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英雄の箱庭〜君と共に生きるための物語〜  作者: 松野ユキ
第九章 十二月 未来へ導く愛と憎しみ
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八十六 導き出した答え

 先日、魂にある転生システムらしきものについて冥王であり魂の研究をしているエウブレスさんに意見を聞こうという話が出ていた。


 あれから続報がなかったが今日の放課後にエウブレス邸に訪ねることになった。


 放課後になると、早速神具(しんぐ)持ちの四人に加え魔王であるヴェヌス先輩と一緒にエウブレス邸に向かった。


 クオーツ先輩が出したゲートをくぐると、目の前には管理が全くされておらずどんよりした雰囲気の古い屋敷があった。


「まるで廃墟だな……」


「そうかい? エウブレスさんらしいお屋敷だと思うよ」


 まぁレイの言う通り、冥王が住むと考えたらこんなもんなんだろう。


 そんなことを話しているとゆっくりと屋敷の扉が開き、中からエウブレスさんが現れた。


 予想はしていたがやっぱり機嫌は良くない。  


「――クオーツよ。今更ワシに泣きつくとはな。この屋敷にヴェヌスなんぞ一歩たりとも入れたくないのに……」


 エウブレスはクオーツ先輩とヴェヌス先輩、もとい魔王を睨みつける。


「カズヤの前世の記憶が戻れば転生システムについても分かると思っていたが、第二階層を制覇しても肝心なところわかんねぇんだからしょうがないだろ」


「どうせお前のことだ。すでに先のことは考えているんだろ?」


「まぁな。まだ仮説段階だけどな」


 クオーツ先輩が後頭部を掻きながら答える。


 エウブレス邸に入ると中も殆ど管理されておらず幽霊屋敷のようになっている。


 地下の階段をおり奥深くに進むとそこにはエウブレスさんの研究室があった。


 中は屋敷とは違い徹底的に清潔にされており様々な機器が並んでいた。


「これ全部自分で揃えたんですか?」


「そうだ。おかげで屋敷の管理に手が回らなくてな……」


 魂の研究室ってもっと暗くて謎の魔法陣があって禍々しいものだと思っていた。

 

 テレビでしか見たことがないけどまるで病院の手術室みたいだ。


 あまりのギャップに驚いているとエウブレスさんが声をかけてきた。


「とりあえず君達の魂の中の写真を撮らせてもらう」


「魂の中の写真なんて撮れるんですか……?」


「闇の魔力を利用したこの魂撮影機ならな」


 レントゲン検査で使うような機器を指差す。


「とりあえずカズヤ、レイ、ヴェヌスは先に撮れ。俺とマルスは後でいい」


 そう言ってクオーツ先輩とマルスさんは研究室を出ていった。


「じゃあレイからお先にどうぞ。俺とヴェヌス先輩は外で待ってるから……」


「君は変なところで気を使うよね……まぁさっさと終わらせたいから別にいいけど」


 そして研究室から出て十分ほど経つとレイが出てきた。


「もう終わったから、次いきなよ」


「カズヤくん。君が先にいくといい」


「じゃあいってきます」


 研究室に入るとエウブレスさんが魂撮影機の前で待っていた。


「さて、カズヤくん。まず上着を全て脱いでもらおうか。脱いだものはこのカゴに入れておくといい。脱ぎ終わったらこのローブを着てくれ」


 エウブレスさんの指示に従い上着を全て脱ぎ、胸の辺りに魔法陣がプリントされている黒いローブを着る。


 その後は胸を白い板に密着させ、その上にある窪みに顎を乗せ、両手を腰の後ろの方に当てて準備は整った。


「それでは撮るぞ」


 エウブレスさんが機器に繋がっている装置に闇の魔力を込めると、後ろから紫色の光が射出され、ローブの魔法陣の色が紫色になる。


「終わったぞ。次はヴェヌスを呼んでこい。ただあいつと二人きりになると冷静になれんかもしれんからマルスも一緒に頼む」


 研究室を出るとマルスさんがヴェヌス先輩と一緒に待っていた。


「エウブレスさんは僕がヴェヌスさんと一緒にこいと言ってるんだろ?」


「その通りです。よくわかりましたね?」


「あの人とは付き合いが長いからね。大丈夫。何も起きないよ」


 マルスさんは穏やかな笑みを浮かべる。


 こうして二人は研究室に入って二十分ほどで出てきた。


「な? 何も起きなかっただろ?」


「マルスさんはいつも板挟みで大変ですね……」


「なにもう慣れたさ」


 白い歯を見せながら笑顔で答える。


 この人こそ最愛のメーティスさんを殺した魔王を最も憎いはずだ。

 

 それなのに、魔王であるヴェヌス先輩とエウブレスさんの間を取り持つなんていくら島や世界のためとはいえ、そう簡単にできることではないだろう。


「俺が最後だな。さっさと撮ってくるわ」


 クオーツ先輩はそう言って研究室に入って行った。


「――遅いね……それに研究室の中に人払いの結界が張られている」


「まぁあの人に問題があることはないから、計画について何か話してるんだろ」


「僕たち抜きで話すことね……」


 レイは表情は落ち着いてはいたが口調には少し苛立ちを感じた。


 そして四十分ほど経った後、エウブレスさんが扉を開けて出てきた。


「君たちの魂についてはだいたいわかった。詳しくは中で話そう」


 研究室に入ると人数分の椅子と写真が貼られたホワイトボードが用意されていた。


 写真はレントゲンのように白黒かと思ったがフルカラーなのはとても驚いた。


「これが魂の中……?」


「そうだ。まぁまず魂について基本的な説明させてもらう」


 エウブレスさんは魂について次のように説明した。



 まずは魂とは何か。


 神が本人を本人として生かすために設計した最重要器官だ。

 簡単には見たり触れたりできない仕組みになっている。


 例外として、光か闇の魔力を高度に操る術者ならば、見えるようにしたり、触れられるようにすることができる。



 それでは魂は身体のどこにあるのか。


 心臓の付近にある。魔法を扱える者ならばその存在を感じることくらいはできる。



 次に魂と体内の器官と関係について。

 魂は心臓と脳に繋がっている。


 心臓に繋がっているのは、血液中に魔力を供給するためだ。

 魂で作られ魔力は血液と一緒に身体全体を巡る。


 血液中の魔力は術者が意識することによって、丹田付近にある魔力変換器官に送られる。ここでは魔力を各属性に変換し、人によってはさらにここで形状などのコントロールもする。


 その魔力は魔力管を通じて手などから出力される。  


 この魔力変換器官と魔力管についても魂と同じで魔法を扱えるものなら存在を感じることができる。


 こちらも見たり触れたりできるようにするには、光か闇の魔力を高度に扱える術者だけだ。


 脳については、魂から脳内に特殊な反応を起こさせる信号をおくり、特殊なエネルギーフィールドを作り出す。このエネルギーフィールドこそが本人を本人にしていく実質的な魂とも言える。


 

 ここからは魂の内部がどうなっているかだ。


 魂の構造は意外と単純で大きく二つの系統に分類できる。


 一つ目は脳系統。これは脳に特殊なエネルギーフィールドをもたらす信号を送る役割をはたしている。



 二つ目は魔力系統。これは魔力を作り出す役割をはたしている。


 そして魔力系統にも二種ある。


 一つはマナを魔力に変換する魔力精製器官。マナとは自然界に溢れておいる魔力の素で、それを呼吸や食事など摂取することで魔力に変換することができる。


 もう一つはオドが制御する魔力精製制御器官。オドとは生まれながらして持つ魔力であり、魔力精製の量を制御する役割を持つ。


 それだけではなく術者の基本属性や付加能力も司る。

 例えば俺なら基本属性は光であり、付加能力とは創造だ。


 なお創造のような神の能力を付加されている術者は神具(しんぐ)が魂に格納されている。


 通常は魔力を限界まで使うとセーフティがかかり魔法は使えなくなるのでオドの魔力を使うことはない。


 ただし、高度な術者の場合、魔力の精製が間に合わなくなるとオドの魔力が使用されることもある。


 万が一、オドを使い切るようなことがあれば魔力の精製器官が暴走して魂は崩壊し術者は基本的に死ぬ。


 基本的にというのはオドを外部から供給する方法がただ一つだけあるからだ。それについてはエウブレスさんは教えてくれなかったけれど……



 以上がエウブレスさんによる魂に関する基本的な説明だ。



「さて、長々と説明したが本題に入ろうか」


「あぁ待ちくたびれたぜ」


 クオーツ先輩がアクビをしながらダルそうに言う。


 こんなんだから二人はあまり仲が良くないのではないかと少しだけ思った。


「短気な奴がおるから結論から言おう。メーティスの研究は正しいと思う。転生の宿命を背負うカズヤくんとレイと魔王だけに謎の赤い装置が魂に組み込まれていた」


 ホワイトボードに張られている五枚の写真を見比べると確かに俺とレイとヴェヌス先輩の写真には赤色の装置らしきものがある。


「思うというのは?」


「あからさま過ぎてフェイクの可能性があることと、カズヤくんとレイに気になる装置が組み込まれててね」


 俺とレイの写真を見ると、俺の写真には何やら白い装置が、レイの写真には何やら黒い装置が組み込まれている。


「メーティスさんが研究したときに俺の前世の英雄にはこんな白い装置はなかったんですよね?」


「あぁ……つまりメーティスが研究した後に組み込まれたものだ。そしてそんなことができるのは……」


「神様だけ……」


「神はなぜこんなものをわざわざ取り付けたのか。私にはこれ以上はわからんよ」


 エウブレスさんは肩をすくめてお手上げといった表情だ。


 そのときクオーツ先輩が口を開いた。


「――なるほどな。英雄がやらせたかったことが何となくわかった。とりあえず今日はこれで終わりだ。エウブレス、世話になったな」


「ふん、マルスとメーティスとカズヤくん達のためだ」


 エウブレスさんがクオーツ先輩のお礼に対してそっぽを向く。


「カズヤ。今日は俺と二人で帰るぞ。マルスはレイを頼んだ」


「――そういうことか……わかったよ。レイはちゃんと送り届ける」


 クオーツ先輩とマルスさんは英雄がやらせたかったかったことに気がついたみたいだけど、なんでこの場で教えてくれないのだろうか?


 そうして俺達はエウブレス邸を後にしてそれぞれ別ルートで帰宅した。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 クオーツ先輩はいきなり森の中に入りしばらく歩くと、人払いの結界を貼り、さらに光の魔法でステルス効果も付与する。


「さて、カズヤ。問題だ。英雄は今後お前に何をさせたいのでしょう?」


「ノーヒントでいきなり言われても困りますよ……」


「しょうがねぇなぁ……現状最も知りたいことをお前が持ってる英雄と神具(しんぐ)に関する情報から推測してみろよ」


 とりあえず座り込んで情報を整理する。


 現状最も知りたいことは転生システムの正確な位置とその破壊方法。


 しかしそれは前世の英雄からもらった記憶にはなかった。


 次に英雄ついて知っている情報。


 まずマルスさんが英雄から託された『この島と、近い将来転生してくる俺と彼女の未来を頼みます』というメッセージ。



 もう一つ、レイと初めて戦ったとき受け取った次のメッセージ。


『俺の次の転生者になるやつなら、この白創の剣(はくそうのけん)秘められた記憶と想いを辿り、新しい未来を創りだしてくれるはずだ』



 そして神具(しんぐ)白創の剣(はくそうのけん)のについて。


 この神具(しんぐ)は創造の光によって構成され、望みを希う(こいねが)者のために様々な創造の力を発揮する。


 そしてその力の根源となるのは喜怒哀楽の感情。


 前世の英雄は白創の剣(はくそうのけん)に秘められた記憶と思いを辿れば新しい未来を作り出してくれると言った。


 しかし、現状は肝心の転生システムに関する記憶を受け取ってはいない。


 英雄の言葉を信じるならばまだ受け取ってない記憶がある……?


 そういえば喜怒哀楽による力を身に着け第二階層を制覇したが、喜怒哀楽にまだ続きがあったとしたら?


 喜怒哀楽愛憎、愛と憎しみを根源とする創造の力が足りないことになる。


 でもこれはそれぞれなのか片方ずつなのか?

 

 何かヒントはないのか……


 そうだ! 俺の魂に仕組まれた白い箱が一つあった。


 あそこに英雄が伝えたい最重要の記憶と力があるとしたら、愛憎の二つはセットの可能性が高い。


 じゃあ愛と憎しみを背負いながら何かを願う者はどこにいるのか……


 近くに最も当てはまる人が一人だけいる。


 島とメーティスさんを愛し、島とメーティスさんを蹂躙した魔王を憎みながらも希望ある未来のために戦う人物。


 マルスさんだ!


 英雄が俺とレイをマルスさんに託したのは、育てるためだけじゃない。


 最後の記憶と力を渡す試練になってもらうため。

 条件を満たしこれだけの力をつけた俺たちに立ち塞がれるのはマルスさんしかいない。


 

「クオーツ先輩! わかりました!」


 勢いよく立ち上がり、居眠りしているクオーツ先輩に詰め寄る。


「声がデケェよ。で、答えはなんだ?」


「師匠であるマルスさんのために愛と憎しみの感情を持って未来の創造をすることです」

 

「正解だ。問題はお前が愛と憎しみの関係が理解できるかだろうけどな」


 愛と憎しみの関係……


「特に人を憎んだりしないお前にとってはこれまでで一番難しい試練だろうよ。まぁとにかくマルスに会え。あいつなら必ずお前たちを未来へ導いてくれる」


「お前たちってことは……レイも……?」


「当たり前だろ。だからマルスにレイを送らせたんだろうが!」


 最後の試練の相手が最も尊敬する師匠のマルスさん。


 おそらく話し合いなんかでは終わらず本気の戦いになる。


 相手は世界ナンバーツーの英雄。


 そんな相手と戦いながら愛と憎しみの関係を理解し、前世の英雄が望んだ未来に辿りつけるのか。

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