七十八 理を超えし者達
剣先を胸に突きつけられた先輩は、こちらを見つめしばらく黙っていた。
その目には多少の迷いを感じられたが、軽くため息をつくとその迷いは消えていた。
「フレイア! 百キロメートルほど離れてろ。アレをやる」
フレイアさんは酷く取り乱してクオーツ副会長に訴えかける。
「駄目よ! 万全の状態でさえ身体への負担が大きいのに今の身体では……それに魔力も……」
「一発だけならなんとかなる。それにカズヤに信頼してもらうにはこれしかないんだ」
副会長はフレイアさんに優しく微笑む。
「――分かったわ……カズヤさん。クオーツはあなたのために最強の一撃を放ちます。彼の覚悟を分かっていただけますよね?」
フレイアさんの表情はいつもと違いとても厳しいものだった。
「はい。クオーツ副会長の覚悟に感謝します」
「それでは私は離れます。絶対に死なないでくださいね……」
こうしてフレイアさんはこの場を離れていった。
「さて、カズヤ。お前は俺の本気を引きずり出すと言ったよな? 今から発動させるものは俺の切り札。つまり本気の本気だ」
「はい」
「これを発動させたら俺は暫く動けなくなる。つまり耐えればお前の勝ちだ。それじゃあいくぞ!」
あらかじめ創造の光で防壁を作り副会長の一撃備える。
副会長は金主の剣を地面に突き刺し、柄頭に両手を重ね、詠唱を始める。
「終焉の時は来た。秩序を司る神の剣よ。九つの聖なる刃となりて我と共に敵を滅し乱を治めよ!」
副会長の両眼に九本の線で構成された金色の模様が浮かあがる。
そして、とてつもなく広大な魔法陣が展開された瞬間、光の波動が宙を駆け抜け身体が全く動かなくなる。
でも意識までは止められていないようだ。
嘘だろ?
こっちは創造の光の防壁を張ってるんだぞ?
理を超えた力さえも超えるのかよ。
「いくぞ! 『終乱の九聖刃』!」
副会長が剣をかざすと剣身が光になって天に向かって伸びていく。
そして剣先が見えなくなったところで九本に分かれ、光の刃は広大な魔法陣をカバーできる太さになる。
こうなったら逃げ場はない。
万が一刃を回避できても地面に振り降ろされたときの衝撃と余波で死ぬ。
「これが俺の理を超えた力だ。死にたくなかったら俺を超えるしかないぞ? じゃあいくぜ!」
九本の光の刃はゆっくりと地面に向かって振り降ろされる。
さっきの光の波動が防壁で防げないなら、この巨大な光の刃も防げるとは思えない。
そもそも身体が動かない状態では何もできねぇ……
光の刃はどんどん加速をしてこちらに向かってくる。
こんなところで終わるなんて悔しい……
俺にはまだやらなければいけないことがあるんだ。
俺にもっと力があれば……
副会長ような時空間に干渉できる力が!
そのとき、白創の剣から光が伸びて、副会長の胸に突き刺さった。
「な、なんだ。この光は?」
そうか!
まだ力の創造があったか。
副会長の魂にアクセスして俺の力と合成すれば時空間干渉の力を一時的に使えるかもしれない。
本来は俺の力を相手に分け与えて合成する力だけど、俺が望めば逆もできる可能性はあるんだ。
白創の剣よ。
時空間干渉に耐えうる力を!
副会長の胸に刺さっていた光が強く光ったあと、こちらに戻ってくる。
そして指先から徐々に全身が動くようになる。
巨大な光の刃は目前に迫っている。
受けるか?
避けるか?
違う。
破壊する!
重心を低くして力を溜める。
限界まで身体強化をして、地面を強く蹴り飛び上がる。
「フルスイングで打ち砕いてやらぁ!」
迫り来る巨大な光の刃と白創の剣が衝突し火花を散らす。
「相棒、今こそ理を超えるぞ!」
白創の剣が強く光り、剣身が光の刃に食い込む。
いける!
ここで決めるぞ!
その時、剣身に白い光が帯び、光はどんどん大きくなり巨大な刃となる。
「砕け散れ!」
無心になって白い光の刃を振り抜くと、副会長の光の刃は真っ二つに折れて砕け散った。
残りの八本は地面に衝突し、とんでもない衝撃と余波を起こす。
風翼を出しなんとか上空に退避したけど、ここが時の狭間でなければとんでもない大惨事になっていただろう。
「ハァハァ……カズヤの奴。とうとう俺を超えたか……これでクオーツ・リンドウの役目も……」
副会長が満足した顔で倒れ込もうとする。
「まだだ! クオーツ副会長!」
副会長はギリギリのところで剣を地面に突き刺し耐える。
「せっかく対等になれたんだ。あなたともう一度斬り合いたい!」
青のリングを発動させ光の雨を降らせる。
無差別回復の癒やしの雨だ。
「決着はもうついたのに……我儘な奴だ。いいぜ! さっさと来やがれ!」
副会長が嬉しそうに構える。
「いきます!」
風翼をしまって、真上から斬りつけるも副会長は回避する。
そして俺が着地した瞬間、副会長はしゃがみ込んで横一線に薙ぎ払う。
二人の攻防はヒートアップし、どんどん加速する。
「何もしなけりゃ勝ってたのにおかしな奴だな」
「副会長に主導権を握られたまま勝つのは嫌なんですよ。対等に勝負して勝ちたいです」
「クソ真面目野郎め! でもお前と斬り合うのは楽しいぜ」
副会長が神速の斬撃を放つがすべて受け止める。
「俺も楽しいですよ。あなたとならどこまでも強くなれそうだ!」
こちらも副会長に負けないスピードで斬撃を放つも受け止められる。
「俺もと言いてぇがどうやらこの身体ではここまでのようだ。次やるときは世界最強を賭けてやろうぜ」
「それはクオーツ副会長ではできない約束でしょう」
「それじゃあ先に進むか。次で終わりだ」
「はい!」
白の光と金の光が激しく衝突する。
「楽しい戦いだった。ありがとな」
「俺もです。副会長……お疲れ様でした』
副会長の手から金主の剣が離れる。
感謝の気持ちを込めて俺は副会長を斬るとゆっくりと膝から崩れ落ちていった。
念のために傷口を確認すると、左肩からバッサリと斬ったはずなのに深い傷にはならなかった。
流石は副会長の肉体だ……
「勝負あり。クオーツ・リンドウとカズヤ・ヴァンの副会長の座を賭けた試合はカズヤ・ヴァンの勝利といたします!」
副会長の一撃に多少巻き込まれたのか。
フレイアさんの服はボロボロになっていた。
フレイアさんは副会長に駆け寄り、急いで回復し副会長はすぐに目を覚ました。
「……フレイア。カズヤがとうとうここまで来たぞ……」
「それは喜ばしいことだけど……あんまり無茶しないで。私、本当に心配したのよ! 巻き込まれたし……」
「悪りぃ、悪りぃ。これでもこの身体で出せるだけの出力には押えたし。計画に支障はねぇよ」
「そういう問題じゃ……」
計画ってなんだ……?
「クオーツ副会長、いやアドルさん。計画って何の話ですか?」
「それはヴェヌスとレイとマルスが戻ってきたら話してやるよ。とりあえず、なぜ永遠の生徒会なんてものが必要だったかということから話すことになるが」
「え? 強さで学園の秩序を守るためにあるんじゃないんですか……?」
「それは生徒に向けた表向きの存在理由だ。本当の存在理由は世界を揺るがすものでありごく一部の者しか知らない」
確かに世界最強の英雄であるアドルさんがこんな姿になってまで維持しないといけない永遠の生徒会は世界レベルの危機が関わっていてもおかしくない。
というか弱帯化しているとはいえアドルさんと同等の力を持つヴェヌス会長って何者なんだ?
「おっ、ヴェヌス達が戻って来たぞ」
ヴェヌス会長は何事もなかったようにこちらに向かってくる。
一方、レイはマルスさんに肩を借りながら疲労困憊という様子だ。
まさか……
「レイ!」
レイの元に慌てて駆け寄る。
「お前……」
「――カズヤ……」
気まずい沈黙が続く。
こういうときはどういう言葉をかけるべきなんだ……
「フフフっ……アハハ!」
レイはいきなり笑い出したと思ったら、笑顔で親指を立てた。
「勝ったよ。何度も死にそうになったけどね」
「お前なぁ……俺がどれだけ心配したか……」
「ごめんごめん。でもその調子だとカズヤも勝ったんだね」
「約束したからな」
相変わらずレイは俺をおちょくるのが好きだ。
まぁ負けておちょくる元気がないよりはいいだろう。
本当に二人とも勝ててよかった。
「さて、全員揃ったし。とりあえずカズヤに永遠の生徒会について説明しようか」
そしてアドルさんは永遠の生徒会について語り始めた。




