第一話 プロローグ
僕こと葦原 賢人は至って普通の人間だと自覚している。勉強、運動、性格、容姿、趣味嗜好、etc…特筆すべきことは何もない凡人だ。ただ少しだけ言わせてもらうとすれば、とあるゲームにドハマりしている。
『ダンジョン探索のすゝめ』というゲームである。読んで字の如くダンジョンへ潜り、敵とのバトルやトレジャーハントをメインとする極めてシンプルな古き良きゲームシステムだ。専門用語っぽくいうならば『ハクスラ』って言い方が近いと思う。
シンプルなゲーム性と操作なのに奥が深く、やってて非常に楽しくて全く飽きないので個人的には神ゲーであったのだが、世間からの評判は『そこそこの良ゲー』止まりであった。口惜しいことこの上ないが、趣味嗜好というのは千差万別であり、僕が口を出せる立場でないことは分かっていたため歯痒い思いは心のうちにしまい込んでいた。
…さて、前置きはここまでにして。突然僕の自分語りが始まり、混乱している人もいるかと思う。なぜ突然こんな話をしたかというと、今僕はとんでもない事態に巻き込まれているからである。
「…………『ダンジョン探索のすゝめ』のベースキャンプまんまの場所じゃん」
帰宅し、いつも通り『ダンジョン探索のすゝめ』をプレイすべく起動した瞬間。目を開けていられないほど強烈な光が放たれ、気がついた時にはここにいた。先の言葉は僕が周囲の状況を確認した上での第一声である。
目の前に広がるのは百平米ほどの殺風景な部屋に、その四隅に扉が一つずつ。前方最奥にはメカメカしさ満点の重厚なゲートがあり、その両隣にはわずかに見た目が異なる機械が一つずつ設置されていた。
そして僕の隣には、外れて欲しいと願った予想が的中し、(恐らく)僕の事故に巻き込まれてしまった哀れな被害者の姿があった。
「…ふぇ?ちょっ、待っ…えぇ…?ここどこ?私たち賢人くんの家でゲームをやろうとしてたよね??」
彼女の名前は東條 澪。僕みたいなthe・凡人とは違い、スクールカースト最上位に位置する殿上人である。アイドル顔負けの美貌に全国トップクラスの学力、運動部顔負けの身体能力に異常なまでのコミュ力強者、極めつけは誰に対しても優しく気さくな性格。誰がどう見ても正真正銘本物の第一軍のレギュラーメンバーだ。
僕のようなやつとは生涯接点はないはずなのだが、なんの因果かグループワークの時に同じ班となり、それを機に話が盛り上がった。彼女も僕と同じくゲームを趣味とする人間ということが判明し、どうせなら僕のオススメを一緒にプレイしよう、と言う話にいつの間にかなっており、断ることなどできるはずもなくそのまま…という経緯だ。
別に僕自身を特別な存在だと思うわけもないし、なんなら僕が巻き込まれた側だという可能性すらあるが、こんな事態になってしまった責任の一端があると思うと心苦しい。
「あー、その、東條さん?恐らくなんだけど、僕らはゲームの中の世界へと転移した可能性がある」
「物語じゃあるまいし…とは言い切れないよね……あんなよく分からない状況が最後の記憶じゃあ、否定できないよ」
「単なる夢か妄想って線もあるけど、それは置いておく。事実として、周囲の状況が僕たちが起動しようとしていた『ダンジョン探索のすゝめ』の状況と酷似しているってことは伝えておくね」
夢オチならば良いのだが、『ダンジョン探索のすゝめ』を模したデスゲーム的なサムシングなのだとしたらマジで笑えない。推測を確たるものにするべく、ゲーム内でできていたことを総当たりで検証していく。
その結果確度99%、現状確認し得る限りでは100%『ダンジョン探索のすゝめ』の世界であることが証明された。ベースキャンプにて出来たことしかやっていないと言うのもあり、今後も検証を進めていく必要がある。
「…なるほど、そのゲームに限りなく近い現実が今ってことなんだ。だとしたら、取るべき行動はどんなことだろう?」
「最終的な目標による。元の世界に帰りたいかそうでないか、帰るとして本当に帰ることができるのか、この世界に留まるとして何を目標にしていくか。僕としてはこの世界を楽しむ傍ら、元の世界へ帰る手段を探せばいいんじゃないかって思ってる。僕は天涯孤独も同然の身だし、何がなんでも帰りたいってわけじゃないしね。東條さんの意見を聞かせてほしい」
兄弟姉妹はいないし、両親や祖父母はとっくに他界。バイトをしながらなんとか食い繋いでいる有様だ。向こうに対する未練なぞほぼないし、こっちでのんべんだらりと過ごすのも悪くないとは思うのだ。ただ家族がいる東條さんにとっては違うだろうが。
「……ううん。私もあんまり向こうに帰りたいって意思はないかな。この世界を楽しみつつ、余裕があったらその方法を探す、だっけ?すっごくいい方針だと思う!それに全面的に賛成だよ!!」
…言葉だけ聞けば家に帰りたくないと駄々を捏ねているように聞こえなくもないが、彼女の雰囲気から察するに家族と問題を抱えているのだろう。そんなものは地雷以外の何物でもないので、突っついて起爆させたりはしないが。
「なるほど、わかった。それじゃあお互いに最終目標が決まったことだし、やるべきことを決めます!」
「わーい!!パチパチパチパチー!!それで、やるべきこととはズバリ何でしょうか?」
「それは…この四つです!!」
なんとなくそれっぽい雰囲気を出してみるとすぐさま乗っかってくれる東條さん。さてはノリがいいな?そんな考えを一旦横に置いて、四つの目標をデカデカと掲げる。
①自分たちを強化する
②ダンジョンの攻略を進める
③資金や資源を調達する
④ベースキャンプの施設をグレードアップする
「なるほど…先生、具体的な説明を求めます!」
「うむ、順番に説明していこう。まず①、『自分たちを強化する』。ほとんどのゲームで基礎の基礎として当てはまることだね。敵を倒してレベルを上げたり、装備やアイテムを充実させたり、スキルを取得・強化することでプレイヤーを強くしていく。ある意味一番分かりやすいかな」
「ドラクエ(ドラグーンクエストの略)やFF(ファイナル・ファンタジスタの略)なんかを筆頭にお馴染みの強化方法ですね!」
「そうだね、東條さん。次に②、『ダンジョンの攻略を進める』。詳細はまた後で話すけど、ゲームでの肝はダンジョンを攻略していくことだったんだ。より具体的に言うと、次の階層へのアクセスを可能にしたり、マップを完成させたりするよ。目的は言わずもがな、より価値の高い資源の回収を可能にしたり、敵の位置情報を把握したり、次回以降に効率的な資源回収をしやすくしたりするためだ」
「それが①や③へ直接的に関わってくるわけですね」
「それは全ての目標に言えることだけどね。そして③、『資金や資源を調達する』。ダンジョンからはいろんな種類の資源が入手でき、それらを回収・売却することで資金を獲得できるぞ。通貨単位はDで、1円≒1Dと思ってくれていい。獲得したこれらを用いて装備・アイテムの調達や施設のグレードアップができるようになるから、集めすぎて損することはない」
「こんなんいくらあっても困りませんからね、ってやつですか」
「またニッチなネタを…最後に④、『施設をグレードアップする』。これまた詳細は後で話すけど、ベースキャンプでは様々な施設が利用できる。そして指定量の資金と特定の資材を用いることでこの機能を拡張させたり、進化させたり、新たな機能を追加することが可能だ。ただ、かなりの量の資金と資材を使うから最序盤はあんまり縁がない。他の目標のついでに並行して行う、という感覚でやっていこう」
「ある程度余裕ができてから、となるわけですか。その分出来た時の喜びは大きそうですね!」
「違いない。…と、いうことで一通り説明は終わりだね。ここまでで何か質問はあるかな?なければ早速先送りにした説明をしようと思うけど」
「今のところはないかな。疑問が出たらその時に質問するね!」
「そうしてくれ。じゃあ、次の説明に移ろうか!」






