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英雄の箱庭〜君と共に生きるための物語〜  作者: 松野ユキ
第十章 一月 創造と破壊の彼方
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九十八 光の少女と混沌の少年

「アドルさん!」


「オドの魔力まで使い切ってしまったか……とりあえず魂の崩壊を止めるぞ!」


 アドルさんが金守の剣(きんしゅのけん)の力で何とか魂の崩壊を食い止めた。


「オドの崩壊を止める手段はただひとつ。誰が犠牲になってレイにオドの魔力を供給することだ。ただし、それはオド同士の属性が一致してるか適応させる高度な技術を必要だ……」


「――それなら適任はただ一人だな。魔王である私だ。どうせこの後死ぬことは確定しているのだから何も問題はない。私には異なる属性のオドを適応させた経験があるし、レイなら光と闇が混ざり合う混沌の魔力にも適応できるだろう」


 ヴェヌス先輩、いや魔王がいうことは最もだ。

 だが、本当にそれでいいのか?


 レイは悪魔の宿命から解放されたのにまた闇の魔力を持つことになるんだぞ? なんとか光の魔力だけでオドを修復できないのか?


「ヴェヌス……お前は俺の手で殺してやりたかった。でも今はそんなことを言っている場合ではない」


「そうだな。レイを助けることが優先だ。彼女なら光も闇も背負ってくれるだろう」


 レイに光も闇も混ざった魔力を背負わせる?

 ふざけたことを言ってんじゃねぇぞ!


 真っ直ぐと伸びていく光の道を歩んでほしいと望まれてアドルさんにレイと名付けられたんだ。


 それに俺はあいつと約束した。愛を抱いて光の道を突き進めるようにすることを。


 レイの近くにある銅祝の剣(どうしゅのけん)の柄を握り締めると大量の魔力が吸取られる。


 それがどうした。


 俺の相棒であった白創の剣(はくそうのけん)を含んでるなら応えろ。この状況がお前の最善か? 発展ある未来に繋がるものか!


 剣は一瞬銅色の光を発した後、僅かな間を置いてまた光を発する。

 

『私はお前の相棒ではない。しかし発展を司る神具(しんぐ)としてこの状況は最善ではないと判断する。ゆえにこの場限りでお前に力を貸す。今だけは通常の光の魔力でも創造の力が使えるだろう』


「それだけでも十分過ぎる。ありがとう……」


 銅色のガントレットを装着し銅祝の剣(どうしゅのけん)を持ってアドルさんの元に向かう。


「アドルさん。俺から提案があります」


「時間はないが一応聞いてやる」


「レイのオドは俺が修復します。そしてヴェヌス先輩は俺のオドを修復してください」


「はぁ? そもそもお前はもう創造の力を持ってないだろ? 神具(しんぐ)は使えないはずだ」


 アドルさんが話にならないという表情で問いかける。


銅祝の剣(どうしゅのけん)がこの場限りで力を貸してくれました。発展ある未来に繋げるために」


「そんなことを信じろと?」


「これを見せても信じてもらえませんか?」


 剣に魔力を注ぎ込むと剣身が強く輝き、創造の力が解放される。


「――失敗したらお前もレイも死ぬぞ? いいのか?」


「失敗するためにやるんじゃないんです。二人で生き残るためにだけやるんです」


 アドルさんの目をじっと見つめる。


「若いな……リーダーとしてはリスクが少ない選択をすべきだが神具(しんぐ)に信用されてる男を無碍にもできない……よし! やってこい」


「ありがとうございます! 必ず成功させます!」


 深々と礼をしてレイの胸に手を当て魂にアクセスした。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 真っ暗な空間の中にボロボロの赤髪の少女が仰向けになって倒れていた。身体にヒビが入っており今にも砕け散りそうだ。


「痛いよ……まだ死にたくないよ……」


「待ってろ。今、助けてやる!」


「あなたは誰? もう何も見えない」


 少女は肩で息をしながら声を絞り出す。


「レイを愛する者といえばわかるだろ?」


「カズヤ? なんでここに」


「とりあえず今はこれ以上喋るな。我が友オドよ! 今一度、俺と一緒に戦ってくれ! 頼む」


 他人の魂にオドを呼び寄せるのは無理だったか。

 そう思ったとき……


「やぁ。カズヤ。もう会えないかと思ってたけどまた無茶苦茶なことしてるね」


 白髪の少年が現れる。


「先の戦いでもお前に無茶させて悪かった。そして今度はもっと無茶をさせようとしている……」


「知ってる。助けたい人がいるんでしょ? 僕もこの女の子を放おって置けなくてね。双子の妹みたいなもんだ。でもカズヤに貸しばかり作るのは面白くはない。だからお願いがある」


「やれることならなんでもやる。言ってくれ!」


「名前が欲しいんだ。僕とこの少女のね。二人ともオドだとややこしいだろ? それにこれから君のオドとして生きていく中でしっかりと個として祝福してほしいんだ」


 オドは学術的にはただの魔力。

 それ以上でもそれ以下でもない。


 でも俺たちはもはや戦友だ。

 名前で呼び合うのは当然だよな……


「――俺はセンスないぞ?」


「それも知ってる」

 

 オドはいつも俺のために最適な効率よくマナを紡いで魔力を精製してくれる。ならば安置だけど……


「――ツムギなんてどうだ?」


「カズヤが安置なのも知ってた……でもそれでいい。これから二人で未来を紡いでいく。いい名前じゃないか。それで少女の名は?」


 これからレイのオドは光の魔力を精製する。

 その光は彼女の魂を明るく照らす。


「アカリだ」


「これまた安置で……」


 ツムギは肩をすくめた。


「それでツムギ。どうやってアカリを修復するんだ?」


「まずは僕が魔力を全力で彼女に送り込む。修復が完了したらカズヤの光の魔力を全力で送り込んで」


「了解。ツムギ。お前のことは必ず修復するだから安心しろ」


「また変な姿になっちゃうけどね。まぁ生きてるだけで儲けもんってやつだ」


 ツムギはアカリの両手を握るとゆっくりと魔力を送り込む。


「うっ……これは光の魔力……」


「君はつい最近、光の魔力を受入れたことがあるはずだ。大丈夫。僕が調整する。だから拒まないで」


 ツムギはひざまずき、穏やかな表情でアカリの両手を祈るように優しく握る。


 徐々にアカリの髪の色は毛先から金色に染まっていき、ひび割れも修復されていく。


「――温かい……こんなの始めて。目が、目が見える。あなたは誰?」


「僕はツムギ。君の双子の兄みたいなものさ。そして今日から君はアカリだ」


「アカリ? それが私の名前?」


 徐々にひびが入ってくるツムギを見つめながら尋ねる。


「そうカズヤが僕らオドを魔力ではなく個の存在として祝福してくれた。これからは僕らは兄と妹だ」


「もう会えないけどね……」


「また会えるさ。カズヤとレイが生きてくれるなら」


 ツムギは崩れそうな手でアカリの手を強く握る。


 そしてアカリの髪が完全に金色に染まり、身体も元通りに修復される。


「――カズヤ! いまだ!」


 俺の光の魔力をありったけアカリに注ぎ込むと空間内は光に満たされていく。


「レイ……お前を必ず光の少女にする。俺の魔力を全て持っていけ!」


 空間内が光で満ちれば満ちるほど俺の身体は透け始め、魔力が尽きると神具(しんぐ)の解放は解除された。


 そのとき、光の空間に誰かはわからないが二人の足音が近づいてくる。


 この魔力はヴェヌス先輩?


「透け始めたカズヤくんの身体に魔力を注ぎ込んだと思ったらいつの間にかこの空間にきていた。しかもご丁寧に擬人化したオドが案内してくれるとはどういうことだ?」


 魔王の姿ではなく。

 長身で美しい金髪と顔のヴェヌス先輩だ。


 そして先輩を案内しているシルバーグレーの長髪に真っ赤な目とヤギのような角をもった浅黒い肌の少年がオドというわけか。


「ヴェヌス先輩こっちです! すぐに俺のオドいやツムギの修復をお願いします」


「わかった! 私のオドよ。頼んだぞ」


 ヴェヌス先輩のオドがツムギに駆け寄り魔力を注ぎ込む。


「なんだ。この不規則な魔力は? 一体どうやってコントロールしているんだ?」


 魔力精製調整のスペシャリストであるツムギも魔王の不規則でカオスな魔力に困惑している。


「コントロールしようとするな。まずは光にも闇にも身も心も任せろ」


「――アカリも闇から光になったんだ……兄である僕がここで負けてどうする……」


 ツムギは未知の魔力に戸惑いながらも何とか受け入れようと必死にもがくがとても苦しそうだ。何とか力になりたい。


「――ツムギ……これまでお前の調整力に甘えてきた。これからどうなろうと生きてさえくれればずっと共に戦うよ」


 そっとツムギの左手を握る。


「カズヤ……僕も君のオドとして信じられる自分でありたい。すぐには今までみたいな魔力精製ができなくても必ずいつか……」


「俺も同じだ。まずはこいつを受け入れて徐々に調和させて俺たちのものに発展させよう」


 今までは英雄の宿命で上手く出来過ぎてただけで、ここからは俺たちで何とかしなければいけないんだ。


 ツムギの肩に入って力がすっと抜けると魔力が一気に入っていく。髪はシルバーグレーになり目が真っ赤になる。完全にコントロールできてないせいか角と肌には変化はないようだ。


 そして崩壊しかけていた身体が修復されていく。


「さて、カズヤくん。あとは私の魔力を全て君に注ぎ込むだけだ。何もかもが不規則で戸惑うかもしれないが君とツムギなら使いこなせると信じている。細かいことは数冊のノートにまとめてアドルに託した」


「ありがとうございます。何から何まで……」


「私を魔王ではなくヴェヌスとして生かしてくれた者たちの力になりたかっただけだ。これからの魔族を……いや魔族と人を頼む」


 ヴェヌス先輩が手を差し出す。


「少しでもこの力で人と魔族を助けられるように頑張ります」


 差し出された手を強く握る。


「この魔力を託すのが君でよかった。最後にこんなことを今更言って許されようとも思わないが……人間たちを苦しめてすまなかった」


「俺には大戦時の記憶しかありませんがあなたはこの世界のほぼ全ての人々から恨まれています。それに転生システムによる神々の思惑があったとはいえ、俺からは絶対に許すとは言えません。でもヴェヌス先輩としてのあなたには感謝しかありませんよ」


「そうだ許さなくていい。ただ前を向いて歩んでいけ。では混沌の魔力を全て託す。魔族と人の共存を願って……」


 ヴェヌス先輩が魔力を注ぎ込むと光と闇が不規則に混ざり合う魔力が魂に溢れる。


 正直怖いけどツムギもこれを受入れたんだ。それにこの魔力はヴェヌス先輩が俺に託した願いでもある。今はただ受け入れることに集中しよう。


 全ての魔力を受け入れるたとき、なぜかとても穏やかな気持ちだった。そしてヴェヌス先輩の姿はどこにもなかった……


「帰ろうか。ツムギ」


「そうだね。みんなが待っている」


「あの……ツムギとカズヤ。レイを頼むね……」


 ツムギと顔を見合わせて「任せろ」と二人で力強く答えた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 レイの魂へのアクセスを解除するとぼんやりと視界が戻ってきた。そのとき何かが俺の胸に飛び込んでくる。


「この大馬鹿野郎! なんて無茶したんだ。僕だって混沌の魔力を背負う覚悟があったのに……」


「おまえに『愛を抱いて光の道を突き進め』と言っただろ? 終わりよければ全てよしでいいじゃないか」


「君はやっぱりお人好しでクソ真面目だ。危なかっしくて一人にしておけないよ……」


 レイが泣きじゃくる。


「これからも二人ではいるけど危なかっしく思われないように頑張る」


 そう言って元の姿に戻った黒髪のレイの頭を撫でる。


「二人とも喜びの再開でイチャつくのはいいが、一応神域で女神もいる。帰ってからにしろ……」


 アドルさんが珍しくジト目になって注意する


「おいアドル。一応とはなんだ! 前から思っていたがお前は女神に対して無礼じゃないか?」


「これは大変失礼いたしました女神様。以後、気をつけます」


「――やっぱり気持ち悪いから戻せ……そんなことより銅祝の剣(どうしゅのけん)は返してもらうぞ」


 女神に銅祝の剣(どうしゅのけん)と銅のガントレットを手渡す。


「これでお前たちはこの神域にいる理由はなくなったな。時の狭間に帰すぞ」


 ようやく全てが終わった。

 いやこれから始まったのか。

 とにかく今は帰りたい。


 そう思ったとき空から声が聞こえてきた。


『女神よ。大切な恩人たちを手ぶらで帰らすとはどういうことだ?』


「も、申し訳ございません……」


 女神が慌ててひざまずく。


 神域の空からとてつもない神聖な魔力をもった何かが降りてくる。これから何が起きるんだ……

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