38.ゆったりとした時間も
魔道鞄に色々と詰め込んだ後、遅めの夕食を取ってお風呂に入り、結界魔術による安全地帯で就寝したのだが、一時間に一度は魔獣の襲撃に遭ったためレオルドさんは満足に睡眠が取れなかったらしい。
鋭い五感が魔獣の接近を報せるために起きてしまう、冒険者の間ではよくある一種の職業病なのだそうだ。
私には一生理解できないのだろうという事だけは理解した。
午前中は前日同様レオルドさんに嗅覚で魔獣を捜索してもらい、私が討伐を担当した。
もしもの事態にはレオルドさんの力が頼りだから、少しでも負担を減らそうと自分なりに頑張った。私は接近戦はできないし、一撃の攻撃力も大した事ない。
早めの昼食を摂り終えた今、彼は結界内部で仮眠を取ってもらっている。その間にポーションの材料となる薬草採集に励む。
品質を落とさないためには収納に頼るほかないのだが、魔獣の素材を無駄にもしたくない。
少しでもコンパクトに収めようと魔術で加工を施していく。されど、結界魔術での安全管理もしっかりと行うし、鑑定に掛けてより良い品質を選好みもする。
希少性の高いポーション程これらの品質が完成形にも大きく反映され、特に状態異常回復ポーションはそこら辺の判定が厳格だ。もし最上級ポーションの製作に必要になっても問題ないように手を抜くことをしない。
レオルドさんが仮眠から起きてくる頃には充分な量の薬草を採ることができたのだった。
午後からも十分過ぎるほどの魔獣を狩り、キリのいい所で野営準備を始める。
前日の反省を生かして周囲の魔獣を先に駆逐しておくことで、レオルドさんも今日こそは質の良い睡眠が取れるはず!
ご飯…の前に、レオルドさんに解体してもらって収納にある魔獣を少しでも減らそう!
護衛依頼を受注してから食事担当になってしまって定期的に魔獣の解体を頼んでいるうちに、レオルドさんのステータスにも解体スキルが表示されているのだ。
「レオルドさん。魔獣の解体してもらってもいい?」
「構わんが、もう肉ないのか?」
「それもあるんだけど、少しでも収納に余裕が出来ればなって思って」
「なるほど?でもまだ魔獣入るんだよな?」
「入るけど、今日のペースで魔獣を倒してたら空きが足りないよ…」
今日の討伐ではゴブリン集落を殲滅するなどの素材が取れない魔獣が一定数いたのだ。それでも収納のスペースはかなり埋まってきている。
レオルドさんは呆れているけれど、明日の事を考えて情けない声が出てしまっても仕方ないと思うの。
「分かったから。解体して欲しい魔獣を出してくれ」
「うん!ありがと!」
感謝しながらも魔獣を収納から数体取り出す。
一応私も解体スキルは持っているのでお手伝いはする。
冒険者の必須スキルだから繰り返すうちに習得できたが、何度やってもレベルが上がることはなく。先日習得したばかりでありながら要領がいいレオルドさんに技術で既に惨敗している。
ほんの少し羨ましく思いながら魔術で宙づりにして血抜きする。これを適当にするとお肉に臭みが残って美味しくなくなるのだ。
その間彼が手持ち無沙汰にならないようにお肉の食べられない、血抜きの必要のない魔獣を出して解体してもらう。売れる部分だけをまた収納へ戻して残りは焼いて埋める。そしてまた空いたスペースへ魔獣を詰め込むのだ。
血抜きの済んだ魔獣からまた更に解体が行われる。
時間の効率化を考えて途中からは固有スキルも利用して解体スキルの習熟も目指す。おかげでレオルドさんの解体スキルはlv.1からlv.3にまで上がり、スピードも三分の二に短縮したのだった。
さて、今解体したものは熟成させてから今度食べるとして今日の夕食は何にしようかな?
「レオルドさんは何か食べたいものはあるかな?お肉が良いとかお魚が良いとか」
「ん~…やっぱ肉だな」
「は~い。……何作ろっかな…」
お肉かぁ…アスリズド中央国は名前の通り大陸の中央に位置しているから、食卓には毎日必ずお肉が並ぶからたまにはお魚も食べたいんだよね。
よし、両方使っちゃおう!
最近夏らしく暑くなってきたからお肉は冷しゃぶにして、お魚は包み焼きにしよっと!
取り敢えずまず、ふたつの鍋にたっぷりのお湯を沸かし始めて。
その間にこの前釣って捌いておいた川魚の切り身に塩を振って10分置いておく。待ち時間に付け合わせの野菜を切っておき、10分経ったら魚から余分な水分だけを魔術で蒸発させる。
この世界で包み焼きと言えばでお馴染みのバスの葉で野菜と共に包んで塩コショウで味付けして10分ぐらい蒸す。最後にレモンを絞ってごま油をちょろっとかけたら完成だ。
蒸し中に冷しゃぶにも取り掛かり、豚肉っぽい肉質のオーク肉を薄くカット。
それを沸騰寸前の鍋へドサッと入れて色が完全に変わったら引き上げて、粗熱を取ってから魔術で冷やす。
薬味は大根おろし・トマトの角切り・きゅうりの千切り・大葉の千切りの四つで、タレはレモンに塩コショウの物と、ショウガやニンニク、砂糖、練りごま、お酢、塩で作ったごまダレの二種類。
そして二品を作り終えてから気づいた。
両方ともご飯には合ってもパンには合わないな、と。
慌ててレタスチーズサンドウィッチと特製ミックスハーブで炒めたお肉を挟んだガッツリサンドウィッチの二種類を追加して、予想以上にボリューム満点で豪華な夕飯が出来上がった。
「レオルドさ~ん、できたよ~」
「…腹減った……」
「良い匂いがしてたでしょ?」
「ルナが料理してる時は毎回な」
「今日のも結構な自信作だからたくさん食べてね」
「じゃあ早速。いただきます」
「いただきまーす」
まずは包み焼きから。
身がホロホロで美味しい!お魚自体がすごく美味しいからシンプルな味付けで充分満足できるし、レモンのさっぱり感とごま油の香ばしい香りがまたいい感じに合ってる。
で、お次は冷しゃぶ。
まずは大根おろしをお肉で巻いてレモンダレを付けて……うん、夏にはこのさっぱりひんやりで食が進むんだよね~。
で、お次はごまダレを……うま!ニンニクとか入れてるからパンチがあってごまも濃厚で最高…!
薬味を色々試したけど、ごまダレにはきゅうりでレモンダレにはトマトかな…。
大葉や大根おろしも悪くないんだけどやっぱりポン酢が一番合うような気がするんだよね。醤油があると良いんだけどなぁ……ついでにお米も…。
チラッと見たレオルドさんは包み焼きより冷しゃぶ、薬味なしのごまダレ一択なようで、五枚くらいを一口で食べてた。追加のサンドウィッチを片手におかずも食べてたから作ってよかったと思う。
にしても、鍛えられてるのは分かるんだけど、あの身体のどこにこの量のご飯が入っているんだろうか?5人前近い食事がドンドン彼の口の中へ消えていくんだけど…。
「レオルドさん。お先にお風呂どうぞ」
「ありがたく先に頂くな」
食事を終えて食器の片づけを行い、レオルドさんがお風呂から出るまでポーションを製作して時間を潰し、出てきたら入れ替わるようにして入る。
王宮には使用人用のシャワー室はあっても浴槽はなかったし、他の人達も順番を待っているので早く洗って場所を開けないといけなかった。毎日大きな浴槽に浸かっているはずのレズリー様が本当に羨ましくて仕方がない。
でもいくら嘆いたとてどうにもならないので、この三日間はゆっくりとお風呂を満喫すると決めてた!
ひとりで旅をしていた際に気に入って購入した浴槽はレオルドさんにとっては小さいかもしれないけど、身長が日本人女性の平均よりやや低い私には足を伸ばしてもまだまだ余裕がある。
すなわち快適・最高という事だ!
よくよく洗ってしっかりと温もってから出てきてケアも念入りに行い、彼の寛ぐテントへ戻る。
カーペットを敷いた床でメインウエポンと言って差し支えないほどに使用しているダガーを手入れするレオルドさんはゆったりとした格好で寝る準備を済ませている様なのに、髪は未だ湿っていた。
乾かす方法がないというのもあるだろうが、今までずっと自然乾燥に任せていたから気にもならないのだろう。
でも、あの綺麗な金色の髪が傷んでいるのは何だかもったいなく思うのだ。
「レオルドさん。今日も髪乾かしてもいい?」
「いいぞ。頼むな」
「は~い」
武器の手入れを終えた彼にソファへ移動してもらい、私は背後へ回ってゆっくりと丁寧に梳かしていく。
王宮では流石に手入れする訳にはいかなかったので、昨日も髪を乾かさせてもらった。
出会った当初よりもサラサラとしているし、艶もあるが、指名依頼前よりかは傷んでパサパサしてる。
以前の艶を少しでも取り戻したくて、香油を馴染ませてから魔術で温風を出し、乾かしていく。
何度も髪を乾かしているからか、レオルドさんも私のされるがままになっていて。特に今日は気持ちよさそうにウトウトと舟を漕ぎ始めている。
髪全体をしっかりと乾かし、また香油を塗り込んでいく。艶が良くなり、ふんわりと香油が香る。満足のいく仕上がりとなった。
「レオルドさん終わったよ。明日もあるし、もうベッドで寝る?」
「…あぁ、ありがとな。そうする」
レオルドさんは眠そうな、普段よりほのかに低い声で返答して声とは裏腹にしっかりとした足取りでベッドへ向かった。
テント内のランプを消していき、最後のひとつを「消すよ?」と声を掛けてから消灯して自身もベッドへ潜る。
「おやすみなさい」
「…おやすみ」
返ってきた挨拶に満ち足りた気分を味わい目を閉じた。
数刻もしないうちにふたりは静かに寝息を立て始めたのだった。
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