼契約を交わした。






その日の夕刻。


ドラスティア国客室の応接室には室主のレズリー様とウィリアム様、それから件のニコラウス第二王子とザウス第三王子が面会していた。


無表情のザウス第三王子はともかくとしてニコラウス第二王子は表面上もにこやかで初対面の時と印象が変わりないが、鑑定では『呪詛』とはっきりと出ている。


王子という身分はどの国の所属であろうとも自分を見繕わなければならない教育を受けるのだろうか?


さて、レズリー様の立案では解呪できる状況に持って行ってくれるらしいため、警戒は怠れないにしても私はそれまで待機なのだ。

念の為、混合魔術を発動できるように心構えだけはしている。


「それで私達に話とは一体何でしょうか?」

「何か不満がおありでしたら何なりとお申し付けください」

「いやなに。そのような事実はないぞ?ただ折角アスリズド中央国まで足を運んだのだ。交友を深めておくのも良いかと思うてな?」


レズリー様の言葉を聞いた途端にそれまで王子様然とした笑みを湛えていたニコラウス第二王子の瞳の奥に嘲笑が発露した。それを目撃して私を含む数名の護衛達が息を呑む。


「御冗談を。多忙で在らせられるお二人がそのように無為な時間を過ごすはずがないと、愚行致します。前置きは無しに、本題をお聞かせ下さい」


ザウス第三王子が視線を厳しくして同調した。それの反応にレズリー様は楽し気な笑みを深める。


「そうかそうか!やはり分かり易過ぎたか!」

「当然かと」

「ならば仕方あるまい!……拘束せよ」


纏う空気を鋭利な刃物の如く変貌させたレズリー様が下した指示に護衛役の冒険者が数人がかりで押さえつけていく。


現役冒険者に成すすべなく封じ込まれたふたりは抵抗をつづけ、外交関係に罅が入ると頻りに叫んだ。

まさかのやり方で状況を作り出されて私は呆けていることしかできなかった。


「やるが良いぞ!」


無礼じゃ…と心配になるが、私以外は躊躇いなく王子達の口にポーション瓶をねじ込んで咳込むのも暴れるのも完全に無視だ。


飲み切った王子達は抵抗をやめて力なく地面に身を預け、茫然自失となっていた。


「意識ははっきりしておるか?」

「…な、にが…?」

「そなたらはギルスティア連合国の術中に嵌まったのだ」

「…先程の発言に関して、まずは撤回と謝罪をさせて頂きたく思います。申し訳ございませんでした。…ご慈悲を賜れるのでしたら、ご説明をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「勿論ですよ。そのために貴方方をお呼び立てしたのですから」


正気に戻ったことを確認して王子達を開放し、レズリー様達が順を追って事の経緯を説明していく。その際に私の事も紹介があり、簡単な挨拶を交わした。




「ウィリアム殿、バーン様ならびにバーン夫人。お見苦しい所をお見せして申し訳ございませんでした。解癒して頂きました事、感謝申し上げます」

「ありがとうございました」


深々と頭を下げて感謝する二人。




…バーン夫人って誰?


「良い良い!これからの働きに期待しておるぞ!」

「おふたりがご無事でしたら何よりです」


そう微笑みを浮かべて返答をしたのはエマさんで。


思わずレズリー様とエマさんの顔を交互に見遣ってしまった。




後に真偽を確かめるためレオルドさんにこっそりと確認したところ「今更気づいたのか?」と呆れられて再度衝撃を受けたのだった。






アスリズド中央国国王、アーラウス・ウィーノ・アリス・リズベルトは息子達からの報告に頭を抱えていた。


国王と共に内容を聞き及んだ側近達も往々にして同様の反応だ。


他国の貴賓を迎えるホスト側では日々の通常業務に加えて警備の見直し、各種饗宴の最終調整、貴人の要望へ臨機応変な対応指示などの職務に忙殺されている。


そんな彼らの胸中は現在“勘弁してくれ…!”の一言で完全一致していた。


「…まずは彼等に相応の謝礼を見舞わねばならんな。それであちらからは何か要求はあったか?」

「はい。安全確保として王宮内部の調査を希望する、とのことです」

「それはこちらに任せては貰いたいのだが…」

「私達もそうお伝えしたのですが」

「説得の余地なく断られました」


息子達の言葉になおも頭を悩ませた。


案内役であるという建前の下、政務を任され始めたばかりで政治的計略への対処が甘い彼らへ先にコンタクトを取る。


これはドラスティア国とセルバイド王国の策略であろう。


そしてこのような現状を招いている我らに対して信用ならないと示し、対応を見定めているのだろう。対処によっては今後の外交関係にも影響を来すため半端な判断を下すことも出来ない…。


「仕方ない、調査に許可を出す。が、ニコラウスにザウス、それとこちらの調査員も同行することが最低条件だ」


とは言ったものの、息子二人にこれを罷り通すことができるとは到底思えない…。


「俺が二国に対して交渉を請負う」


側近のリューズが交渉役として名乗りを上げた。

こいつにならば任せても問題ないだろう。


「リューズ、頼んだぞ」

「御意に」






一方その頃。


とある客室の主は、正常とは言い難い様相を呈していた。



「あぁぁあぁあぁぁぁあ…ぁ………!!?!??!」



瞳孔が開き切って充血した眼球に土気色の顔貌。手足は小刻みに震え、血管が浮き出ている。



三澄真は呪詛が齎す状態異常によって、精神が崩壊しかけていた。

2025.7.10

王子ふたりの治療を魔術からポーションに変更しました。今後の展開で矛盾が生じてました。すみません…。

“ギルスティア連合国の呪術士”は役職じゃないので簡易鑑定には引っ掛からなかったということで…!通常の鑑定にも所属の欄はないですし…!

ウィリアムは『様』でザウス達は『第三王子』としているのは分かりやすいからです。

エマはレズリーの奥さんです。やっとルナに気づかせてあげられた…!

ちなみにエマはレオルドのひとつ上で、レズリーとは約十五歳差。

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