16.魔術講義
各々食事を済ませた後、今日の見張り番の順番を決めるために冒険者全員が一か所に集まった。
話し合いは〈火焔の聖剣〉のリーダー、パルレが仕切っていくようだ。
「さて、今日の見張りだが、誰か希望はあるか?」
「ないです」 「ありません」 「ない」
それぞれ希望がないことを思い思いに伝えていく。自分も首を横に振って意思表示をする。
しかしレオルドさんだけは希望があったらしく口を挟んだ。
「俺はルナと一緒の時間にお願いしたいのだが、構わないか?」
「…よし、わかった。他に希望はないか?なら、見張りは3チームに分けて行う。これからメンバーを発表するぞ。まず、最初が〈閃光〉の剣士ブリジオと短剣士のライラ、そして〈火焔の聖剣〉からは格闘家のセバンと弓術士のセルジオに務めてもらう。次が〈閃光〉の格闘家のダリと魔術師のフラーラ、〈火焔の聖剣〉からは俺と盾士のジグリードで行う。最後が〈火焔の聖剣〉の戦斧士のバンダルに格闘家のレオルドと魔術師のルナだ。最初のメンバーは今から3時間、頼んだぞ。他のみんなも気を抜かずにかんばってくれ!」
どのチームも前衛と後衛がバランスよく分けられている。
自分たちはレオルドさんの意見が通り、同じチームになった。バンダルという人とはほとんど何を話していないため少しだけ不安があったのだが、自分たちの見張り番が来るまでベッドで熟睡できたのだった。
「…い、起きろ。時間だぞ。おい、いつまで寝てんだ」
「あぅ…?お、おはよう、ございましゅ…」
「…まだ寝ぼけてんな。顔でも洗え」
「は~いぃ…」
見張りの時間になったのだろう、先に起きたレオルドさんに叩き起こされた。
彼に言われた通りに顔を洗うと、段々と頭が働き始めて彼とバンダルさんがいるところに向かうと、二人は焚火を囲んで見張りをしてた。二人に近づき、遅くなったことを謝る。
「おはようございます。遅れて、すいませんでした…」
「おはよう。どうしたらそんなに爆睡できんだ?」
「だって…快適だったんだもん…!」
「だから、ベッドなんていらないって言ったんだ」
「いいえ、必需品です。」
「あんたのそのベッドへの執着は何なんだ・・・?」
何度目かも分からない寝具議論を勃発させているとバンダルさんは黙ってこちらを見ていた。
それがとても静かに怒っているように見える。
「あの、本当に、すみませんでした…。」
「構わない」
たった一言だけ返されてしまった。これは本格的に怒っている。
遅れた分しっかりと仕事をしないと…!
そうして、昼間と同様に二人が動く前に魔獣を倒していく。
「…それ、すごいな」
「えっと…?」
何体目かわからない魔獣を仕留め、収納していると、再度一言だけバンダルさんが呟いた。
いきなり話しかけてきたために何と返せばいいのかわからない。
しかし、こういう時にフォローをしてくれるのがレオルドさんなのだ。
「そうだよな。俺たち、何もしてないしな。おかげでA級冒険者の面目丸つぶれだ」
「え?!ごめんなさい!もう邪魔しないです!」
「冗談だ、冗談。だが、魔力の使い過ぎには気を付けてくれよ。今使い切って昼役に立たないじゃ意味ないからな」
「大丈夫です!魔力はまだまだあります!」
「どうやって魔術は使う?」
「え?えっと…」
またしても唐突だった。
それに魔術について自分が話すと十中八九スキルを習得する。そのことを考えると迂闊に話せない。
またしても黙った自分を助けるために、再度話を繋げてくれるのがレオルドさんだ。
「バンダルは魔術を使いたいのか?」
「ああ。出来れば」
「どの属性がいいとかはあるのか?」
「そうだな。水魔術を使えると便利。戦闘だと土魔術が相性いいと思う」
「なるほどな。確かにその二つが使えるのはいいかもな。俺もどっちも使えないし、折角だから聞きたい。どんな感じなんだ?」
…どうするべきなんだろう…。教えるべきか、否か…。
考えた結果【天眼】の情報には頼らず、自身の魔術発動時の感覚を説明することにした。
「…感覚的な話になりますが。まず、自身の中に魔力があるのは、わかりますか?」
「ああ、なんとなくだが」
「分かる」
「それをまず、魔術を出すところに集めます。例えば、右手に出したいと思ったら、右手に。右足から出したいと思ったら、右足に集めます」
「?足から魔術って放てんのか?」
「できますよ?…今まで見てきた魔術を使う人に、ストーンバレットを使っている人を見たことはありますか?その人が作り出した石の礫は、一つではなかったと思います。つまり、手から離れたものが存在することになるので、魔力さえあれば魔術はどこからでも、発動します。」
「「なるほど」」
「そして、魔術に一番大事なのは、イメージです。土魔術だと、私は地面にある土を集めて、固めて、相手に飛ばすイメージをします。水魔術だと、空気中にある水を集めて、まとめて、飛ばす。…どちらの属性も、魔力で集めて、まとめて、飛ばす。この三つの工程のイメージができれば、魔術は使えます。…才能があれば」
「結局才能かよ?!」
「魔力を集めて…まとめて…飛ばす…。…あ、出来た」
「まじか?!」
バンダルさんの両掌の間には小さな土礫がひとつ浮かんでいた。
…こんなに早く出来るようになるとは思いもしなかった。誤魔化すしかない…!
「すごいです!!才能があるってことですね!!」
「ああ。まさか出来るとは…」
「だが、他の奴らが使うストーンバレットと違くないか?」
「もう!そんなこと言うならできるようになってください!…バンダルさんはそのイメージのまま、“ストーンバレット”って、言ってみてください」
“ストーンバレット”と詠唱するのはイメージを声によって固定するためだ。
例えば、何も言わずに進めていくと、石はどこから来る?という疑問にブチ当たり、結局石礫は発動できない。しかし、“ストーンバレットは石の礫である”という固定概念があるため、詠唱するだけで土礫が石礫に変わる。
「分かった。…ストーンバレット!」
バンダルさんが呟くと同時にいくつもの石礫が現れ、放たれた。
しかし、途中で勢いが減衰し、すぐ傍で落ちてしまった。
それでも希望の魔術を放つことができたからだろう。パッと見てわかるくらいに嬉しそうな顔をしていた。
そして、ブツブツと文句を言いながら試行錯誤するレオルドさんともっと飛ばせるように工夫するバンダルは、見張り番が終わるまで繰り返し魔術の練習をした。
その頃になってようやくレオルドは土魔術を使えるようになり、バンダルに至っては土魔術と水魔術も使いこなせるようになっていたのだった。
その代わり、ふたりは魔力を使い過ぎて朝から疲れ果てていたのだった。
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