26.乱入者は碌な事をしない。
私達の予想に反して護衛依頼は問題なく進んでいった。
むしろ野営がないうえに全額あちら持ちで王子様が泊まる高級宿屋に宿泊したり、高級料理を堪能したりすることが出来てラッキーだった。
初めて食べた高級料理はクセがあまりなく、すごくおいしかった。
血抜きをちゃんとしていればこの世界の食材は本当に旨味が濃いことを再確認すると共に、高級料理店では相応の処理がされていることを知ることが出来た。
道中の進行速度はかなり遅かったけど、王子様も基本的に話しかけてくることはなかったから、緊張するような場面も殆どなくて気楽だ。
ただ、レオルドさんが私の護衛役として振舞っていて敬語で話しかけられ続けたので、居心地が悪かった。
護衛依頼を受けてから5日目に目的の街、工業都市・カスマスに到着した。
やっと終わった!と喜んでいたのに、街に入っても高級宿に私たちの部屋を準備され、なぜか王子様のお部屋で向かい合ってお茶を飲んでいる。
断れなかった私も悪いかもしれないけど、まだ報酬を貰っていないから邪険にも出来なかったのだ。
私は出された紅茶に手を付けて相手が話し始めるのを待っていて、レオルドさんは後ろに控えて護衛を装っている。
紅茶に口を付けてカップをソーサーに戻した王子様が視線を合わせて微笑んでくる。それを見て私は背筋を伸ばして気合を入れ直した。
「護衛依頼を受けてくれて礼を言うよ。おかげでスムーズにカスマスの街に来ることが出来た。もし良かったら、このまま王都まで護衛をしてもらえないかな?」
「えっと…それは…!」
「もちろん報酬は弾ませてもらうよ?」
…これはどうするべきなんだろう…。正直これ以上はやりたくないが、王族の依頼はまず断れないから受けておくのが無難かな…。
了承の返事をしようと口を開こうとしていた時にいきなり扉がノックされ、侍従さんが王子様に何かを耳打ちしている。その後彼は小さく溜息を吐き、私を見て苦笑を浮かべた。
「申し訳ないんだけれど、客が来ているみたいなんだ。この話は「来たぞ!茶を出してくれたまえ!」…申し訳ない」
話してる途中にいきなりバンッ!という衝撃音と共に鮮やかな深紅の髪に同様の瞳、服装まで赤という何ともド派手な人が部屋に乱入してきた。
王子さまはこの事態に頭に手を当てて天を仰いでしまっている。
音もそうなのだが、赤すぎる見た目をしている闖入者にもびっくりして私は動けずにいて。
いつの間にかレオルドさんが隣まで来てくれていた。
そんな部屋の状況を確認して闖入者はキョトンとした後、唐突に「ナハハハ!!!」と笑い始めたかと思ったら私に近づいてきた。
レオルドさんに腕を取られてソファから立ちあがりその場を離れると、その人は構うことなくさっきまで私が座っていたソファにドカッと座ってしまった。
何がしたいのか意味が分からなくて混乱し、硬直している私の背中をレオルドさんが擦ってくれたので少しだけ安心することが出来たけど…この人は誰?
【名前】レズリー・バーン
【種族】龍人
【レベル】lv83
【固有スキル】蒼炎
【スキル】体術lv5
剣術lv3
槍術lv5
短剣術lv1
格闘術lv2
身体強化lv7
自然治癒lv8
硬質化lv5
火魔術lv9
風魔術lv7
乗馬lv3
解体lv.1
交渉lv3
礼儀作法lv2
直感lv4
【加護】蒼龍の加護
鑑定結果が恐ろしいなんてものじゃない。
火魔術lv9だなんて初めて見た…。レベルも、レオルドさんより高い。
そして、固有スキルと加護も持ってる。
怖い、以外の言葉が浮かばない。
しばらく頭を抱えていた王子様がやっと我に返って、我が物顔で寛ぎ始めた闖入者に声を掛けた。
「…いきなり訪れるのはマナー違反ではないかな、レズリー殿」
「いいではないか!我とそなたの仲だろう?」
お互いに気の置けない仲なのだというのが今の会話でわかった。ということはこの人も身分が高いのだろうか。
…全然そうには見えないけど。
「それとこれとは別問題ですよ?まったく…。それで、どうしたんですか?」
「挨拶をしておこうと思ってな!ついでに王都まで一緒に行かないかという誘いをかけにきた!」
「そうですか、それは是非お願いします。魔獣に不慣れな騎士達だけでは少々不安に思っていたところですから」
「おお!ならこれからよろしく頼むぞ!それと、この者達は誰だ?」
護衛をしなくて良くなりそうな展開に安堵していると、赤い人がいきなりこちらに体の向きを変え、ニヤニヤとした笑みを向けてきた。
話題の中心がいきなり私達になって身体がビクッとしてしまう。
「彼らには護衛依頼をお願いしていたところです」
その人たちと一緒なら私達いらないでしょう?!是非取り下げて下さい!お願いします!
「そうか!我はドラスティア国、12議席がひとり、レズリー・バーンだ!よろしく頼むぞ!」
「お二人とも、改めて頼んだよ」
私の願いも届かず、こうして再度護衛依頼が強制的に決定してしまったのだった。
私達は数日をカスマスの街で過ごした後、5台の馬車と約100人の大所帯となって王都へ出発した。
レズリー様の護衛をしている者達には獣人やドワーフにエルフなど種族が皆バラバラで、唯一共通していることは冒険者である、ということだろう。
これがドラスティア国の特徴なのだ。
ドラスティア国は数多くのダンジョンを抱えるダンジョン国家で、そこから出る魔獣素材や薬草、武器、防具、宝石などを幅広く取り扱っている。そのため必然的に実力派の多種多様な種族の冒険者が集うのだ。
政の面では、1人の統領と呼ばれるトップとそれを補佐する2人の副統領、冒険者の中から選出された代表12人の議員達が国を治める議院制を敷いている。
また、自給率が低いため、食料の多くをセルバイド王国とアスリズド中央国からの輸入に頼っているという側面もある。
護衛といえど、正直なところ何もすることがない。しかもセルバイド王国側のたった二人の冒険者ということで注目を集めているのか、常に見られていて全然落ち着けない。
多数の冒険者が護衛をしているため強行軍で進むこととなり、一日目から野営である。流石の私もこんなに沢山の人達に囲まれて料理をしたり、快適空間を作り出したりせずに一般的な野営をしているのだ。
決してレオルドさんに睨まれてしまったからではない。断じて違うもん!
仕方なくおいしくもない固い携帯食に口の中の水分を全て持って行かれながらどうにかふやかして食べていた。
『今回はセイクリッド勇王国から異世界人は来ると思うか?』
その言葉が耳に入ってきて一瞬肩がビクッと跳ねた。
少し遠くで食事をしているウィリアム王子とレズリー様が南陸語で話しているのが聞こえてきたようだ。
普段私達が使用しているのが中央共通語で、彼らの国がある地域は東陸語か北陸語を常用言語としているはず。
多分他の人には聞かれたくないから南陸語を使っているんだと思うけれど、自身が関係している話題に盗み聞きは悪いと思いながらもついつい耳をすましてしまう。
『そうですね…私の考えでは今回から参加してくると睨んでいます』
『ほう?その理由は何だ?』
『貴方も知っているでしょう?かの国が派閥争いをしていることを。ならば6か国の重鎮が集まるアスリズド中央国建国・誕生祭は、我々他国を派閥の後ろ盾として引き込むいい機会なのではありませんか?』
『やはり我と同じ考えか!』
『貴方もですか…。彼らの情報はあまりありませんし、いい噂も耳にしていませんから心配なのです』
今も彼らの会話は続いているけれど自身の心臓の音がうるさすぎて耳に入ってこなくなっていた。
一部のクラスメイトには無視されていたし、目の敵にしてくるような人もいた。新しい国が出来た時は自分の居場所はないんだと皆に言われているように感じて怖かった。
だから離れたのに!
クラスメイト達に会ってしまったら、どうしたらいいの?
カチカチと歯同士が当たって音が鳴り、身体が震える。
震える身体を抱きしめて落ち着こうとするけれど、まったく意味を為さない。
「ルナ?おい、大丈夫か?!」
私が震えているのに気が付いたレオルドさんが心配して自身の上着をかけて温めようとしてくれた。
「まだ寒いか?毛布でも被っておくか?とりあえず横になっとけ」
魔術鞄から毛布を取り出してそれもかけてくれて。
その優しさがとても暖かくて、ホッとして胸がポカポカとしてくる。
おかげでさっきまでが嘘のように震えが収まっていった。
「…ありがとうございます。大丈夫です」
「本当か?見張り番は俺だけにしてもらうように頼むか?」
「いえいえ、やりますよ!…でも、もう少しだけ、上着借りててもいいですか?」
「構わんが…あんまり無理するなよ?」
「はい」
問題ないことを確認した彼は食事を再開しながらもチラチラとこちらを窺ってる。
季節が夏に変わろうとしているこの時期に彼の上着に毛布は少々暑いけれど、脱ごうとは思わない。
だってとても安心するから。
「で、何かあったのか?」
食事を摂り終わってしばらく経った頃にレオルドさんが尋ねてきた。
私が異世界人であることは彼に伝えていない。伝えようと何度もしたけれどいつも言葉が出なくなる。
だって、異世界人は固有スキルを最低ひとつ所持しているからきっとそのことも話さないといけなくなるはずで、私の持っている固有スキルは幾らでも悪用出来てしまうから。
それに話すときに日本のことも思い出さないといけなくなって、家族に会えない事実がとても悲しくて泣きたくなるから。
「……今はまだ、話せないです…。ごめんなさい…」
「…そうか。いつかは話してくれ」
「はい、ごめんなさい…」
「謝んな」
「はい…」
心の何処かで消化し切れていない感情が渦巻くのに、まだ直視は出来ないでいた。
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