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英雄の箱庭〜君と共に生きるための物語〜  作者: 松野ユキ
第八章 十一月 共に繋がる楽しさ
80/100

八十 これからのこと

「アドルさん! 転生システム破壊計画のことなんですが……」


「なんだ?」


「俺はこの世界に来た日、レイからは俺とレイの転生を阻止するためと聞いていました。魔王のことは何も……」


「魔王が生徒会長と知ってたらお前はまともな精神でいられたか? まだお前には知る資格がなかったんだよ」


 確かに最初から生徒会長が魔王と知っていたならばそのことが気になって学生生活をまともに送れなかったかもしれない。


「カズヤごめんね……君を信じてなかったわけではないけど魔王の存在はトップシークレット。父さんが君に計画を遂行できる能力があると確信できるまでは話すことができなかったんだ……」


 レイは俯きながら手をお腹の前もじもじとさせる


「――不安させて悪かった。結局俺達の二人がやることは変わらないんだよな。ただ魔王が計画に組み込まれて少しで驚いただけだ。もう大丈夫」


 レイの頭を軽くポンと叩く。

 すると顔を上げて笑顏を見せる。


「うん。ありがとう」


「もっと聞きたいことがあるだろうが、これからのことを話したいから一旦戻るぞ」


 アドルさんはポケットから次元移動装置を取り出す。

 虹色の球に魔力を込めると空間が裂ける。


「じゃあ行くぞ!」


 俺達はアドルさんに続き空間の裂け目をくぐった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 理事長室に着くとセイレーン先輩が赤い本を広げて待っていた。


「みなさん、お帰りなさい」


「留守番ありがとなセイレーン。早速だが今後のことについて話をしたい。フレイア、人払いの結界を頼む」


「ここでは理事長と呼んでくださいね。みなさんも会長はまだ会長であり、副会長はまだ副会長であることをお気をつけてくださいね」


 フレイアさんが片手をあげると理事長室全体に膜が張られる。


「さて、セイレーン。悪いけどみんなに何か飲み物とお菓子を用意してくれないか?」


「紅茶とお菓子なら既に」


「相変わらず仕事が早い。流石だな」


「副会長に鍛えられてますから……」


 流石はセイレーン先輩だ。

 俺達が戻ってくる時間を予測して、しかも話合いをすることを想定して準備している。


 これが永遠の生徒会のメンバーだけど俺にここまでの気遣いができるのだろうか……


 今回は七人いるわけだがソファーが一人分足りない。


 マルスさんは立って聞いてるからいいよというが申し訳ないので白創の剣(はくそうのけん)を出して、白い一人がけソファーを創造した。


「座り心地はあんまりよくないかもしれませんがこれに座っていただければ……」

 

「夏休みにカズヤくんが創った椅子に座ったけど、今回はどうかな?」


 マルスさんが一人がけの白いソファーに腰掛けると丁度いいくらいに腰が沈む。


「凄いよカズヤくん! 最高の座り心地だ」


「兄さん! 僕にも座らせてよ!」


 レイが身を乗り出してせがむ。


「レイ。後で座らせてもらえ。さっさと話を始めるぞ!」


「ごめんなさい……」


 アドルさん、いやここでは副会長に怒られてションボリしながらレイは座り直した。


 そして俺は白創の剣(はくそうのけん)を胸に仕舞う。


「さて、今後の話だが、一月の上旬の休日にカズヤとレイの極限の殺し合い及び転生システムの破壊を行うことになう。場所は神樹の門の先だが、神樹の門は時の狭間で出してもらう」


 ついにレイと極限の殺し合いを行うんだ……

 膝に置いた両拳をギュッと握る。


「それで門をくぐるのはカズヤ、レイ、ヴェヌス、そして俺だ。マルスは時の狭間で待機。理事長とセイレーンは理事長室で待機だ」


「なんで会長と副会長まで俺達と?」


「門の先には神の野郎がいるんだよ。そいつとお話をさせてもらいたくてな」


 おそらくお話なんて穏便なことに絶対にならないと思うのは気のせいだろうか。

 

「神について気がかりなことがある。あいつはこの世界の全てを知っている。つまり今回の計画も筒抜けなのにこれまで放置してきた」


「筒抜けと分かってるならよく魔王の転生の阻止なんてしましたね……?」


「正直、あのときは賭けだった。下手すれば神具(しんぐ)は没収され、殺されてた。でも俺が死んだとしても魔王が転生するだけで何もしないのと結果は変わらかったがな」


 神はなぜ魔王の転生阻止や転生システムの破壊計画を見逃す?


 もしくは転生システムを俺達に破壊させたいとしたら、なぜ接触してこない?


「もしかして神様は俺達に構うほど暇がないだけとかありませんよね? 破壊にきたら返り討ちにすればいいだけと思っているとか……?」


「転生システムは世界の在り方に関わるもんだ。そんな重要なもんの運用を阻害し、破壊までしようとしてる奴らを理由なく放置してると神は上位の神に罰せられる」


「上位の神?」


「この次元では世界は大きく分けて九つある。それぞれの世界を一人の神が担当しているわけだが、そいつらを束ねる上位の神がいる」


 つまりこの世界の神様は現場責任者で怠慢なことはできないわけか。


「とは言え、馬鹿正直に『なんで放置してるんですか?』なんて聞くの危ない。俺達を試している可能性があるからな」


「じゃあ何をお話しに行くんですか?」


「転生システムに頼らず世界を発展させていく方法についてだ」


 ヴェヌス会長が語り始める。


「私が転生することで魔族と人間の争いは続いた。その争いで多くの血を流したが軍事技術は高まり、争いが終われば民間転用され生活を変えていった」


 戦争が起こり復興すれば必ずしも文明が発展するわけではないし、平和だからこそ育まれる技術や文化もある。

 とはいえ戦争という緊急事態でないと生まれないであろう技術もある。

 それが平和になって民間転用され正しく使用されれば人々の生活を変えるという側面もあるのは確かだ。


 でも大国以外は……


「カズヤ。お前の手首に着けているデバイスも軍事技術が民間転用されてできたものだ。ここ五十年で人類の暮らしは大きく変わった。でも、大戦のせいで疲弊している小国が腐るほどあるのも事実。それに……」


「それに?」


「また争いを続け軍事技術を高めていけば近いうちに人類は世界を滅ぼす兵器を作りだす。今ですら地の大国は原子爆弾を保有していて、そいつを次の魔王討伐に使わせるわけにはいかねぇ」


 この世界に原子爆弾すらあるのか……


 でも平和になったとしても地の大国は抑止力として兵器開発は止めないだろう。

 これはどの世界でも同じだ。


 そうだとしても原子爆弾が使用できる機会を与えたら駄目だ。地の大国はおそらく周辺の小国で使い大勢の犠牲者が出る。


 そういや創造の英雄と破壊の悪魔はどうなんだ?


「でも創造の英雄と破壊の悪魔の転生はこれまで世界に貢献してきませんでしたよね?」


「お前らの転生は別の目的がある。そして前世の英雄はその目的を知ったことで次の転生情報を得た。だからマルスに『近い将来転生してくる俺と彼女の未来を頼みます」なんて言葉を託せたんだ」


「でもそんなことどうやって……」


 なんで一番肝心の記憶が戻ってないんだろうか……


「これは俺の予想に過ぎないが……英雄は神と交渉し結託したんじゃないかと思う」


「そんなことあるわけないじゃないですか! 交渉材料がない」


 英雄側に神様が欲しがるような物なんてない。


 前世の英雄と悪魔が転生したら普通に暮らしたいという夢に神様が共感するほどロマンチストとは思えない。


 神様も転生システムを破壊したかったけど自分ではできないから英雄と悪魔に任せた?

 可能性はゼロではないけど神様が今更転生システムを破壊したいと思う理由がわからない。


「完全なる『神の魔法』だよ。俺の『神の剣』とマルスの『神の盾』は形としては完全なものだ。でも『神の魔法』は二つに分離してしまっている」


「――つまり英雄は創造と破壊の神具(しんぐ)を一つにする方法を思いつき、それをするには転生システムの破壊が必要だった?」


「転生システムの破壊が必要かどうかは分からんが、その条件をのまないといけないくらい完全なる『神の魔法』ってのは重要なもんなんだろう。だから神は英雄の手助けをした」


 確かにこれまで俺とレイだけ双子の神具(しんぐ)なのは少し気になっていた。


 極限まで戦えばなぜ一つになるかはわからないがもしそうなら、その答えを見つけた前世の英雄は神と結託できたのも理解できる。


 ところで肝心なことを説明されてないぞ。


「あの……それで転生システムはどうやって出現させるんですか? レイからは互いの魂に仕組まれてると聞いたんですがけど……」


「それはお前の仕事だろ。忘れたのか? お前の創造の力は魂に直接アクセスして引っ張り出せるだろうが」


「そうは言われても転生システムがどういうものか分からないとアクセスして引っ張り出しようがないですよ……」


 間違って魂の大切な部分まで引きずりだして破壊したら取り返しがつかないだろ……


 そもそも魂を引っ張り出すことなんて本当にできるのか?


「――ちょっといいかい?」


 マルスさんが手を挙げる。


「実はメーティスが君の前世である英雄の魂について研究していたんだ。彼女は冥王エウブレスさんと一緒にいて魂について興味があったからさ……」


「メーティスさん……そんなことを……それで結果は?」


「一つだけ人知を超えたプロテクトがしてある箇所があってメーティスでも解析できなかった。当時は何のためにあるか分からなかったけど消去法でいけばそこに転生システムがある……と思う」


 あれほどメーティスさんの頭脳を信じているマルスさんでも断言はできないのか……まぁ妹の命がかかっているんだ。消去法だけで断言はできないのだろう。


「とりあえず素人同士で語っていても埒が明かない。一度専門家である冥王エウブレスさんの意見を聞こう。レイも一緒に来てくれるね?」


「もちろん」


「まぁ俺じゃエウブレスには頼めないからな。マルス頼んだ。俺からの説明は以上だ」


 副会長の説明が終わると、学園長席で話を聞いていたフレイアさんがこちらにやってきた。


「それではみなさん、転生システム破壊計画における今後の各自の役割は把握されましたか? 今日はお疲れでしょうからゆっくりとお休みください。あと今後このメンバーでやり取りするときはこのデバイスをお願いします」


 フレイアさんは白い手の平サイズの四角いデバイスをみんなに渡した。


「これは副会長の時空間干渉の能力を利用して通信するデバイスです。基本傍受されることはありませんが発信される情報は一応私の魔力で暗号化してあります。持ち主の手から離れてもすぐに魔力を辿り戻ってくるので落としても安心です」

 

 なんてもの開発してるんだ……

 自然豊かなテイルロード島のどこでこんなもん作ってるのだろうか。


「というわけで具体的な日程等はこの白いデバイスで連絡する。質問がなければ今日はこれで解散。みんなお疲れ」


 副会長は紅茶をグイット飲み干し理事長室を後にした。


 とりあえず副会長の説明で一月上旬の休日にレイとの極限の殺し合い及び転生システムの破壊を行うことが決まった。


 副会長を倒したことで俺が次の副会長になるわけだがあの人みたいに人を引っ張っていけるのだろうか。


 とりあえず十二月の上旬に始まる期末テストで恥をかかない順位にならなければ……

 

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