40.報告
「……ゴブリン集落五つ、レッドスパイダーの巣三つ。…私達が討伐した脅威と為りうる魔獣は以上です」
私達は路地で着替えを済ませた後三日ぶりに王宮へ戻り、レズリー様へ報告を行っていた。
面倒事を課した張本人は何故かあんぐりと口を開けて唖然としており、室内の面々にも視線を巡らせると、概ね反応は似たり寄ったりであった。
何かおかしな事をレオルドさんは言っただろうか?
この三日間で討伐した魔獣を簡素にしか報告しなかった所が良くなかったのだろうか…。しかし、全てを事細かに説明していたのでは時間が掛かりすぎると思う。何せ数だけは多かったので。
「…我は実力を甘く見ていたようだな」
「全て織り込み済みで送り込まれたんだと思っていたんですが?レズリー様は護衛依頼中、私達の何を見ていたんでしょうか?」
レオルドさんはフンッと鼻で笑い、威張る素振りを見せた。
どう見ても依頼主にする態度ではない事は明らかであるが、その当の本人は反応する気がないのか、溜息を溢していた。
「見ていたからこそ驚いているのだ!どうしたらたった三日でそれだけの魔獣に遭遇するのだ!?」
「自発的に捜索すれば良いのです」
「探したとてこの数はどうにかなるまい?!」
「それだけ魔獣が増加しているという事でしょう」
「それもあるであろうが!それだけではあるまい?!何をしたのだ!!」
「私が魔獣を捜索・案内を行い、ルナが魔術で一掃。それの繰り返しです」
「…それで説明が付くそなたらがおかしい」
「お褒め頂き光栄です」
微笑みを浮かべて丁寧な対応をしているが、瞳の奥は完全にレズリー様を嘲笑っていた。
面倒を押し付けられた意趣返しに煽っているのだろう。とても楽しそうだ。
「…もう良い。それで、これほど派手に動き回って目撃情報はどうしたのだ」
「それに関しても抜かりなく」
「…何をしたのだ?」
「居もしない存在に関心が向くように仕向けただけです」
思考を切り替えたのか、真面目な表情になったレズリー様に対してものらりくらりと返答を先延ばしにして更に煽るレオルドさん。それにレズリー様はまた溜息を吐いて疲労を露わにしている。
「何を、…。もう良いわ。我は疲れたぞ!」
「ちょ、思考を放棄しないでよ!」
「仕方なかろう!レオルドが焦らすのじゃから!」
「それはそうだけど!…レオルドも!今はレズリー様が一応主人なんだから、嘘でもいいから敬意を払う素振りくらいしなさいよ!」
「一応とは何だ!嘘も素振りも良くないだろう!我にちゃんと敬意を払わんか!」
「それは申し訳ない。多忙なレズリー様には最小限の報告のほうが良いかと思いまして」
誰がどう聞いても敬意なんてこれっぽっちも感じられない謝罪と言い訳。注意したジュリアさんとそれには呆れ顔だ。レズリー様もムスッとした表情を隠しもしない。
レオルドさんが報告に積極的だったので任せたのだが、こんなにも報告ひとつで荒れるのならば私が行えば良かった気がしてきた。
「あの~、「お話し中失礼致します!少々お耳に入れたき事が!」……」
代わりに説明しようとしたのに被せられてしまった。
こういうタイミングが悪い時って何だかとても恥ずかしく思えて、上げていた顔を俯かせるとレオルドさんが気に掛けてくれた。
報告を聞き終えたレズリー様が私達へ胡乱げな向けていた。
「レオルドの言っていた居もしない存在とは、ローブの剣士と魔術師の事か?」
「はい、その通りです」
「…正体がそなたらであると見破られるのではないか?」
「それはないかと。ルナと私の姿はその際に検問の列に並び、結界を張って守護しているのを商人達に目撃されていますから」
「……どういう事かさっぱり分からん!最初から説明せい!」
レオルドさんが掻い摘んで弄した策を説明していく。
途中からまたもや唖然とした表情を浮かべるドラスティア国の面々と、悩まし気な視線を私達へと向けるレズリー様がいたのだった。
それも仕方のないことで、結界魔術自体が貴重なスキルであり、そのために情報が少なくレベルを上げづらい。つまり、幻惑を結界に施せるという事実を知る者もごく僅かなのである。
加えて、魔術をいくつも同時に発動する事も並列操作のスキルを用いた高度な技術が必要だ。しかも、それでわざわざ別人が魔術を放っているように見せかけるという謎行為。まず選択肢として挙がらないだろう。
そしてそれが目撃者たちに更なるミスリードを誘うのだ。
それらの思考を終えるまでの数十秒間の時間を有した後、レズリー様が重々しく口を開いた。
「……そなたら、指名依頼完遂後も我に仕える気はないか」
レズリー様の予期せぬ提案に私は驚いた。
隣にいるレオルドさんはどう反応したのかが気になりそっと覗き込んだが、いかにもつまらないといった表情をしており、淡々と告げる。
「私はルナの判断に従いますので」
決断の一任という名の丸投げに私はまたも驚いてしまった。
顔の位置を変えずに視線を送ってくる彼の瞳には、信頼を寄せていると言外に告げていた。
しかし、いくらレオルドさんが了承していようとも、今後を左右する決断をそう易々と下せるはずもなく。
「…少し、考えさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「構わんぞ。ゆっくり考えてくれたまえ!」
「ありがとうございます」
私は返事を先送りにしたのだった。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます!!!
木曜日に投稿出来ていませんでしたので、本日二話投稿しました。
楽しみにして下さっていた方々には申し訳ありませんでした。