4-1. 今こそ、出番!
お待たせしました。
第四章 「シーラは浄化の旅に出る。」開始です!
旅先でのシーラの成長を見ていただければと思います。
シーラが住む地方は大きくもなく小さくもない、中級らしい。
子供の頃は少しだけ大き目の町にいた。
十歳を迎えた後にそこから離れた農村に移って十年を過ごした。
教会がある町はそこそこ大きく、地方を収める領主が住む町の隣に位置している。
行政が集まる領都と教会がある町は、どの地方に行っても別れて存在している。
人が多く集まる領都は瘴気が発生しやすいから、教会が中にあった方がいいのではないかと思うがこれは逆らしい。
「教会には助けを求めて瘴気持ちの人が集まるけど、領都はそういう人が来ると門の中にいれない。過去にそうやって締め出された瘴気被害者が、門の外で一斉に瘴気堕ちした事件もあったらしいぞ」
「だから教会と領都はある程度近くにあるけど、微妙に離れているの。中枢都市が瘴気で無くなるのが避けたいのは分かるけど……自分たちの都合の良い時にだけ教会を利用している気がして嫌ね」
「ほー、なるほど」
休憩の合間合間に、通過する町や歴史、政治の話をユーリカとキャンディスから聞く。
ネストルは、機嫌の悪いカミスキをなだめるのに精いっぱいなので休憩中は近づかないようにしている。
顔中、髪の毛中、精霊のつばだらけになっているのだ。
残念臭を通り越して悪臭である。
ずっとカミスキに乗っていて、ユーリカとシーラが乗る馬車に一緒にいないことだけが幸いだ。
そっとシーラは馬車へと視線を向ける。
今回乗っているのは、シーラとシーラの精霊、ミューのために作られた特別仕様だ。
当たり前だが騎乗型ではない精霊の移動手段は、精霊自身で移動するか馬車に乗るしかない。
ミューの場合、一日自分で移動するのは難しいにもかかわらず、猪並みのでかさ。ほとんどがふかふかの毛で重さはそれほどないとはいえ、一緒の馬車に乗るには他のメンバーが窮屈になる。
だから特別な内装の馬車を作ってもらった。
通常ならばベンチシートが向かい合っている車内。
それをベンチを半分の長さにして、残りのスペースにミューが寝そべれる空間を作ったのだ。
そして肝心の子精霊たちの移動は――
「移動中でも走り回れるように、ベンチと床の間に隙間を開けて欲しい」
そんな要望を疑いもせずにかなえてくれた整備部隊の皆さんには感謝しかない。
いずれミューに乗れるように馬具を整えてくれるらしいが、その時には今回の分も乗っけて感謝したい。
おかげで出発前の晩には前もって全子精霊が馬車に乗り込むことができた。
今も時折馬車から出てきて遊んでいるが、周囲の人はカオドキと区別がつかないので全く気にしていないようだ
突貫での対策だったが、上手くいったのではないかとシーラは鼻を膨らませる。
さて、この旅の間に一つシーラは狙っていることがある。
それは――
「お食事の支度が整いました」
使用人の男性がおしゃべりをしていたユーリカたちの元に来て告げる。
旅の間の食事は、道中の宿で朝と夜にだけ取る。昼頃になると小休憩は取るがきちんとした食事ではなく、乾燥したクッキーくらいで済ますことが多い。
だがここ数日の区間は宿などない村が続くため、野営できる場所で調理した物を食べることになる。
つまりは、料理をする人が必要ということだ。
「ふっふっふ」
「ゴッフゴッフ」
「ヂヂヂ!」
「あれは企んでいる顔だな」
「何を考えているか丸わかりね」
「……怖い」
簡易テーブルに座り、シーラは今後の計画に口をニヤつかせる。
出された食事は素朴な茹で野菜や煮物。ちなみに入っている根菜はもれなく皮つきである。
「ここはあたしの出番じゃん」
普段と変わらない手の込んだ食事以外は嫌だ、と文句を言う浄化士や治癒士もいるらしいが、ユーリカ隊は気にしないから同行する兵士たちや使用人からは慕われている。
野営一日目の今日は作業の様子見をしたが、明日からは積極的に調理に加わらせてもらおうと画策するシーラであった。
チャンスは翌日すぐにやってきた。
陽が沈む前に野営地にたどり着き、さっそく寝床や食事の準備を始めた使用人たちを、シーラは扉の開いた馬車の陰にしゃがみこんでこっそり観察する。
「ふっふっふ」
「ゴッフゴッフ」
「ヂヂ!」
「何か始めたな」
「狙いは一目瞭然ね」
「……怖い」
座り込んだシーラの背にミューが顔を乗せ、ミューの頭や顔にはカオドキ四匹がしがみついている。
はたからみたら異様でしかないのだが、本人は全く気にしていない。
気づかなければ気にならないとも言う。
数メートル離れた場所に設置されたテーブルにつき、ユーリカとキャンディス、ネストルはシーラの様子を観察する。
元々シーラの精霊たちがピーラーで剥いた野菜の皮が好物なため、管理している畑の脇で農作物をピーラーで剥いている姿は良く見ている。
「迷惑かけちゃだめよ」
「あーい!」
キャンディスの言葉を背に、シーラは立ち上がる……前に、背中にのしかかるミューをどかす。
「んっしょおっと!」
「ゴッフゥ」
「ヂヂィ!」
コロンと転がったミューと、さらにその背からポトポト落ちるカオドキ。
シーラは両手を伸ばしてミューのモフモフのお腹をグシャグシャにかき回す。
「ふははははは! ここか、ここがええんか~!」
「ドゥッフフフフ」
「……変態か」
ひとしきりミューのお腹を堪能した後、シーラは立ち上がってトテトテと目的の場所へ向かう。
腰から下げたピーラーがカチャカチャとご機嫌な音を立てる。今日こそは自分の出番だと意気込んでいるようだ。
シーラは使用人たちが集まって夕飯の支度をしているところに近づき、そっと様子を観察しようとして、すぐに使用人の一人に気づかれた。察知能力が高すぎだ。
「浄化士様、何かご入用ですか?」
「あ、用じゃなくってね。心具を使いたくって」
「心具を? 浄化ですか?」
シーラよりか十歳ほど上に見える男性は眉をわずかに寄せる。
浄化士が心具を使うことは浄化が必要、つまり瘴気が出ているということ。
持ってきた食糧に瘴気が付いていたのかと内心焦る。
シーラは彼の懸念を感じて、ひらひらと手を左右に振って彼の考えを否定する。
「あ、瘴気はなくって、あたしの心具、ピーラーだから、お仕事させてあげたくって」
「ピーラー?」
「うん。これ」
左側に持ったピーラーを自慢げに掲げ、フンっと鼻息を飛ばしすシーラ。
男性はまじまじとピーラーを見て安心して胸を撫でおろす。
そして緊張の解けた顔に笑みを浮かべた。
「普段でしたら浄化士様にそのようなことはさせられませんが、心具のためとおっしゃるのであればぜひお願いします」
「やった! ありがとう!」
思ったよりもすんなりと交渉が成立し、シーラはニシシっと歯を見せて笑う。
男性は「こちらへどうぞ」とシーラを招き、食事の準備を始めようとした使用人たちに声をかけた。
彼が使用人たちに説明している間に、シーラは積まれた野菜を見て内心ほくそ笑む。
大量のジャガイモやニンジン。一部見たことのない野菜もある。ぜひピーラーで美人さんにしてあげたい。
「浄化士様」
「あ、はい!」
「あちらで作業ができるようですが、必要ならばお野菜をお持ちします。どうされますか?」
そう言われてシーラは調理班がいる場所へ目を向ける。
数人、どこか不安げな顔をしているのが見えて、シーラは緩く首を振った。
「あたしがいたら仕事しにくいだろうから、みんなのところに戻るね。籠一盛くらいのニンジンとジャガイモをもらえる?」
「承知しました。少々お待ちください」
一礼して踵を返す男性の背中を見送る。
本当は、シーラだってみんなと和気あいあいとお喋りしながら野菜の皮むきをしたい。
でも浄化士という立場にいる以上、使用人と気軽に話をすることはできないだろう。
旅を続けていくうちにいずれは打ち解けていくことができるかもしれない。
だから今は作業を手伝わせてもらえるだけで十分だ。
ふんっと息を吐き、シーラは先にユーリカたちの元へと戻った。
「どうだった?」
「ばっちり。お野菜を持ってきてくれるって」
「良かったわね」
「うん。ミューとカオドキたちも、皮食べられるよ」
「ドゥ」
「ヂ!」
ピーラーで剥いた野菜の皮は精霊たちが好む。
パタパタを尻尾を振って嬉しそうなミューたちにシーラは微笑んでそっと頭を撫でた。




