七十九 永遠という檻
「とりあえず結論から言うと、永遠の生徒会を設立したのは魔王を監視をするためだ」
クオーツ副会長、もといアドルさんは俺に語りだした。
この学園に魔王?
しかも永遠の生徒会に?
「ちょっと待ってください! アドルさんの手紙では大戦後に魔王を転生させないようにしたと書いてありましたよね?」
「そうだ。俺とフレイアが監視しているからな」
大戦では魔王はアドルさん達の手で倒されたんじゃなかったのか……?
でも魔王の死ぬ姿はアドルさん達しか見ることはできないし、そのアドルさんが言うのなら間違いはないのだろう。
「――魔王が生きてるのは分かりました。でも世界中の人々を騙して、学園内で魔王をかくまう必要性が俺には分かりません……」
英雄が魔王を倒したと嘘をついていた?
しかも少年少女が通う魔法学園で魔王をかくまう?
なんでわざわざそんなことを……
「お前が驚くのも無理はない……俺のやってることは英雄失格と言われても仕方がない。ただ、世界を平和にし秩序を維持するにはこうするしかなかったんだ」
アドルさんが申し訳なさそうに答える。
「カズヤさん。魔王を倒しても転生を強制的に防ぐ方法はないんです。レイと同じように……」
フレイアさんが話に割り込んでくる。
「じゃあどうやって転生させないようにしてるんですか……?」
「私達は魔王と話合い、ある役割を与えた」
「ある役割?」
「この学園の生徒会長です」
「まさか!」
ヴェヌス会長の方を見る。
少し沈黙したあと口を開いた。
「――フレイアの言うとおりだ。俺はアドルとフレイアに監視されながらずっとこの学園の生徒会長を務めてきた。魔王という正体を隠して……」
「世界を絶望に陥れた魔王がよく生徒会長なんて引き受けられましたね……」
「私がやってきたことは許されるとは思ってないし、多くの魔族の同胞を殺した人間も許さない。それでも魔族の未来のためにこの役を引き受けようと思った」
なんで多くの人々を殺して反省もしてない奴がこの学園の生徒会長をやってるんだよ……
人と魔族が共に学べる学園なんだぞ……
拳を握り震える俺の肩をアドルさんが叩く。
「――カズヤ。俺は魔王軍に故郷を焼かれ家族を殺された。フレイアも家族を殺された。俺達は魔王を許してはいない」
「それならなんで……」
「人の未来のためだよ。このまま魔王に転生させ続けても終わりはない。俺達は私情を捨てて魔王に人と魔族が共存できる理想郷を作ることを提案した」
「ただ魔王が生存していることを知られれば世界は再び混乱します。そこでアドルの能力によって魔王を若返らせ不老にし、この学園の生徒会長にしました」
確かに大戦後に世界が平和な方向へ進んでいるときに魔王の生存が明らかになれば世界は混乱する。
それに魔王の生存を疑う者がいてもまさか魔法学園の生徒会長をやっているとは思わない。
若返って弱体化したとはいえ世界最強の英雄アドルさんと元聖女フレイアさんが監視をしている。
魔王という存在を綴じ込めて置くには永遠の生徒会は最適な檻だ。
「ヴェヌス会長、あなたは魔族の未来のために会長を引き受けたといいましたけど、今でも人が憎いですか……?」
「――同胞を殺した奴らはな。だが、この島で暮らしてみて考え方が変わった。人と魔族は共存できるのだと……それと同時にかつてこの島を攻撃したことを深く後悔した」
ヴェヌス会長はマルスさんの方を見る。
「――できればメーティスを殺したことも後悔してほしかったですけどね……まぁ生徒会長として貢献してきたことは僕は認めるし、メーティスもエウブレスさんも同じでしょう」
マルスさんは表情を変えず語る。
会長としては認めてもやはり魔王のことはまだ許してはいないようだ。
結局みんな許せないものを抱えながら未来のために協力しているんだ。
それが正しいかはともかく表向きは世界やこの島の秩序が保たれている。
問題はまだまだあるのだろうけど都度解決していくしかない。
「次に俺の能力と永遠の生徒会の関係について説明する。知っての通り、俺の能力は時空間干渉。つまりやろうと思えば若返りと不老もできる」
「若返りと不老……でもやろうと思えばということはできる限りはやりたくないんですよね?」
「その通り。若返りについては俺と魔王みたいな存在が若返るとなると大量の魔力が必要で魔力の使用可能量が大幅に減って戦闘にも支障が出るからな」
なるほどアドルさんが副会長として戦っていたとき、能力の使用に制限があったのはアドルさんと魔王を若返らせていたためなのか。
「ちなみに魔王を今の見た目に若返えらせるには特に魔力を消費したとんでもない長寿だからな……」
実は図書館で調べ物をしていたときに魔王の姿に関する記述を見たことがある。
鬼のような形相で純白と漆黒の羽が生えていて背丈は三メートルを越えるという。
そりゃ今の天使のように美しい顔をしてるヴェヌス会長を見ても誰も魔王とは思うまい。
「不老についてだが俺の能力を隠すためにも契約という形をとった。理事長に忠誠を誓う代わりに不老にするというものだ。契約書に名前を書いて血判を押せば契約完了だ」
「あれ? 契約書ってアドルさんと生徒会メンバーとの契約ではないんですか?」
「んなことしたら意味ないだろ。事前にフレイアとは永遠の生徒会のメンバーに限り不老にできるという血の契約を結んでるんだよ」
不老の能力って限定的とはいえ血の契約で貸すことができるのか……
「言っとくけどいくら血の契約が強力とはいえ安易に神具の能力を貸すなよ。フレイアは元聖女でしかも膨大な魔力があるからできるんだ。並の奴に貸すと死ぬぞ」
うぅ……
見透かされている。
まぁ俺は血の契約を結んでまで貸す能力なんてないけど……
「俺からの永遠の生徒会についての説明は以上だ。何か質問は?」
永遠の生徒会が魔王の監視と生存の隠ぺい、転生阻止などのために設立されたのはわかった。
しかし、それならアドルさんはなぜレイにヴェヌス会長と戦わせた?
負けたら生徒会メンバーでなくなって全て台無しじゃないか。
「あの……ヴェヌス会長はレイに倒されてよかったんですか?」
「それは計画のプロセス通りだから問題ない。転生システムを破壊すりゃ魔王とお前らは転生しなくなって全てが終わるからな。まぁお前らが転生システムを破壊するまでの間は引き継ぎと外部に説明して生徒会に残ってもらうけど」
どういうことだ?
転生システムの破壊は俺とレイだけのための計画ではなかったのか……?




