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ピーラーでヒーラーやってます。  作者: BPUG
第二章 シーラはヒーラーではない。

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29/62

2-15. ちょっと重い

本日で「第二章 シーラはヒーラーではない。」は完結となります。

途中、投稿ミスにより話が前後してしまい大変申し訳ありませんでした。

500話以上投稿をしてきたのに初めての失敗でした。反省しかない。

それでは、お楽しみください。



 二週間の研修が終わった。

 さあ、配属先で頑張るぞと意気込むシーラだったが、研修終了の報告をファリンにしたところで「明日はお休みです」と言われてぽかんとする。 

 そんなシーラの反応に見向きもせず、ファリンは手元の書類にいくつかの書き込みをしてそこに判を押す。

 眼鏡の奥の目がすっと柔らかく細められ、そして書類の向きをシーラに見えるように直して差し出した。


「これを」


 シーラはその紙を促されるままに両手で受け取り、そこに並ぶ文字を見る。


 ――任命書?


 顔を上げるとファリンは口元を緩めて告げた。


「そこに書いてある通り、明後日からあなたはユーリカ隊の浄化士として働くことになります。明日はゆっくり体を休めて、二日後からユーリカ隊の隊員です。あなたの働きを期待していますよ」

「ユーリカ隊?」


 慌ててシーラはもう一度用紙の内容を読む。

 確かにそこには「第二浄化部隊 ユーリカ隊の元――」と書かれている。

 つまり、シーラの所属は望んでいた通りユーリカのところなのだ。


「あ、ありがとうございます! 頑張ります!」

「はい。頑張ってください。初日は以前と同じように私が同行しますので、朝食後にここに来てください」

「はい、分かりました」


 がくがくと首を上下に激しく振るシーラに、ファリンは小さく頷き、それから徐にシーラに座るように促した。

 研修中、ほぼ毎日報告書を持ってここに来ていたが、今まで椅子を勧められたことはない。

 不思議に思いつつ、シーラはそこに腰を下ろす。ミューとカオドキもそろってシーラの横にちょこんっと座った。

 その瞬間、ファリンの目がとろんっと緩んだのをシーラは見逃さない。やはり、精霊大好きファリン女史。


「こほん。さて、ここからは一応の確認となります。先日起こった瘴気被害の浄化ですが、その後変化はありませんか?」

「変化、ですか?」

「はい」


 シーラがファリンの問いの意味を理解できないでいると、彼女は机の上で指先を緩く組み合わせて説明を始めた。


「まだ研修中の浄化士にあのような大規模な浄化の場に立ち会わせることはありません。その判断は指導員であるルクマンに任されましたが、彼としてもシーラさんには立ち合い程度で実際の浄化に携わせるつもりはなかったはずです」

「あ、はい。そうでした」


 あの時のルクマンとのやり取りを思い出しながらシーラは頷く。

 浄化のやり方や患者が暴れないように押さえるといった手伝い程度で、浄化まではするつもりはなかったはずだ。

 浄化をする判断を下したのは――隊長のアーゲルだ。


「アーゲル隊長にも聞き取りをしましたが、彼はシーラさんが患者の様子に怯えた様子がなかったから任せられると判断したと言っていました」


 アーゲル隊長にも状況の調査が言っていたとは知らず、シーラは戸惑いながら頷く。

 ファリンが言いたいことの核心が見えない。

 研修生であるシーラは浄化するべきではなかったのか。

 シーラに浄化をさせたアーゲルや、あの場に連れて行ったルクマンに何か迷惑がかかるのではないか。

 膝の上に置いた両手を握り合わせる。手袋がこすれてククっとわずかに抵抗を感じた。


「シーラさん、大丈夫ですか?」

「え?」


 知らないうちに下がっていた視線を上げて、シーラはファリンと目を合わせる。

 冷静な眼差しの奥に気遣うような温かみを感じてシーラは体の力を抜く。


「シーラさん自身、瘴気の被害者です。そんな身でありながら浄化士として教会に来てくださった以上、その心に感謝します。ですがもしあのような状況を見たせいで過去の苦しい記憶がよみがえって眠れないなどあったら私やアーゲル隊長、ユーリカ隊長にすぐ相談してください」


 ファリンの視線が僅かに下がり、長いまつげが影を落とす。


「新人の浄化士は初めての浄化の際に、患者の暴れ具合や悲惨な光景に尻ごみをして嘔吐したり泣き出したりしてしまう者もいます。シーラさんは冷静に対応されたようですが、もし少しでも気にかかることがあれば信頼する人を頼ってください。いいですね?」


 流れるように紡がれるファリンの心のこもった言葉。

 シーラを見つめる瞳にも、わずかに寄せられた眉根にも、結び合わされた指先にも、彼女の真心が現れている。

 無駄な心配だったと、シーラはほっと息を吐く。それからふにゃりと力の抜けた笑みを浮かべた。


「ご心配くださりありがとうございます。大丈夫です。でももし今後そのようなことがあれば、必ず誰かに相談します。ファリンさんを頼ることもあるかと思いますが、その時はよろしくお願いします」

「ええ、いつでも、いらっしゃい」

「はい!」


 キリっとした有能事務官の鑑のようなファリン。教会に来た日から研修中も常にシーラを気遣ってくれた。

 精霊大好きがところどころ滲み出ているが、人間にももちろん優しい人だ。

 クリフを除けば、最初に知った教会の人。

 これからは所属するユーリカと一番多く過ごすことになるだろう。

 でも隊とは違う位置にいるファリンだから話を聞いてもらいたいと思う日が来るかもしれない。

 彼女の存在に感謝し、シーラは任命書をしっかりと胸に抱き深くファリンに向かって頭を下げた。



 さて、アーゲルから美味しいクッキーをもらい、ファリンからは温かな言葉をもらった。

 さらに配属先も決定したとなれば、これはお手紙案件だ。

 シーラは部屋に戻り、机の上に置かれたクッキーの袋と任命書を見てにやにやと鼻の穴を膨らませて笑う。


「くふふ」

「グッフ?」

「ヂィ」


 ペンを握りしめた手を口元にあて、不気味な笑いをこぼすシーラにミューが首を傾げる。

 ぴょんぴょんとベッド上を走り回っていたカオドキもぴたりと止まって、シーラを見て鼻をひくつかせている。


「手紙をね、書くんだ」

「ヂィ!」


 シーラのセリフに、カーアとドーリが顔を寄せ合う。もうすでにキーとオーアが手紙を届けている。つまり次は自分たちのどちらかだと分かっているのだ。

 髭が触れるほど近くに顔を突き合わせて相談を始めた二匹を見てふふっと笑ってから、シーラは机に向き直る。


「んー、クッキーと、配属先と、頑張る、かな」


 ペンをすらすらと走らせ、シーラは足元でやる気満々で待ち構えていたドーリを両手で掬い上げる。


「今日はちょっと重いけど、大丈夫?」

「ヂィ!」


 頼もしいドーリの声。指先でカリカリとドーリの頭を撫でて、手紙としっかりと紙で包んだクッキーをドーリのリボンの間に挟む。

 ぼっこりとリボンが不格好に膨らんでしまったが問題は無いだろう。


「ちょっと動いてみて?」

「ヂ」


 ドーリは言われたとおりにテテテテっと机を走ってぴょんぴょんとジャンプをする。リボンがずれるようなこともなさそうだと、シーラは満足げに頷いた。


「食べ物が入ってるから、絶対に綺麗な場所を通ってね」

「ヂィ」

「気を付けて行ってらっしゃい」

「ヂヂィ!」


 高く鳴いてドーリが開けた窓から颯爽と飛び出していく。

 無事にクッキーが届くことを願ってシーラはその後姿を見送った。





 そしてドーリが慎重に時間をかけてなるべく綺麗なルートを選んでたどり着いた先、そこはクリストフのプライベート空間だった。

 トイレでもなく執務室でもなくシャワー室でもない。クリストフの正真正銘の個人部屋。

 明日と明後日の二日間はクリストフの休暇となっている。最近聖女の機嫌がよいおかげで護衛の輪番を回しやすくなった。

 原因を知っているクリストフとしては、最低二年はこの平穏が続きそうだと肩の力を抜いた。

 ゆったりと一人掛けのソファに体を預け、クリストフはサイドテーブルに置いたワインボトルに手を伸ばした。だがその指先がボトルに触れる直前で止まる。


「また、君たちか」

「ヂィ!」


 いつの間にかテーブルに上がっていた白ネズミが得意げに髭を揺らす。

 クリストフは厳ついと言われる顔をわずかに緩ませた。

 だがいつもより明らかに膨らんだリボンを見て目を細めた。


「見せなさい」

「ヂ」


 クリストフの声に緑色のリボンを付けたネズミが前に進み出る。ちょこんと腕に前足を乗せ、クリストフがリボンを取りやすいように頭を下げた。

 指先で頭を撫でてから慎重にリボンを外し中を開くと、紙の包みと丸く巻かれた手紙が出てくる。

 クリストフは、まずいつも通りに手紙を開いて中身を確かめる。



 ――クリフ様

 浄化をしました。ピーラーの成長が必要と言われました。

 アーゲルさんの奥さんのクッキー美味しいです。ファリンさん優しいです。

 二日後からはユーリカさんのところでがんばります。シーラ



 短い手紙に並んだ名前にクリストフは淡褐色の瞳をやわらげる。

 シーラの周りにいる人物は今のところ良識的な性格の人たちばかりだ。

 配属先も聖女の圧のおかげで無事まとも……()()、まともなところに決まった。あとは本人の頑張り次第だ。


「クッキーか」

「ヂ」


 何重もの包み紙を苦労して開けると二枚のクッキーが入っていた。

 子ネズミに運ばせるにはこれが限界だったのだろう。


「頑張ったな」

「ヂヂィ!」


 そっと指の腹でネズミの頭を撫でてねぎらい、一つ摘まんで舌にのせる。ほろりと崩れて溶けるほどに儚く甘い。


「さすが人気店の菓子」


 アーゲル隊長の嫁の実家は老舗の菓子店で、新作が出ると店の外にまで行列ができるほどの人気店だ。

 だが四六時中鎧を着て護衛をしている間は菓子店など行けない。

 鎧を脱いだとしても、クリストフの顔左半分に残る瘴気焼けのおかげで町に出ることは避けている。

 だから菓子だけでなく人気の店に足を運んだことなど一度もない。時折聖女の元に届けられる貢物を分けてもらうくらいだ。

 本や菓子など、興味を惹かれるものはあれど、町の散策などしたこともない。

 警備の都合上、都市の地形や路地の確認で回ることはある。

 その際に入ってみたい店はいくつも見つけたが、自由時間があっても結局行けずじまいだ。


「美味い」


 シーラは純粋に美味しいものを分けたいと思ったのだろう。心からの裏表のない行為。

 そんなささやかな贈り物を、クリストフは口元に笑みを浮かべてゆっくりと味わう。


 結局その日、クリストフはクッキーの味に満足し、用意したワインを飲むことはなかった。




 ――シーラ殿

 二週間の研修が無事終わったこと、そして浄化士としての初仕事を立派に務めたこと、素晴らしいと思う。

 心具の成長は焦ることなく時間をかけることだ。クッキーはとても美味しかった。ありがとう。クリフ



「クリフさん、甘いものが好きなのかな?」

「ヂィ?」


 戻ってきたドーリから手紙を受け取り、シーラは呟く。

 この手紙をきっかけに、シーラの中で「クリフは甘党」というちょっとした誤解にもならない思い込みが発生したのはいたし方のないことである。



 二日後、いつもより早くユーリカたちが食堂に姿を現した。

 泥だらけでも、沼のような臭いも、田舎の香水の香りもない、珍しく綺麗な状態で。


「今日からよろしくな、シーラ」

「よろしくね、シーラちゃん」

「っす、シーラ」

「ユーリカさん、キャンちゃん、ネストルさん、よろしくお願いします!」



 シーラの新たな慌ただしい日々が始まる。




読んでくださりありがとうございます。

明日は短編で、その後1週間ほど間が空きます。

前作(逃亡賢者)連載中、長期休暇は投稿をお休みにしていたのですが、今回はGWも連載したのでちょっとストックが品薄のためです。

ここで少し間を開けさせていただきます。


次章「第三章 シーラは浄化士である。」は5月17日より連載開始となります。

ヒーラー改め、浄化士となったシーラの新たな日々をつづっていきます。

少しばかりアクの強そうなユーリカ隊。それぞれの精霊の予想をしつつ、どうぞほんの少しだけお待ちくださいませ。


BPUG



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― 新着の感想 ―
[良い点] 作者様、しっかりお休みしてください。 特に、脳のお休みは大事。 甘くて美味しいもので、糖分補給してくださいね。 [気になる点] アーゲル隊長からもらったクッキー……の空き缶。 実家に居た…
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