閑話.その頃のとある元クラスメイト
深紅の絨毯が敷かれた王宮の広く長い廊下を足取り重く歩く。
メイドや騎士、文官に近づくと皆が廊下の脇に避け、自分に礼を執る。
その廊下を歩く人物、三澄真は黒髪黒目以外には特徴がない。強いてあげるならば、目の下に酷い隈があるところだろう。
少し歩くと自身の執務室の豪華な扉が見えてくる。その扉を開けて入る。
中にある執務机には大量の未確認書類が積み重なっている。よく見れば、今日仮眠室へ行く前よりも少し増えていた。
無意識に溜息を溢しながら、いつになったら屋敷に帰れるだろうか…。と考えてしまい、それを振り払うようにして首を振った後、一番近くに置いてある書類に手を伸ばした。
最初はよかった。
異世界転移でチートスキルを貰って、皆にちやほやされて。
そして、クラスの1軍たちがサクレイア聖王国を乗っ取り、セイクリッド勇王国を建国した。
そのお零れに与って、僕は宰相になった。
その後の悪徳貴族を粛正したことによる民から称賛の声や自分の考えた政策が通った時には興奮した。自分はこんなにも周りに必要とされていると思うと高揚感で胸が満たされた。
だが、今は後悔しかない。
クラスメイト達は現状が何も見えていないのだから。
賢者と呼ばれた者は魔術師団長に、聖騎士と呼ばれた者は騎士団長となり、魔獣を適当に討伐する余り、生態系を崩壊させ、別のところで被害を生んでいる。現地人が総帥をしてくれているのでまだましなのだが。
しかし、勇者こと現国王に至っては国を2つに割りかけている。
事の始まりは聖女と呼ばれていたクラスメイトを王妃に、前王家の王女を側妃として娶ったことだった。
まず、教会は現王妃に聖女認定を行い傀儡として操り、教会の権力拡大を企む貴族を味方につけ、教会派閥を作り出した。
そして側妃は現王政に不満を持つ貴族達と交流を持ち、旧王政を取り戻そうとする旧国王派閥をまとめている。
また、旧王政で実権を握っていた貴族が再び実権を握ることを目論む貴族派閥に、自分たちクラスメイトと現国王を支持する貴族たちで構成された現国王派閥がある。
今この国は貴族派閥・旧国王派閥と現国王派閥・教会派閥が水面下で争い続けている。
理想は現国王が力をつけ、国をある程度掌握することだが、それは不可能に近い。
自分たちはただの高校生だったのだ。常に魑魅魍魎な貴族社会を生きてきた彼らに政で敵うわけがなかった。
自分も前宰相に宰相補佐をしてもらい、どうにかこうにか日々の政務を行っている。
今はまだ後継ぎがいないため大きな争いは起こっていないが、誕生した日にはどうなることか…。
国を出ていったクラスメイト達は今、何をしているだろうか。もし僕も国を出ていたら…。そう夢想せざるにいられない。
そういえば、国を出た中に僕と同じ固有スキルを貰っていた者がいた。そしてその人は自分たちと比べてもスキルの成長が速かった。
あの当時、僕はその人に今の地位を奪われるのではないかと、不安に駆られていた。
実際にみんなが自分を選んでくれた時は安心感とともに優越感にも浸っていた。
もしあの時、みんなが僕ではなく、その人を選んでいたら…僕は…。
午前から午後に移ったことを知らせる鐘の音が遠くで鳴る。その音に我に返った。
午後には会議に別の仕事もある。早く昼食を摂らないとまた食べ損ねてしまう。
作業を切りのいいところまで終わらせて執務室を出る。そして食堂で簡単に食事を摂り、会議室へ移動する。
今日の会議は確か、中央国の建国祭だか誕生祭だかの外交についてだったはず…。
今まで、異世界転移者が外交に関わったことはない。
きっと、任せれば大きなミスをしてしまうと思われているのだろう。今回は現王国派閥として誰が行くのだろうか、他の派閥も一体誰が選ばれるのか。せめて、余計なことをしない人が選ばれることを願うしかない。
その後は。
今日も、優秀な若者が出来るだけ多くいることを願わずにいられない。未来ある優秀な若者がこの国には必要だ。
勇者は勇者のままでいるべきだった。
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