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夢と早朝の戦闘

 暗闇を焦がすように、爆炎に包まれている見覚えの有る建物。

 連続して響く爆発音と銃声。

 次々に殺されて行く職員と子供達。銃撃を受けて上がる悲鳴。

 阿鼻叫喚の地獄絵図に背を向けて、自分は初老の女性を背負い建物の間を、襲撃犯から見つからないようにこそこそと移動する。爆発で四散したガラスの破片を頭から浴びた女性は全身が血塗れで息も上がっている。背中越しに感じる体温も冷たい。

「ステラ、私を置いて、早く、独りで逃げなさい」

 耳に届く弱々しい声を聞き、これは夢なんだなと判った。一年前までいた孤児院が襲撃された日。両親の事を知っていた女性とお別れしたあの日。

「婆ちゃん。でも……」

 今ここで、女性を置いて行ったら間違いなく死ぬ。簡単に止血処置は行なったが、失った血量が多過ぎた。何より右足を負傷している為、歩く事すら出来ない。

「『でも』も、何も有りません。私に構わず、早く行きなさい。貴女は、貴女だけは捕まってはいけない」

 聞き慣れたピリッとした声に思わず足を止めた。

 あの時は『何か策が有るのだろう』と思った。でも、結果は違った。

 今思えば、聞き慣れたあの声音は最期の気力だったのだろう。

 僅かな逡巡の後に、自分は女性を建物の陰になっているところで降ろし、女性と向き合った。

 血に塗れた金茶色の髪。焦点の合っていない空色の瞳。荒く呼吸をする度に上下する細い肩。

 ――どう見ても死に体だ。

 夢だと理解しているからか。『婆ちゃんは自力でどうにかする』と、あの時そう言い聞かせた己を殴りたい。

 女性は己の血で紅く染まったスカートのポケットから、刺繍が入ったハンカチを取り出した。

「あとで、返してね」

「うん」

 ハンカチを受け取りポケットに入れる。女性は自分の頭を撫でた。

「大丈夫よ、ステラ。貴女はあの二人の娘なのだから、お行きなさい」

「分かった。待ってる」

 頑張って笑顔で頷くと、女性は血で汚れても力強さを感じる微笑を浮かべた。

 大丈夫だと、立ち去る自分の迷いを断つ為に。

 くるりと、女性に背を向けて走り出す。振返ったら足を止めてしまいそうだった。

 そのまま闇に紛れて、自分は独り逃げた。

 翌日。変装してから孤児院の様子を見に行った。

 黒く焼け落ちた施設。炭化した死体を回収して簡単な墓に埋葬する街の警備隊員。

 女性と別れた場所にも向かったが、乾いた血痕が残っているだけだった。無事に逃げ果せたのかと思ったが、離れた別の場所で顔の判別が出来ない程に損傷の激しい死体が見つかった。まさかと思って向かうと、警備隊員が担架に乗せて運んでいた途中だった事も在り、その人物が誰なのか見る事が出来た。

 見覚えの有る衣装。それは、昨晩別れた女性が着ていたものだった。



「……婆ちゃん」

 思い出したくもない夢を見たが、何事も無く、朝になった。

 コックピットから出て、道具入れに容れている手持ちの生鮮系食糧から簡単な朝食を作って食べる。朝からカップ麺を食べる気はない。

 食後。幻術の境界線ギリギリから、外を眺める。

 見える範囲の空に異常はない。音も聞こえない。

 魔法を使い、直径一キロ範囲を徹底的に調べる。その結果――人っ子一人おらず、無人偵察機の姿すら見当たらない。

 今が朝だから動きが無いのか。昼になったら動きが有るのか。どちらかは分からない。

 ここを出るか否か。よく考えないと。

「っ!?」

 機動殻に向かって歩きながら、どうするかと、悩んでいたら、微かな機械音が耳に入る。

 重力魔法による疑似飛翔で一気にコックピット内へ移動。魔法で己の姿が見えないようにする事も忘れない。

 洞窟の外を警戒しながら見つめていると――小鳥サイズの小さな一機の無人偵察機が現れた。静音性が高いのか、殆ど音が聞こえない。

 熱感知系の機能を有していないのか、偵察機は洞窟の前を通り過ぎた。

 けれども、自分は魔法を駆使して偵察機のあとを追い、誰が飛ばしたのか探る。

 一キロ近くも先まで偵察機を追ったが、一向に回収されない。

 この偵察機は囮で、本命が別のところから来るのだろうか? しかし、魔法を使って調べたあとに来るってどうやってここまで来たんだ?

 そう考えると、ちょっと厄介だな。機動殻を宝物庫に容れて転移魔法で遠方に逃走するか。調べていないので不明だが、この機動殻に迷彩機能が有ればと思ってしまう。仮に有していたとしても、音が反響しない場所でも無い限り、移動時の駆動音でバレる。

 周囲を探索するが何もない。避難を始めようとコックピットの出入り口の淵に手を掛けた直後、地揺れが起きた。慌てて内部に戻り、出入り口を閉じる。完全に閉じ切ると同時に、周囲の岩壁に亀裂が入って行く。その様子をモニターで視認しつつ、霊視による千里眼と透視を併用して、真上を――空を見上げる。

 青い空の中に、染みのような一つの黒い点を見つけた。

 目を凝らして見ると、縦にした棺のような形をした箱型の兵器が人工衛星のように宙に浮いていた。見た事の無い兵器だ。

 兵器の底、棺の底先端部が青白く光り、強烈な悪寒を感じた。

 ――隠れている場合では無い。今直ぐ逃げろ。

 その直感に従い機動殻を操作して、洞窟を出て空に舞い上がる。直後、爆風が襲い掛かって来た。

 爆風で姿勢を崩しながらも空へ舞い上がる。ある程度の高度にまで上がり下を見る。眼下には大きなクレーターが出来上がり、夜避け谷の一角が崩れている。

「何なの、あの威力。……サテライトキャノン、いや、バスターライフルじゃあるまいし」

 威力の例えがガンダムシリーズの固有名詞になってしまうのがちょっと悲しい。けれども、他に思いつかないのが悔しい。

 クレーターから視線をずらすと、先程までいた洞窟の辺りが完全に崩れていた。背中に冷や汗が流れる。

 ……まさかだけど、隠れていた自分を炙り出す為にあんな高威力兵器を使ったんじゃないよね?

 周囲を探索しても敵影は無い。敵と言うか兵器と思しきものは、空に浮かぶ箱型兵器のみ。

 無人破壊兵器だとしても逃げるのが得策だな。機動殻を操縦しての実戦経験は少ないし。

 操縦が思っていた以上に簡単で、機体性能の差も有るから、どうにかなっているのだ。調子に乗って良い時ではない。

 背を向けた瞬間、真横を閃光が走った。振返って箱型兵器を見ると、側面部分から砲身が覗いている。

『サーチアンドデストロイ』の命令を受けているのか、無人か有人か判断出来ないが、見逃してはくれない模様。その証拠に、箱の側面が上にスライドして無数の黒い何かが飛び出して来た。目を凝らして見て仰天する。

「え゛、ファンネル!?」

 黒い何かはガンダムシリーズでお馴染みのファンネルを連想させる形をしていた。

「やば」

 慌てて下降する。急いで着地しないとマジでヤバい。

 ファンネルで連想する攻撃と言えば、遠隔操作によるオールレンジ攻撃だ。慣れない機動殻での戦闘で上下――と足裏と言うか真下と頭上からの攻撃――を気にしながらの戦闘は正直避けたい。前後左右ならば対応は可能だと思うが、流石に全方位からの同時攻撃は厳しい。

 古式機動殻は簡易防壁を常時展開しているが、ビーム兵器に対して耐久力と言う強度が分からない。あの箱型兵器が使用したのはビーム兵器だけ。ファンネルらしき小型兵器は死角を補う為のものだと仮定する。無線式誘導ミサイルか無線式移動砲台かは不明だ。

 何にしろ、ぶっつけ本番の耐久試験何ぞ、やりたくもない。心臓に悪過ぎる。

「ぬぉっ!?」

 地面に特攻するように下降していたら、ビーム弾が機動殻を掠めた。装甲が薄っすらと焼けている。簡易防壁を突破したのか。それとも、ビーム兵器に対して無効なのか。サッパリ分からん。

 こんな時こそ、カチューシャと言うか、補助器よ。情報プリーズ……って、状況じゃねぇ!?

 ファンネルからビーム弾が次々に放たれた。慌てて回避行動を取るが、間に合わず幾つかが装甲を掠める。肝が冷える光景だが、向こうの狙いが甘いのか掠める程度で済んでいる。気づけば地面はすぐそこで慌てる。慌てながらも地面に着地せず、飛翔器を操作して滑るようにターンして方向転換し、地に足を着けファンネルと向き合う態勢を作り、回避しながら大事な事実を思い出す。

 古式機動殻(こいつ)の初期装備はロングソード(実体剣)のみで、中距離から遠距離攻撃用の兵装……有ったかな? 威力が分からないから調べないで放置していたな。

 詰んだか? いや、実体のある兵器だから近づいて直接斬ればどうにかなる、と言うか、それしか攻撃方法が無い。難易度が高いけど。

 補助器を介して初期兵装を調べる。

 ロングソード、簡易防壁、仮想術式砲……何なのこの装備? つーかこれだけ!? と言うか『仮想術式砲』って何!?

 補助器経由で情報を引っ張り出す事は可能だが、攻撃が激しくなって来た。『情報を理解する時間』が惜しく思える。これ以上回避しながら理解するとか無理。

 見込みはなく、非常に分も悪いが、応戦するしかない。

 ロングソードを武器庫から取り出し、自棄になって飛び出そうとした瞬間、背後から閃光が駆け抜けた。閃光に飲み込まれた幾つかのファンネルが爆発する。

「今度は何!?」

 ファンネルからの攻撃を回避するのに手一杯で背後を見る余裕などない。

『古式機動殻の操縦士! 何が起きているか説明しろ!』

 代わりに通信が入った。低い男の声だが、……初めて聞く筈の声なのに、何故か懐かしいと感じた。

「えっ、説明? いきなり攻撃を受けてこっちも何が何だかさっぱり分からないんだけど!?」

 懐かしさを脇に置き、通信に応える。

『子供? 子供が何故?』

 気にするのはそこかい。

 内心で突っ込んだ。ある意味当然の疑問だろうけど。

 それ以上の通信の応答は無く、代わりに数機の現代式人型機動殻が横を通り過ぎ、ファンネルに攻撃を始めた。手持ちのライフルからは実弾じゃなくて、ビーム弾が撃ち出されている。程々の威力のビームライフルを持っているなんて羨ましい。

『おい、大丈夫か?』

 羨望の視線を送っていると、横に一機の機動殻がやって来た。通信機越しに聞こえる声は先程の男のもの。

「取り敢えず、大丈夫です」

『は?』

 何と答えれば良いのか分からず、そんな事しか言えなかった。

 戦闘が終了するまで、茫然と戦闘を眺めた。


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