23.末路
「で。結局俺たちに何をさせたかったんだ?」
今、宿屋の食堂で〈火焔の聖剣〉と〈閃光〉の面々に事情説明を要求されていた。
冒険者ギルドに行ってから宿に戻り、念のために部屋でおとなしく過ごしていた時に、宿の従業員に2パーティーが来ていると知らせがあって、慌てて彼らの待つ食堂に降りたのだった。
本人たちからすると、昨日いきなりギルドマスターに呼び出されて連れていかれ、現場に行けば沼が凍っていて、説明も特になく魔獣処理をやらされ、気づけば指名依頼を出したはずの自分たちは気絶して宿に戻っていた。
しかも、誰も彼らに状況を説明出来なかったがために今も訳が分かっていないそうだ。
「えーと、ですね…」
「ルナがキレてポイズンフロッグを一匹残さず沼ごと凍らせようとした。以上だ」
「そう、ですね…はい…」
端的に事実を伝えるレオルドさんの言葉に同意せざるを得ない。そして、本人が認めたことと沼の凍った姿を見ていることもあり、全員が「ええー…まじかぁー…」「やばいな…」と口々に言いながらドン引いていた。
レオルドさんだけは顔をにやつかせているので、きっと後で揶揄ってくることだろう。
「だが、ひとりであれだけ沼を凍らせられるなら俺たちは必要なかったんじゃないか?」
この中で誰よりも状況の呑み込みが早かったのは〈火焔の聖剣〉リーダーパルレだった。流石、護衛依頼の時に皆をまとめていただけはある。
ただ、これを言うと更にドン引きされそうな予感がしているが、言わないことには話が進まないだろうな。
そう、意を決して口を開く。
「その、陸に上ってるのもいるって話だったので、皆さんにはそちらを全部倒してもらおうかなって…」
「…まじで全滅させるつもりだったんだな」
ここでまさか一部始終を見ているレオルドさんにまで引かれるとは思ってもみなかった。そして予想通り、他の人たちにもしっかりとドン引かれた。
でもそんなことは今考えても仕方がないので一旦置いておくことにする。
今一番気になるのは。
「それで、指名依頼料っていくらになりますか…?」
「あっ…」
レオルドさんも今思い出したようで少し目が泳いでいる。
忘れていたのが自分だけじゃなくて良かったと喜ぶべきか、両方覚えてなくてマズいと嘆くべきか悩ましいところで、現状彼がしっかりしていないと旅は成立しないので、やっぱり嘆くべきなのかもしれない。
「それに関してはギルドから支払われるみたいだから心配しなくていいぞ」
「あ、そうなんですか!よかった…」
本当にどうなることかと思った…!
「まじでよかったな…」
「今までで一番の危機だったかもしれないです…」
「次回がないように気を付けような」
「はい…!」
次がないように二人で決意を固めたのだった。
そして。
「…高位冒険者ってみんなこうなのかい…?」
という、〈閃光〉ライラの発言を否定出来る者は〈火焔の聖剣〉にも〈閃光〉にも誰もいなかった。
「申し訳ないのだけれど少しの間、冒険者に回復魔術を掛けてくれないかしら?」
次の日もまた、冒険者ギルドを訪れると開口一番にメリンダさんからこの提案が飛んできた。
薬師ギルド絡みだろうな、とレオルドさんと共に瞬時に理解し、彼女に対して同情した。
原因の一端を自分も背負っているので出来る限りのことをしたいとは思っている。
「薬師ギルドがまた何かやらかしているのか」
「そうなの!あれは薬師ギルド長を下ろされることを知って冒険者ギルドに卸してるポーション類を全部出荷停止ですって!本当にふざけるなと言いたいのだけれど、数日間だけ持たせればいいから何とかお願い出来ない?」
「それ、数日で終わる話なのか?」
「ええ!もう上には報告を入れてあるから後はあれが排除されるのを待つだけなのよ。だからね?お願い!ルナちゃん!」
「私は別にいいですよ?」
できる限りのことを手伝わないと!
「本当?ありがとう!助かるわ!」
「給料はちゃんと出るんだろうな?」
「もちろんよ!!当たり前じゃない!失礼しちゃうわ!」
「すまない。ならいいんだ」
「ええっと。レオルドさん、ありがとうございます」
「次は気を付けてくれよ?」
「はぁい」
そうして回復魔術師としての仕事を始めた。
ポイズンフロッグの件が片付いたからか、人数も少なく簡単な割にいい臨時収入になった。この値段は冒険者で回復魔術を使える人が多くないからだろうか。
そして、冒険者を癒す回復魔術師として慣れてきた日のお昼休憩時にそれは起こった。
食事のために冒険者ギルドを出てカフェへ向かって大通りを歩いている時、男の人がいきなり奇声を発しながらこちらへ走って来たのだ。
「お前の!お前のせいでぇ!!!わた、わたしはぁああああ!?!?!?」
「「?!」」
その人物は髪を振り乱し、目を血走らせた薬師ギルド長・ディーンリッヒだった。
あんなに偉そうにしていた人物の常軌を逸した姿を見ると、誰だって驚くし、怖いと思う。
私はあまりの姿に思わず、レオルドさんの背中にしがみ付いてしまった。
しかしそれでもレオルドさんは、実にあっさりと地面にギルド長を押さえつけていた。そして、周りの人に衛兵を呼んでもらい、到着を待つ。
その間中ずっと。
「お前らがぁ!!私をおとしいれたのだ!!わたしはぁ!!悪くないぃ!!!わるくないぃ!!!!!」
「なぜわたしがああ!!!わたしがあああああ!!!」
「かえせええ!!!かえせえええええ!!!!!?!?!」
と押さえられながらも喚き続け、衛兵に連れて行かれてもこちらを睨みながら叫び続けていた。
「本当にごめんなさい!まさかこんなバカなことをすると思わなくって!ルナちゃん、怪我はしなかった?」
昼食を食べずにそのまま冒険者ギルドに帰ってくると、すでに話が伝わっているメリンダさんに迎えられた。
あれだけ騒いでいたら、伝わるのが早いのも仕方がないのだろう。
「大丈夫です。ありがとうございます」
「俺がいるのに怪我すると思うのか?」
「まあ、そうよね。でも、確認は大事よ?ね、ルナちゃん?」
「えへへ」
何と返せばいいかわからなくて愛想笑いをしてしまった…。
でも、彼女は気にしていなさそうだった。
「もう!可愛いわぁ」
「ホントに好かれてんな。…それで、次の薬師ギルド長はどうなるか決まっているのか?」
「…いいえ、まだよ。でも、順当にいけばサブギルド長がそのまま繰り上がると思うわ」
「…大丈夫なのか、そいつは」
「問題ないと思うわよ?ちょっと気は弱いけど、まともな人だもの」
「ならいい」
こうして、私の回復魔術師業務は幕を閉じた。
その後、私たちはポイズンフロッグの沼の管理を魔術で手伝ったり、陸にいるのを戻したり、ポーションを作って納品したりして数日を過ごした。
更に、新薬師ギルド長にはサブギルド長が、サブギルド長にはあのクリスが就任した。これには私もレオルドさんもとても驚いた。解毒ポーションのことで泣付きに来ては縮こまっていた彼しか知らないので。
そして、ある程度この街でやらかしたことに対して償いは出来たと思う。
だから、王都に向けてまた旅に出ることにした。
そのことを伝えると、メリンダさんや〈火焔の聖剣〉、〈閃光〉も残念がってくれたが、「また会おう」と言ってくれた。
ちょっと嫌なこともあったけれど、いい人たちと出会うことができた。
次に行く街でもこんな人たちに出会えるといいな。
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