37.未来への備えを
あれからもレオルドさんの嗅覚を頼りに魔獣を索敵しては狩った。
そのおかげでたった半日で相当数の魔獣を仕留める事が出来たが、売却処理をしていなかった収納ストレージが満杯になってしまい、夕暮れ前にも拘らず討伐中止を余儀なくされた。
レズリー様から与えられた期間は僅か三日。
完遂するために野宿許可を取ってあるため、今日は仕方なく早めに切り上げて野営の準備を始めた。
それが終えれば早速、付与魔術での魔道鞄製作に移行する。
まず、この半日間の討伐速度を判断材料に容量を決めていく。
「レオルドさんは今日だけで何体くらい倒せたと思う?」
「たぶん200いかないくらいじゃないか?」
「う~ん…となると、明日と明後日だけでざっくり400体…」
…いや、今日早めに切り上げたことも鑑みて、残りの二日間で500体だとする。
レオルドさんが所持している魔道鞄は付与魔術のレベルが低いために時間停止が施せてないから、本当にただの沢山入る鞄でしかない。
本格的に夏へ近づいているこの暑い時期に、魔獣をそんな所に保管なんて出来やしない。
野営護衛中も少なからず魔獣を狩っていたのもあって収納している物のうち時間経過しても問題ない物を全て取り出したとしてもまだ容量が足りない。
どうしよう……。
「どうした?」
「いや…魔道鞄を作って収納の空きを増やそうと考えていたんだけど。全然入りそうにないし、魔道鞄は時間停止がないから魔獣を入れても腐っちゃうし…」
「売りに行く頃には確実に腐ってるだろうな。高く売れる素材以外は捨てていくか」
「え、もったいない…」
「あ?あ~……俺にはその感覚があんまり理解できないな。魔道鞄なんて便利なもん持ってなかったからなぁ」
「捨てるのが普通?」
「まあな。でないと帰りに魔獣に襲われても対応できないだろ」
「あ、そっか」
素材を沢山持ってたらいつもみたいに動けないもんね。
そう思うと収納ってホント便利!
他の冒険者の戦利品事情は分かったけれど、やっぱりもったいない気がする。というか、申し訳ない。
すぐにとはいかないが、近い将来彼に時間停止効果付きの魔道鞄を渡そう。
今は私ひとりで魔獣を回収するしかないので、相当な時間ロスにもなっていている事だし。
これからの付与は付与魔術のレベルアップを意識してやっていこう!
まあ、【天眼】を発動して製作するだけなんですけどね。
鑑定と違って本の頁を捲りながら作業するのに近しいため、負担も少ない。
この問題は今すぐにはどうにかなるものじゃない。今は収納に収められた物の中で魔獣や食材以外の時間経過しても問題ない物を新しく製作する魔道鞄に全部詰め込もう。もしそれでも溢れるようなら泣く泣く諦めるしかない。
レオルドさんの魔道鞄は馬車三台分が入るのだが、私としてはもう少し容量が欲しい所だ。
テントとかベッドとかキッチンとか、嵩張るものが意外と多いので。
しかし付与魔術のレベルが低いので、この容量が私の今の最大である。
つまり最終着地点は付与魔術のレベル上げ
これに尽きる。
「とりあえず魔道鞄作っていくね」
「お~頑張れ~」
という訳で、バンバン作っていきましょう!!
始めは本体の鞄から。
これは前回レオルドさん用鞄の型紙と余り素材をそのまま流用して裁断。
糸も魔獣素材から作成されたストックを使用して、サクサクと縫っていく。裁縫スキルが効果を発揮してものすごい速度で鞄が完成していく。
そしてこれに付与を施す。
慎重に、丁寧に。イメージを作り上げて魔力を練り、鞄を包み込んでいく。
大して時間も掛からずに完成!
この調子でじゃんじゃん作っていこう!
五個目の魔道鞄が完成したのだが、やる気がこれ以上持続しなかった。
【天眼】を発動しているから失敗はないけれど、同じ作業ばっかりは流石に飽きる。
「ずっと同じもんばっか作ってんな」
「練習だからね」
「にしては性能が良すぎる気がするんだが」
「レオルドさんが持ってるものと同じだよ?」
「…これだって相当良いもんだぞ」
「でも私の付与魔術のレベル、3だよ?」
「それでこの性能か?!」
「う、うん」
どこに驚くところがあったんだろう…?
手を止めて彼の方へ視線を向けると最近は見る事のなかった呆れ顔が浮かんでいた。
「はぁ……言っておくがな。国が抱えてる付与術師でもこんなに容量が大きくないし、ルナみたく全部の付与が成功したりもしない」
「私には【天眼】があるので…」
「そうだったな。……もう一つの固有スキル【贈与】について聞きたい事があるんだがいいか?」
レオルドさんから固有スキルの追及を受けるのは今回が初めてだ。気のせいか、表情も口調もいつもより少し硬い。
「うん?【贈与】がどうかした?」
「そのスキルの発動条件は今んところ声なんだろ?」
「うん」
「って事は声に出しさえすれば他人だけじゃなく、ルナ自身にも効果があるんだよな?」
「…それはやった事ないかも…」
「そうなのか?今やってみたらどうだ?」
「うん。やってみる!」
それが出来たら付与魔術のレベル上げがすっごく捗る!
早速他の誰かに説明するみたいにやってみよう!
結論から言うと、出来てしまった。
今まで見た中で付与魔術の最大レベルはlv.7だったからか、いきなりlv.5まで上がった。
【贈与】の真価を発揮させるには声が必要不可欠で。
引き換えに声さえあれば自分にも適用するのだと知れた。
おかげで容量は馬車三台分から一軒家二棟分に増量したけど、時間停止は付与できなかった。
収納を発動するために必要な時空魔術はlv.7だから仕方ないけどね。
解体した素材がもうなくて改良型魔道鞄はひとつしか作れなかったから、これはレオルドさんに持っていてもらおう。
「これ、容量が大きくなったからレオルドさんが使って!」
「いいのか?」
「うん!だってこれが出来たのレオルドさんのおかげだもん」
レオルドさんに指摘されなければ、一生気づかなかった自信がある。贈るって言葉には、誰かが居てこそ成立するものだっていう固定観念があるから。
「そういう事ならありがたく使わせてもらう。…それにしてもマコトとか名乗った宰相はルナと同じ【天眼】を持っていたんだろ?なら、【贈与】について俺みたいに疑問を持たなかったのか?」
「あ、っと…。その当時はまだ、【贈与】の固有スキルを持っていなかったので…」
「そうなのか?因みにこの新しい魔道鞄はどれくらい入るんだ?」
今使用している魔道鞄と形は大差なく、色が焦茶で地味だ。次作る時はレオルドさんの好みの色と形にしよう。
「一軒家が二棟入るんだって」
「…………ほんっとうにヤバイな、ルナは」
「それ褒めてる?」
「褒めてる褒めてる」
「全然そんな気がしない…」
雑談をしながら淡々と片づけをして、それが終了した後にふたりであーでもないこーでもないと話し合いながら収納内を整理整頓し、時間経過に影響されない物を魔道鞄へ移し替えていく。
ついでに裁縫スキルもレベルが一つ上がっていたのだった。
一方その頃、アスリズド中央国王宮一室にて。
いつもは紅茶か果実水しか飲まないウィリアムが今日は我が差し出したワインを共に飲んでいる。
が、少々いつもよりペースが速いな。
「あのふたりはいないのですか?」
黙々と酒と肴を嗜んでいたこやつはやっとあやつらがいない事に気づいたようだな。
いっつも嫌味なくらいに涼やかな顔が赤らんでおる!
さてはもう酔っぱらっているな?
「あやつらは魔獣討伐に向かわせているぞ!」
「…むやみやたらと他国の問題に首を突っ込むのは如何かと思いますよ」
「何を言うか!元はと言えばあやつらはアスリズド中央国の者であるぞ?」
「またそのような屁理屈を…」
「嘘は言っておるまい?」
「はぁ。もういいです」
「ナハハハ!」
「はぁ…」
揶揄ってやろうと思ったのに普通に返答できるではないか。つまらん。
にしても、こやつは昔からちと慎重になりすぎだな。あと、考えすぎだ。
我のように深く考えず堂々としておれば良いのにな!
まだまだ子供で在れる年であろうに、難儀な事よ。
だが、大人にならざるを得ない事態にしたのはこやつら周囲の大人達であろうから、同じ大人として何かしてやりたいのだが…。
「そういえばな?ルナが大量の特上ポーションやら市場に出回らないような状態異常回復ポーションやらを作っているらしいぞ?」
同室の者達から報告は上がっているが、何とも信じがたいものよ。
低く見積もってもルナの調薬lv.5は確実。7や8に到達していても納得できるほどの難易度を誇るポーションばかりを失敗なく製作しておる。
レオルドはどれ程の才覚を秘めた少女と旅をしているのだ!まったく!
「…それが、何でしょうか」
「いやなに。もしかしたらもしかするかもしれんなと思うてな?」
「……最上級ポーションなんて、現実味がなさすぎますよ」
「それがそうでもないぞ?」
「…何か、根拠でも?」
これまでずっとワイングラスに向けていた視線をウィリアムがこちらへ移した。
その瞳にはまだほんの少し、消え入りそうな炎が燻っていた。
「我の勘だ!」
「はぁ…そんな事だろうと思いました。……でも。期待しないで待ってますよ」
「ああ!期待して待っておけ!」
我の返答に呆れているかのようにグラスを口元へ運んでいるが、実際は此方から見えないように唇を噛み締めているのだろうな。
こやつが自身の不甲斐なさや無力さに苛まれている際の癖だ。
もどかしい、な。
だが、どうにかなると我は既に知っているぞ。
そなたの憂いはもうすぐ払われる。あのふたりによってな。
だからもう少しだけ、耐えておくれ。
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