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英雄の箱庭〜君と共に生きるための物語〜  作者: 松野ユキ
第十章 一月 創造と破壊の彼方
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九十七 転生システムの破壊

 俺の白創の剣(はくそうのけん)とレイの黒壊の剣(こっかいのけん)は死闘の末、融合が始まり『完全なる神の魔法』として生まれ変わろうとしていた。


 二人で天高く掲げる剣は銅色の光を放ち、黄昏の空を神々しく照らす。


「――歴代の悪魔たちが少しでも救われてるといいな……」


「それは僕にもわからない。でも彼女たちは君を全力で殺しにいけたことは喜んでいた。君は信じられる自分を見つけられたかい?」


「とりあえず理想に手を伸ばし続けてよかったとは思えたよ。でもまだ全ては終わってない」


「転生システムの破壊。最後の大仕事が残ってるからね」


 剣から放たれる銅色の光が徐々に弱まり、最後に剣身から白と紫の波動を放たれると、融合が完了し新たな神具(しんぐ)はその姿を現す。


 形状は白創の剣(はくそうのけん)がベースで、ところどころに黒壊の剣(こっかいのけん)の名残りが伺える。


 色は滑らかな銅色で光のあたり具合によってはピンクゴールドにも見える。鍔には深紅の宝玉が埋め込まれており上品に輝きを放つ。


「二人ともよく『完全なる神の魔法』、神具(しんぐ)『銅祝の剣(どうしゅのけん)』を復活、いや生まれ変わらせてくれた。(われ)にもよく見せておくれ」


 突然、女神が現れて二人にそういうと、銅祝の剣(どうしゅのけん)を手に取りすっかり見入っていた。


「女神よ。感動してるところ申し訳ないが約束は守ってもらうぜ」


 アドルさんが後ろから声をかける。その隣にはヴェヌス先輩もいた。


「わかっておる。まずは下に降りてからだ。それにしても人間がよくここまで昇ってきたものだ……」


 感心しながら遥か下にある地上を見ているが、この空間はどこまでも同じ風景が広がっているので、感覚としてはわかるけれど視覚では高過ぎてよくわからなくなっている。


 このまま降下するのは時間がかかるため女神が全員まとめて地上まで一瞬で連れていってくれた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「さてこれから転生システムを破壊するわけだが絶対にミスをするわけにはいかない。指示はこの隊のリーダーである俺がする。勝手なことは絶対にするなよ?」


 俺とレイとヴェヌス先輩が頷く。


「よし。女神によると転生システムを破壊すればそれぞれに課せられ宿命は消えるが、魔力に付与されている能力も消える。つまり神具(しんぐ)の力を使えなくなるわけだ」


「僕の転生システムの破壊は最後にしなければいけないわけだね?」


「その通り。さらに銅祝の剣(どうしゅのけん)で転生システムの破壊をすれば大量に魔力を消費する。三人分でギリギリといったところかな」


 三人でギリギリか。もしも途中で予想外のトラブルが生じたら……


「アドルさん。念のために休憩を挟みながら行うのはどうでしょうか? 魔力なら俺の共存の天雨(あめ)で都度回復させられます」


「それができるなら俺もそうしてる。でも転生システムだって馬鹿ではない。一つ破壊されれば他の装置が学習してより破壊が難しくなる。そうだろ? 女神よ」


「そうだな。それも驚異的な学習力だ。やるなら早い方がいいだろう」


 クソ! それなら共存の天雨(あめ)を使い回復させながら転生システムの破壊を……いや、そうだと破壊の力に創造の力が干渉するリスクがある……


「――俺はレイに何もしてやれないのですか……」


「お前には創造の力で三人の魂にアクセスして外部に引きずり出し、中を可視化してもらう役割がある。少しでもレイが確実に破壊できるようにな」


「でも、俺の転生システムが破壊されたらレイの魂は引きずり出せなくならないんじゃないですか」


 先ほどの説明だと俺の転生システムが破壊された時点で創造の力には使えなくなる。


 となるとレイ本人は感覚だけを頼りに転生システムだけを破壊しなければいけない。


「カズヤ……僕なら大丈夫。自分の魂の中は自分が一番よく知っている」


 笑顔で心配させまいと振る舞うが完全に隠しきれてはいない。今の俺がレイにかけてやれる言葉はただひとつ。


「――絶対に全てを終わらせて帰ろう。そして約束のあの場所へ……」


「うん。生まれ変わった二人で必ず行こう」


 

 そしていよいよ転生システムの破壊が開始された。


 まずはヴェヌス先輩だ。


 左手を胸に当てて創造の力を発動させると、漆黒の魂が出てきた。それに白い光を当てると魂の中が透けて赤色の装置が見える。


「アドルさん! 魂の中に赤色の装置があります。これが転生システムでいいですか?」


 アドルさんは女神の方を見るとコクリと頷く。


「おぅ! それだ。後はレイに任せろ」


「じゃあ。まずは一つ目いくよ!」


 レイがヴェヌス先輩の魂にある赤色の装置に銅祝の剣(どうしゅのけん)を突き刺すと赤い火花を散らし破壊の力に抵抗する。


「うおおお!」


 紫色の光はどんどんと強くなる。

 そしてついに転生システムは根負けして砂のように消え去っていった……


「はぁ……はぁ……まずは一つ目。次はカズヤの魂いくよ!」


 すぐに魂を取り出し、中身を見えるようにする。


「――なんだ? これ……」


 転生システムは赤色の二重の膜を張り、守りを瞬時に強化していた。


「迷っている暇はない! カズヤ行くよ!」


「来い!」


 レイは再び転生システムに剣を突き刺す。

 

「膜が増えただけだけでなく硬くなっている……でも僕たち二人の宿願をそんな程度で阻めると思うな!」


 二重の膜を一気に貫き破壊の力で転生システムを風化させる。すると俺は力を失い魂は胸の中に戻っていった。


 残りは一つ。肝心のレイの転生システムの破壊だ。


 でもレイの魔力は限界にまできていた。しかし休ませていたら転生システムはどんどん守りを固めていく……


「父さん。例のガントレットを。あれなら銅祝の剣(どうしゅのけん)の剣の刃を握っても大丈夫だ」


「アドルよ。まさかレイに人間が作ったガントレットなど渡すつもりではなかろうな?」


「俺の金守の剣(きんしゅのけん)にも耐えらた代物だ。心配はない」


「いかん。いかん。例え神の剣を防いだものとて今の状況下で人間の作ったものなど信用できん。これを使え」


 女神は銅色のガントレットをレイに渡す。

 色も刻まれた模様も銅祝の剣(どうしゅのけん)にそっくりだ。


「ありがとうございます。女神様!」


「ふん。失敗されたら(われ)が困るからな。さっさとやれ」


 レイは銅色のガントレットを装着して剣身を逆手で握る。一息つくと迷いなく自分の胸を突き刺した。


 銅祝の剣(どうしゅのけん)と銅色のガントレットは共鳴しこれまでにない破壊の力を生み出す。


「前よりも遥かに硬くなってるけど膜には刺さる! これでこれで悪魔の宿命は終わりだ!」


 レイが目を見開くと瞳に浮かぶマザールーンと剣とガントレットの宝玉が真っ赤に輝く。


 そして紫色の色の太い光がレイの背中からとてつもない勢いで飛び出していった。


 膝を着くと胸から赤色の装置の残骸が出てきて風化していく。


 終わった。

 悪魔の宿命は終わったんだ!


「レイ!」


 誰よりも早く彼女の元に駆け寄り、抱き抱える。


「やったな。本当によく頑張ったよ……さぁ学園に帰ろう」


「そうだね。でもなんだかとても眠くなってきたちゃった……」


 レイの身体が一瞬少し透けているように見えた。

 何かがおかしい。

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