戦闘は終わり、意外な人と会う
箱と言うか、棺型の兵器がファンネルらしきものを回収して去る事で戦闘は終了となった。
戦闘終了後には、事情聴取と言う名の尋問が待っており、割って入って来てくれた方々が保有する陸上航行艦に連れて行かれた。
向こうからの指示通りに、艦の格納庫らしいところで片膝を着かせた古式機動殻から降りれば驚かれた。一番驚いていたのは、クライヴ・ジェミニと名乗ったリーダー格っぽい男だった。でも、名前を名乗ったら眉間に皺が寄った。……クライヴの歳は一体幾つなんだろう。眉間に皺を寄せている姿は四十路過ぎのオッサンにしか見えないんだが。
改めて『何が起きて戦闘になったのか』とクライヴから質問を受け――朝起きてからの経緯を話す。
「起きて朝食を食べ終え、小さな無人偵察機らしきものを見かけて、少し経過したら地揺れが発生。機動殻のコックピットに避難した直後、周囲の岩壁に亀裂が入ったから慌てて古式機動殻を操縦して外に出たら、ドカーンと、地面に大穴が開いた。混乱していたら、空を飛ぶ箱っぽいものから小型の無人機らしいものが出て来て攻撃されました」
以上ですと、締め括ると沈黙が降りる。経緯を聞いた面々の微妙な顔。『ほんとかよ』と、クライヴを除き、皆さんの顔にデカデカと書いて在る。
「何故襲われたのか心当たりが無い。それで良いんだな?」
沈黙を破るクライヴからの確認に、心当たりが有り過ぎて、鸚鵡返しで言葉がポロリと漏れる。
「……ココロアタリ」
有る。めっちゃ有る。多分だが、古式機動殻か両親のどちらかだろう。
「有るのか?」
頷く。問題はどちらか判らない事か。
「心当たりを全部話せ。何か判るかも知れん」
考え込んでいたらクライヴから提案を受けて、古式機動殻を発見した時の事を話す。すると、今度はクライヴ以外の面々の顔が呆れたものになった。
正直に言おう。勘弁してくれ。こっちは襲われた側なんだよ。
例えが合っているか、例えにして良いのか不明だが、魔法が使える自分は『リアルGガンファイター系』なのだ。ロボット系の操縦なんてやった事がない。今回は『古式機動殻だから操縦に困っていない』だけ。これが現代式機動殻だったら『操作マニュアルを先に読んでいない』と操縦なんか出来ない。地球のオートマチック車みたいな簡単な操縦が出来る筈がない。
続いて、十一年前の戦争で死んだ両親が大陸連邦所属だった事を話し、証拠となる身分証明証代わりの金属板も有るのでこれも併せてクライヴに渡す。
受け取ったクライヴは、何故か金属板の表面に彫られた自分の名前を見て軽く目を見開いた。驚く要素はない筈なんだが、どうしたんだろう?
「読み取り機に掛けて本物か確認する。少しの間預かるぞ」
クライヴはそう言って金属板を上着のポケットに仕舞った。
「読み取り機?」
その動作よりも、読み取り機などと言うものが存在する事に驚く。
思い切って訊ねれば、この金属板は地球で言うところのメモリーカードに似た『情報記録端末』の一種らしく、専用の読み取り機を使うと記録されている情報が読み取れるらしい。
「へぇ、それくれた婆ちゃんはそんな事言っていなかったな」
「婆ちゃん?」
感心していたら周りで話を聞いていた面々の一人から、今度は質問が飛んで来た。
「一年前までいた孤児院で、職員をやっていた人で、両親の事を知っていた人」
厳密には、自分を連れて孤児院にやって来た人なんだけど、詳細を教える必要はないだろう。
そう思ったが、クライヴは口元に軽く握った拳を当てて少し考え込んだ。
「もしや、メアリー殿か?」
「? 何で婆ちゃんの名前を知っているの?」
驚いてそう尋ねれば、クライヴは暫し瞑目して……自分の腕を掴んだ。
「これ以上は関係の無い話になる」
クライヴはそう言い、解散を他の面々に言い渡した。他の面々が何か言いたそうな顔のまま解散する中、自分はクライヴに腕を掴まれているのでそのまま。
「あの」
「ついて来い」
腕を引かれて、クライヴと共に艦内を移動。思っていた以上に搭乗員が少ないのか、艦内は閑散としている。誰にも会わないまま、とある部屋に辿り着く。横にスライドして開いたドアの先に机とベッドが見えた。状況的にクライヴの私室かな?
「適当なところに座ってくれ」
クライヴはそう言うなり、机に引き出しを開けてガサゴソと漁り始めた。広辞苑ぐらいに大きい箱型の機械を取り出し机の上に置き、渡した金属板を機械にセット。そのまま机の前の椅子に座ったクライヴは、こちらの事など気にせずに読み取り作業を始めた機械を見つめる。
一連の行動を眺めていた自分は、適当なところに座れと言われたので近くのベッドに腰掛けた。ぶっちゃけると、ここ以外に座るところが無かった。ベッドと椅子しか座るところが無いのに、クライヴが椅子に座ったんだもん。これはベッドに腰掛けるしかない。
読み取りが完了するまで、無言で待ち続ける事、体感で数分。読み取り機が小さな音を立てた。
「ふむ。本物か」
おい。第一声がそれか。てか、偽物が存在するの?
「これは返そう」
内心で突っ込んでいたら、金属板はあっさりと帰って来た。受け取った金属板を改めて眺める。表面には自分の名前しか彫られていない。まさかこれがメモリーカードと同じ役割を持つ品だったとは。
ここは異世界で、地球とは違うんだなぁと、改めて違いを突き付けられた気がする。
金属板を上着のポケット(ボタン付き)に仕舞う振りをして、道具入れに仕舞う。
「さて、何から聞くべきか……。そうだな、先ずはメアリー殿について聞くか。メアリー殿の正式な名は『メアリー・チューダー』で合っているな?」
クライヴはこちらに向き合うように椅子に座り直し、腕を組んで少し考えてから質問をして来た。
「合ってるけど、何で婆ちゃんの事を知っているの?」
質問に回答しつつ、こちらからも質問する。
「う~ん。そうだな。ステラ。お前は両親の顔は知っているか?」
「知らない」
写真なんてものは無かった。婆ちゃんも『写真が残っていれば』と何度か愚痴っていたので存在はするんだろうけど。
即答すると、クライヴはポケットからスマホに似た情報端末を取り出して、何やら操作を始めた。
「ああ、在った。写真の中央にいる、黒髪の男性がお前の父親だ」
そう言って、クライヴは一枚の写真を情報端末に表示させてから、自分に端末を渡した。
受け取った端末に表示されていたのは、一枚の集合写真だった。全員軍服っぽい服装で、一人を除いて、皆筒状のものを持っている。卒業写真だろうか?
集合写真の中央。独りだけ服装が微妙に違う黒髪黒目の男性がいる。年齢も年長者だろう。
この男性が、自分の――ステラ・オルグレンの父親?
髪と瞳の色は確かに同じだ。亡き婆ちゃんからは『目元以外は父親似ね。母のようなお転婆になってはいけませんよ』とよく言われていた。
「この人が、父親?」
「そうだ」
この世界の人生で、初めて父親の顔を知った。
「ところでこれ、何の写真?」
「士官学校卒業式の時の写真だ」
「……士官学校? 大陸連邦の軍人だったの?」
軍服っぽい服装だなーと思っていたら、まさかの回答だった。
クライヴは頷いて肯定する。
「十一年前の大戦終結後、俺は大陸連邦から離れた。だが、『元』軍人である事は事実だな」
「士官学校って言っていたけど、父は教師だったの?」
「兼任していた。教導隊と中隊と試験運用隊の三つの部隊を抱えていたな」
え? 結構偉い人じゃね?
クライヴの回答にそんな事を思ってしまった。そりゃ、有名人だわ。
「お前の母は試験運用隊の操縦士だった」
クライヴから齎される情報に『へぇ』としか言葉が出て来ない。婆ちゃんとどんな関係が有るのかさっぱり分からん。
「ステラが生まれた時、お前の母は自分の乳母だった女性を呼び寄せた。その女性が、メアリー・チューダー殿だった」
「え?」
突然挟まれた情報に素っ頓狂な声が出た。
乳母だった女性を呼び寄せた? それってつまり……。母って結構良いところの出だったりする? 元お嬢様?
って、違う違う。
「メアリー婆ちゃんは母の乳母だった。それは理解したけど、どうしてクライヴが知っているの?」
投げかけるべき質問はこれだろう。
「それはだな。お前の父親が俺の元上官だったからだ」
「へ?」
間抜けな声が出た。父がクライヴの元上官って事は。
「父の部下?」
「そう言う事だ。一応その写真にも写っているぞ」
「えっ!? そうなの?」
気づかなかった。改めて探すが、それらしい人物が誰なのか判らない。写真と目の前の本人を何度か見比べて、髪と瞳の色から判断して正誤を問う。
「それが俺だな」
正解だったが、無意識に写真と見比べてしまった。
……十年以上経過しているとは言え、ちょっと老け過ぎじゃない? クライヴって今幾つなんだろう?
「俺はまだ三十歳だ」
「ごめんなさい」
むすっとしたクライヴの正確な年齢を知り、素直に謝った。ごめん。四十歳過ぎのオジサンに見えました。老け顔って損だね。
「謝罪は受け取る」
クライヴはそう言ってそっぽを向いた。
気にしていたのか、気にしていたんだな。明らかにそうだと解かる、非常に子供っぽい態度だ。
苦笑をしないようにするので精一杯だった。
その時、騒々しい音が近づいて来た。
何事かと、クライヴと顔を見合わせてドアに視線を向けた瞬間、ノックも無く、蹴り破るようにドアが開けられた。
「クライヴ! あの機動殻はどうなってんだ!? 全く動かないぞ!」
叫び声と共に部屋に飛び込んで来たのは、頭にタオルを巻き浅黒く日焼けした男性。
「ジョージ。……どうと言うのは、どう言う事だ?」
額に手を当てて軽くため息を零し、口を開くが注意しても仕方が無いと言わんばかりに頭を振ってから、クライヴはジョージと呼んだ男性に問うた。
「そこのチビが乗っていた機動殻だよ! ありゃぁ、一体どうなってんだ!?」
「……ああ、そう言えば、言っていなかったな」
ジョージの叫びを聞き、クライヴは彼の質問を理解した。
クライヴは椅子から立ち上がると、ジョージと一緒に来いと再び腕を引かれる。
どこに行くのかは、考えなくても判る。機動殻絡みだからね。この部屋に来るまでにいた、格納庫っぽいところだろう。
三人で通路を歩き、辿り着いた場所は想像通りの場所だった。先程との違いは片膝を着いて待機状態の古式機動殻の周囲に人だかりが出来ている事ぐらいか。
ジョージが『連れて来たぞ!』と声を張り上げる。すると、人だかりから一斉に視線を貰う。殺気交じりの視線に驚き、反射的にクライヴの背に隠れた。
「全員落ち着け。今から説明する」
クライヴはそう言い放ち、全員が落ち着いた頃合いを見計らってから再度口を開く。
「先ず……そうだな、これを最初に言って置くべきだったな。あの白い機動殻は現代式ではなく、『古式』機動殻だ」
たっぷり十数秒かけてクライヴの言葉を理解した面々は、あんぐりと口を大きく開けて絶句した。
そして今度は、格納庫一杯に響かんばかりに絶叫が上がった。何と発声したのか判らない。絶叫するように声が上げたようにしか見えない。
「う、うるさっ」
「確かに煩いな」
余りの声量にクライヴと二人で顔を顰める。
「な、何を落ち着いているんだ! 古式だぞ! この世に一機たりとも残っていないと言われた、あの、古式機動殻だぞ!?」
ジョージが興奮の余り、口の端から泡を飛ばして捲くし立てる。
対してクライヴの反応は、非常に冷淡だった。
「興奮しているところ水を差すようで悪いが、古式機動殻の分解による調査は無理だぞ」
「はぁああああああっ!? 何言ってんだよ!?」
「聞いた事が無いか? 古式機動殻は戦闘で損傷しても自動で修復してしまう。微調整や日々の整備なども完全に自動で行われてしまう。故に、整備兵からは『整備士泣かせ』とも呼ばれる。手間が掛からないありがたみと、分解による研究も出来ない悔しさの二重の意味が込められている」
「………………初めて聞いたな」
興奮が完全に冷めたのか、ジョージの目が死んだ魚のようになった。それは他の面々も同じだった。
そんなの楽しみだったの?
野暮だと分かっていても、そんな事を思ってしまった。口にしなかっただけまだマシだ。
ここになってふと気づいた。クライヴの袖を引っ張って自分に意識を向けさせてから問う。
「ねぇ、何であたしはここに連れて来られたの?」
「言っただろう。微調整や整備なども自動で行われてしまうと」
「仮に自動で行われるとしてもさ、移動で動かしたりする分には他の人でもいいんじゃないの?」
自分の質問に目が死んでいた面々の目に光が戻り掛けるが、クライヴの無慈悲な回答で再び消えた。
「一見すると良さそうに思えるが、古式機動殻に限ってはそれが出来ない」
「え? なんで?」
目を丸くして尋ねた。再び目が死んだ面々も黙ってクライヴの回答を聞く。
「微調整が自動で行われる原因として、操縦士の個別登録が挙げられている。そして、この個別登録も自動で行われる。この個別登録が原因で、登録者以外は操縦出来ない。それに、登録の方法を俺が知らない」
「そうだったの……」
思わず感心の声が漏れる。確かに登録は自動で行われたなと、見つけた時の出来事を思い出す。それってさ、自分以外の人間は操縦出来ないって事か。納得の行く答えは得たが、今度は別の疑問が浮上する。
「何でそんなに詳しいの?」
「……昔、とある御仁に教えて貰った」
無難な回答が返って来た。
これは『とある御仁って誰?』って尋ねても教えてくれなさそうだ。
黙っていると、クライヴの手が自分の頭に乗り、何かを抜き取られた。え? と驚き、クライヴの手に在るカチューシャを見て、あっ、と声を上げる。
「何故、補助器が着けたままにしている」
「紛失防止」
それ以外に装着理由は無い。と言うか、髪に埋まっていた筈なのに良く見つけたな。
「そうか。だが、着けたままは推奨出来ん。自動調整に思考が反映されるぞ」
「そう、なの?」
「まれにだがな」
本当に物知りだなと感心してからカチューシャを返して貰い、ここに連れて来られた目的を果たす。
目的が何だって? 決まっている。
全く動かないと、ジョージが怒鳴り込んで来たのだ。古式機動殻を指定位置に移動させ、指定の姿勢で停止させる。
やる事はやったと、達成感を覚えると同時に、すっかり忘れていた大事な事を思い出す。
今後の古式機動殻の取り扱いについて。
引き取ってくれないか聞いて見よう。