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ピーラーでヒーラーやってます。  作者: BPUG
第五章 シーラは再会する。

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5-9. 一旦ここまで

新年あけましておめでとうございます。

今年もゆっくり更新していきます。



 色々な新情報満載過ぎてぐったりしたシーラ。

 おっかあが柔らかな手つきで頭を撫でてくれる。

 今だけ、ちょっとだけ甘えた娘に戻ってもいいだろうか。

 とその時、入り口から良く知った声が聞こえた。


「ご休憩中のところ失礼いたします。こちらにユーリカ隊所属の浄化士シーラはおりますでしょうか?」


 ユーリカ隊長だ。

 こんなところを見られてはまずいと、シーラが慌てて立ち上がろうとするのをおっとんが手で制した。


「シーラ隊員はここにいる。入り給え」


 なんか、おっとんが偉い人みたいだ。

 あのほんわか・のほほん・ぽやぽや・おっとんが……。

 そうシーラが驚いている間にテントの入り口が開き、ユーリカがテントの中に一歩足を入れる。

 そして聖女クウィーヴァの隣に座るシーラを見て、ぎょっとした顔になった。

 だが口を開く前に今度は兜を外したままのクリフと視線が合い、目を見開いた。

 なんだかとても忙しそう。そんな他人事な感想を浮かべる。


「あ、え、あー、ユーリカ、失礼いたします」


 大雑把なユーリカではあるが、さすがに偉い人の前ではシャキッとしている。

 偉い人……聖女と、筆頭騎士と、隊長。

 あれ? もしかして、シーラが一番の下っ端?

 もぞりと体を動かし、シーラはいまさらながらにピンッと背筋を立てる。

 だがおっかあが不思議そうに首を傾げてシーラの名を呼んだ。


「シーラ?」

「さすがに隊長の前だから」

「あら、気にしなくていいのに。ねえ、気にしないわよね、ユーリカ」

「え、ええ……」

「ほら」


 いや、聖女にそんなこと言われたら肯定するしかないじゃないか。

 ユーリカが可哀そうだ。

 シーラは田舎育ちだから、色々一般常識がずれている自覚はある。

 さらに子供の頃の記憶があいまいなせいか、微妙に年齢よりも精神的に幼い面があることも分かっている。ガキっぽい言動が出てしまうのは、ちょっとだけ成長の足踏みをしてしまったから。

 それでも今この場で断言する。


 ――あたしは、おっとんとおっかあと比べたら、だいぶマトモだ。


 そしてそんな二人と常に行動しなくてはいけないクリフに心から同情する。

 彼も色々背負っていて大変だろうに、不憫だ。

 シーラが同情ましましヒタヒタびちゃびちゃぶっかけた視線をクリフに送ると、

 彼はまつ毛を伏せて少しだけ口元を緩めた。

 もしかして、笑った? 

 笑う……厳密に言えば、微笑みがかすかに浮かんだ程度だけれど。

 クリフが、笑った。さっきも声に出して笑ったのを聞いたけど、あの時は兜をつけていたし。

 だから、笑った顔を見たのは、初めてで。

 うん、可愛い。何だろう、動く鎧にちゃんと命がある感じだ。

 シーラがじっと見ていると、クリフの眉が困ったように寄せられた。

 そして口が動く。声は聞こえない。唇だけがゆっくりと言葉を伝える。

 何だろうとさらにクリフの口元に注目する。


「……た、い、ちょ?」


 体調がどうしたのだろう。

 脳みそは美味しく茹でられた状態だけれど、体は元気な気がする。

 とりあえず元気だと分かってもらえればいいかな。

 シーラは両手を握ってむんっと元気ですアピールをする。

 だがクリフの反応は思ったものとは違った。

 目と口が同時にほんの少しだけ広がる。あれは、驚き?

 なんでだろう。シーラが元気だとだめなのだろうか。


「……コホン」


 シーラが首を傾げたところで、低い咳払いが聞こえた。

 傾げた首を反対側に向ければそこにはおっとん……と、ユーリカ。

 ユーリカ、隊長。たいちょう。たいちょ……おおおお、おお、おおおお、なる、ほど。


「シーラ、そっっっっっっっんなっっっっっっっに、クリストフが気になるのか? ん?」

「あー、いえ。そんなわけでは。はい」


 おっとん、その笑顔は不気味だからやめてくれないかな。

 へらりと笑う。


「それで、ユーリカ隊長はシーラに用事でもあったの?」


 おっかあがあたしの頭を撫でながら尋ねると、ユーリカはどこを見るべきかと視線をさ迷わせて遠慮がちに答えた。


「シーラ隊員が食事の手伝いに行ったまま戻ってこないという話を聞きまして、探していました。用は特にないのですが、食事がもうしばらくしたら始まりますので」

「ああ、もうそんな時間なのね」


 おっかあが体を起こすのに合わせ、おっとんも片膝立ちになっておっかあの手を取る。甘い、甘い。

 シーラもミューをポフポフと撫でてからよっこいせと立ち上がる。

 カションカションという音に顔を上げれば、クリフが鉄仮面……ちがった、兜をかぶりなおしているところだった。

 ちょっと残念。

 カオドキがミューの背に乗ってくつろぐ気満々だ。さっきまでニンジンパーティーをぶち上げていたからお腹もいっぱいなんだろう。

 ……精霊って食べる必要がないんだよね。

 シーラに似たと言われたらぐうの音も出ないけど、ちょっと怠惰が過ぎるのでは?

 食べて寝て幸せすぎるんじゃない?


「……羨ましい」


 はあっとため息を吐く。

 それを側にいたおっかあが耳ざとくひろった。


「あら、シーラ、寂しいの? お母さんたちと一緒に食べる?」

「んー、注目されそうだからやだ。それにスープの効果も見たいし」

「あ! そうね! 今日はシーラの手作りスープなのよね!」

「楽しみだね。僕もシーラの料理は久しぶりだ」

「……あたしは皮を剥いただけだし」


 そんなに両手を叩いて期待されても困る。

 野菜を刻むことすらしていない。ピーラーでシャーっと皮を剥いただけなのだ。

 それに、喜んでいるところに申し訳ないが、そんなに楽しい時間にはならないだろう。

 シーラの浄化済みニンジンの効果がついたスープ。

 それを食べた時の効果を考え、シーラは眉を情けなく下げた。





 そしてその後、シーラの想像は嬉しくないことに見事にあたり、いつかの再現のようにスープを飲んだ直後、このルヴァリーの地に激しい嘔吐の音が長く続いた。


「シーラ、力は抑えたはずだよな?」


 ボサボサと髪の毛をかき回してユーリカは疲れた声を出す。

 シーラが悪いんじゃないので、ここは素直に答える。


「うん。あと、だいぶ薄くするって聞いてた」

「ってことは、滞在中に溜まった瘴気が濃かったんだろうな。明日からも浄化が必要だ。頼んだぞ、シーラ」

「はーい」


 元気よく答えるシーラの横で、後ろ足立ちになったミューが誇らしげに髭をこする。完璧なドヤ顔。


 その日からシーラは一部の騎士から浄化士ではなく「嘔吐士」とひそかに呼ばれるようになったとか。

 その事実が本人の耳に入るのは、旅が終わって教会に戻った後のことだった。



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