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英雄の箱庭〜君と共に生きるための物語〜  作者: 松野ユキ
第八章 十一月 共に繋がる楽しさ
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七十三 交わる友の剣と伝わる矜持

 十一月もすで下旬となっていた。


 学園にいるとき以外は、早朝、放課後、深夜、身体が動かなくなるまで剣を振り続け、時間はあっという間に過ぎていく。


 一振りすれば副会長に近づける、そしてその先にある未来への道を切り開ける。そう思うと楽しくて楽しくて仕方がなかった。


 この世界に来る前にも部活動で自習練習を本気でやってはいたがこんな感覚は初めてだ。


 こんな異常な生活を続けられたのは、身体が動かなくなったときにフレイアさんが癒しの魔法をかけてくれたおかげだ。


 理事長であるフレイアさんは生徒のオーバートレーニングは本当は止めるべきではあるのだけれど、今回の副会長との戦いの重要性から止めることはできないのだろう。


 フレイアさんは癒やしの魔法を初めてかけてくれたとき『カズヤさんばかりに過酷な運命を背負わせてしまってごめんなさい……』と悲しそうな顔をしていた……


 そんなフレイアさんに俺は一言だけ感謝を込めて伝える。


『俺がやりたいことをフレイアさんや、みんなのおかげでやれてるだけですよ』


 その一言を聞いたフレイアさんは『――あなたならあの人を超えられる。この世界に来てくれて本当にありがとう』と笑顔で答えた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 早朝の鍛錬を終え、教室に入るとレイとケブとスカーレットがいた。


 席に着くとレイが満面の笑みで話しかけてくる。


「やぁ、毎日死ぬ気で頑張ってるらしいじゃないか。調子はどうだい?」


「フレイアさんのおかげで疲労はないよ。日々自分が強くなるのが分かって充実している。ただ白創の剣(はくそうのけん)が反応しないのは気がかりだな……」


「まぁそれはまだその時でないだけだろう。今は自分の望みを強く込めることに集中しなよ」


「そうだな。ところでケブとスカーレットなんだけど……」


 ケブとスカーレットは二学期の初日にようにぐったりと机に突っ伏していた。


「うーん……あの二人は今月に入ってまたグリットさんに鍛えてもらってるんだって。僕が目的を聞いても教えてくれないんだ」


「ケブはともかく、あのスカーレットがお前に秘密? 本当に大丈夫なのか……?」


 恐る恐るスカーレットの方を見ると、ゆっくりと顔を上げる。


「――私なら大丈夫ですわ……ご心配をかけて申し訳ありません。そしてこの特製ドリンクを飲めば……」


 スカーレットは鞄から怪しいラベルが貼ってある小瓶を取り出し、一気に中身を飲み干す。


 そしてもう一本取り出してケブの口に無理やりつっ込む。


「スカーレット! もっと優しく飲ませろよ!」


 ケブが顔を真っ赤にして怒る。


「あら、元気が出たじゃないですの。やはりグリットさん特製ドリンクは良く効きますわね」


 スカーレットがクスクスと笑う。


 それにしてもグリットさんは特製ドリンクまで作っているのか……

 まぁ金儲け大好き肉体労働上等なあの人ならそれくらい作っていてもおかしくはない。


「ま、まぁ……元気が出たようで安心したよ。でもあんまり無茶はするなよ?」


「――お前やレイ様が無茶するなら俺達は指をくわえて見てるわけにはいかないんだよ」


「――どういうことだ……?」


「今鍛えているのは二人と戦いたいからだ。この戦いが終わったら二人とも俺達の手の届かない所に行ってしまうからな」


 レイがため息をついて二人に言う。


「そんなことならもっと早く言ってくれたらいつでも相手になったのに……」


「申し訳ありません……でもギリギリまで鍛えた上で俺達の想いを剣を交えて伝えたかったのです!」


「四月にレイ様とカズヤが会長と副会長を倒せるようにサポートすると約束しました。今では言葉だけで送り出すことしかできませんが、親友としての矜持がそれを許せなかったのです……」


 傍から見れば言ってることは無茶苦茶だ。

 でも俺には二人の気持ちが分かる。


 俺達のことを本気で親友と思って向き合いたいと必死になり、そのことを誇りに思っている。


 俺だってレイと本気で向き合うためにどれだけ差があろうが必死になってきた。それは今の自分を信じる糧となり前に進めている。


 二人の望みに応えてあげたいし、俺も二人と向き合いたい。


「レイ……」


「分かってるよ。理屈じゃない。僕と向き合うことを誇りに思ってくれる。そして言葉だけで送り出すことをよしとしない親友の矜持。それに燃えないわけがないだろ」


 こちらを見た後、目を輝かせ二人に微笑みかけた。


 レイ、やっぱりお前って最高だよ。

 思わず口角が上がってしまった。


「二人とも今日の放課後は時間が開いてるか? レイも大丈夫か?」


「私達は大丈夫ですわ。グリットさんには後で伝えておきます」


「カズヤ、レイ様……ありがとう」


 ケブが涙を目に溜めて礼を言う。


「クオーツ副会長なら絶対に行ってこいというから全く問題ないね。カズヤは?」


「もちろんマルスさんには連絡するよ。じゃあ放課後にみんなでカロカイ島に行こう。ケブは風の魔法で移動できるか……?」


「私がケブさんと一緒に風魔法で移動するから問題ありませんわ」


「――すまねぇ……スカーレット……」


 こうして放課後、無人島のカロカイ島で俺達は戦うことを約束した。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 放課後、カロカイ島の平野に着くとマルスさんが待っていた。

 今日は稽古はキャンセルと伝えたはずなのだが……


「マルスさん、今日は稽古はキャンセルとお伝えしたと思うんですけど……」


「確かに稽古をキャンセルは了承した。でも僕が来ないとは言ってないよ。子供たちだけで本気の決闘させるわけにはいかないしね。もちろん母さんもこのことは知っている」


 うっかりしていた。


 学園の生徒同士での決闘は基本的に禁止されており、教師及び学園長が認めた者が立ち会うのならば例外として認められている。


「まぁ今回は連絡を受けた時点で立合人がいるのか確認しなかった僕のミスだ。今回は僕が決闘を見届ける。怪我をしても責任を持って全て治すから思いっきりやっていいよ」


「すみません……ご迷惑をおかけして……」


「妹のことをここまで思ってくれる友人達のためなら喜んで協力するさ」


「兄さんありがとう」


「それでどういう形式で戦うんだい? 二対二かい?」


 マルスさんが問うとケブとスカーレットが顔を見合わせて答えた。


「俺はカズヤと一対一で戦いたいです」


「私はレイ様と一対一で戦いたいですわ」


 俺としてはケブとは一度本気で剣を交えてみたかった。

 でもレイはどうだろうか?


「スカーレット……今の僕に一人で挑むという意味を分かってるよね? 本当にケブと二人でなくていいのかい?」


「――私はこの学園に入学してからずっとレイ様のことをお慕いしておりました。たとえどれだけ絶望的な差があろうと、最愛の親友として本気で剣を交えたいのです」


 スカーレットが本気のレイの強さを知らないわけがない。それでも強い意志を持って踏み込めるのは、彼女がレイに尋常ではない憧れと愛情を抱いているからだろう。


「分かった……僕も君の全てが見たい。二人でやろう。カズヤはこれでいいかい?」


「俺もケブとは戦ってみたかった。丁度ご指名されてるしな」


 ケブの方を見ると、軽く頷いている。


「それじゃあ、防壁を構築する。今回は二つあるから外から君達を見守っているよ」


 マルスさんが俺とケブ、レイとスカーレットのために二つの防壁を構築する。


 少し狭いが十分に戦える広さはある。



「ケブ、最初から本気でいくぞ?」


 そう言うと白創の剣(はくそうのけん)を胸から取り出し、力を開放する。

 

 すると全身が白い光に覆われ、右腕には白いガントレットが装着される。


「――やっぱりカズヤはすげぇよ……でもお前と戦うために俺も必死に鍛えてきたんだ!」


 ケブはその大きな体躯から想像もできない速さで一気に間合いを詰めて大剣を振り下ろす。


 大剣を受け止めたとき、とんでもない重さが加わり足が地面にめり込む。


「なんだこの重さは……?」


 身体強化が間に合わなかったら腰まで埋められていた。


 重力操作の魔法?

 いや、それなら初手で使ってくるはずだ。


 何にせよあの剣を安易に受け止めるのは不味い。

 とりあえず距離をとらなければ……


 光炎を放ち、ケブが怯んだ隙に後方に下がる。


「攻撃はまだ終わらないぞ!」


 ケブが大剣を高速で振ると複数の空気の刃が飛んでくる。


「その大剣をそんな軽々と振るのかよ!」


 魔法で強化された六方晶ダイヤモンドの盾を出して防ぐ。


「どうだ。カズヤ?」


「想像以上だよ……強くなったな」


 関心してばかりもいられない。

 俺も死ぬほど鍛錬してきたんだ。


「ケブ……今度は今の俺を見てくれよ」


 白創の剣(はくそうのけん)を強く握り、地面を蹴り出す。


 ケブは何とか初撃を受け止める。

 いや受け止めさせたのだ。


「……行くぞ!」


 高速の斬撃が始まる。

 

 ケブが受ければ受けるほど斬撃の速度は上がる。

 

 集中力は極限まで高まっていき、ケブだけではなく周囲の全てがどんどん俺と一つになっていく。


 しかも高速斬撃は日々の鍛錬と白創の剣(はくそうのけん)の力により、より重く、変則的になり、ケブを切り刻んでいく。


「どうだケブ?」


「――原始の精神の開放か……俺もようやくたどり着いたんだぜ!」


 ケブは目を見開くと超高速の斬撃を繰り出す。

 俺と比べたら速度も精度も劣るが一撃の重さが違う。


「噓だろ? その大剣と体躯でここまで動けるのかよ!」


 以前、大剣を持つグリットさんが超高速斬撃を繰り出してきたらどうなるかと考えたことがあった。


 その答えが今ここにある。


「カズヤその程度か? 俺にはグリットさんからもらった重さを自由に変えられるこのグラヴィティソードがある。まだまだ策はあるぞ?」


「面白いじゃねぇか! もっともっと色んな手を見せてこいよ!」


 なるほど剣そのものの重さを操っていたのか。


 それに加えて原始の精神による超高速斬撃、そしてケブ自身の腕力。


 ケブは本当に強くなった。

 今の俺達が本気でぶつかればもっと高みにいける。


「カズヤ! 俺は今人生で一番楽しい。もっとお前と剣を交わして繋がっていたい!」


 ケブは大剣の重さを最大にして斬り込んでくる。


「俺もだよ! お前とこんな風に戦えるときを待っていた」


 剣を交わすことで伝わる互いの矜持。


 それは二人を繋げ、楽しさを共有する。


 二人の想いが頂点に達したとき、左手の白のリングが強く輝きだした……

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