41.各国の思惑 ①
広々とした客間はアスリズド中央国の国力を表しているかのようで鬱々とする。
それを覆い隠すかのように溜息を口腔内でどうにか噛み殺した。
「ウィリアム殿下、御気分が優れませんか?」
「いや、何でもないよ」
しかし、私に長いこと仕える従者にはお見通しで「リラックスできるハーブティーをお持ちします」と言って部屋を出て行ってしまった。気を遣わせて申し訳なく思う。
独りになったこの部屋では明るいのに、自身の内心も相まって闇に飲まれるかのような心地がした。
我がセルバイド王国は兄が負傷した事による内部分裂が水面下で激化していた。
兄は弟の私から見てもカリスマに溢れ、王としての素質を十二分に持ち合わせた人物だ。
生まれてこの方、兄がセルバイド王国の国王になるのだと。自分はその補佐をして国を盛り立てていくのだと、信じて疑ったことがない。
が、怪我を負った事によりそれが大きく覆されかけているのだ。
私を王太子にと、声を上げる者が後を絶たない。
もちろん否定した。それでも兄の欠損を理由に説き伏せようとしてくる臣下ばかりだった。
現国王である父は私同様に兄が次期国王に相応しいと理解しているが、貴族たちの反発に心が揺さぶられている。
だから私は兄の欠損を治癒し、王太子として返り咲かせるために日々奔走してきた。
眉唾物でも、ただの言い伝えでも、噂を耳にすれば飛んで行った。
そして今回のアスリズド中央国訪問も目的は欠損治癒の詮索。
この大陸に根差した国々と国境を察しているこの国ならばと希望を抱いて訪れた。
結果は全敗であるが。
もう既に心は折れかかっている。
もうどうせならば光を、希望を私に向けてくれるなと。そしたらもう失望しないで済むから。
そう考えてしまった。
尊敬する兄に。そして、私と志を共にする者達に対する本音なのかと、自身の薄情さが、卑劣さが。心を苛む。
しかし、私の心情を知ってか知らずかレズリー殿が情報を齎した。
最上級ポーション、エリクサーが作成されるかもしれないと。
冒険者であるルナという、少女によって。
彼女は不思議で、面白い人だ。
王族である私や国の代表であるレズリーに擦り寄ることなく、むしろ遠ざけようとさえしている。
それに加えて異世界人で、常識と言うものが抜け落ちていて。
当の張本人はとても多才な、少しコミュニケーションが苦手な普通の少女。
そんな事は有り得ないと言葉にしてはいても、心のどこかで期待をさせるような魅力が彼女にはあった。
思考の底に沈んでいた意識はコンコンッと従者がノックする音によって浮上した。やや遅れて入室許可を出す。
「ウィリアム殿下。ハーブティーでございます。どうぞお召し上がり下さい」
「ありがとう」
テーブルに置かれた湯気の立つハーブティー。カップを手に取って香りを嗅ぐと、それだけで心が凪いでいくような心地がした。
これが最後。この結果で私は欠損治癒に奔走する日々を終えよう。
腹を括って王太子となり、セルバイド王国の国王と為ろう。内部分裂を起こしている今、立太子する事は多くの者から反感を買うだろう。
だが、覚悟を決めよう。
まだ小さい少女に託すにはあまりにも責が重い。それでも私は託そう。
口に含んだハーブティーは少しの苦みの後、鼻から爽やかな香りが抜けていった。
執務室でわざわざ残業してくれる幼馴染兼側近であるリューズ・ラチスと共に書類を捌いている。
いくら記入しても篩い分けても終わらない終わらない。あと少しという所から少しも減った気がしない。
一体何の嫌がらせだ?
「息子の誕生を祝ってやりたいというのに仕事三昧で顔も見に行けないとはどういう事なんだ?」
「諦めろ。国王の責務だ」
「だがな。少しくらい時間を作ってくれても良くないか?」
「各国の要人を招いているんだぞ。何か問題でも起こればすぐに国際問題になる」
リューズの言っている事は正論なのが一番辛いところだ。
現在我がアスリズド中央国には五か国の要人が建国祭並びに誕生祭へと参列するため滞在している。
しかも今回は去年の式典と異なり、『異世界人』が滞在しており、油断を許さないのだ。
それでも!
「分かっているが!夕食くらい家族と一緒に食べたいんだ」
「…ならその分仕事効率を上げろ」
「これが今の最高効率だよ!」
「まだいける。お前は本気を出していない」
「もう無理だ!」
「無理と言って限界を自分で設定しているのは誰だ?お前だろ」
「んな屁理屈を!」
「事実だ。ほら、口より手を動かせ」
こいつは本当にズバズバとものを言う。イラっとする事もあるが、それでも国王となった私にハッキリと言ってくれるのはありがたいと思う。
ふざけ言い合える相手がいるというのは身分が高いほどに貴重だ。
「俺国王だぞ?この国で一番偉いんだぞ?なのに何で俺は部下に言い包められてるんだ!」
「今に始まった事じゃない」
「それはそれで問題だろ!」
「これで上手く回っている。問題ない」
「…もういいや。早く終わらそ」
「そうしてくれ」
アスリズド中央国は現在大きな問題なく統治できている。
解毒ポーションの製作量減少は痛いが、輸入しつつ補助金を出して支援を行う予定だ。後は全て例年通り。
懸念があるとするならばやはり、セイクリッド勇王国。
異世界人を呼び出して何を企んでいる?
何が目的だ?
そして今回顔を出した異世界人。マコト・ミスミといったか?
が、何かやらかさないか気が気じゃない。国際問題になったら目も当てられない。
式典を壊してくれるなよ…。
明日からも油断を許さない緊張状態で挑まなければならないと思うと鬱々としてくる。
「…何もないといいがな」
「何か言ったか」
「いや、何でもないぞ。手を動かせ、手を!」
「間違えなく俺の方があんたより処理してるが」
「俺は早く帰りたい!」
「俺もだ」
時々愚痴を零しながらも手を動かして書類を捌いていく。
そして書類仕事が終わったのは日付が変わってすぐの頃。
「よし!終わったー!」と雄叫びを上げてリューズに「うるさい。俺は帰る」と投げやりな返答をされた。
そそくさと帰り支度を済ませてリューズと共に執務室を後にし、近衛騎士に声を掛ける。
その際の窓から覘く夜空には雲に飲まれ始めた月があった。
明日…じゃなくてもう今日か。
朝早くから仕事をしなくちゃいけないと思うと気が重いな。でも、自分が国王だしな…。
あ~!子供たちの顔を覗いてからさっさと寝よっと!
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