七十四 共楽の連繋
「カズヤ……その輝きは……」
ケブが俺の左手のリングを見て驚く。
「俺達の想いに神具が反応した。なぁケブ。お前は今何を望んでいる……?」
「……俺はお前ともっと剣を交えて楽しみたい! そしてお前との繋がりを実感したい!」
ケブは全身全霊の力で大剣を振り降ろす。
親友の願いが込められた一撃。
俺ならば受け止めてくれると信じて放つ一撃。
振り降ろされる大剣を受けると、どんどん重くなり身体強化をしても押し切られそうになる。
「カズヤ。まさかお前の力はこんなもんじゃないだろ?」
「お前がそう信じてくれるなら、それに応えないと楽しくねぇよな…… 白のリングよ! 友の想いに応え、繋がりを創る力を!」
白のリングの輝きは更に増し、俺とケブを白い光で包み込む。
そして、俺の頭の中に英雄の記憶が映像として流れ込んでくる。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
これは英雄の覚悟の記憶。
「本当に一人で行くんだね?」
マルスさんが真剣な表情で確認する。
彼女とは二人で戦い、いや対話をしたいんです、と彼が穏やかな表情で答える。
この会話の前、彼はこの島の人と魔族に悪魔のことを聞いて回っていた。
しかし悪魔を恐れてか、有益な情報は得られない……
ただ、彼が悪魔を倒しに来たというと、人も魔族もどうかあの悪魔を殺してくださいと涙を流し懇願された。
人と魔族が一緒になって残虐な悪魔を殺せ殺せと一致団結する。
メーティスさんは人と魔族の共存を望んでいたけれど、こんな形で共存するのが本当に正しいのだろうか? と彼はふと思ってた。
そんな疑問を抱えていると年老いた竜人に出会い、悪魔について尋ねた。
竜人は悪魔について次のように語った。
破壊の悪魔は最初は人間の少女だったらしく、当時の島の魔族長が殺されたことがきっかけで悪魔の力を覚醒した。
そして、その力で対立していた島の人間を大量に殺すと、魔族は彼女を崇めた。
しかし、彼女は人だけではなく自分と対立する同胞の魔族も徹底的に破壊するようになり、魔族は彼女を腫れ物扱いし避けるようになった。
恐れが惨劇を生み、惨劇が恐れを生む。
負のループの始まりだ。
その結果、いつしか彼女は人間も魔族も等しく殺すようになっていた。
そうなると人と魔族は対立をしている場合ではなくなり、結託して共に彼女を殺すことを目指し、今に至る。
この話を聞いて彼は人々が彼女に怯えるのは当然だと思うと同時に彼女と話をしたくなった。
創造の力を持つ者と破壊の力を持つ者は対の存在である。
ならば自分が背負わされた宿命があるように、彼女にも背負わされた宿命があるはずだ。
彼女がやってることは決して許されないけれど、自分が背負わされた宿命に悩み苦しんだように、彼女も背負わされた宿命に悩み苦しんでいるかもしれない。
もしそうなら放っておけない。
そこで彼は決断した。
命を使ってでも彼女と対話をする。
背負わせれたもののせいで絶望して孤独のまま死ぬなんてふざけたことを許さないために……
――――記憶の映像はここで終わった。
英雄は戦う前から悪魔の孤独を感じてとっており、命をかけて対話を試みた。
結果、死闘の果てに二人は対話をして繋がることができた。
そして二人は希望ある夢を共有し消滅した……
異世界の悪魔のためにここまでできる英雄。
俺も信じたもののために最期まで戦える自分でありたいものだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
意識が戻ると、白い光は白創の剣集まり、鍔の中央に白い宝玉が埋められる。
それ以外は外見の変化はないが魔力が以前とは比べ物にならないくらい増幅しているのを感じる。
そして新しい力の使い方が頭に流れ込んできた。
新しい力は「繋がりの創造」
力、知識、記憶、想いなどを共有することができる。
条件は二つ。
一つ目は楽しみの感情が元にあること。
二つ目は互いに魂のアクセスを許可すること。
なおアクセスの許可は無意識下においても可能。
ただし、共有して使用できる範囲は本人の肉体や精神に耐えられものである。
また、神具や契約などによって得た力は共有できない。
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「おい! カズヤ!」
意識を戻るととケブの声が聞こえる。
「ごめん。待たせな」
「いや待たせというか。お前、意識を失いながら戦ってたぞ……白い光に包まれたと思ったら、剣が弾かれて無言で斬りつけてきてビックリした」
全く覚えていないがケブがそういうならそうなんだろう。
「悪い悪い。でもここからが本当の勝負だ」
「その剣の宝玉……また新しい力を手に入れたのか。こりゃ長期戦は厳しいな」
「だったら次で決めるか?」
「楽しい宴ももうお開きだな。いくぞ!」
ケブは駆け出して高く飛び上がり、大剣を最大限の重さにして叩きつけてくる。
もはや斬るというよりへし折るための一撃だ。
そんな一撃をまともに受けてたら今までの俺なら両腕は無事ではすまなかったかもしれない。
しかし、新たな力を得たことで余裕を持って受けることができた。
「ケブ。俺はお前のことをもっと知りたい」
「俺もだ。カズヤ」
「分かった。じゃあお前と俺の過去の記憶を共有させてもらうぞ?」
「――笑うんじゃねぇぞ?」
「お前もな」
繋がりの創造を発動させる。
白い光の糸が二人の胸を繋ぐ。
ケブの過去の記憶が流れてきた。
妹が猛獣からマルスさんに助けられたこと。
英雄ごっこでいつも魔王の手下役ばかりさせられていたこと。
人からも魔族からも英雄になんてなれないと馬鹿にされていたこと。
魔法が上手く使えなくても戦えるように日々肉体を鍛えていたこと。
勉強は苦手で魔法学園に入るために寝る間も惜しんで毎日勉強したこと。
他にも色々あるが英雄になりたいという夢のために苦労してきたことがよくわかる。
それでも諦めない熱意と努力は本当に尊敬する。
「ケブ、絶対にいつか英雄になれよ」
「カズヤ……お前も必ず過去を乗り越えて信じられる自分を手に入れろよ」
「あぁ……じゃあこれで終わりだ」
「楽しかったぜ」
白創の剣を強く握り、全ての魔力を身体強化につぎ込む。
下半身に力を入れ、振り降ろされた大剣を砕く。
そしてケブの眼前に剣先を突きつけた。
「――決着だ。ありがとうな」
「礼を言うのこっちだよ」
ケブの表情に悔しさはない。
やりきったという充実感で溢れている。
マルスさんに防壁から出してもらうと、レイとスカーレットが先に出ていた。
スカーレットは気を失って横たわっているが命に別状はなさそうだ。
レイは左腕に火傷をしているがまだまだ余裕はありそうだ。
そして笑顔で俺に話しかけてきた。
「やぁカズヤ。どうやら新たな力を発動させたようだね。神具の第二階層制覇おめでとう。ケブはどうだったかい?」
「予想以上だよ。新しい力が発動してなかったら危なかった。そっちは?」
「こっちも予想以上。まさか炎の王と契約してくるとはね……あれと契約できるなんて世界でもグリットさんくらいだ。破壊の力を使う余裕もなく本気でスカーレットを気絶させに行った」
炎の王について学園の授業で少し聞いたことがある。
この世界の全ての炎の精霊を統べる最強の炎の精霊だ。
精霊の王は四属性それぞれにいるが破壊力に関しては炎の王が断トツらしい。
グリットさんのコネで契約できるほど甘くはないだろう。
きっと想像を絶することがあったに違いない。
「みんな戻ってきたからとりあえず回復しようか」
「あっ、マルスさん。多人数の回復なら俺に任せてください」
「じゃあカズヤくんに任せようか」
白創の剣をかざすと青のリングが光り、その光は剣の宝玉を青く輝かせる。
青色の巨大な魔法陣が空に浮かび、光の雨が振り出す。
俺達の傷は一瞬で治り、ケブの折れた剣も元通りになる。
「相変わらずデタラメな回復力だね。こんなのできるのは母さんくらいだよ」
マルスさんが呆れながら肩をすくめる。
というかフレイアさんは神具んなことできるのか……
まぁ世界トップクラスの元聖女ならこれくらいはできてもおかしくないか。
そんなことを考えていたらスカーレットが目を覚ました。
「うぅ……レイ様……私の全てを出し切ったのに全く相手になりませんでしたわ……」
大粒の涙を流してうつむいている。
「――スカーレット……僕が君を速攻で気絶させに行ったのはそれほど脅威だと思ったからなんだよ? 本当は君ともっと話をしたかった。ごめんね」
「私が脅威? あの品のない化け物を完全に支配できなくて暴走していただけですわ……」
おいおい炎の王を品のない化け物呼ばわりかよ……
でもグリットさんだけと契約するくらいだ。
きっとその豪胆な精神を気に入られたんだろうな……
「その若さで炎の王と契約できること事態が驚きだ。よく頑張ったね。親友として誇らしいよ」
レイは優しく微笑みながらレイの頭をそっと撫でた。
「レ、レ、レイ様ぁ……私、もっと強くなりますわ! そしていつかレイ様のとなり立てるように……」
スカーレットは両拳を握りしめてレイに誓う。
「うん、楽しみに待ってるよ。炎のスカーレット」
そういってニコリと笑う。
レイにとってスカーレットは炎の令嬢ではなく、炎のスカーレットなのだ。
「なぁ、ケブ。これから俺がどうなっても馬鹿なことをして楽しめる関係でいような」
「クソ真面目なお前がいう馬鹿なことが何か分らんが、言われなくてもそのつもりだ」
ケブがワハハと大声で笑う。
頭では分かっていても実際にぶっかってみないと実感できないことがある。
無駄に思えることかもしれないけれど、それが許される繋がりを今後も大切にしていきたいと思う。




