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ピーラーでヒーラーやってます。  作者: BPUG
第四章 シーラは浄化の旅に出る。

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4−3. 浄化促進、食欲減退

お食事中でしたら申し訳ない。



 激しく咳き込み始めた男性。

 そばにいた使用人が慌てて彼の手から皿を受け取り、彼の背中をさする。

 何度も咳が繰り返され、ついに彼の口から黒いものが吐き出された。


 ――ゴボッ、ベチャッ、ジュワッ!


 地面に落ちた瞬間に消えた瘴気。

 視線がそこに集中する。

 何もなくなったはずの場所に、浄化士でなくとも見えた瘴気の塊を探す。


「そうか。分かった。ありがとう。協力に感謝する」

「は、はい」


 小さく礼をし、男性は安堵のためか胸元をこすってその場から離れようとした。

 そんな彼をユーリカが呼び止める。


「ああ、すまないが、最後に浄化士の浄化を受けたのはいつだ?」

「二年前になります」

「そうか。そっちの彼女。あなたは?」

「五年前です」


 おどおどと肩をすくめて女性が答える。

 ユーリカの眉が上がった。

 キャンディスとネストルも小さく「五年前?」とつぶやいたのがシーラの耳に届いた。


「あ、あの、前に村に浄化士様が回ってきてくださった時、息子が熱を出していて……」

「そういう場合には教会に赴いて浄化を受けるはずだが?」

「そ、その、個別で受けるとお金がかかってしまい……」

「ああ、なるほど。分かった。今度からは気を付けるように」

「はい。申し訳ありません」


 頭を下げる女性。

 通常、村に浄化士が訪れる場合、その費用は村が一括で払う。

 しかし巡業以外で個人が浄化を受ける場合、教会に赴いて自分で費用を捻出しなければならない。

 女性は教会で働いていて毎日教会に来ていたにも関わらず、お金を出し渋ったのだ。


 体に異変が出始めていても瘴気のせいだとは考えなかったのだろうか。

 状態が悪化して体や精神が蝕まれるまで放置しようとしていたのだろうか。

 お金は大事だが、自分の健康のほうが大事ではないのだろうか。


 悶々と考えるシーラ。

 その時、ユーリカが護衛リーダーを呼んだ。

 そして思わぬ指示を出す。


「全員を浄化を受けた順番に並ばせろ。期間が長い者を前に、新しい者は後ろだ」

「はっ!」


 すぐに全員の聞き取り調査が始まる。

 夕食の前に始まった大ごとに、シーラのお腹は空腹も相まって奥底がぐるぐるしだす。


「浄化を受けると咳き込む。そばにいる者は付き添ってやれ。各自、浄化が終わったら持ち場に戻るように」

「はっ!」


 慌ただしく動く状況にシーラは目までグルグルしだした。


 そこにユーリカがガリガリと髪の毛を掻きながら戻ってくる。

 整えてあったはずの髪がぼさぼさだ。


「あー、シーラ」

「はいいぃぃぃぃ」


 名前を呼ばれ、シーラはびしっと姿勢を正す。


「頑張ったな」

「へ?」

「お手柄だ」

「へい?」


 シーラの口から素っ頓狂な音が出る。

 ネストルがぷくっと笑うのが聞こえた。おのれ、残念ネストルめ。

 残ネスト呼ぶぞ。スペシャリストみたいで格好よかろう。残念を極めし男、残ネスト! ふはははは。……ふぅ。

 思考がさまよい続けるシーラの頭をグシャグシャと撫でかき回し、ユーリカが口の端をにやりと曲げる。


「あんたのピーラーのカは、中から人を浄化する。心具が表面しか癒せないだって? 馬鹿だな。こんなにもあっという間に大人数を浄化する。見事だ、シーラ。立派な浄化士だ」

「立派?」

「ああ、そうだ。シーラは立派な浄化士だ」

「ふへへ。へへっ、そっか、そっかぁ」


 シーラの両目からポロリと雫が流れた。

 心の奥底が温かい。沸き上がる喜びに、顔が崩れる。

 真っ赤な顔でへらへらと笑ったまま、涙を流す。

 自分でもおかしいと分かっている。それでも止められない。

 止めたらいけない気がして、シーラーは腰に下げたピーラーに手を伸ばす。

 カチャリとかすかな音を立てたピーラーを胸元に引き寄せ、ぐっと握りこんだ。

 はめた手袋とピーラーがこすれてククッとわずかな抵抗を感じる。

 笑いながら涙を流して細かく震えるシーラに同調するように、ピーラーがチリチリと涼やかな音を鳴らした。


「ありがとう、ございます」


 ズズズっと勢いよく鼻をすすって、シーラは顔を上げる。

 ユーリカと、そしてキャンディスとネストルが柔らかな笑みを浮かべてシーラを見ていた。


「こちらこそ。明日、シーラの力を巡業にどう生かせるか話あおう。今日は一旦食事を取って終わりだ」

「はい。また、明日! 頑張ります!」


 ユーリカの言葉に、鼻息荒く気合を入れるシーラ。

 ピーラーの力で浄化ができる。たくさんの人を癒すというシーラの夢が一気に現実に近づいた。

 濡れた頬をグイっと拭ってシーラは満面の笑みを浮かべた。



 さて、話は美しくまとまった。だが取り巻く状況は決して美しくない。


「ぐええっほ、げっほ」


 ――ビチャ、ジュワ!


「ごほっ、ごほっ、ごぼぉ!」


 ――ペチョ、シュワ! 


「げっほ、ごほっ、げえええ!」


 ――バシャ、ジュワワワァ! 


 野営広場に響き渡る激しい咳と嘔吐音。

 スープによって浄化が終わった者は順番に食事をとるはずが、なかなか終わらないその音に大半の者が食欲を失ってしまう。


 結局、大半の食糧は翌日の朝食に回されることになったのだった。






 シーラが皮むきした野菜に浄化効果があるということが分かりちょっとした騒動は起きたものの、一行の旅路は順調に進む。

 途中の町や村で浄化士へ貢物として渡された品々は、食材であれば旅の途中で消費し、金品であれば護衛が警護する荷馬車へと集められる。

 そう、食材は、道中の大事な食糧となるのだ。


「シーラが村でスープなどをふるまおうとすると、貢物を使うか、村人からさらに食材を出させるかになるな」

「どっちもまずい感じに聞こえる」

「そうだな。村から多く徴収するのは良くないだろう」

「だよねぇ」


 ユーリカの冷静な返しに、シーラは肩を落とす。

 スープに浄化の効果があるのは良いが、途中途中の村でふるまうには各方面に迷惑が掛かってしまう。


「本格的にふるまうのは次回以降ね」


 カミツキガメの親精霊かっちゃんと遊んできたキャンディスが、濡れた髪の毛を絞りながら言う。

 いつもふわりとした金色の巻き毛が頬や首筋に張り付いてなまめかしい。

 護衛がぼうっと見つめているのも分かる。

 だが直後、その護衛のむこうずねに子精霊のカメ、めーちゃんの前足がビシッと当たって男性は悶絶し始めた。

 ネイソフの馬精霊カミスキほどではないが、キャンディスの精霊たちも嫉妬深い。

 周囲に噛みつく姿はその元となった生物カミツキガメそのものだ。

 ユーリカは手元のタオルをキャンディスに投げ渡して話に戻る。


「とは言っても、今回の旅である程度の成果を見せなければ、教会に戻ってからシーラが厨房に出入りするのは難しくなる」

「あー、それは嫌かも」


 確かに、理由がなければ今後も継続して料理に手を出すことはできない。

 シーラは目に力を入れ、もごもごと口を動かす。広がった鼻の頭に、キャンディスの細い指がちょんっと触れた。


「ちょっと放っておけない顔になってたわよ」

「集中すると癖で、つい」

「浄化中はやらないようにね。皆さん、びっくりしちゃう」

「浄化士の威厳もなくなるな」

「それは、うん。気を付ける、ます」


 ぽりぽりと鼻先を掻いて素直にうなずく。

 確かに浄化で近づいてきた浄化士が変顔をしていたら何事だと思われるだろう。

 今後はもう少し気を付けるようにしよう。たぶん、ちょっと意識すれば治るはずだと思いたい。


「ネストルは? 何か良い案はないの?」


 カミスキにもたれて休んでいるネストルにキャンディスが声をかける。

 馬に寄りそう見目の良い男。

 中身を知らなければ、おっとんにスケッチして欲しいくらい美しい情景。

 残念ながら、精霊も人も残念なので、残念でしかない。残念を描写するとしたらあの浄化士と精霊のペアのことを言う。辞書に定義を追加して欲しい。


「……薄める?」

「ほう、スープをか?」

「強すぎだから」

「なるほどな」


 ネストルの短い言葉の意味を理解し、ユーリカがニヤリと口の端を上げる。

 シーラはさっぱり理解できずに目を忙しなく瞬かせる。

 もっと万人に分かるように発言をしてほしい。だから残念だと言われるのだ。シーラに。


「キャンちゃん、分かる?」


 通訳を求めて、キャンディスの意見を求める。

 キャンディスはユーリカの手からデザートの果物を食べさせてもらいながら、フンっと鼻息だけで頷いた。なんとも艶めかしい。


「健康な人だったら大丈夫だけど、お年寄りがあんなに激しく咳き込んだら背骨とかあばら骨をぽきっとやっちゃいそうだなって思ったわ」

「あー、なるほど。田舎のじっちゃんもくしゃみして骨折っとった」


 シーラは納得してぽんっと手を打つ。

 なんと、ネストルにしてはまともな提案だ。

 

「なるべく使う野菜を少なく、細かくするか」 

「そうね。スープは鍋一杯分くらいにとどめて、浄化士からのお恵みって感じにして置いたらどうかしら」

「シーラ自身の浄化力も伸ばさないといけないし、それが妥当か」


 柑橘系の果物をひと房キャンディスの口の中に押し込み、ユーリカは頷く。

 視線を向けられ、シーラは了解したと頷く。

 こんな騒動を起こしても、次の解決策を考えてくれる仲間がいる。

 皮むきする場がなかなかなかったのに、これからは堂々とピーラーを使える。


「隊長、キャンちゃん、ネストル、ありがとう。これからも頑張る」

「ま、ほどほどにな。あれ以上頑張られても困る」

「浄化院でも活躍するし、シーラは優秀よ」

「……そう。十分」


 口々に言われ、シーラはぷふっと噴き出す。

 新人のシーラに頑張らなくて良いと言ってくれる優しい人たち。

 だからこそもっと頑張りたいと思ってしまう。


「じゃ、あたしのペースで、頑張ります」


 頑張りすぎないで、頑張ろう。

 シーラは顔全体に笑顔を広げてそう宣言した。








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