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ピーラーでヒーラーやってます。  作者: BPUG
第二章 シーラはヒーラーではない。

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2-8. 先輩浄化士



 ざっくりとしたアーゲルの案内で、まず彼の隊が持っている場所の把握をする。

 育てている野菜などが季節によって異なるため、徐々に移動していたりもするのだとか。


「年に何回かは浄化で留守にするから、その間野菜の収穫は厨房か他の隊に任せるからな。シーラのところにも依頼が行くかもしれないから、場所を覚えておくのはいいぞ」

「はい」


 自分は浄化士で、野菜を育てに来たのではないのを危うく忘れそうになっていたシーラ。

 そうだ。隊が丸っと留守にすることもあるのだ。

 計画的な浄化であれば前もって作付けも調整できるが、緊急の要請ではそうも言っていられない。そんなことをアーゲルがぼやく。本業はどっちだと問いたくなる。


「あとは、そうだな。ユーリカんとこは全員中住(なかす)みだが、俺んとこは半々だから緊急があった時は少し面倒だ」

「なかすみ?」

「教会の中で暮らしてるやつのことだよ。シーラも二年は中だろ?」

「はい。アーゲルさんは外にお住まいですか?」

「ああ。じゃねえと婚期逃すだろ」

「え? 中じゃ無理なんです?」


 シーラの問いにアーゲルは麦わら帽子を取って、首に巻いたタオルで額や首筋を拭きながら答えた。


「無理ってこともねえけどよ。浄化士と対等に話をしてくれる教会勤めの使用人はいねえし。かと言って浄化士同士だと隊が違えば遠征とかで全く会わないし、隊が一緒だとそれはそれで面倒だろ」

「そんなものですか」

「男の浄化士は外では人気だな。金は持ってるし、任務でいない期間もあるし、瘴気からは守ってくれるし」

「女の人の場合はどうなんです?」


 別に、結婚に興味があるわけではない。決してないのだが、一般的な女性浄化士の需要を知りたくてシーラは尋ねる。

 アーゲルは麦わら帽子を戻して、首元にタオルを押し込んで前を進みながら話を続けた。


「教会の所属のままで、町の浄化士として務めることもあるぞ。嫁いだ先の町の専任浄化士になるんだ。そうすると教会も巡回の区域を減らせるから推奨している」

「どっちにしても浄化士は人気ってことですね」

「そういうこった」


 肩をすくめるアーゲル。需要があるのであれば、シーラが独身でもそれは相手がいないわけではないと言い張れるかもしれない。

 別に結婚願望が元々無いのだから、言い訳なんか必要ない。

 でも、万一何か聞かれても素直に答えることができるだろう。万一のための備えだ。よし、完璧。


 そんな雑談をしながら備品の場所なども教えてもらい、二人は一番最初に大勢が作業をしていた畑に戻ってきた。


「おっし、いい時間だ。朝と昼の間の休憩に丁度良い」


 アーゲルが時間を確認して頷く。

 その声が聞こえたのか、畑の中にいた人たちが腰を伸ばしては呻き声をあげてあぜ道に出てきた。


「あー、腰が痛え。豆の収穫は疲れる」

「おっちゃんは、精霊に座ってたじゃねえか。ずりいぞ」

「俺の精霊が手伝いたいって言うからよ」

「あー、お前ら、とっとと休憩始めな」


 アーゲルはパンパンと手を打ち、浄化士たちはその声に従ってあぜ道に思い思いに腰を下ろした。

 彼らの隣には一様に精霊たちがそろっている。そのうちの一匹が見たことのない動物で、シーラは首を傾げた。


「甲羅、ですか?」

「お、新人の嬢ちゃん。こいつはアルマジロっていう種類だと。亀なのかネズミなのかよくわかんねえ見た目してるけど、いい奴だ」


 ぽんぽんっと精霊の背中を撫でて、シーラより十歳ほど年上の気のよさそうな兄ちゃんが笑う。それからその笑みをぐにゃりと曲げた。


「触ってみたいかい?」

「あーっと、えっと、またそのうちに?」

「ぐははは! 誤魔化しは下手だが正解だ!」


 自分の膝を叩いて笑う兄ちゃん。シーラもとりあえず正解を出せたのだと力の抜けた笑みを浮かべた。


「シーラ、そいつは人をからかうのが生きがいだからあまり近づくなよ。んで、研修中一緒に作業するのがそっちの若い男だ。ルクマンっつって二年前に入った。今年で三年目。シーラの教育係になる」

「シーラです。よろしくお願いします」


 アーゲルに紹介されたルクマンという男性の前に立ち、シーラは頭を下げる。

 男性と言ったが、実際はシーラよりも年下に見える。おそらく十八くらいだろう。

 相手も研修生が年上だとは思っていなかったのか、若干居心地が悪そうだ。


「シーラは三年くらい前に瘴気堕ちに巻き込まれて療養していたんだと。手の力が弱いそうだから、鎌や鍬を持たせる時には注意するんだぞ」

「瘴気堕ちに……分かりました。気を付けます。ルクマンです。よろしく」

「はい! よろしくお願いします!」


 わずかに痛々し気に眉をしかめるルクマン。

 瘴気堕ちに巻き込まれて命を失ったり一生寝たきりになってしまったりする人もいる。

 軍手ではない、変わった形の手袋をはめたシーラの手を見てルクマンはしっかりと頷いた。


 休憩を終えた人たちが腰を叩きながらまた豆の収穫作業に戻っていく。

 その姿は農民そのもので、ここが教会の敷地内で彼らが浄化士ということは忘れてしまいそうだ。

 本当に、うっかりすっかりさっくり、すぐに忘れてしまう。


「私は浄化士、私は浄化士」


 シーラは何度か口の中で唱え、何のためにここにいるのかを刻み込む。

 そんなシーラの上からルクマンが声をかけた。


「もう少し早かったらイチゴもいっぱい採れたのに、残念だったね」

「イチゴ? 果物も育ててるんですか?」

「そう。夏頃には奥の山側の棚でブドウも収穫できる」

「うわぁ、いいですね。リンゴもあります?」

「もちろん。あ、でも他の隊でも育ててるから、間違って他の隊の木から収穫しないように気を付けて」

「──ルクマンはやっちまったからな!」

「うっせえぞ! おっさん!」


 畑の中からの声に、ルクマンががばっと振り返って叫ぶ。それからばつが悪そうな顔でシーラへと向き直った。

 どうやら指導する立場としてしっかりしていないといけないと思っているようだ。

 しかし、どうすべきか。

 シーラはすっと視線を離れた場所にいるアーゲルに向ける。

 麦わら帽子が影を作っていてよく見えないが、自分の作業をしつつもこちらに意識を向けているのは間違いない。

 シーラは少し考え、姿勢を正してルクマンと目を合わせる。

 彼の頬や鼻に散ったそばかすが、ここでの浄化士としての働きの現れだと感じた。


「出来の悪い妹でいいです」

「え?」


 突然のシーラの発言にルクマンがきょとんとした顔をする。

 シーラはこれ以上ない真面目な表情で、彼に分かるように告げた。


「私は昨日まで自分が浄化士ではなく治癒士だと思っていました。やってたことは浄化士そのものですけど、違いに気づいてもいませんでした。だから、年齢は考えないで、何も知らない出来の悪い妹みたいに扱ってもらって構いません」


 ルクマンは迷うように視線をシーラから外す。だがすぐにキュッと唇を結び、不格好な笑みを浮かべた。


「浄化士と治癒士の違いも知らないって、バッカじゃねーの?」


 ふんっと鼻を鳴らすように上ずった声で言い放ち、それから伺うようにシーラをちらりと見る。

 これで本当に良いのかと不安げな様子だ。

 普段から異性と喋る機会がないのかもしれない。

 まだまだ遠慮が勝ってしまっている。

 仕方がない。ここはお姉さんが練習台になってやろう。

 そんなはた迷惑な決意をしたシーラはルクマンを見て口を尖らせてみせた。


「んな事言わんといてください。こっちは瘴気焼けでヒーヒー言ってたんですー。あ、ルクマンさん、豆、豆の収穫やりたいです! 早く教えてください!」

「ちょ、待て! おい、こら! 教えてやっから、こっち来い!」


 アーゲルに対していた時よりは少しフランクに、だがユーリカと話す時よりも丁寧な口調でシーラはルクマンに答える。

 シーラの強引な振りに、ルクマンは慌ててシーラを豆が鈴なりに実っている畝の端へと連れていく。

 その後を追いかけながらシーラは体半分、後ろを振り返った。

 シーラの視線の先で、アーゲルが腕を組んで大きく笑いながら麦わら帽子の端をくいっと持ち上げた。

 シーラは腰のあたりで手を振って前に向き直る。その後をミューと四匹の子ネズミたちが一列になって続く。


 こうしてシーラの農業実習、違う、浄化士研修はのんびりとした空気の中始まったのだった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 今シーズンは終了する時期になりましたが、エンドウ豆の収穫って、手が豆臭くなる(笑)けど楽しいッスよ♪ ……法事で母の郷里に帰省した時、10mの畝(うね)5本に植えられてミッチリ実ったエン…
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