42.各国の思惑 ②
クリスルレ国に与えられた一室では、高級なワインの香りを楽しむかのように卑俗な笑みを浮かべるザンニ・セキナーストがいた。
ザンニは肥満体型に皮脂の浮いた額、ギョロギョロと不気味に動く目や潰れた鼻などのパーツはどれも中心に寄っていて、おぞましい容姿をしている。
グラスのワインの香りを充分に嗜んだのち、ゆっくりとワインを口に含み、舌の上で転がして味を楽しむ。
(さすが、アスリズド中央国メズスト産の高級ワインだ。素晴らしい香りにコク、フルーティな味わい…)
味覚の好みに合ったのか上機嫌に次々とグラスを空けては注いでを繰り返している。
ワインボトル一本を空にしてもさらに飲もうと、もう遅い時間だというのに呼び鈴を鳴らして使用人を呼びつける。
「おい!」
「はい。お呼びでしょうか」
「反応が遅い!何だその体たらくは?まあいい。もっと酒を持ってこい!」
使用人から見たザンニは顔を真っ赤に、足元は千鳥足となっていて、まともな思考をしていないのは火を見るよりも明らかだった。
「あまり飲み過ぎるのはお体に障りますので、程々になさって下さい」
「私に口答えするのか!?」
「い、いいえ!」
「ならば早く用意しろ!!!」
「かしこまりました!ただいまお持ち致します…!」
「フンッ!初めから素直に頷けば良いものを」
使用人が部屋から退室した後も悪し様に罵り続け、急遽用意したワインなどのお酒にも散々文句を付けながらも次々に飲み干していく。
身体の心配をする彼らの諫めの言葉を封殺して酒を煽るその姿は下町のゴロツキ達と大差ない。
なぜこうも暴慢な態度を取っているかというと、近年自国が鉄鋼業において市場を独占する勢いで輸出を行えているからだった。クリスルレ国はドラスティア国を常日頃から見下しているが、同時に武器や防具の輸出では商売敵となって市場を二分しており、目障りにも感じていた。
それが数年前から鉱山での鉄鉱石の採掘量が爆発的に跳ね上がり、今やクリスルレ国は薄利多売戦略へと振り切っていた。おかげで知名度が上がり、愛好家が増え、輸出量はどんどん増加していった。
そして今回の外交で新たなる販路も開拓する事が出来ていたのだった。
(あと数年もすれば我が国は鉄鋼業で確固たる地位を確立する。下賤なドラスティアの野蛮人共め!いい気味だ!)
憎悪募る相手の窮地に愉悦でザンニの頬が歪む。それは観るに堪えない醜悪な顔貌をしていた。
(クリスルレ国は完全に低価格路線に舵を切った、か…)
レズリー・バーンは現状を思案していた。
「レズリー様。いかがなさいましたか?」
「ん?何でもないぞ?」
「そうですか」
察しの良い妻へ適当な返答をして、自身の思考へと意識を戻す。
かの国が低価格な武器を大量に輸出するようになった。
年々その数が増加傾向にあり、我が国が些か苦難しているのも事実である。
ドワーフが作り上げる武器は手にとても馴染むため、憧れる者も後を絶たない。
買い手は巨万といるだろう。
これは明らかなドラスティア国への挑発行為だった。
しかし、いずれクリスルレ国には限界が来る。鉱山は取り尽くせば無くなるのだ。
それに反してドラスティア国のダンジョンから産出される武器・防具は尽きる事がない。
そしてドラスティア国にはダンジョン産の薬草、金銀財宝などが産出され、輸出品には事欠かない。
初めから戦いの勝敗は見え透いていた。
しかし、冒険者は売られた喧嘩は買う主義である。それは議席を預かる者もまた例の洩れず。
むしろ捕食者を彷彿とさせる壮絶な笑みがレズリーの口元を彩っていた。
三澄真は誰もいない寝室で独り、ベッドに埋まって頭を抱えていた。
(あああああぁ………僕は、僕は!どうすればいいんだ…)
答えの視えない問いに駆り立てられて責め苦を味わっていた。
セイクリッド勇王国は現在、国が完全に二分している。
現国王派閥と教会派閥。
貴族派閥と旧国王派閥。
自分は現国王派閥に属していてどうにか他国との友好関係を構築するために参加したというのに、手応えがまったくない。
むしろ遠巻きにされている事に薄々気が付いたのだ。
どうにかしなければならないが、どうすればいいのかがさっぱり分からない。
学校で習うものには必ず見本となる解答が用意されていた。
しかし、今この場にはそんな物もなければ、解答を用意してくれる人もいない。
この間にも旧国王派閥は邪魔をしてきているだけでなく、隣国貴族達を味方へ引き込んでいる気がしてならない。
現国王陛下には教会がバックに付いているため、各国が無碍には出来ないのがまだ救いであるが。
やはりどこの国においても一律の価格設定で安定した治療を行っているというのは強力な手札なのだ。
だからと言ってこのまま甘えていい訳がない。
もし、教会が寝返ったら?
もし、教会が聖女を傀儡としてセイクリッド勇王国を掌握しようとしたら?
もし、自分達が邪魔になったら?
数々の“もしも”の推測が三澄の余裕をなくしていく。
(自分は選ばれた人間だ。出来ないなんてありえない!きっと、きっと!明日には……)
成果の上がらない日々に焦燥だけが募り、背後から何かに追い立てられる感覚が徐々に鮮明になっていった。
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