七十六 対副会長戦開始
チッチッチッチッ……
理事長室の壁に掛けてある時計の秒針が十二に向かって進んでいく。
秒針が進む度にこれから学園最強の一人であるクオーツ副会長と戦うんだという実感が湧いてくる。
当然緊張はしているけど、ワクワクもしている。
隣にいるレイの顔を見ると流石に緊張していて表情が固い。
そんな俺達に対して、レイと戦うもう一人の学園最強であるヴェヌス会長はソファーに腰掛け紅茶を飲みながら静かにその時を待つ。
俺と戦うクオーツ副会長はというと……
持参した肉サンドを頬張っていた。
相変わらずマイペースな人だ……
そして、秒針がついに十二を指す。
「さて時間になりました。そろそろ時の狭間に向かいましょう。みなさん準備はいいですか?」
フレイアさんがみんなに確認をする。
「大丈夫です」
「僕もいつでもいいよ」
「私も問題ない」
「ちょっと待て!」
クオーツ副会長が残りの肉サンドを慌てて口に詰め込む。
「よし! いつでもいいぜ」
「クオーツ……あなたって人は……まぁとにかく皆さん準備はできたようなので行きましょう。マルス、今日は頼んだわよ」
「分かってるよ母さん。責任をもって最後まで戦いを見届ける」
対決の立会い人の一人であるマルスさんはこれまで見たこのない険しい表情をしていた。
その表情を見て今回の戦いの重要性と厳しさを再認し、改めて気を引き締める。
「それでは時の狭間の入口を出します」
フレイアさんが赤い本に魔力を込めると、本が光り扉が現れる。
「じゃあ、お留守番を頼むわね。セイレーン」
そういってセイレーン先輩に赤い本を手渡す。
「こちらのことはお任せください」
「ありがとう。では皆さん、私に続いて扉をくぐってください」
俺達はフレイアさんに続いて扉をくぐった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
扉の先には青と黒のマーブル模様がグニャグニャと揺らめく空間が広がっている。もう見慣れた光景だ。
「さて、私とレイとマルスはもっと離れた所に行くとしようか」
ヴェヌス会長が両手を突き出し何やら詠唱すると白と黒が混ざった球体が出てきた。
「では、行ってくる」
会長が球体に触れると吸い込まれていった。
「じゃあカズヤ。また後で」
レイは笑顔で手を振った後に球体に触れ、吸い込まれる。
「カズヤくん。今まで教えたことを出し切れば大丈夫。結果を楽しみにしているよ」
マルスさんもまた球体に吸い込まれていった。
三人が吸い込まれると球体は消失した。
「あの三人どこまで行ったんですかね……?」
「さぁな。時の狭間は広いからな。まぁ終わったら集合する座標は決めてあるから迷子にならないだろう」
クオーツ先輩がストレッチをしながら答える。
「――さてと、カズヤ。準備はいいか?」
「あの一言だけいいですか?」
「なんだ?」
左手を胸に当てて、白創の剣を取り出す。
そして副会長に剣先を向けて宣言する。
「今日、あなたから学園最強の座を奪います!」
副会長は眉をしかめたあと、頭を掻きながら言い返す。
「――お前らしくねぇな……さてはレイに何か吹き込まれたな?」
見透かされている……
でも口に出した以上は引けない。
「確かにきっかけはレイです。でも俺はこの先のことを考えたら学園最強を奪うくらいの覚悟が必要だと自分で判断しました」
「この先ってのはレイと戦うためか? というか学園最強を奪うことは俺がやってきたことを引き継ぐことを忘れてないだろうな?」
副会長が剣を鞘から抜き、俺の胸に突きつける。
俺を見つめる瞳は小手先の回答を許さないと主張している。
――ならば正直に素直な想いを言うしかない。
「副会長のように上手くやれるかわかりませんが、人と魔族が希望をもって学べるように全力を尽くすだけです」
少しでも多くの人と魔族を助ける。
それが俺の在りたい姿だ。
立場が変わろうがブレることはない。
「――まぁ百点ではないがお前らしい回答だからよしとするか」
副会長が穏やかに微笑み剣を鞘に納める。
そしてフレイアさんがこちらに近づいてくる。
「話は終わったようですね……それではこれよりクオーツ・リンドウとカズヤ・ヴァンの生徒会副会長の座を賭けた試合を始めます。両者、構えてください」
白創の剣を両手で強く握り構える。
副会長も再び鞘から剣を抜きゆったりと構える。
「それでは始め!」
フレイアさんが退避すると試合は始まった。
「さてカズヤ。お前が鍛えた成果を見せてもらおうか?」
「はい」
白創の剣の剣に想いを込めて強く握りしめる。
剣から白い光が漏れ出し、巨大な光の翼になる。
光の翼が俺を包み込み、拡散すると身体は白い光そのものとなっていた。
「ようやくそこまできたか。俺も力を解放するぜ」
副会長は地面に剣をつき刺すと赤い魔法陣が展開される。
魔法陣から赤い光の柱、いや殺気の柱が出てきて天を貫くほどの高さまで伸びていき、その殺気は全て副会長に集まっていく。
全ての殺気が集まり終えると身体は赤い殺気そのものになって揺らめいていた。
そして副会長の剣身は淡い七色の光を放ち輝いている。
「待たせたな。これが俺自身の力を解放した姿だ。そして、この剣は聖剣『永光』。神具を除けば世界最強の剣だ」
その姿はまさに闘神。
あまりの威圧感に思わず後ずさりしそうになるが、なんとか踏みとどまる。
このまま後手に回ったら反撃すらさせてもらえない。
そう本能が感じとっていたのか、考えるより先に身体が動いていた。
「うおおおおおお!」
剣に帯びている白い光りはどんどん伸びていき巨大な剣身になる。
身体が光になったことで超スピードで動けるようになり、一瞬で間合いを詰める。
先手必勝!
潰れろ!
そう思い剣を振り降ろす。
しかし……
「啖呵を切って後手に回らなかったことは褒めてやる。でもそんなもんで俺を潰せると思ったか!」
軽々と剣を受け止められたあと、腹を蹴られ吹き飛ばされる。
息ができない……
身体が光になったのにダメージが通るなんて……
「何を驚いている? 神具を扱う者の対処法くらいわかってないと思ったか?」
やっぱりこの人は別格だ。
神具に頼っているだけでは勝てない。
「こないなら次は俺から行くぞ?」
副会長がこちらに向かって駆け出してくる。
全力で身体強化をしてカウンターをしてやる!
俺を薙ぎ払うために剣を振りだした瞬間、剣筋を予測して切り込む。
「甘いんだよ!」
副会長はそのまま高速で一回転をして俺を吹き飛ばす。
「やられたら、それで終わりじゃねぇぞ?」
剣を持たないと右手側に周り込み、追い打ちをかける。
「クソったれ!」
右腕の白のガントレットで何とか防ぎ、左手で剣先から光炎を出し反撃をする。
副会長は光炎を両手でかき分け、斬りつけてくる。
「グフっ!」
斬られた瞬間に風翼を出し、上空に退避をする。
「ハァハァ……」
すぐさま光の魔法で創口を塞ぐ。
まともな斬り合いでは勝ち目がない。
何か、何か手はないのか……
「おいおいもう逃げるのか。お前が学園で学んだことはそんなことか?」
学園で学んだこと……
俺はこの学園で色んな人や魔族と出会い、戦った。
そして成長してきた。
人と魔族が共に学び得たもの。
いや、その先にあるもの……
そうか!
まだ俺にはやれることがある。
勢いをつけて副会長に斬りかかる。
「さて、何をしてくれるんだ?」
左手に炎の魔力を、右手に地の魔力を練り上げる。
スカーレット、ケブ。
俺に調和の力を!
そう強く望み剣を強く握ったとき、白創の剣は強く輝き、剣身に赤色と黄色の螺旋が生じる。
「これが俺が学園で友から学んだ力だ!」
互いの剣身が衝突したとき、副会長の剣に螺旋状の魔力が流れ込み、剣身が真っ赤になる。
「――普通の剣ならドロドロに溶けてたかもしれねぇが、こいつはそれくらいなら耐えるぜ」
「まだだ! これは俺の最強への覚悟の一振りだ!」
これまでの学園で出会った人々が幸せになってほしいという思いを込めて全力で振り降ろす。
「こい! お前の覚悟を受け止めてやるよ!」
副会長は俺の一撃を受けとめるために構える。
強く光輝く剣身と真っ赤に輝く剣身が衝突し火花を散らす。
「砕けろ!」
全ての魔力を一点に集中させたとき、白い光が二人を包み込む。
そして、白い光は拡散する。
「ちっ……まさかこんなことになるとはな……お前を見くびっていたよ」
副会長の剣身が粉々に砕け散る。
「ハァハァ……世界最強の剣を砕きましたよ。これで勝負は……」
「そうだな……お前は世界最強の剣を砕いた。神具を除いた最強の剣をな」
「え? 何を言ってるんですか……?」
「――本当はこいつを使うつもりはなかった……クオーツ・リンドウとしてこいつを使うのは反則だからな。でも使わなければ試合は継続できない」
「クオーツ! それは……」
フレイアさんが制止する。
「フレイア。ルールは破るのはすまんが、あくまでクオーツ・リンドウとして最後まで戦う。それにここで終わればカズヤは理を超えられない」
「――はぁ……わかったわ。もうあなたの好きにして……」
副会長が右手を胸に当てると光が漏れ出し、金色の剣を胸から取り出した。




