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別れと遭遇

 突然鳴り響いた警報に驚き、クライヴを見上げる。

「何の警報?」

「分からん。だが、敵襲の警報ならば艦内放送がすぐに流れる」

 クライヴは格納庫の出入り口傍の通信機に駆け寄った。慌てて追い掛ける。見た目の割に俊敏なクライヴに数秒遅れて到着した。一足先に到着したクライヴは通信機を起動させて、受話器を使い誰かと通話していた。通話が終わるまで傍で待つ。

「分かった。ではその通りに行う――ステラ」

 通話が終わるなり、クライヴに呼ばれた。返事を返すよりも前に肩に担ぎ上げられて、どこかへ連れて走って行かれる。

「クライヴ、どうしたの?」

 少しの間を置いてから、クライヴは口を開いた。

「大陸連邦だ。今朝の襲撃も大陸連邦のものだったんだろうな。盗まれた古式機動殻の引き渡しを操縦士と一緒に要求して来た」

「盗まれた? 勝手に登録認証されたのに?」

「向こうからすると、手に入れる直前で他人のものになったから『盗まれた』と、認識しているだけだろう」

「な、何て傍迷惑な……」

 地図を偶然手に入れて向かった先での出来事が、こんな事にまで発展するとか、想像出来んわ。

 クライヴに担がれたまま移動していたが、どこかに着くなり降ろされた。場所を確認すると、空調管理室か? クライヴが何かの仕切りを外すと、大柄な大人一人が四つ足状態で進めそうな大きさの通気口の入り口が出現した。クライヴはポケットから小型の通信機を取り出して、自分に押し付けた。

「ステラ、ここで大人しくしていろ」

「え?」

「大陸連邦がどう動くか分からん以上、お前を表に出す訳には行かん」

 そう言って、自分を通気口内に押し込んだクライヴは通気口の蓋を閉めた。直後、激しい横揺れが襲い掛かった。

「くそっ、連中は何を考えている?」

 クライヴは悪態を吐いてからどこかへ行ってしまった。通気口に押し込まれた自分は、少しの間、途方に暮れた。

 急転直下(?)、急展開(?)、この二つのどちらかか、あるいは双方の状況に、どうすれば良いのか分からなくなる。横揺れはまだ続いている。

「取り敢えず、奥へ移動するか」

 やる事が思い付かず、かと言って、このまま入り口付近にいても意味は無い。厄介な事に、内側から蓋を開けて出る事は出来なかった。出来る事を口にして意識を切り替える。

 横揺れで頭を内壁にぶつけないように、慎重に奥へ進み、十字の分岐地点の下を見る。換気口はブラインド状になっていた。指を隙間に差し込んでブラインドを起こすと、通路が見えた。幸いな事に、換気口は自分なら通れる程度の大きさで、下から押し上げる事で蓋が外れる仕様になっていた。だが、外からネジで固定されているのか、持ち上げようとしても動かなかった。

 別の場所を探そうにも、迷子になっては意味が無い……いや、そもそも艦内の構造を知らなかったわ。

 クライヴが自分を運んだ時、エレベーターや階段を使用しなかった。つまり自分は、格納庫と同階にいると見て良いだろう。

 ブラインドを寝かせて奥へ進もうとしたら、換気口の下から声が聞こえて来た。横揺れはまだ続いている。透視を発動させて下を見ると、軍服格好の男が複数人いた。

「見つかったか?」「いや、まだだ」「戦闘が終わるまでに探し出せ」

 簡単なやり取りをしてから方々へ散った。だが、そんな事よりも連中が持っていた写真を見て驚く。思わず声が漏れそうになった。

 ……何で、自分の写真を持っているの?

 しかもよく見ると、孤児院にいた頃に年に一度だけ記録用として撮った時の写真だ。何となく、気持ち悪さを感じ、透視を停止させた。

 眼下にいた連中が完全にいなくなったが、自分はその場に留まって考える。

 今回の襲撃もそうだが、一年前の孤児院襲撃も――まさか、自分が原因なのか? 

 そこまで考えて、クライヴが言っていた言葉を思い出す。

『大陸連邦がどう動くか分からん以上、お前を表に出す訳には行かん』

 この言葉の意味は、自分がいない事にして襲撃を凌ぐ気だったのか?

「っ!?」

 耳に微かなノイズ音が届いた。自分は個人で通信機を持っていない。手元に在るのは、クライヴから渡されたものだけだ。魔法で遮音結界を展開してから通信機を操作する。通信に出ると、クライヴの声が聞こえて来た。

『ステラ、聞こえるか? クライヴだ』

「聞こえるよ。どうしたの?」

 通信機のスピーカーから漏れるクライヴの声に対応する。

『艦内に大陸連邦の人間が潜入した。数は分からんが、通気口からは絶対に出るな』

「待って! さっき隙間から見えたんだけど、軍人みたいな男達があたしの写真を持っていたよ」

 一方的に通信を切られる気配を感じ取り、咄嗟に先程透視で見た事を口にした。

『何!? っ、くそっ』

「クライヴ!?」

 轟音と一緒にクライブの悪態が聞こえた。応答は無く、指示を飛ばしているクライヴの声だけが聞こえる。

 クライヴが発した言葉から状況を考えると、彼は戦闘を行いながらこの通信をしている事になる。

 どうすれば、この現状を変えられる?

 大陸連邦の狙いは自分。ここで隠れていたままだと、戦闘は終わらない。疫病神みたいだな。

 早くここから去らないと。そう考えて、どこへ行けば良いのかと疑問が沸く。艦橋で見た周辺地図を思い出し、クライヴが言っていた軍事基地の存在を思い出した。

 ……賭けるしかない。

 博打になるが、この状況を変えるにはやるしかない。

「クライヴ。さっき言っていたツーソンズ基地に、古式に乗って行く!」

『ステラ!? 何を言っている!?』

「何もどうも、あたしがいる限りこの艦は襲われるんでしょ? だったら、囮として出て、ツーソンズ基地に行く」

『待て、考え直せ!』

「……ごめん」

 止めるクライヴの声を無視して、自分は一言謝ってから通信を切った。透視で最短通路を探して、そのまま通気口内を移動し、最寄りで魔法を使って床に降り立ち、幻術を使って廊下を歩いて格納庫へ向かう。

 幻術を使って姿を隠したまま辿り着いた格納庫内には、軍服格好の男が十数人いた。その中の三名が古式機動殻のコックピット周辺を調べている。整備担当者らしい人影は無い。避難しているのか、隠れているのか。どちらにせよ、姿が見えないのなら気にする必要は無い。

 道具入れから閃光弾と網膜保護用のサングラスを取り出す。その閃光弾を風属性の魔法を併用して、男達の頭上に落ちるように投げた。

 この閃光弾は魔力を感知してから、十秒後に発光するように作った。魔法を併用して、遠くにいる相手に対して使う事を想定している。十秒の制限は付いているが、早めに発光させたい時は『銃で打ち抜く』など、外部から衝撃を与えれば良い。そして、加えられた衝撃の威力が『小さくても』閃光弾は反応する。

 サングラスを掛けてから、風の礫で閃光弾を打ち抜いた。

 次の瞬間、空中で放たれた強烈な光が男達を飲み込んだ。直接見れば例外無く、見た人間の網膜を焼いて失明にまで追い込んでしまう程に強い光だ。真横に注意を払っていただけの男達が『光に飲み込まれた』かのように見えなくなった。

 続いて苦悶の声が上がったが、自分はそれらを無視して古式機動殻のコックピットへ駆ける。男共が動けない今しか、チャンスがない。

 閃光弾の威力は、古式機動殻のコックピット周辺にいた男達にも影響を与えていた。コックピット周辺にいた三人の男達は目を押さえて『目が、目が~』と古いアニメを思い出させるような台詞を言いながら、苦悶の表情を浮かべて転げ回っている。

 網膜保護用のサングラスを掛けていなければ、自分もこうなっていた可能性が高い。自分は男共とは違い、即座に治せるんだけどね。 

 そんな事よりも、男共を避けて移動し、コックピットに入ってしまえばこっちのものだ。

 格納庫と外を隔てる隔壁は上がったままだ。古式機動殻を起動させ、足元に気を付けながら外に、カタパルトに当たるところへ向かわせる。

「……わー」

 艦の外は分かり易く激戦だった。巨虫に羽虫が群がるように、十機以上の大陸連邦の現代式機動殻が艦を取り囲んで攻撃している。クライヴはこの防戦の指示を出しながら自分に通信して来たんだけど、今になって改めて思うと凄いな。

 武器庫からロングソードを取り出して飛翔機を展開して飛び上がる。気を引く為に近くにいた大陸連邦の機体に切り掛かった。すると、即座に集中砲火を浴びる。

 頭の中で艦橋で見た地図を思い浮かべて空を移動する。可能な限り出せる最大速度で空中を飛翔して背後を確認すれば、銃撃しながら大陸連邦の現代式機動殻が追い駆けて来る。

 このまま目的地の、ツーソンズ基地へ向かっても大丈夫そうだ。

 そう確信を得てから、更に飛翔を続けた。



 飛翔を続けてどれ程の時間が経過したのか。

 こちらに続いていた発砲は止まり、大陸連邦の機体は気づけばいなくなっていた。

 逃げ切ったのならば、これ以上飛翔を続けても意味は無い。一度地上に着地して、息を吐いた。

 巻き込んでしまったクライヴ達は大丈夫だろうか?

 操縦席から身を乗り出して背後へ振り返る。望遠カメラ機能を使って遠くを見ても、最早見えない距離にまで来てしまった。モニター越しに空を見上げると、太陽の位置は大分傾いていた。夕刻まで残り二時間弱と言ったところか。

「はぁ~……。どうしよう」

 操縦席に身を沈めて考える。また振出しに戻って――いや、クライヴから自分の両親に関わる情報を幾つか貰っている。

 このままツーソンズ基地へ向かおう。そこにいる鋼騎剣団に助けを求めよう。クライヴから得た情報が正しいのなら、親族の人と連絡が取れるかもしれない。

 再び飛翔機を展開させようとしたところで、警告音が鳴り響いた。同時に、全周囲モニター上をロックオンマーカーが動き一点で止まった。

「え? 何?」

 今度は何事かと思い、ロックオンマーカーが止まった一点を見つめる。すると、自動で拡大表示された。


 ――それは高速で向かって来る、鷹や鷲などの猛禽類に似た『何か』だった。


 拡大表示された飛翔物体を『猛禽類に似ている』と思った理由は、翼に当たる部分が『折り畳み式』だったからだ。ちなみに、現代式の鳥類型機動殻の翼は伸縮式だ。

 アレは何だと睨んでいると、ロックオンマーカーの下に『動物型機動殻』と文字が表示された。

 動物型と表示されたが、近づいて来た事でより鮮明に見えたその赤い姿は、どう見ても赤いプテラノドンを連想させる『翼竜』だった。どこが動物なのか? 地球で鳥は『恐竜の末裔』って言う調査結果もあると聞いたが、この機体の動物要素はどこだ?

「いや、今は逃げる事を優先しよう」

 観察していないで逃げよう。移動方向が同じだけかもしれないし、そもそも、あの機動殻と戦闘するとは限らない。

 古式機動殻にステルス機能が搭載されているんだったら、見つからないように徒歩で移動が可能だった。搭載されていないから、空を飛んで移動するしかない。古式機動殻の飛翔機を展開させる。

 直後、周囲に何かが着弾した。

 ギョッとして周囲を見ると、地面が抉られていた。

 どこから来た攻撃なのかと、周辺を探すも敵影は無い。周辺に敵影が無ければ、怪しいのはこちらに近づいて来るあの翼竜のような機動殻になる。

 一先ず逃げようと飛翔機を展開させると、翼竜から放たれた光の玉――恐らくエネルギー弾が放たれた。放たれたエネルギー弾はこちらを足止めするように着弾した。つまり、最初の攻撃もこいつの可能性が高い。

 その場に留まって空を見上げていると、出現した動物型の機動殻は翼竜のような動きで地面に降り立った。

 見上げる程に大きなその全高は古式機動殻の二倍以上はある。

 向こうの出方を見る為に、そのまま待つ事にした。


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