12.ギルドマスター・ロギレンス
この1週間でレオルドはルナに対して過保護になった。
何せ、目を離すと騙されそうになり、気が小さすぎて他人に言い返せず、レアスキルやそれによって生み出された貴重すぎるものを、なんて事のないような顔をして奴隷であるレオルドに差し出す。
特に魔術鞄はA級冒険者でも持っているのはほんの一握りの者だけだし、服にも付与が施されている者はS級冒険者でもそういない。
彼が身に着けているものは全て、奴隷に落ちる以前よりも高性能で高品質なのだ。
感謝よりも心配が勝るのは必然とも言えたのである。
しばらく待っていると、満面の笑顔をした受付嬢が戻ってきた。
「お待たせ致しました!ご案内致します!」
先程よりも高い声を出して歩き出した彼女の後ろをついていくが、チラチラとレオルドさんに視線を向けては逸らしてを繰り返している。
執務室に到着すると、受付嬢がノックし、「失礼します。A級冒険者の方をお連れしました。」と声を掛けて扉を開ける。中には机に向かい、書類仕事をしているギルドマスター、ロギレンスがいた。
「おう、よく来たな。すまないが、ちょっと座って待ってろ。」
顔も上げずに言う彼の言葉に従い、自分たちは置いてあるソファに腰を下ろした。
受付嬢は「A級冒険者ですよ?!もっと丁重にもてなして下さい!」と文句を言った後、執務室を出て、その手に紅茶を持ってすぐに戻ってきた。紅茶を置きながらレオルドさんに視線を送っていたが、全く興味を持たれていないことに気づき、項垂れながら執務室から出ていった。
紅茶を楽しみながら待っていると、一段落ついたロギレンスが書類から顔を上げて驚いた顔をした後、ニヤニヤとした表情で自分たちの前のソファに移動し、口を開いた。
「やっと来たか。全然来ねぇからどうなったことかと思っていたが、まさかA級冒険者を捕まえてくるとはなぁ?」
「Aランク冒険者のレオルドだ」
レオルドさんが短く挨拶をする。それに遅れながらもロギレンスに返事をする。
「す、すみません。…その節はどうも、お世話に、なりました…」
「いいんだよ!んなことは!つーか、奴隷を買わなくてよかったんだな!正直、お前の話を聞いてくれる冒険者なんていねぇと思ってたわ!」
「買われたぞ?」 「…買いました」
ロギレンスの言葉に対して自分たちの返答の声が重なった。
この返答に驚愕の表情を露わにしている。
「は?A級冒険者を買った?!よく買えたな?!」
「…高かったです…」
「だろうな!まあ、相性も悪くないようだし、よかった、よかった!」
自分たちの様子がお気に召したのだろうか、ロギレンスはガハハハ!と大きく口を開けて笑う。
「にしてもお前ら、冒険者とは思えねぇ格好してんな?クエストを受けてほしいんだがなぁ」
そう言いながら自分たちの服装をまじまじと見つめてくる。
私の服装は、小さなフリルの付いた白の丸襟ブラウスに天色の大きなリボンとフレアのミニスカートを穿いて、白のタイツと膝下まであるダークブラウンの編上げブーツを合わせ、更にアイボリーのフード付きコートを羽織っている。
隣に座るレオルドさんは黒のハイネックインナーと魔術手袋にブーツ、脹脛までのカーキのカーゴパンツを裾を絞って穿き、腰にある黒のベルトにはダガーと魔術鞄が装着されている。そして、オークル色のジャケットを羽織ってはいるが、窮屈な感じがするらしく肩を抜き、着崩した状態だ。
実際、試着した際にもレオルドさんからも「どう見ても冒険者じゃないな」というお墨付きを貰っている。
付与が施してあるため、性能は素晴らしくいいのだが。
「一応、クエストを受けるつもりで来ているぞ?久しぶりだからできれば手頃なのがいいんだが。何かいいのはあるか?」
「マジかよ…。その格好でクエスト受けんのか…。レオルドはともかくルナはそれで、ってそういえば。防衛戦の時も似たような冒険者とは思えねぇ格好で魔獣を倒してたな…。」
「防衛線…?」
この1週間の言動と防衛線という言葉に乖離がありすぎて理解ができなかったレオルドさんに、ロギレンスが懇切丁寧にこの街でのやらかしを面白おかしく暴露していく。
話終わるころには身体をこれ以上小さくできないというくらいに縮こまらせて、顔を覆い、恥ずかしさに身を悶えさせるルナがいたのだった。
存分にからかわれた後、「クエストは受付で聞け。俺は知らん」と一蹴されて執務室を出た。
執務室から戻ると、自分たちに視線が集中し、ギルド内はいきなり静かになった。
その状況に怯えてしまっている私をレオルドさんは庇いながら、受付でよさそうなクエストを見繕ってくれた。
そのおかげで思いのほか早く、冒険者ギルドから退散することができたのだった。
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