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英雄の箱庭〜君と共に生きるための物語〜  作者: 松野ユキ
第七章 十月 さまよう記憶の哀しみ
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七十 旅立ちの夜明け

 レイと共にケブとスカーレットの元に駆け寄ると、二人は一方的にメーティスさんを攻めていた。


 ――いや違う。


 二人はメーティスさんの言うとおりに攻撃させられている。


「ケブ君、もっと地の魔法を使ってサポートして! スカーレットちゃんはケブ君としっかりタイミングを合わせて!」


 これではまるで二人に稽古をつけているみたいじゃないか。


「あら? カズヤ君とレイちゃん。思ったより早かったわね」


 メーティスさんは少し驚いた顔でこちらを見る。


 そのとき、スカーレットとケブがメーティスさんを挟み撃ちにしようとするも、スカーレットの仕込み刀は受け止められ、続いてケブの大剣も受け流されてしまう。


 すぐさまケブは体勢を整え、地魔法でメーティスさんの足元を拘束する。


「今だ! スカーレット!」 


 スカーレットが受け止められている仕込み刀を外し、ギリギリまで無駄を省いた動作で次々と豪火球を放つ。


 ――学生相手ならひとたまりもないだろうが……


 砂煙の中から赤、黃、緑、青、そして黒の五色の宝玉に囲まれたメーティスさんが球体状の防壁に包まれて出てくる。

 

「格上相手に怯まずちゃんと連携できているのはいいわね。でも二人が学園で学んだことはそれだけ? それなら六十点かな?」


「クソ! どれだけ攻めのバリエーションを増やしてもメーティスさんの裏をかけない!」


「四属性の魔法を完璧に使いこなして変幻自在過ぎますわ……」


 二人とも地に膝を着き、かなり息が上がっている。


 体力も魔力もかなり消費しているようだ。


「ケブ! スカーレット!」


「――カズヤ……そっちはもう終わったのか……」


「流石はレイ様ですわ……それなら私たちも!」


 二人は歯を食いしばり再び攻立てるも、すぐに弾き返されてしまう。


 やはりメーティスさんは一筋縄ではいかないか……


 苦戦する二人にどうアドバイスしていいか分からずに迷っているとレイが口を開いた。


「――二人とも僕とカズヤが手を貸そうか?」


「レイ! メーティスさんは二人に任せただろ? それに今のお前は……」


 次に続けようとした言葉はレイの真剣な眼差しによって遮られる……


「はっきり言おう。今の君達ではメーティスさんには勝てない。それでもまだ本当に二人で戦う意味があるのかい?」


 残酷な言葉が静寂に響く――


 ケブとスカーレットはレイを一目みて、視線を落とし、それぞれの武器を強く握る。


「あのね、レイちゃん……私、こんな仲違いを見せられても……」


 メーティスさんが困惑した顔でレイをなだめる。


 違う。


 レイは仲違いなんて見せたい訳ではない。


 この戦いの本来の目的を思い出させたいんだ。


「ところでカズヤ、エウブレスさんはもういないけどまだ二人だけで戦わせる? たぶん僕の考えと君の考えは同じだと思うけど……」


 レイの魔力は残り僅かだ。今強がって立っているのも精一杯なんだから戦わせるわけにはいかない。


 とは言え、レイ抜きの三人で戦っても中途半端なものしかメーティスに示せない。


 つまり、俺が二人に言えることなんて一つしかないじゃねぇか……


「ケブ、スカーレット! 俺はまだお前たちが勝てると信じてる。そして人と魔族が共に学園で学んだ先を見せてくれ!」  


 無茶苦茶なお願いなのは分かっている。

 それでもこの二人ならできると思ったから任せたんだ。

 

 ケブとスカーレットがキョトンとしてこちらを見る。


「――聞いたか、スカーレット? カズヤはまだ俺達を諦めないとよ……」


「本当にクソ真面目で笑っちゃいますわね。――でもカズヤがいたから私達はこうやって共に戦っている」


「あいつがいなければ俺は口だけで英雄になりというだけのオークのまま成長できなかった」


「そしてカズヤがいなければそんなあなたを馬鹿にする傲慢な令嬢でしかなかったですわ」


 二人は再びこちらを見てニコリと笑う。


 メーティスさんの方を向き直す。


「ようやく、答えは決まったようね……さぁ見せてちょうだい!」


 メーティスさんは杖を二人の方に向け、五色の宝玉を前方に展開させて待ち構える。


「じゃあ、行きますわよ! 未来の英雄さん!」


「おうよ。学園で出会い、学び、成長することで得た、今見せられる共存の先を見せてやろうぜ!」


 まずはスカーレットがメーティスさんに六本の火柱を立ち上げる。その火柱は回転をし始め、メーティスさんを閉じ込めた。

  

 火柱を鎮火しようとメーティスさんが青の宝玉を発動させようとするが、ケブが地魔法で足場を崩してそれを阻止する。


 さらにスカーレットが崩れた足場に炎を伝わせてると、岩と炎が吹き上がり大爆発が起きる。


 メーティスさんが黒の宝玉を発動させると、禍々しい紫色の光が大爆発から身を守る。


「今更、闇の魔力でビビってないよな? スカーレット?」


「こんな時にご冗談を……レイ様に比べたらこんなもの大したことありませんわ! 行きますわよ!」


 二人は同時に駆け出すと闇の魔力を突き破り、メーティスさんの杖を突く。


 ケブの大剣とスカーレットの仕込み刀の先から二人の魔力が流される。


 ケブとスカーレットの魔力は螺旋状に杖を覆う。


「――なるほど……ケブ君とスカーレットちゃんの共存の先というのは調和か……」


 スカーレットさんが杖を投げ捨てる。


 最終的にケブの地の魔力とスカーレットの炎の魔力が混ざり合い、杖は鈍く赤色に輝きドロドロに溶けていった。


「そうです。学園で苦楽をともに分かちあい、さらに互いの良いところを調和させていくのが俺の答えです」


「私達は、時には対立しながらも互いに助け合い、学園を卒業しても共に新たな可能性を見つけていきますわ」


 ケブとスカーレットがメーティスさんに大剣と仕込み刀を突きつけ宣言する。


「――人と魔族が一緒に学び、さらに共存と調和をしながら発展させていく。そんなことが当たり前になるなら……私が死ぬのは少し早かったかもね。合格よ」


 メーティスさんは寂しげに語る。


「さて……決着は着いたようだからメーティスにマルスとの最後の別れをさせてくれないか?」


 エウブレスさんが屋外訓練場に張られた防壁を解除すると、空は漆黒から藍色になっていた。


 空と山の狭間には藍色とオレンジの色のコントラストが映える。


「メーティス……君と過ごした日々は本当に楽しかった。戦うことばかり求められた僕に光をくれた」


「それはこっちのセリフよ。あなたの執拗な『守ってあげるから勉強を教えて』アプローチがなければ、私はエウブレスさんと引き籠もってたわ」


 メーティスさんが勝ち気な目をしてマルスさんの顔を覗き込む。


「ははは……そんなこともあったかな……」


「それで? あなたはこれからどうするの?」


「今はやるべきことをやるよ。全てを終わらすことができたら学園の教師でも目指そうかな?」


「あなたがくればフェイもきっと喜ぶわね」


 二人はフェイ先生をチラリと見るとフェイ先生が微笑む。


「さて、メーティス。まだ言いたいことは沢山あるけれど、別れが惜しくなるからもう止めるよ。――今まで本当にありがとう……」



 マルスさんは自身の唇をそっとメーティスさんの唇に重ね合わせる。


 するとメーティスさんが光り出し、機械人形から霊体が出てくる。


「もう時間だな。メーティス。何か言い残したことはあるか?」


「エウブレスさん、私なんかのためにここまでしてくれてありがとう……」


「――本当はお前を生きてこの島に返したかった……すまない……」


 エウブレスさんが地面に手を着き泣き崩れる。


 その姿を見たメーティスさんは寄り添うように優しく微笑み語りかける。


「私の夢をその先まで見せてくれたんだから充分幸せだよ。あ、エウブレスさんはまだこっちに来たら駄目だからね!」


 エウブレスさんに向けられる笑顔は娘が父に向けるもののように感じられた。


「あぁ……暫くはこっちで冥王をやっているよ……」


 そして、メーティスさんはすっと立ち上げり俺とレイの方を見る。


「カズヤくんとレイちゃん。良い仲間を持って良かったね。あなた達なら宿命は変えられる!」


 この天才メーティス様を信じなさいと胸を張る。


「そう言っていただけると心強いです」


「あなたが愛した兄さんが悲しむ結末にならないように頑張りますよ」


 俺とレイがそう言い返すとフレイアさんがメーティスと対峙した。


「メーティスさん。これまでお疲れ様でした。この学園があるのはあなたのおかげです」


「かつてフレイアさんが火の大国で私を匿ってくれなかったら、夢を託すことすらできませんでしたよ。こちらこそ本当にありがとうございます。それではもう時間なんで……」


 メーティスさんの霊体が朝日に照らされ消えかかる。


「それじゃあ、みんなバイバイ!」


 笑顔で手を振りながらメーティスさんは新たな旅をスタートさせた。

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