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英雄の箱庭〜君と共に生きるための物語〜  作者: 松野ユキ
第八章 十一月 共に繋がる楽しさ
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七十七 副会長と金の神剣

 副会長が胸から金色の剣を取り出す。

 この圧倒的な威圧感は間違いなく本物の神具(しんぐ)だ。


 マルスさんによると現在確認されている神具は全部で四つ。


 俺の白創の剣(はくそうのけん)、レイの黒壊の剣(こっかいのけん)、マルスさんの銀守の剣(ぎんしゅのけん)

そして……


「クオーツ副会長、もしかしてあなたの本当の名前はア……」


「今、お前が戦っているのはクオーツ・リンドウだ。余計なことを考えてるとこの『金主の剣(きんしゅのけん)』でぶった斬るぞ!」


 そうだ。

 目の前の敵が誰であろうと最強であることには変わりないんだ。


 今はあの金主の剣がどんな能力を持ち、どの程度の強さなのかハッキリさせることが優先だ。


「まぁ反則のペナルティとしてこの剣がどんなものなのかは教えてやるよ。こいつは通称『神の剣』。四つの神具の中でも特に攻撃に特化したものだ。そして固有の能力は時空間への干渉」


「時空間への干渉って……」


「安心しろ。能力に関しては別件で使用中だからほとんど使えねぇ。そうでなくても何でもありってわけではない。俺の魔力のキャパ以上のことはできない」


 教えてくれたのはありがたいけれど、思った以上に絶望的な能力と強さで鬼に金棒どころじゃないぞ……


「それじゃあ、こいつの力を解放するか」


 副会長が金主の剣をかざすと金色の光が天に向かってぐんぐん伸びていく。


 そして上空に緑色の魔法陣が現れ、その周りは神樹の門のような模様で縁取られている。


 光が魔法陣に達すると魔法陣は金色に輝き、再び光は金主の剣に戻っていく。


 光を受けた剣身には木の枝葉のような模様が彫られ、剣先には鷲と小さな鷹が彫られている。


 仰々しい解放の割には見た目に大した変化はないようだけど……


「カズヤ。これもサービスだ」


 気がついたら剣圧が通り過ぎていた。


 そして俺の右腕がポトリと落ちる……


「え? うわああああ」


「取り乱すなよ。すぐに治るだろ」


 左手で右腕を拾い光の魔法でくっつける。


「まだまだお前は力を使いこなせてないな。ちまちま回復魔法なんて使う必要はないはずなのに。まぁいい。戦いの中で分かるだろ。いくぞ?」


 消えた?

 いや、目で追うな感じろ……


「そこだ!」


 真上から副会長が現れ斬りかかってくるが何とか受けとめる。


「よくわかったな。やるじゃねぇか!」


 副会長の初撃がなければ目で追っていて受け止められなかった……

 

「でも、受けてるだけでは勝負にならねぇぞ?」


 言うとおりだ。

 でもどうやって副会長の動きを捉える?


 時空間干渉がほとんど使えないとはいえ近距離のワープくらいできるなら線で捉えるのは不可能。


 俺の感覚もしくは光の探知で点で捉えても受けるので精一杯。


 せめて副会長を拘束できるのなら……


『ちまちま回復魔法なんて使う必要はないはずなのに』


 副会長がさっき言った言葉が脳裏をよぎる。


 魔法に頼らない回復方法?

 そんなこと……


 いや、俺の身体は今、創造の光でできている。

 それなら回復に頼る必要なんてないのでは?


 一か八かやってみるか……


「どうした? もう終わりか?」


 副会長の連撃は続く。


 そして次の一撃、腹を突きにきたとき……


 ここだ!


「なに!?」


「ようやく捉えましたよ……」


 腹に突き刺さる剣を物質の創造で固めて抜けないようにする。


「くらえ!」


 副会長を左肩からバッサリと斬りつける。


「ウグッ! ――俺が言ったことを理解したようだな。今のお前の身体は光だ。斬られることは怖がることはない」


 そういうと副会長は魔力を込めて剣を強引に引き抜く。


「確かに創造の光でできている身体なら自動再生は使えるようです。けど体力は消耗するし斬られる痛みは変わらないんですよね……」


 腹の傷が瞬時に再生する。


 副会長も斬られた傷が瞬時に再生する。


「死ぬよりマシだろ。疲れることや斬られる痛みを恐れるな。お前がたどり着きたい世界はそういう領域なんだよ」


 俺が目指すレイとの極限の殺し合い。


 互いに死ぬ気で攻めてこそ実現する。


 だからここで引いたら駄目なんだ。


「クオーツ副会長……それならまどろっこしいことは止めて俺と真っ向から斬り合いましょうよ。最強のあなたなら受けてくれますよね?」


「そんな提案に乗るとでも?」


「あなたは絶対に断らない。なぜなら最強だから」


 副会長を信じてじっと見つめる。


「――わかったよ。十八歳のクソガキにそこまで言われて逃げるわけにはいかねぇからな」


「ありがとうございます」


「構えな」


 白創の剣(はくそうのけん)を両手でしっかりと握り締めて構える。


 副会長も距離をとり、金主の剣を構える。


 静寂が場を支配し二人ともピクリとも動かない。

 

 呼吸の乱れはなく心音もいつも通り。

 

 あとはその時が来るのを待つだけだ……



 ――そして永遠に感じられる沈黙は突如破られる。



 俺と副会長が同時に踏み出し、剣身をぶつけ火花を散らす。


 初撃は互角。

 二人は弾き飛ばされる。


 空中に物質の創造で足場を作り反撃しようとすると、副会長は後方に空間の裂け目を作りその中に消えていく。


 着地し、次の攻撃に備えていると。


 正面から空間の裂け目現れ、中から副会長が出てきた。


 わざわざ真正面に出てくるなんておかしい。


 そう感じながらも斬撃を受け止めようとしたとき信じられないことが起きた。


 副会長の剣は俺の剣に触れてないのに剣身が折れた。

 いや、削り取られたのだ。


 そんな馬鹿な……

 

 驚いている隙を副会長を見逃してはくれなかった。


 そのまま容赦ない斬撃が襲ってくる。


 白のガントレットで何とか防ぐも、斬撃はどんどん加速し重くなっていく間に合わなくなってくる。


「クソ! クソ! クソ!」


 必死に防いでいる俺とは対照的に、副会長は悪魔のような笑みを浮かべながら楽しんで斬り刻んでいる。


 とうとう白のガントレットでも斬撃は防ぎきれなくなり、狂刃が身体を斬る。


 痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。


 駄目だ。

 再生ができてもあまりの痛みで思考ができない……


「もうおしまいか? この程度の奴に最強を奪うなんて拭きこんだレイはとんだ大馬鹿ものだな。まぁあいつもヴェヌスに返り討ちにされてるだろうがな!」


 レイが馬鹿?

 返り討ちにされる?


 心にもない挑発だとわかってはいるけど、それを言われて黙ってるわけにはいかねぇんだよ……

 

 最強と言っても所詮はこの世界の話。


 ならこの世界の(ことわり)を越えれば世界最強でも倒せるんだろ?


 クオーツ・リンドウいや、世界最強の英雄アドル・クレスターさんよ。


 約束通り、最強を奪ってやるよ!


「――白創の剣(はくそうのけん)よ。お前もこのままでは終われないよな? 一緒に世界を越えようぜ相棒……」


 すると白創の剣(はくそうのけん)が虹色に輝き出す。

 これまでにない輝きだ。


「あいつに必要だったのは怒りだったのか……」


 副会長が一旦攻撃を止める。


 白創の剣(はくそうのけん)の剣身は再生し、剣身にはルーン文字ではなく、金主の剣のように木の枝葉のような模様が彫られ、剣先には鷲と小さな鷹が掘られる。


 そして目がとても熱くなる。


「カズヤ。その剣身と眼は……試してみるか……」


 副会長が白創の剣(はくそうのけん)に向かって剣を薙ぎ払う。


 見える。

 剣身を空間ごと削り取ろうとしている。


「同じ手はもう通用しません」


 創造の光で剣身を保護する膜を創る。


「空間削りを防ぐだと!? そんなことが……」


「創造しました。ただ最強を奪いたいと願って」


「――なるほどな……安い挑発でもしてみるもんだ」


 副会長は安堵したように微笑む。


 ここまでやってもまだそんなに余裕があるのか……

 悔しい……

 

 初めて心の底から相手の本気を引きずりだして勝ちたいと思った。


 白創の剣(はくそうのけん)の剣先を副会長の胸に突きつけて宣言する。


「今度こそ本気でかかってこい。次で終わらせてやる」

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