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僕は滅亡を望んでいたのかもしれない

女神 

作者: 杉孝子

いつもお読み下さりありがとうございます。

今回は趣向を変えて書いてみました。


 風が砂を巻き上げ私に降りかかったが、それを払うことさえ出来なかった。固く目を閉じ、屈みこむことしか出来なかった。疲れていた。食べるものも、飲み水も無くなり、それでも私は進み続けた。この砂漠を越えるのは死ぬことよりも辛いことだと知りながら。


 肉体が、私の体の細胞が死ぬことを許してくれない以上、前に進むしかなかった。いつになったら越えられるのかなどと考えていたのは、ずいぶん前だったような気がする。


 使い物にならなくなった足を、それでも動かして前へ行くことしか出来なかった。


 風が止んだと思った時、私は目を疑った。もしかしたら、死んでしまったのかとも思ったが、相変わらず、傷み続ける体は現実そのものだった。


 人だった。砂の丘に立つ姿が見えた。白いロープのような服装で、こちらを向いていたその姿に、天空からの光が宝石のように降り注いでいた。白く透き通るようなロープから、同じような色の手が、ゆっくりと私に向けられた。


 私は、彼女の近くに行くために、あらん限りの力を前進することに費やした。


 彼女は、黒い瞳を私に注いでいたが、それは、悲しみ、哀れみ、憎しみ、怒り、怖れなどと無縁の輝きだった。私は、その瞳を見た時、彼女が誰だかが解った。


 私が、口を開きかけた時、彼女は小さく頷いた。そして、薄紅色の小さな唇から、記憶にある声が聞こえた。


『そうです。ヘーパイストス』


 私は、涙を流していた。膝から力が抜けていき、私はその場に跪いた。彼女は裸足で焼けた砂の上を歩き、私の前に来ると、手を取った。命の暖かさが私に流れ込んできた。涙に濡れた目で彼女を見る私に、優しく微笑んで言った。


 言葉として聞こえたわけではなかったが、彼女の言葉が理解できた。


『さあ、立ちなさい。そして、この砂漠を乗り越えなさい』


 私は、彼女の言う通りに立ち上がった。体の痛みも、飢えさえもが無くなっていた。


「アフロディーテー」私は、彼女の名前を呟いた。


『いつでも見守っています。これを乗り越えた先にも困難はあるでしょう。でも、あなたなら乗り越えられる』


 彼女は、もう一度微笑み、先に行くように言った。


 私は、暫くして振り返ったが、そこにあるのは、ただ、砂の海だった。


お読み下さりありがとうございました。

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