27.更なる面倒事が湧いてきた
王都を目指す一行の旅は順調に進んでいた。
他の冒険者たちが魔獣を倒してくれるし、この大所帯に絡んでくる盗賊団もいないし。私たち二人の出番は野営の時の見張り番くらいしかなかった。
ただ、食事の時に王子様とレズリー様が西陸語か南陸語でクラスメイト達がいるセイクリッド勇王国について意見交換しているのが聞こえてくるので精神的にとても疲れてしまう。
声が聞こえないところで護衛をしたいけれどそうはいかないし、聞かないようにと思っても意識がそちらに持っていかれる。
この旅で一番大変なのは間違いなく食事の時だ。
様子がおかしいと、レオルドさんに気を遣わせてしまっている。
一日でも早く王都に着くことを願いながらおいしくもない携帯食を口に含み、聞きたくもない内容の会話に耐える。
「…あれは何を話しているんだろうな?」
レオルドさんの目線の先には王子様とレズリー様がいる。
…話せば少しは慣れるかな。
それにこの場合は話してもいいんだよね?普通の声量で会話してるんだし。折角話題を振ってくれたんだもの。
「セイクリッド勇王国について話してますよ」
「…分かるのか?」
「はい。今まで異世界人が外交に関わることはなかったみたいですけど、今回王都で行われる生誕祭と建国祭には来るんじゃないかってことで色々と話を擦り合わせているみたいです」
「なるほど?異世界人ってどんな奴らなんだろうな?」
「それは…」
言葉に詰まる。
彼らは私と同じ世界の人間で、突然身に余る力を持ってしまった、ただの高校生だった。
「ゲームみたいだ!」「夢みたい!」
こちらに来た当初の元クラスメイト達はそんなことばかりを口にしていた。
国を出る前の彼らは自信過剰で全ての物事が自分達にとって都合良く進むと決めつけている楽観主義者に見えて、最低の状況を考えてしまう私にはその姿が恐ろしかった。
いつか自分達が取り返しのつかないことをしてしまうような、そして簡単に死んでしまうような気がして。
「…あの人達には関わらない方がいいです」
「…何か知ってるんだな」
レオルドさんの言葉にコクッと頷いて返答し、携帯食に噛り付く。
これで彼は話す気がないことを察してくれるに違いない。無理にこの話題を続けようとはしてこないはず。
けれど。
「その話、詳しく聞かせてくれないかな?」
そんなことはお構いなしの人達がいた。
顔を上げて確認すると、にっこりとしていながらも目が笑っていない王子様と真剣な顔をしているレズリー様だった。
声を小さくしていたつもりだったけど聞こえていたようだ。迂闊だったと思っても、もう遅い。
私のことも聞かれてしまうかもしれないから話したくない。けれど目を付けられてしまったら話さないといけない。
相手は国を背負う身分にある人達なのだから。
口の中の物を咀嚼してから意を決して話そうとするけれどうまく言葉が出てこない。
どんどん動悸が激しくなって、息が苦しい。
「申し訳ございませんが、主の体調が優れないようなので控えて頂けますか」
私の隣、すぐ近くから頼りになる声がした。
奴隷という身分のために今まで一度も彼らに話しかけてこなかったレオルドさんが私を庇ってくれて、背中も擦ってくれている。
「でもなあ、異世界人の情報がほとんどないんだ。情報料は払うから知っていることは話してもらうぞ!」
「見て分かりませんか?この状態で無理に聞き出そうとするのはどうかと思いますが?」
私達の言い争いに注目が集まり、皆が口を噤んで彼の非難する声が辺りに響く。
私を思っての行動が嬉しい。気遣うように背中に当てられた掌の冷たさに少しずつ身体の緊張が解れて、動悸が収まっていく。
ゆっくりと大きな深呼吸を一回。
これならもう、大丈夫。
「…レオルドさん、ありがとうございます。大丈夫です」
「本当か?」
「はい。…それで、何が知りたいんですか?」
レオルドさんの目を見て問題ないことを伝えて二人に視線を向ける。
「そうだね。まず、異世界人とはどんな人達かな?」
「…私の、個人的な意見になりますが…」
「それで構わないよ」
「…現実が見えていない人達だと、思います」
「それはどういう意味だ」
「…絶対、どうにかなる。何か問題が発生しても、最後には自分達の思うように、うまくいく。そう思い込んでいるように、私には見えました」
「それは…」
私の意見を聞いた王子様達は黙って考え込んでしまった。
危うい
そう考えるのが普通だと思う。
「…異世界人にまともな奴はいないってことか?」
「いえ…。」
それに同意してしまうと私も頭おかしいということになるのでやんわりと否定しておく。
あの国の重鎮になっている元クラスメイト達に違いはあれど総じて楽観的な思考の持ち主ばかり。
これから関わりを持つ中できっと知ることになると思う。
「なら、今回出てくるのが誰か予想はつくか?」
「…それは多分、宰相のマコトミスミだと思います」
「宰相…どんな奴だ?」
三澄君がどんな人物…私もあまり話したことはないけれど、あの人は…。
「…真面目、でしょうか…?」
「真面目ならまともだと思うけれど?」
「そうかも、しれませんけど…。」
王子様の返答に言葉が詰まる。
三澄君はクラスメイト全員に声を掛けてまとめ役をしてくれていたけれど、言葉に出来ない何かをずっと感じていたからきっと心中に何かを秘めているはずだ。
「…うまく言えませんが、用心しておいた方がいいと思います」
「分かった。で?そなたはなぜそんなことを知っている?」
聞かれると思っていた。
だから最低限の真実だけを口にする。
「あの国に居ましたので」
「…そうか!なら知っていても可笑しくないな!」
「ちょっと!そんな訳ないでしょう!私達がいくら探っても情報が入ってこなかったのに、ただの冒険者が知っているなんて可笑しいでしょう?!」
「まあまあ、そう言うでない!…ルナ、だったか?そなたに指名依頼を出そう!内容は王都で開かれる建国並びに誕生祭の間、我の侍女として仕えることだ!期間は祭りが終わるまで!報酬は…一千万リグでどうだ?」
まさかの展開過ぎて驚愕する。
私の言葉を信じてもらえないのは予想していたことだけど、それなのに何で指名依頼を出す話になるの?
普通は信用出来ない者を傍に置かないから言ったのに!
…断る!私には無理!!!
「申し訳ございませんが、私には身に余る役目でございますので、辞退させて頂きます。」
「気にする必要はないぞ!何せ我らは冒険者の国、ドラスティア国だからな!礼儀作法なんてものは端から期待されていない!」
「いえ、そういう意味では…わ、私には、レオルドさんが!彼がいないと、無理です!」
「ほう?つまり、レオルドも共に雇えばいいという話だな?なら両者に依頼を出して報酬は二千万リグにしよう!!!これで解決だな?ナハハハ!」
「いえ!ですから…!」
私が何を言おうと笑って返されてしまう。このままだとまた流れで引き受けることになってしまう。
どうしたらいい?どうやって断る?!
頭をフル回転させるけれどいい案は思い浮かばない。焦りだけが募っていく。
「お言葉ですが、私は主の奴隷ですので貴族が集う場所に相応しくないかと思われます」
「「…は?」」
レオルドさんの言葉に全員が静まり返り、目の前にいる二人は目を見開いて固まっている。
私もこの依頼をどう断るかに意識を裂いていてすっかり忘れていた。
そうだよ!これなら断れる!レオルドさんには申し訳ないけれど、言い訳に使わせてもらおう!
「そういう事ですので、お断り致します」
「いやいやいやいや!レオルドが奴隷?!何の冗談だ?」
「そうだよ?A級冒険者を購入するなんていくら何でも…」
「…奴隷紋を見れば気が済むか?」
レオルドさんは彼らに奴隷紋を見せるために上半身の服を脱ぎ始めた。
私は慌てて手で目を覆い、背を向けて姿が見えないようにした。
流石に身分が奴隷とはいえ男の人の上半身を見てしまうのは罪悪感が…!
衣擦れ音が聞こえなくなると息を吞む声が聞こえてきた。
彼の首筋にある奴隷紋を認識したんだろうな。
「…本当に、奴隷なんだな…」
「ああ。これでは依頼を断らざるを得ないと思いますが?」
「…奴隷から解放するのはダメなのか?…ルナは何でそんな体勢になっているのだ?」
「…服着たら元に戻ると思います」
また後ろから衣擦れ音がし始めて止んだ後「もう着たぞ」というレオルドさんの言葉が聞こえてきた。
恐る恐る後ろに振り返り、顔を上げて指の隙間を覗くと、ちゃんと服を着ているレオルドさんが見え、そこでやっと手を下ろすことが出来た。
本当に心臓に悪いからいきなりやめて欲しい。頬が熱くなっているのが触らなくても分かるからきっと相当赤くなっているはず。
「…色々と突っ込みたい所はあるが。で、奴隷から解放するのはどうなんだ?購入金額に上乗せして支払うぞ!」
「…それはレオルドさん本人が決める事であって、私が決める事じゃない、です」
そう。私じゃない。
彼がどんな決定をしても私に拒否する権利はないと思う。もしそれをしてしまったら、彼の意志を無視することになる。それは彼自身を否定することと変わりないから。
レオルドさんにとっても解放された方がいいに決まっている。
「俺は今のままでもいいが?」
「いいのか?!」
「え、いいんですか?!」
レオルドさんからの返答は私が想像していたものと正反対の返答ですごく驚いた。
彼を見つめる私の瞳はきっと今爛々と輝いていることだろう。それ程までに嬉しい!
「ああ。人生で今が一番充実しているからな」
「本当ですか?!」
「あ、ああ…」
「…奴隷が充実ってどういう事なんでしょうね…」
やったー!嬉しい!これでまだ二人で旅が続けられる!
これからも一緒にいてもいいってレオルドさんに思ってもらえるようにもっともっと居心地よくしていかないと!
「レオルドさんの生活をもっともっと充実させますね!!」
「いや、今のままでいいぞ」
「何言ってるんですか!まだまだ良く出来るところは沢山あります!」
「…程々にな?」
「任せて下さい!!!」
「…こんなに不安になることも珍しいよな…」
まだよく出来るところは…服装は王都でまた買い足せばいいし、食事は高級料理屋さんがおいしいことが分かったからそこに行けばいい。
特に宿泊は改善の余地が一番ある。お金も貯まってきたところだから宿のグレードを上げて、野営の家具もいい物を揃え直そう!何だかわくわくしてきた!
「待ってくれ!話は終わっていない!奴隷から解放しないことと今の生活を続けることは同じではないはずだ!奴隷から解放したうえで今の関係を続ければいいだろう!」
「それは違うな。今俺が使用している魔術鞄や魔術手袋はルナから手渡されたものだ。奴隷だから見返りもないが、関係が変わればそれも変わるだろ」
「それはそうですね…。普通そんな貴重な物渡しませんけど…」
「え?それはもうレオルドさんの物ですよ?一度あげた物を返せなんて「ルナァ?」…いえ!何でもないです!」
私的にはそれらは全部レオルドさんの物って認識だったけど、聞いたことのない低い声で名前を呼ばれて慌てて否定した。
流石にあのまま自分の言いたいことを言ってしまう程、図太くはないです。
「そなたら本当に主従か…?」
「立場逆転してますね…」
「…しかしだ!議員として数少ないA級冒険者を奴隷のままにして置くわけにいくまい!奴隷解放と指名依頼をどうにか受け入れてもらうぞ!!!ちょっとこちらに来るが良い!!!」
そう言うや否や、私達の腕を掴んで引き摺るようにして強制的に連行させられる。
抵抗を繰り返しているけれど、筋骨隆々という訳でもなさそうなのに力が強くてどうにもならない…!
「えっ?!あ、あの…?!」
「な?!…引っ張るな!」
こうしてこの後、レズリー様によって開かれた会議で私達は奴隷解放と指名依頼を受けることに同意させられたのだった。
その分報酬は上乗せされたからもうこの際だからラッキーだと思おう。
この依頼が終わっても一緒に旅してくれるってレオルドさんが約束してくれたし!!!
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