閑話.どう見える?
冒険者が騒いで酒を飲み、飯を食らっている。
今、冒険者ギルドではポイズンフロッグの幼体討伐祝いを開いているのだ。
主役はやはりルナとレオルドだろう。
しかしルナは来た当初、レオルドの背中に隠れていた。それでも今では他の冒険者と話が出来るようになっている。
2人と話をしていない冒険者たちは、
「すげぇよな!!あの沼を一瞬で凍らせちまいやがったんだぜ!!」
「なあ。あんなに小さいのになあ!」
「俺もあんな魔術使いてえー!!」
といった好意的なことを大声で言っていた。
それを遠くから眺めながら、パルレは酒の入ったジョッキを煽った。
あの時、俺たち〈火焔の聖剣〉と〈閃光〉はギルドマスターと共に沼に駆け付けると、既に戦闘は終わっていた。毒状態の冒険者はほとんどおらず、沼は半分以上が凍り、ポイズンフロッグの幼体のほとんどが死に絶えていた。
そしてその真ん中に泣くルナとそれを宥めているレオルドが立っていたのだ。
全くもって意味が分からなかった。周りの冒険者の声に耳を貸せば、これをやったのは全てルナだと言う。
信じられなかった。護衛依頼で魔獣を誰よりも早く倒しはしても自慢せず、話しかけるとオドオドとしていて、魔術の教えを乞えば、考えながら一生懸命に教えていた。ちょっとズレた子ではあったが。
そんな子が本当にこんなことができるだろうかと思った。それならなぜ、泣いていた?
でも本人に聞きに行ったら、事実だと言う。
俺たちに依頼を出したのも、ポイズンフロッグの幼体を全滅させるためだったと言った。
泣いていたのはレオルドに止められたからだと。
冒険者を馬鹿にするような発言をした薬師ギルド長が許せなかったのだと。
この話を聞いた時、ルナはレオルドの方を気にしていた。きっと言われた言葉の中で彼の気に障るものがあったのではないかと俺は感じた。だから怒ったのだろうと思う。
そして彼も彼女を心配している様子でいたが、少し誇らしげだったようにも見えた。
ふたりの間には何かあったのだろうか。
「あのふたり、どう思うよ?実際」
後ろから聞こえてきた言葉に我に返った。自分と同じように思う人がいたようだ。
振り向いて声の主を確認すると、〈閃光〉のライラとフラーラだった。この2人は同じパーティーで同性ということもあり、とても仲がいい。
遠くにいて話すことの出来ないルナとレオルドのことを酒の肴として話題にしたのだろう。
それでも自分の疑問の答えが分かるかもしれない、と2人の会話に耳を澄ませる。
「えぇっ!そうですね…。お付き合いとかはまだだと思いますけど…」
「そうだね!そんな感じがするよ!でも、レオルドの方はルナのこと気になってるんじゃないかい?」
「そ、それは…!ルナちゃん、まだ子供ですよ…?!」
「でも何にも思ってない子にあんな目向けるかね?」
自分の求めている会話ではなかったが、ライラの発言を聞いて再度レオルドたちに視線を戻す。
…あんな目って、どんな目だろうか。俺には心配している様にしか見えないのだが…。
フラーラも俺と同じようにふたりを見たようで、少しの間の後、返事をしている。
「た、確かに、それはそうなんですけど…!」
「だろう?ただ、問題はルナだね。全くレオルドを気にしてないね、ありゃ」
「そうですねぇ…。まだ子供ですしねぇ…」
「そうだけど、女はすぐに成長するもんさ!気づいてからは速いんじゃないかい?」
「…もし、ルナちゃんが気付いたら、どうするんですかね?」
…これ以上聞くのはやめよう。なんとなく聞かない方がいい気がしてきた。
この2人の会話を盗み聞いて俺と彼女たちの見えている世界は違うと知ることが出来た。それだけで良しとしよう。
そして、2人から離れて、静かに飲んでいるジグリードとバンダルのもとへ向かった。俺もゆっくり飲みたかったのだ。
「よう。ここ良いか?」
「ああ、パルレか。いいぞ?」
「構わない」
「ありがとう」
空いている席に座り、酒を煽る。今飲んだのでジョッキが空になってしまった。
新しい酒を取りに行こうと思って立ち上がろうとしたが、その前にニヤニヤ顔のジグリードに話しかけられてしまった。
「で?今度は何を聞いてたんだ?」
「何って、人聞きの悪い」
「とぼけなくてもいいんだぞ?で、何か分かったのか?」
「いや…。俺と女が見えてる世界は違うってことが分かったな」
「何だそりゃ?」
「…?」
ジグリードもバンダルも意味が分からなかったのだろう。少しではあるが、眉間に皺が寄っている。
「ライラとフラーラの会話を聞いてたんだが。レオルドがルナに好意を寄せているって話で盛り上がっていてな。」
「はあ?ないないない!ありえないだろ。A級冒険者なら選びたい放題だろ?どう考えたらそうなるんだ?」
「俺もそう思ってな。だからこっちに来たんだ」
「なるほどなあ…。女ってのは創造力逞しいな」
「違いないな」
「…俺は、分かる気がする」
「「はあ?」」
バンダルの予想外の発言に声が重なった。
どこをどう見たらそうなる…?
俺と同じような疑問が浮かんだのだろう、ジグリードが詳しく聞こうと問いかける。
「何が分かるんだ?一体」
「そうだぞ?俺には時々親子に見えていたぞ」
「ああ、分かるぞ。」
常識のない娘に苦労する父親だな、あれは。
しかしバンダルにはそうと思えないようだ。
「…なんで、ふたりは一緒にいる?」
「なんでって…そりゃあ、気が合ったとか、実力が釣り合ってとか、色々あるだろ?」
「じゃあ、パーティー組めばいい」
「いや、階級に差があるだろ?」
「何かふたりにはある気がする」
「何かって何だよ!」
解答の分からない疑問に2人はどんどんヒートアップしていく。
レオルドとルナは主従関係にあるが故に、レオルドは奴隷を逸脱した振る舞いをどこまで許容されているかを、そしてルナもどこまでレオルドに対して気を許していいかを測りかねている。
その微かな互いの戸惑いをバンダルは感じ取っていたのだ。だが、レオルドが奴隷だとは知らない彼らはその事実に辿り着くことは絶対にない。
…話が白熱してきたな。このタイミングで取りに行くか…。
そう思って席を立つとバンダルとジグリードの分も取ってくるように頼まれたのだった。
…。
「お前ら、このために俺に話を振ったな?!」
そう叫ぶ俺に2人してニヤリと笑いやがった。
そういえば、こいつらはこんなやつだった!!
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