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人類が滅びかけても世界は続いて行く  作者: 天原 重音


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帰路の途中で拾った少女 ~カーティス視点~

 人物紹介

・カーティス・ヒルトン 階級少佐 赤茶の短髪とオレンジの瞳

 ステラの父ランドルフの教え子の一人。クライヴとは主席争いをしていた仲。少々脳筋気味。

 夕刻。宛がわれた個室で情報端末機器を操作して戦艦の移動状況の確認を行う。手伝いと言う名の臨時参加している身だが、情報の確認は自分の手で行うのは癖と言うより、恩師からの教えの一つでも有る。実際に、他者からの伝聞よりも直接見聞きした方が得られる情報量は多いので、これは積極的に教えている。

 鋼騎剣団保有軍事基地の一つ、ツーソンズ基地への航路に異変無し。余りにも順調な帰路に、経験の積み上げと評価の為に、不測の事態が起きて欲しいとも思ってしまう。

 操縦兵や整備兵の候補生達との訓練帰り。今回の訓練は大型戦艦に搭乗しての実地訓練。最初の頃こそは、初めて搭乗する大型戦艦に候補生達は皆浮き立っていたが、基地への帰路に着く頃には候補生達は疲れ切っていた。教導官は私を含めて三名同乗しているので、何かしらの襲撃が発生しても対応は出来る。

 それにしてもと、思い出す。十代半ばの年齢の彼らの初々しい姿は微笑ましくも有るが、時々、幼い子供のような反応には呆れてしまう。

 十数年前。己が候補生だった頃はどうだったか思い出す。

 首席争いをしていた因縁の男、クライヴ・ジェミリと毎日競争をして、些細な事で喧嘩をして、教官から脳天に拳骨を貰って怒られていたな。

『そこまで元気があんなら、装備担いで走って来い』

 そして、装備品(成人男性一人分の重さ)を背負って基地訓練場を十周し、走り終えるとクライヴと一緒に倒れ、教官に『そんなところで寝るんじゃねぇ!』と再び拳骨を貰う。ここまでが何時もの事だった。

 ……今思うと、子供過ぎるな。

 教官は狼のような風貌の男性で少し睨まれただけで震え上がる候補生は多かった。風貌からは想像し難いが、人格的には非常に真っ当で面倒見が良く、問題児集団と化していた少数精鋭の部隊、通称『黒狼隊』の中隊長も務めていた。

(結果的に)精鋭が集まった部隊は小回りの利く非常に優秀な部隊と化し、軍閥などの派閥争いで潰されないように教官の階級も大佐に上げられた(本人談)。

 部隊員の人品人格がどうであれ、見事な采配で戦果を次々と叩き出す様は文句の付けようがない。

 そんな人物が教導官まで勤めていたのは何故と思った。

 実際にかつての恩師と同じ教導する立場になり、色々と苦労はしたが、教え子が巣立つのはやはり嬉しい。それに、戦うだけが軍人の仕事では無いと思うと、思っていた以上のやりがいを感じる。

 端末を操作して候補生達の今後の指導点などの洗い出しを行う。他の教導官からは『そこまでやる必要が有るのか?』と聞かれるが、恩師からの教導を思い出すと何となく行ってしまう。

 中隊長で在り、押し付けられた試験運用隊を抱え、教導官としても一線で活躍する。どう考えても、かの恩師の仕事量は今の自分の何倍も有った筈だ。私とクライヴが候補生から卒業し、かの黒狼隊に配属になったあとに知った事が、恩師は結婚し家庭を持っていた。その奥方に当たる人物が『究極の問題児』と言われる御仁で、手綱を握るのは苦労しただろうに。何故結婚を受け入れたのだろうか? 本当に謎だ。

 生まれて来た一人娘には、性格面で母親に似ない女性になって欲しいと、黒狼隊全員で願ったのも良い思い出だ。奥方は怒っていたが。

「ふふっ……」

 思わず笑みが零れる。

 大戦が起き終結した十一年前まで、毎日が本当に充実していて楽しかった。死と隣り合わせの日々だったにも拘らず、ここにいられたのならば『たとえ死んでも満足だ』と、心から言えた。

 あの日々が消えてから十一年が経過する。恩師夫妻は戦死し、競い合い手だったクライヴはどこかに去った。残された私はさる御仁の誘いに乗って移籍した。最初の六年は部隊を率いて戦場に立ったが、人員不足の教導隊から勧誘を受けて転属した。

 時は流れて、教導隊に転属して五年が経過した。毎日が忙しく、かつて程ではないがそれなりに充実した日々を送っている。

「ん?」

 回想を遮るように艦内用通信端末から電子音が鳴った。何事かと通信に出る。通信の相手は私と同じく休憩に入っている筈の初老を過ぎたばかりの歳の男性――この戦艦の艦長からだった。

『休憩中に済まない、少佐』

「いえ。それは艦長も同じですのでお気になさらないで下さい。何か起きたのですか?」

 通信画面に表示された、同じ階級で年上の艦長の眉間に皺が寄っている。候補生達が何か問題でも起こしたのだろうか?

『口頭で説明するよりも、見て貰った方が早い。至急、艦橋にまで来てくれ』

「? 分かりました」

 内心で首を傾げるが承諾する。承諾を返すと通信は一方的に切れた。おかしい。艦長はこんな態度を取るような人物ではないのだが。

「行けば判るか」

 ここで考えても答えは得られない。疑問は一先ず胸中に仕舞い込み、服装を見直してから足早に艦橋へ向かった。



 到着した艦橋には私と共に搭乗している教導官二名(両名共に階級は一つ下だが年上)が既にいた。彼らも呼ばれていたのか。艦長と揃って難しい顔をしているがどうしたのだろうか。

「遅くなりました」

「! おお、来たか」

 一声掛けると、艦長が肩をビクつかせて驚いた。何時もならば扉の自動開閉音で入室に気づく教導官二名も驚いている。

 平時と違う反応に疑問は大きくなるばかりだ。

「何が起きたのですか?」

 三人揃って、難しい顔をして食い入るように見ていたのは外部映像を映す画面だ。候補生達が問題を起こしてのでは無いと知り、少し安心した。

「そうだな。取り合えず、こいつを見た感想を教えてくれ」

 顎髭を撫でながら艦長は画面を見ろと促して来た。教導官二人は何も言わずに画面の前から動いて場所を譲って来る。

 疑問顔を隠さずに外部映像を映す画面を見て、三人が難しい顔をしていた理由が判った。映像を見て私自身も眉根が寄ったのが判った。

「白い人型の機体と赤黒い鳥類型の機体。どちらも古式ですね」

「あん? 古式に鳥類型何て在ったのか?」

「はい。厳密には翼竜型と言うそうです。私も十数年程前に古代文明の研究家から教えて貰い、初めて知りましたが」

 教えてくれたのは恩師の奥方だ。研究家から操縦士に転職したちょっと変わった経歴の持ち主なのだ。

「少佐。どう見ても、現代式にしか見えませんが、本当に古式なのですか?」

 艦長の疑問に答えていると教導官の片方から質問が出て来た。彼の疑問は私も同じ事を思ったので分かる。

「現代式の翼は横に伸縮式ですが、古式だと翼が折り畳み式です。非常に判り難いですが、折り畳んだ先に前足に相当する鉤爪が着いています」

「……言われて見ると確かに、爪が有るな」

 画面を凝視して確認したもう片方の教導官が目頭を揉んでいる。

「どちらの機体も古式であるのは確かですが、……荒野で戦闘している理由は解りませんね」

 改めて外部映像を見る。超高速戦闘を行うこの二機は何故こんなところで戦闘を行っているのか。翼竜型の全高は相対している人型の約二倍以上有る。だからか、近接武装して持って戦闘を行っている人型が、子供向けの童話に出て来るような『魔竜と戦う勇者』に見えて来るから不思議だ。

「戦闘理由は解らなくて当然だが、問題はこの二機の戦闘空域が帰りの航路と被っている。このまま真っ直ぐに行くと、三十分後に遭遇する」

 艦長のぼやきに、呼び出された理由が判った。

 戦闘空域を避けるか否かの相談と言う訳か。やや遅い気もしなくは無いが、旧式戦闘艦の望遠カメラの精度ではこれが限界なのだろう。

「大型艦が一日飛行すれば基地に到着する距離での戦闘です。警告を兼ねて割って入り、戦闘を中止させるのはどうでしょうか?」

 疲れ切った候補生達が乗っているのだ。疲れ切っていても、操縦士の候補生達は血気盛んだ。搭乗している戦艦を守る為なら出撃したいと声を上げる程に。

「それが出来れば苦労はせん」

 艦長はため息を吐いてぼやいた。しかし、艦長の口から代案は出て来ない。それは他の教導官も同じだった。

 時間だけが悪戯に過ぎて行く状況に、内心でため息を吐く。

 三人揃って何度も私をチラチラと見るのだ。まるで私に『どうするか決めてくれ』と言わんばかりの態度。決定権と責任を私に丸投げしているのが判る。階級が一つ下の大尉の教導官二名はともかく、艦長は私と同じ階級だ。軍人としての階級は同じだが、私の方が年下だから気を使わないでくれと何度も言った。が、どうやら言葉は届いていなかったらしい。

 刻々と過ぎて行く時間を勿体なく感じ、三人が望んだ通りに申し出る。

「良ければ私が機動殻で出撃し、警告を出ましょうか? どちらか片方には事情聴取として乗艦して貰いますが」

「……あー、それが有ったか」

 三人が同時に肩を落とす。事なかれ主義も過ぎると色々と見落とすと言う見本のようだ。

 このあと私は三人に、航路はこのままを維持、戦闘終了後に事情聴取の為に一時乗艦させる事を了承させて、格納庫の整備兵に『空戦装備で出撃する』内容の連絡を入れ、現代式人型機動殻に乗り込んで出撃した。

 出撃の際に操縦士の候補生達が何事かと集まり問うて来たが、自室待機を言い渡した。不満げな顔をしていたが、候補生の身で出来る事は無いので解散させた。

 


 戦闘に割って入り、古式機動殻にも繋がる周波数に通信機の設定を変えて警告の通信を出すと、翼竜型は沈黙したまま空に舞い上がり西へ去って行った。これから向かうツーソンズ基地とは逆方向に去った。事情聴取を行いたかったが逃げられた。あの速度では追いつけない。

 気を取り直して、残っている人型機と通信を繋ぐ。戦闘による疲労が濃いのか、通信越しに荒い呼吸が聞こえる。

「人型機の操縦士。何故ここで戦闘を行っていたのか事情聴取の為に同行して貰うぞ」

『ゲフッ、誰? 大、陸連、邦の関係者か?』

 聞こえて来た喘鳴交じりの幼い声に驚く。何故子供が機動殻に、それも古式に乗っている!?

「子供!? ……っ、ああ、いや、先程も言ったが、我々は鋼騎剣団だ」

 警告文言が聞こえていなかったのか、それとも聞いていなかったのか。威圧しないように改めて名乗ると、熟考しているのか、永い沈黙が降りた。

『たぃりく、れんぽぅじゃ、無いの、ね。……だったら、良いか』

「は? おいっ、どう言う意味だ?」

 問い返すが、その言葉を最後に通信機から聞こえていた、喘鳴交じりの幼い少女の声が途切れた。

「操縦士! 応答しろ! 操縦士!」

 何度呼び掛けても応答はない。古式も起動を止めたのか、両手に持っていた近接戦闘用の装備が宙に消えて行く。恐らくは武器庫に収納されたのだろう。

「くそっ」

 悪態を吐き、機動殻を操作して古式の背後に回る。人体で言うところの両脇に腕を差し込み、後ろから抱き着くような体勢を取り、飛翔器を展開して空を飛ぶ。

 艦長にも忘れずに帰艦報告の連絡を入れた。事情聴取予定の操縦士が意識を失っていると告げたら、心底嫌そうな返答が返って来た。

 着艦時に指導役の整備兵に指示を飛ばし、古式機動殻を格納庫に収容させる。私が乗っていた機動殻も格納庫に収容させ、定位置に着いたところで操縦室の出入り口を開けて外に出る。

 ツーソンズ基地帰還予定に変更は無い。概ね問題は無い。事情聴取は操縦士が目を覚ましてからで良い。

 連絡通路に降り立ちながら頭の中で今後の予定変更の有無について考え、古式機動殻に向かって歩く。

「おい、開け方知っている奴いねーのか!」「流石に古式機動殻の勉強なんかしてねぇよ!」「くっそ、どうすりゃ開くんだ?」

 などと言う会話が整備兵達から聞こえて来た。

 忘れていたが、古式人型機動殻は十一年前の大戦で『発掘された分は全て破壊された』と聞いている。今の教導隊でも古式についてはあまり詳しく教えない。整備兵の方では学ぶ機会すら無いのだろう。目の前の機体は新たに発掘されたか、発掘後にどこかに保管されたまま放棄されていたものに違いない。

 連絡通路を足早に歩き、人だかりを掻き分けて古式機動殻の搭乗口前に辿り着く。

「搭乗口を開ける退いてくれ」

「あん? 少佐は知ってんのかい?」

「班長!」

 声を掛けると整備兵指導役の代表が怪訝そうな顔で振り返った。この代表の年齢は私の二倍近く年上の人物なので、敬語でなくとも気にはならない。周りは階級を気にして顔を少し青くしているが、気にするなと落ち着かせる。

 代表に肯定を返してから、搭乗口を開放操作を行う。少々うろ覚えだったが操作は合っていた。

「へぇ。そうやんのか」

 代表が感心する声を背後から聞こえて来た。今はもう学ぶ機会が無い。そう思うと苦笑を零してしまう。

 空気の抜ける音と共に搭乗口が開き、異臭が鼻を突いた。

 ……今になって思えば、何故操縦士は気絶した? あの喘鳴は何だったのだ?

 今になって湧いた疑問の答えは異臭に有った。この異臭の正体は、恐らく血の匂い。

 慌てて操縦室内を見て――想像以上に悪い光景に思わず絶句した。

「少佐?」

 背後からの問いかけに我に返り、慌てて指示を飛ばした。

「医務室に連絡を入れろ! 担架を持って来い!」

「へ?」

 唐突な指示に皆茫然としているが、事態は一刻を争う。再度強めに指示を飛ばして操縦室に入り、気を失った操縦士の少女を抱き抱えて連絡通路に降り立つ。操縦士の少女を見た周囲の人だかりから、どよめきが上がった。

 操縦士の黒髪の少女は、血塗れ状態だった。喘鳴交じりに息を乱し、内臓を痛めているのか吐血までしている。衣類が血塗れになる程に血を吐きながら戦闘を行っていたのか。

 通路に片膝を立てて座り、立てた膝に凭れさせるように己の膝の上に少女を下ろして、血の気の無い首筋に触れて脈拍を図る。規則正しい脈拍ではないが、鼓動は止まっていない。呼吸は通信時の時と同じく、喘鳴交じりのままだ。

 血の気の無い頬を軽く叩き何度か呼びかけるも、少女からの反応は無い。

 担架はまだかと、周囲に視線を向ける直前、小さなむずかるような声を聞いた。視線を落とすと、少女がうっすらと両眼を開けていた。脳に過負荷を掛けていたのか、少女が瞼を持ち上げると血涙が頬を伝った。だが血涙を見て驚くよりも、誰かに似ていると言う印象の方が強かった。

「ぁー……どこ?」

 焦点の合っていない少女の瞳が虚空に視線を彷徨わせる。

「確りしろ。ここは鋼騎剣団の戦艦内だ」

「こぅき、けんだん……。ぁ、クライヴに、連絡、しないと」

 少女の口から漏れた予想外の人物の名に思わずギョッとする。

「クライヴ? クライヴ・ジェミニを知っているのか?」

「うん」

 尋ねれば肯定が返って来た。何と言う偶然か。

「君の名前は?」

「なま、え」

 返答は無い。代わりに左腕が動き、上着のポケットに手を伸ばした。名乗り代わりになるものが入っているのか。動きの遅い少女の代わりにポケットに手を入れると、硬い何かが指に当たった。取り出して見ると、それは十一年前まで使用されていた、大陸連邦高官の親族や家族に渡される身分証明証代わりの金属板だった。

 金属板に彫られている名前を見て、思わず息を呑み、手が震えた。

 彫られていた名前は――ステラ・オルグレン。

「まさか、君は……」

 少女に視線を戻すと、再び意識を失っていた。呼びかけるが反応は無い。担架はまだ来ない。遅すぎると内心で悪態を吐き、少女を再び抱えて立ち上がった時、ガラガラと音が聞こえて来た。音源を見れば、常任の医療担当の数名が車輪付き担架を押し駆け足でやって来た。

 一応、格納庫にも担架は常設されている。組み立て式で車輪は付いていないが、急を要する際には格納庫で担架を組み立てて医務室に運ぶものだ。サッと周囲を見れば、誰もが予想外の緊急事態に立ったままこちらを見ている。担架が壁面格納されている箇所を見れば、開けた痕跡すら見受けられない。正規搭乗員に『緊急時の対応はどうなっている』と是非とも尋ねたい。

 実を言うと、私は臨時の手伝いついでに『指導役の評価を付ける』仕事も密かに請け負っている。指導役も緊急時には『相応の対応が出来てくれないと困る』と言う理由から行われる抜き打ち試験のようなものだ。非常に嫌われる仕事でも在る。

 この部隊については、及第点に届くか否かの状態だ。不測の事態が発生しても確りと対応出来ればギリギリ問題は無いと思っていたが、これは再指導だな。

 ……今更だが、この手で保護出来て良かった。他の部隊ではどうなっていた事か。

 追加報告内容を思考の隅に追いやり、少女を抱えたまま彼らに駆け寄る。担架に少女を横たえると、医療班は素早い対応をして格納庫から去った。

 医療班の対応に問題は無く、内心安堵した。

 運ばれて行く少女を見送くらず、格納庫の出入り口近くの音声通信機の一つに近づいて受話器を取り、まだ艦橋にいる筈の艦長に連絡を入れる。負傷状態が酷い事から医務室に運び込んだ事、事情聴取は治療が終わるまで出来ない事を報告する。事情聴取や諸々の報告は私がやると言えば、心底面倒そうな相槌しか打っていなかった艦長が喜んだのが声音で分かった。

 画面に互いの顔が表示される通信ではなくて本当に良かったと感じた。決断力も求心力の無く、怠け精神と事なかれ主義がチラつく艦長が目の前にいなくて良かった。面と向かっての報告だったら、艦長としての自覚が無いのかと一睨みしていたところだ。

 受話器を戻し、整備兵指導役の代表に古式機動殻の扱いについて説明を行う。

 古式機動殻が戦闘で損傷しても自動で修復されてしまう。微調整や日々の整備なども自動で行われてしまう。

 故に、整備兵からは『整備士泣かせ』とも呼ばれる。手間が掛からないありがたみと、分解による研究も出来ない悔しさの二重の意味が込められている。

「は~、完全に自動で行われるのか。整備士泣かせにも程が有るが、扱いが全く分からねえから別の意味でありがてぇな」

 代表は一頻り感心すると、操縦士の為に出来る事は無いのかと尋ねて来た。

「出来る事と言えば、操縦士がかなり血まみれでしたので、操縦室内と座席の血液の洗浄程度ですね」

「洗浄だけで良いのか? 分かった。やっとくぜ」

「ええ。お願いします」

 軽く頭を下げてから自室へ足早に戻る。途中、すれ違った搭乗員達が私の格好を見てギョッとした。少女を抱えた時に付着した血が、私の軍服にべっとりと付着しているので、見方によっては私が血塗れに見えるのだろう。一々説明する気は無いので全て無視した。

 戻った自室の扉に鍵を掛け、血が付いていた手を洗い、荷物から私物の読み取り機を引っ張り出す。少女から預かった金属板を読み取り機に掛け、読み取りが完了するまでの間に手早く着替え、血が付着した軍服を洗浄機に放り込んでから読み取り機を確認する。

「っ、……本物、か」

 読み取り機が表示した情報を見る。結果、金属板は本物で、読み取り機が表示した家族構成情報は私が知るものと一致する。

「生きて、いたんだな」

 十一年前の大戦で行方知れずとなり、叔父に当たる親族の御仁がどれ程探しても見つからず、三年が経過した頃から既に死んでいると言われた、行方知れずだった少女――ステラが見つかった。数多の奇蹟が積み上がって生まれて来たとしか言いようのない少女。

 私物の電子端末を起動させ、電子報告書を作成する。

 保護した経緯と現在の状況をまとめていて、ふと、軍医の診断書を添付して置いた方が良さそうな気がして来た。否、必須だな。

 艦内用の通信機を起動させ、医務室と連絡を取る。直接出向いても良かったが、急患が担ぎ込まれた医務室は慌ただしい。部外者が訪れては邪魔だろう。通信を入れても迷惑がられると思ったが、報告書に添付する診断書が欲しいと告げると、医療班代表は快く承諾してくれた。

 病人服に着替えさせた際に、身に着けていたものにも血が付着していたので洗浄すると向こうから言ってくれたのでありがたくお願いした。洗浄後の私物類は私が管理すれば良いので艦から降りる前に取りに行く約束もする。

 医療班との通信を終え、報告書を纏めていると、診断書が電子伝文と共に届いた。受け取りと感謝の返信を送り、診断書に一度目を通し、報告書の作成を終えて、見直してから送信。

 送った相手がいる場所とこの地の時差を考える。彼方は丁度昼頃だ。返信が直ぐにでも来そうだなと、独り言ちる。

 軍医の診断書を改めて見る。

 肋骨の骨折に、内臓の負傷。全身の筋肉、骨、神経、血管にも大小問わず損傷が見られる。脳の過負荷による血涙に、不整脈も発症している。

 素人目にも重傷としか言えないが、現代の医療技術はそれなりに進んでいるので、集中治療を受ければ十日以内には治るだろう。一抹の不安は、旧式戦艦の医療設備である事か。基地の医務室で継続治療を受ける事になる。帰還前に基地にも連絡を入れておくべきか。

 などと考えていると、電子音が鳴った。

「誰だ? っ!?」

 通信相手の名前を確認し、驚きの余り硬直しかけた。待たせてはいけないと言う意思で硬直を阻止して通信に出る。通信画面に相手の顔が表示された。

『久しぶりだね、カーティス』

「お久しぶりです。オースティン閣下」

 着席したままだが、敬礼をして挨拶をする。

 通信相手は、鋼騎剣団統帥のオースティン・クロウリー閣下御本人だった。撫で付けられた栗色の短髪に乱れは無く、灰色の瞳はどこか楽しげに細められている。

『報告書を読んだ。確認したい事が出来たから、あとで戦闘の映像記録も送ってくれ。……運命か偶然か分からないが、通りすがり部隊に君がいてくれて助かったよ』

 他の部隊だったらどうなっていた事かと、肩を竦めている。ステラを保護したあとになってだが、私も一度は思った事なので何とも言えない。

『ステラ・オルグレン。彼女の扱いは『上層部のとある人物が探してた姪』と言う事にする』

「……事実を暈して公表すると言う事ですか?」

 意外な選択に思わず尋ねた。本来ならばすべきでは無いと分かっているのだが、ステラを取り巻く状況を考えると、こればかりは確認せねばならない。

 ステラの最後の親族はこの御方だけなのだから。

『そうだよ。非常に残念な事に我が鋼騎剣団も一枚岩ではない。解かる人間にのみに解かればいい。それに最近の大陸連邦の動きがきな臭い。ここ一年に至っては反大陸連邦過激派組織の振りをして、孤児院を襲撃するなどと、形振り構わない行動を取っている。ここは暈すのが最適だ』

「分かりました」

 笑顔の閣下から齎された予想外の情報に眉を顰める。どこの勢力とも無関係そうな孤児院を襲撃するとは、大陸連邦が何を考えているのか分からない。

『それから、彼女が自力で歩けるまでに回復したら、スーフォールズ基地に古式機動殻と共に君も移動してくれ。君には教導隊からの転属の辞令を出す』

 聞き捨てならない言葉に内心で首を傾げた。

 荒野のど真ん中に在るツーソンズ基地と違い、スーフォールズは孤島を丸ごと基地にし改造した、非常に大きな基地だ。不定期的に大規模演習などが行われる基地でも在り、整備兵以外にも新型機の開発班がいる。

 古式人型機動殻の戦闘記録を取るのであれば、確かにこの基地に移動した方が良いのは解る。

 けれども、私まで移動する意味が分からない。思い切って訊ねた。

「……閣下。私もスーフォールズ基地へ移動するのですか?」

『ああ。現状ステラを預けられるのは君しかいないからね。当面の間は君に預ける。あの部隊は別任務中で今動けないんだ』

「わ、私が保護するのですかっ!?」

 予想外の回答に、思わず声が上擦った。

 何の罰ですか、私は何かやらかしましたか? と声高に言いたい!

『ん? 教導隊の仕事も一区切りが着いて、丁度手が空くだろう』

「た、確かにそうですが」

 報告していない筈の日程が把握されていた。思わず背中に冷や汗を掻く。確かにステラの治療が終わるまでの日数を考えると、引継ぎも余裕をもって出来る。

『宜しく頼むよ、カーティス』

 釘を刺すような言葉を残し、良い笑顔を浮かべた閣下との通信は途絶えた。

「……閣下。何の嫌がらせですか」

 頭を抱えて呻く。

 確かにステラの家族構成や上層部のとある人物が誰かは知っている。保護と言っても、暫くの間面倒を見るだけだ。

 けれども、真実を知る身としては非常に重い内容の任務に等しい。

 正直に言うとやりたくない。やりたくないのだが……ステラの叔父本人である閣下からの直々の命令だ。

 こう言う強引なところは、ステラの母で閣下の姉君と似ている。

 降って湧いた思わぬ特別任務に、私は暫くの間頭を抱えた。

 

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