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英雄の箱庭〜君と共に生きるための物語〜  作者: 松野ユキ
第九章 十二月 未来へ導く愛と憎しみ
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八十一 勝利の翌日

 会長と副会長との戦いの翌日の早朝、俺とレイは島の山手側にある共同墓地に来ていた。


 ここには破壊の悪魔に殺された人や魔族の名が刻まれた石碑があり、レイは毎朝石碑の前で祈りを捧げている。


 レイ自身は島民に手をかけたことはないけれど、破壊の悪魔として生まれ変わりとして前世の罪を背負う覚悟を決めている。


 今日はたまたまレイが一緒に登校しようと言うので墓地に来ている。

 

 俺も創造の英雄として犠牲になった人々と魔族に、あの惨劇を二度と起こさせないと誓い、祈りを捧げた。


「――よし。じゃあ行こうか。カズヤ」


「お前が一緒に登校しようなんて珍しいな」


「君、自分が何をしたかもう忘れたのかい? 副会長を倒したんだよ? 十二年間君臨していた最強の副会長を倒したことは島の大ニュースになってたというのに……」


 昨日は帰った後、疲れていてずっと眠っていた。

 確かにあの副会長を倒したとなると次期副会長。

 登校したら対応に困るだろうな……


「それでお前が一緒に登校して生徒たちの対応をしてくれるわけか」


「そういうこと。大勢の女子生徒に囲まれたらカズヤは対応できないだろ? 僕が守ってあげるよ」


 いやいや大勢の女子生徒に囲まれるのはお前の方だろ……


 元々男子生徒はもちろん、それ以上に女子生徒に人気があるレイが会長を倒したとなるとどれだけ混乱するかわからない。


 まぁレイが女子生徒を引き寄せてくれれば俺は困らないのでそれはそれでいいけど……


 それにしても自分が人気者になることの心配なんて傲慢過ぎるように感じる。

 レイみたいに要領もよくないし勉強も凄くできるわけではない。

 とにかく奢ることなく期末テストの勉強をしよう。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 校門の前に着くと多くの生徒達がいた。

 

 この学園は生徒数は百三十五人ほどいるわけだが、校門から学園の入口までの道には五十人ほどの生徒が集まっていた。


「あっ! レイ様がいらっしゃったわ!」


 一人の女子生徒がレイと俺に気が付き指を指す。

 

「みんな準備はいい? せーの!」


 四十人の生徒が一斉に「レイ様! 生徒会長就任おめでとうございます!」とお祝いの言葉を送り、炎魔法で花火を打ち上げる。


「――祝ってくれるのはありがたいんだけど、まだ正式に就任はしてないんだよね……」


「でもレイ様が会長に就任することはもう決まったようなもんですわ。誰も反対しないでしょうし」


 突如レイの隣に現れる金髪の少女。

 俺達の親友のスカーレットだ。


「予想以上に混乱しなかったね。これは君が生徒達をまとめてくれたのかな?」


「レイ様ファンクラブ会長なら当然ですわ。それに大切な親友を困らせたくありませんしね」


 スカーレットが胸を張り自信満々に答える。


「ありがとう。スカーレット」


「当たり前のことをしたまでですわ。最初に言うべきでしたが会長戦での勝利おめでとうございます。カズヤも副会長戦での勝利おめでとう」


「ありがとう」


「ありがとな」


「これからお二人は大変な立場になると思われますが、私は全力でサポートいたしますので何でもおっしゃってください!」


「――そうか。じゃあスカーレット早速お願いがあるんだ」


「はい。何なりと」


 スカーレットがふにゃんとした笑顏で答える。


「僕が正式に会長に就任したら書記になってよ」


「レイ様のためなら生徒会の書記でも何でも……えっ?」


「おい俺は聞いてないぞ!」


 確かにレイが担っていた書記のポジションは空席になるが、いきなり過ぎるだろ……


「二年生の中で、強さ、学力、人望という要素を考慮したら君しかいないだろ。強さでは選抜チームに選ばれかつ炎の王と契約。学力では前回の期末テストでは僕と同じ一位。人望は傲慢さが豪胆になり多くの生徒達から慕われている」


 確かに春のスカーレットならともかく今のスカーレットなら自然とレイの代わりになるだろう。


 それにしてもやはりいきなりだ。


「――えっ、えっ。私が生徒会に……それもレイ様の代わりなんて……」


「嫌かい? 僕は君が必要だと思うんだけどな」


 レイがニコリと微笑む。


「や、やります! やらせて下さい。地獄の果てまでレイ様に付き添うと決意したこの身。許されるならどこまでもお供しますわ!」


 スカーレットは顔を真っ赤にしてレイに答える。


「よろしくね。スカーレット書記」


「はい。こちらこそレイ会長。ところでファンクラブの生徒達がレイ様に贈り物があるということであちらで待っていますの。受け取っていただけますよね?」


 四十人の生徒達がそわそわしながら待っている。


「受け取りたいけどカズヤを一人にしておくのはなぁ……」


「二人なら大丈夫なんですよね?」


 大きな体躯のオークがレイに話かける。


「ケブ!」


「レイ様、カズヤ。おめでとうございます。カズヤなら俺が一緒にいますよ」


「まぁケブがいるなら大丈夫か。頼んだよ」


「はい」


 レイよ。俺のことをそんなに信用できないのか。


 そしてレイとスカーレットはファンクラブの生徒達の方に向かっていった。


「――カズヤ。クオーツ副会長強かったか……?」


「強いなんてもんじゃない。勝てたのが奇跡だった」


「それでも勝ちは勝ちだ。お前も想像できない強くなってるんだろうな。予想通りまた遠くにいっちまったな……」


 ケブは寂しそうな目をしながら微笑む。

 

「ケブ……」


「でもな! 俺は俺だ。また鍛えまくって少しでもお前に近づくさ。とりあえず期末テストは負けねぇぞ」


 授業はちゃんと聞いてはいたが期末テスト対策はほとんどしていない……


 これじゃあケブに惨敗するのは見えてる。


「そうだよな。強いだけでは駄目なんだよな……期末テスト対策を頑張らないと……」


 目の前に迫る期末テストという壁がとても大きく感じて意気消沈した……


「脳筋じゃ生徒達はついてきませんからね」


「それは失礼だよ!」


 俯いていると二人の少女の声がする。


 見上げるとゴーレムの肩に乗った二人の少女がいた。


 一人は1年生のアポロ。小柄な茶髪の少女だ。


 もう一人は同じく一年生のセレーネ・ルーナ。銀髪セミロングの身体を改造した地の国出身の少女。

 

 そしてゴーレムは二年生のティタン。

 二年生選抜チームの仲間だ。


「おはよう。三人とも。今日は仲良く一緒に登校か?」


「はい。先輩たちを祝う生徒達で混雑しそうなのでティタン先輩に乗せてもらってきました」


 あれだけ対立していたのに今では三人いつも一緒だな。

 でもティタンはセレーネには頭が上がらないようにも見えるけど……


「カズヤ。副会長戦勝利、本当におめでとう。同じ選抜チームの仲間として誇らしいぞ。セレーネなんて昨日からずっとお前の話しかしてないからなぁ」


「テ、ティタン先輩。それは私を指導してくださった先輩が大金星をあげたから嬉しかっただけです!」


 セレーネがティタンの頭をポカポカと叩く。


「ところでセレーネ。前にも言ったけどお前には将来生徒会に入ってほしい。期待してるんだぜ」


「――分かってます。アポロちゃんと一緒に必ず生徒会に入りますよ」


 ティタンの頭を叩くのを止め、真剣な顔でこちらを見つめる。


「で、アポロはどうなんだ?」


「セレーネちゃんをサポートするために私も必ず入ります」


 小動物みたいな可愛らしい顔から強い決意が滲み出ている。


「そっか……頑張りなよ」


「はい! 頑張ります!」


「そろそろ私達は行きましょう。カズヤ先輩に用事がある方々が沢山いらっしゃるようですしねぇ……」


 セレーネが意地の悪そうな声でそういうと、後ろを向く。


 ティタンの後ろには十人程の女子生徒が待っていた。


「じゃあカズヤ先輩。レイ先輩に怒られないように頑張ってくださいね!」


 手を振りながら三人は校舎に向かった。


 女子生徒が恥ずかしそうにこっちに向かってくる。


「――あ、あの……カズヤ君。私、選抜チームのときからあなたのことをずっと見てたの……カズヤ君ならきっと副会長も倒せると信じてた。これお祝い。受け取って!」


「ありがとう。俺を信じてくれて嬉しいな。これからも頑張るよ」


 笑顏でそういうと女子生徒は顔を真っ赤にしてプレゼント渡して校舎に向かって走り去っていった。


 嬉しいんだけど彼女の名前は……


「なぁ……カズヤ。あんまり余計なことを言うとレイ様がこっちに殺気向けてくるぞ。お前の場合はシンプルに『ありがとう』だけ言っておけ……」


 信じてくれたことを素直に嬉しいと伝えては駄目なのか?


 まぁ後でレイが不機嫌になったら困るからケブの言うとおりにしよう。


 その後はケブに言われたとおりに「ありがとう」と言ってプレゼントを受け取った。


 しかし女子生徒からプレゼントもらうのなんて初めてだな。

 元より期待はしてなかったけど貰えると嬉しいもんだ。


「随分とモテモテでいらっしゃいますねぇ……カズヤ副会長。流石は二年生の出世頭!」


 深緑の髪をした少年がたっぷりと嫌味を込めて話しかけてくる。


「お前みたいにいつも女の子からプレゼントを貰えるわけではないんだよ。アネモイ王子」


 そう、この少年は風の大国の王子アネモイ・ウィンデア。

 こいつとは二年生選抜チームでタッグを組んだ仲だ。


「それにしても合同演習のときから遥かに強くなってんな。お前本当に人間なのかよ……それと隣にいるオーク。名前は?」


「ケブ・テラースだ」


「お前、普通のオークじゃあり得ない強さをしてるな。肉体を見れば分かる。どうやって鍛えた?」


 アネモイの鋭い眼光にケブは戸惑いながら答える。


「鍛えたというか……ある人の地獄の特訓に耐え抜いたというか……」


「ある人……?」


「グリット・フェルドさんだ」


「グ、グリット・フェルド! 超大物じゃねぇか! 紹介してくれ! 俺は今のままでは壁を超えられないんだ。頼む」


 あのプライドの高いアネモイが初対面のオークに頭を下げている。

 余程行き詰まっているのだろうか。


「別にいいけどグリットさんは誰でも鍛えてくれるわけではないぞ?」


「伝説の剣豪に指導してもらえるなら何でもする。いや、指導してもらうまで通う。今の強さではウィンデアの民を守れねぇからな……」


 口は悪いところはあるけど相変わらず祖国の民を思う熱い男だ。


「わかった。俺からもグリットさんに指導してもらえるように頼んでみる。とりあえずデバイスにグリットさんの事務所の住所を送っておくぞ」


「ありがとうケブ……希望が見えてきてワクワクしてきたぜ……早速、放課後に頼みに行くぞ! じゃあな二人とも!」


 これまで見たこともない子供もような無邪気な笑顏でアネモイは駆け出して行った。


「アネモイ大丈夫かな?」


「グリットさんなら熱意を持つ若者を無下にはしないだろ。そんなことより、もうこんな時間だぞカズヤ!」


「やべぇこのままだと遅刻だ! 走るぞ!」


 プレゼントを抱えケブと一緒になんとか教室に滑り込んだ。


 

 クオーツ副会長を倒し、俺の学園内の評価は一気に変わった。

 これからは副会長として全ての行動が評価されていくだろう。

 

 それによっては愛される副会長になるし、憎まれる副会長にもなる。


 それでもクオーツ副会長のように学園と生徒のために自分なりに全力で大役を全うしたい。

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