25.面倒事が降ってきた気がする
相変わらずのんびりとした快適野営ライフを送っていた。
今日もお昼を済ませてゆっくり休憩した後、魔獣を狩りながらパカパカと蹄を鳴らして進んでいる時だった。
「誰か襲われてないか?」
「えっ?!た、助けないと!」
警戒した声でレオルドさんが告げたので反射的に返答した。
よく耳を澄ましてみると、微かに怒号のようなものが聞こえてくる。この音に気づくとはさすが獣人さんだ。私には襲われているかどうかは分からないが、彼がそう言うならそうなのだろう。
「飛ばすぞ」
「はい!」
声と同時に馬を飛ばし始めたので、落ちてしまわないようにしっかりとしがみ付く。
襲撃されていたのはそんなに遠くなかったようで、すぐにスピードが落ち始めた。
前に視線を向けると、そこには襲われている3台の豪華な馬車と大きな黒い蛇の魔獣が3匹、そしてそれらを相手している騎士っぽい人、約50人が戦っている最中だった。
馬車を襲っているのはネーロバイパーというB級の蛇型魔獣で、毒を持っていないためB級の中では比較的下位に位置している。
それでも5mを超える巨体と硬質さに応戦している彼らは馬車の守護を優先している事もあり、なかなか有効打を与えられず、苦戦を強いられていた。
こういう時には助けが必要か確認を取らなければならない。相手の獲物を横取りしたと後々トラブルになってしまうからだ。
「A級冒険者のレオルドだ!助けは必要か!」
「!是非頼む!こちらは素材など必要ないから全て貰ってくれて構わない!」
「了解した!」
声を張り上げ確認を終えた彼は馬から飛び降り、ネーロバイパーに突っ込んでいく。
騎士っぽい人達は一等豪勢な馬車だけを護衛する陣形に変えていった。
「ちょっと…?!」
馬の背に残されてしまった私は何とか手綱を握ってバランスを取ろうとする。レオルドさんと違って乗馬スキルを所持していない私は馬を制御するのに結構な時間をかけてしまった。
注意を惹きつけて馬車から引き離し、障害物の少ない空間を利用して仕留めるチャンスを窺っているレオルドさんを援護するため、獲得していた氷結魔術で周辺を冷やし、ネーロバイパーの動きを鈍らせていく。
「助かる!」
「い、いえ!」
温度変化で動きが緩慢となった所をレオルドさんは確実にダメージを負わせていった。戦闘を有利に進めていき、後少しでという頃合いに援護している私に一体だけが標的を変え、這いずって近づいてくる。
「大丈夫か!!」
「何とか、します!」
私は援護を中断し、不安定な馬上のため氷の槍を複数生成して乱れ打ちすることで何とか倒すと、その間にレオルドさんも一体を仕留めたようで残すところあと一体となっていた。
「レオルドさん!動きを止めますので、トドメをお願いします!」
「任せろ!」
土魔術で胴体の一部を固めて拘束したところを彼が脳天に一撃を入れて地面に沈めた。
動かない事を確認して馬からなんとか降り、倒した魔獣を回収する。
その後周囲を確認すると傷ついたままの騎士っぽい人達が驚きの表情を浮かべて自分たちを観察していた。
知らない人達に注目されるのはちょっと…!
居心地の悪さに戸惑っているとレオルドさんが近づいて来てくれたので背中にサッと身を隠して顔だけを出し、様子を窺っていく。
すると戦っていた彼らの中で一番豪華な鎧を着こんでいる人が前に出てきた。
【名前】アンドリュー・セージ
【種族】人間
【レベル】lv59
【固有スキル】なし
【スキル】体術lv2
剣術lv5
身体強化lv5
自然治癒lv3
水魔術lv2
乗馬lv6
舞踊lv1
礼儀作法lv3
【加護】なし
「助太刀感謝する。私はセルバイド王国騎士団第八小隊・隊長に任命されている、アンドリュー・セージだ。現在はアスリズド中央国、工業都市・カスマスに向かっている。そなた達は一体どこに向かっている?」
鑑定結果と挨拶からして「これは面倒事に首を突っ込んでしまったかもしれない」と私が思ったのだから、きっとレオルドさんも同じことを考えたに違いない。そしてこれからの展開を想像して遠い目になっていると思う。
まず、ルナ達が今いる国がアスリズド中央国であり、海には面していないが、肥沃な大地に大陸の中央という立地を生かした貿易で安定した国政を行っている。
そしてアスリズド中央国の北東に土地を構えているのが彼らの国、セルバイド王国である。
このセルバイド王国は小国でありながらも頑強な騎士団を有し、周辺を5の大国に囲まれているにも拘らず、それぞれの国と対等以上に商売を行う貿易国家として世界に名を馳せているのだ。
他国の、しかも国お抱えの騎士団が直々に護衛をしているとなるとそれは王族か王族関係者しかありえない訳で。
その王族関係者が態々、他国に出向いているのだからそれは外交以外考えられない訳で。
その現実に辿り着いたふたりが遠い目をするのはやむを得ないというものだろう。
そしてふたりともが「関わりたくない」と心の中で切に願っていた。
しかしそんなふたりの願いが届くことはなく、今まで開くことのなかった最も豪華な馬車の扉から煌びやかな衣服を纏った高貴な雰囲気の青年が登場し、騒ぎ始めた騎士達を無視しながらこちらに近づいてくる。
【名前】ウィリアム・シー・シャルール・セルバイド
【種族】人間
【レベル】lv42
【固有スキル】なし
【スキル】体術lv1
剣術lv3
身体強化lv2
毒耐性lv3
自然治癒lv2
風魔術lv1
乗馬lv5
算術lv3
交渉lv1
話術lv1
舞踊lv4
礼儀作法lv6
【加護】なし
騎士を引き連れている時点で何となく分かっていたけど!
それでも、国の名を持つ人がわざわざ降りてくるなんて…!
私は咄嗟に召喚された国で身に着けたカーテシーの姿勢を取る。礼儀作法lv1を取得しているのでそこそこマシな礼になっていると思いたい。
この時レオルドだけでなくその青年や騎士達もルナの軸のブレていないきれいなお辞儀を見て驚愕していた。
更によく観察すると、きめ細かな手入れされた肌に着用している衣服も平民の物とは考えられない品質をしているため、彼らはルナのことをどこかのご令嬢なのではないかと勘違いを起こし始めていた。
その勘違いの中にはレオルドも含まれていた。
馬車から降りてきた青年は予想に反した相手に驚きながらも、自身の目的のためにルナ達に話しかける。
「楽にしてくれて構わないよ。私はセルバイド王国第二王子、ウィリアム・シー・シャルール・セルバイド。助けてくれてありがとう。君達のおかげで大事な騎士達を失わずに済んだよ。そして、提案があるのだけれど、カスマスの街までの護衛依頼を引き受けてくれないだろうか?もちろん、助けてもらった分も含めて報酬はしっかりと支払らわせてもらうよ?」
そう言って王子様は人好きのする笑みを浮かべている。
カーテシーを解いたルナはその彼の笑顔と先程の言葉を聞いて意識を飛ばしかけていた。
正直に言っていいのならば断わる一択だけど、これは王族のお願いという名の命令であるから受ける一択しか選択肢がない。
こちらに選択肢のない問いに答えたくはないが、この場で返答をする役目はレオルドの主人である自分が行わなければならない。
奴隷である彼は王族や貴族に対して発言出来る身分ではないのがこの世界だ。それを理解しているからこそ、彼も発言しようとはしてしない。
ゆっくりと深呼吸をして覚悟を決めてから言葉を発していく。
「お初にお目にかかります。私は、C級冒険者をしております、ルナと申します。こちらは、A級冒険者の、レオルドでございます。…護衛依頼に関しましては、謹んで、お引き受け致します。」
…言えた!!!噛まずに!この際変なところで切ってしまったのはなかったことにしよう!
心の中で自身を褒めているルナだが、A級冒険者を差し置いて挨拶する姿とその丁寧な言葉遣いで周りの勘違いを加速させており、彼らに「令嬢と思われる彼女に護衛させるのは…」という新たな苦悩を浮かばせていた。
そして悩んだ末に「王都まで同行すれば何か判るだろう」と結論付けられた。
その結論を出したウィリアムは良い返事に満足げに微笑みながら、「よろしくね」と言って馬車へ戻っていった。
こうしてルナ達の快適野営ライフは終了したのだった。
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