34.辿り着くまでが長いだろうな
エリクサー製作は難航を極めていた。
一般人が閲覧できる図書館で最大蔵書数を誇るアスリズド中央国王都図書館でレシピが見つからなかったのだ。これからどう情報収集をしたら良いのか見当もついていない。
ひとまず同室の人達に許可を得てポーション製作を行い、調薬のレベル上げから始めているが、なかなか事が進まない。
原因として挙げられるのは、これまでに【天眼】で観察できた調薬スキルの最高がlv7で、私の調薬スキルもlv.7であることだ。高レベルでありながら【天眼】恩恵を受けられないのでは、地道な作業を継続するしか道はない。
単に時間を割けないというのも理由なのだけれど。
そして最上級ポーションには最低でも調薬lv.9が必要なのではないかと考えている。
これが伝説の代物と謂われているのにも理由があり、それは寿命を延ばす効果があると言い伝えられている点である。
私の予想ではlv10で完全な。つまり、欠損治癒に加えて寿命も延ばせる物が出来上がり、lv.9では不完全な欠損治癒のみに効果のある物が完成すると踏んでいるのだ。
回復魔術でlv.8ならば、少なくとも調薬もlv.8は確実に必要だ。
短期間でスキルレベルアップは無謀というほかないのは理解しているけど、それでもポーション製作の手は止めない。
だって、後悔するから。
自分に力があって。でも保身のために何もしないのは気が咎めてウジウジと引きずりまくるのは目に見えている。
やらないで後悔するより行動に移して後悔したい。
こういう考えが出来るようになったのも、レオルドさんに会ったからこそ。彼も協力してくれているから絶対に作り出したいと思える。
また今日も薬草に魔力を込めながら煮てポーションを製作していたのだが、更なる問題が浮上してしまった。
調薬レベルアップのために上級ポーション、特級ポーションに必要な薬草が切れかかっているのだ。
ルナが最上級ポーション製作計画の軌道修正案について頭を悩ませていると、誰かが扉をノックした。
が、それにまったく気付くことなく、ルームメイトのサーシャが対応した。
「どうぞ~?」
「失礼する。ルナはいるか?」
「いるよ~。…ルナちゃ~ん!レオルドが来たよ~!」
「…」
「…聞こえてないな」
「そうね~」
これでは建国祭・誕生祭の期間に最上級ポーションを製作して第二王子殿下の手元に渡らせる事など出来そうもない。
早急に何とかしないと…!
「中に入ってもいいか?」
「あらやだ~!女部屋が気になるの~?レオルドはスケベさんね~!」
「……ルナが落ち着いたら声を掛けてくれ。廊下で待っている」
「サーシャ!揶揄わないの!」
「冗談よ!冗談!ささ!どうぞどうぞ!」
「…邪魔するぞ」
「はいよ~」
「どうぞ。ゆっくりして行って下さい」
「ああ、助かる」
とにかく薬草が切れるまで作り続けて、それからは中級ポーションを…。いや、解毒ポーションみたいな状態異常回復ポーションの方が良いのかな?
う~ん……………。
「ルナ」
「ひゃい!…ってレオルドさん?どう、したの?」
「根を詰めてないかと思ってな。案の定だったわけだが」
「大丈夫、だよ?」
「そうは見えないがな?」
彼は机に置いてある出来立てほやほやのポーションの瓶をひとつ持ち上げ、綺麗に整列された何十本のポーションに視線を移した。
私の大丈夫に「説得力があると本当に思っているのか?」と言外に怒られてる、確実に。瞳が物語っている。
光景の説得力が皆無だし、実際に行き詰って焦っていたから素直に認めておこう…。
「…すみません」
「よろしい。今日はこれくらいにしてさっさと寝ろよ?」
「はーい。これが出来上がったら終わりにするね?」
「見張っててやる」
「信用ない…」
「当たり前だ」
お互いに軽口を叩きながら薬草を煮て、抽出を終えたら瓶に詰める。
瓶詰めも器具の洗浄もレオルドさんが手伝ってくれていつもより早く作業を終えることができたのだった。
「レオルドさん、手伝ってくれてありがとう」
「今すぐ必要ってわけでもないからな、気楽にやれよ?…おやすみ」
「おやすみなさい」
扉前でレオルドさんを見送る。
戸締りをして中に戻るとこちらをニヤニヤと興味津々に見つめる双眸三つと目が合った。
「ルナちゃ~ん、本当にレオルドと付き合ってないの~?」
「つ、付き合ってません!前にもお伝えしましたよね!?」
「でもぉ、バルコニーでお話してから距離近くなったよね~?」
「そ、それはそうですけど!」
「私も聞きたいわ!どうなの実際!」
「是非とも私も恋バナに混ぜて下さいね?」
間延びした口調で大人っぽい見た目のサーシャさん。
あのレズリー様にもしっかりと意見することができるジュリアさん。
丁寧な対応で落ち着きのあるお姉さんのようなエマさん。
この三人は私が異世界人だと知っても、以前と変わらず接してくれている。むしろ秘密を共有したせいか日々遠慮がなくなっている気がする。
今も三者三様の角度から距離も含めてどんどん詰め寄られている。
「レオルドさんとはそんなんじゃないですってば!」
「でもでもぉ!レオルドにだけタメ口に変えたよね~?」
「そ、それはその!レオルドさんに言われたからで…」
今まで敬語だったから困っているんです…!さっきもおかしな言い方になっちゃってて。変って思われてない、よね?
「え~?ホントかな~?」
「本当です!」
「それも気になるけれど!私はレオルドの事どう思ってるのか教えて欲しいわ!」
「私も~」
「同じく」
どう思っているって言われても…。
「レオルドさんは、…な、仲間です!普通に!」
「普通の反応じゃないわ~」
「“ただの仲間”ではないんじゃないかしら?」
「仲間以上でも以下でもありません!」
「ええ~?以上でしょ~?」
「…少し答えるのに間があった気がしますよ?」
「確かにね!」
「本当なんですってばぁ…!」
本当の事しか言ってないから疑いの眼差しを向けないで信じてほしい…!
夜中の暗闇の中、誰かの呻き声が聞こえてきた。
幽霊は怖い。布団を頭からしっかりと被ってぎゅっと目を閉じた。
「…そ、れは………ルナちゃん………」
「…エマァ~…?」
魘されていたのはエマさんだったらしい。
サーシャさんが布団から出て彼女を揺り起こす。私も起きてそちらに手を伸ばしたけど、真っ暗であまり見えない。
【名前】エマ・バーン
【種族】ハーフエルフ
【レベル】lv34
【固有スキル】好転
【スキル】体術lv1
護身術lv1
水魔術lv3
風魔術lv2
占星術lv.4
調薬lv2
裁縫lv3
料理lv1
夢見lv3
礼儀作法lv1
【加護】なし
夢見というスキルが発動していた。これが悪さをしているらしい。
二人で暫く揺すってようやくエマさんは夢から醒め、身体を起こした。
「だ、大丈夫ですか…?」
「…すみません。ありがとうございます」
「い、いえ…」
「すごく怖い夢を見てしまって。ルナちゃんが良かったら、一緒に寝てくれませんか?」
「私でよければ…!」
自分の枕を持ってエマさんのベッドへ潜る。
ギュッと抱き込まれれば、夏の夜でも冷えるこちらではとても温かく心地いい。
「あたしもい~れて!」
「サーシャ!もう、三人は狭いわ?」
「いいじゃんいいじゃ~ん!」
三人で落ちそうになりながらベッドで抱き合う。
何だかとっても…。
「…楽しいです」
私には兄しか居ないけれど、年の離れた姉ができたみたいで何だか嬉しい。
「じゃあ今度はレオルドと一緒に寝てみたら~?」
「そ!そういうんじゃないです…!」
「サーシャ、からかわないの。このまま話してたら寝れなくなっちゃいますよ」
「じゃ、明日にする!」
「明日もやめて下さい…!」
翌日。
宣言通り、サーシャさんにたくさんからかわれた。
レオルドさんと顔を会わせると妙に意識してしまって挙動不審になり、たくさん心配させてしまったのだった。
最後まで読んで頂き、ありがとうございます!!!
年末年始は投稿しないかもしれません。楽しみにして下さっている方には申し訳ございません<(_ _)>
皆さま、良いお年を!
2025.7.13
加筆しました。