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英雄の箱庭〜君と共に生きるための物語〜  作者: 松野ユキ
第七章 十月 さまよう記憶の哀しみ
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六十七 夢の先へ

「さて、メーティスの魂のプロテクトを解除するわけだが、ワシでも解除方法は分らんからまずは解析をしなければ……」


 エウブレスさんはメーティスさんの霊体に手をかざし、魂を保護するプロテクトの解析を始めた。


「別にそんな面倒なことをしなくても僕の破壊の力でプロテクトだけ破壊してもいいんですよ? トラップはもうないわけですし」


 頭の後ろで手を組みながらレイが退屈そうに問う。


「メーティスがプロテクトを強引に突破されたときの対策をしてないわけなかろう。あくまでそれは最後の手段だ」


「まぁそれもそうですね。じゃあのんびりと待たせてもらいますよ」


 レイはそういうと欠伸をしながら近くの岩に腰を掛けた。


 先程の戦闘では大して苦戦はしていないが少し疲れているように見える。


「流石のお前でもやっぱりキツイか?」


 レイの隣に座る。


「いや? 眠いだけだよ。今日は早く寝たかったしね」


「少し仮眠を取っていいんだぞ? 解析が終わったら俺が起こしてやるよ」


「優しいんだね。朝のことを気にしてる?」


 レイは意地悪そうに笑う。


「悪いかよ。とにかくお前は休め。まだ時間がかかりそうだ」


「じゃあ……お言葉に甘えて……」


 そういうとレイは俺の肩にもたれかかり眠り始めた。   


 いつもなら「おい、何してんだ!」というところだが、起こすのは可哀想なので、今はゆっくりと寝かせてあげることにした。



 それにしても相当疲れていたのか、通常では考えられないほど無防備に眠っている。


 生徒会メンバーとして学園祭の準備のために奔走し、ヴェヌス会長との対決に備えての鍛錬、加えて今回のメーティスさんの件まで対応しなければいけなくなった。


 いくらこいつが超人でも限界というものがあるのだろう。


 自由奔放に見えてみんなのために動く。

 慕われるわけだ……


 でもこいつの悪魔の力を生徒たちが、島の住民が知ったらどう思うだろうか。


 庇う人々はたくさんいるだろうが、受け入れられない人々もいるかもしれない。


 どちらにせよ俺はこいつと共に暮らせるようにするだけだ。

 

 それが前世の英雄の意思であり、俺自身の夢でもあるから……


 

「――カズヤくん、お邪魔をして申し訳ないけどエウブレスさんが解析を完了したそうだ。レイを起こしてくれないかい?」


 マルスさんがいつもの笑顔で俺を呼びにきた。


 大切な妹が男の肩にもたれかかって寝てるのにいつも通りの笑顔なのが怖い……


「す、すみませんマルスさん……」


「なに僕は君を一人の男として信じている。これからも妹をよろしく頼むよ」


 そう言ってマルスさんは大きな背中を見せるようにゆっくりとした足取りでエウブレスさんの元に戻っていった。

 

「おい、レイ! 起きろ!」


「むにゃむにゃ……僕もう食べられない……」


「そんな分かりやすいボケはいいから、エウブレスさんの解析が終わったぞ!」


 こいつが食べ切れない量ってどんな夢を見ていたんだ……


「おはようカズヤ。少しはドキドキしたかい?」


「まだこんばんはだ。早く行くぞ」


 レイの少し乱れた髪と寝起きの顔にドキドキしながら、エウブレスさんの元に向かった。


「解析が終わったってマルスさんから聞いたんですけど……」


「時間がかかってしまったがなんとか解析できた。特殊な魔法陣やら暗号やらが複雑に組み合わされていて流石メーティスという代物だったよ」


 ちなみに正規の手順を踏まずにプロテクトを解除した場合は、魂の可視化を強制解除するトラップまで仕込まれていたそうだ。


「では解除するぞ」


 エウブレスさんがメーティスさんの霊体に両手をかざすと五つの小さな魔法陣が宙に浮かぶ。


 それを一つずつ順番に解除していくと、五つの魔法陣の内側に光の枠が出てくる。


 その枠内に魔力で古代文字を長々と記入し、両手をかざし魔力を込めると、小さな五つの魔法陣が回転して枠ごと霊体の中に取り込まれる。


 するとメーティスさんの霊体は強い光を放ち輝き出した。


 

「――おはよう。ってまだ夜じゃん……あなた達は誰?」


 メーティスさんの霊体が喋りだした。


「メーティス! ワシだ。エウブレスだ! それにマルスもおるぞ」


「エウブレス? マルス? ごめんなさい。覚えてないの……」


 やはり記憶が欠けていたか……


 マルスさんは……


「――メーティス……僕のことはこの際どうでもいい。君はなぜこの世に留まろうとしてるんだい?」


「なぜって……私はまだ夢を叶えてないし、それに……」


「それに?」


「最後に会わないと哀しむ人がいる。誰かは思い出せないけど……」


 メーティスさんはマルスさんから目線を逸らし困惑する。


「そうか……とりあえず君に見せたいところがある。ここから動けるかい?」


「そこにいる術師のおじいさんが一緒なら……」


 こうして俺たちは魔法学園に向かった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 



 マルスさんがメーティスさんを学園の正門前に案内する。


「ここはどこ? 学校?」


「ここは魔法学園メーティス、人と魔族が一緒に学ぶ学校だよ」


「魔法学園メーティス……」


「君の夢をみんなで実現させたんだ」


 メーティスさんは辺りをキョロキョロと見渡す。


 喜ぶかと思ったがその表情に笑顔はなかった。


「私の夢が実現してたのはとても嬉しいんだけど……ここには居場所はないんだよね……それにこの学園の設立には携わってないし……」


 確かにメーティスさんにしてみれば夢が実現したとしても、自分が携わって叶えたものなければ複雑な気持ちなのかもしれない。


「もし生きてたら私は教師にでもなっていたのかな? 夢が叶ってたことをこの目で見れただけでも贅沢ではあるんだけど……」  


「――贅沢じゃないよ。君にはその権利があったんだから……」


 マルスさんが俯き、強く拳を握る。


そのとき学園正面の入口がゆっくりと開く。


「メーティスさん、あなたの夢の先を少しだけ見てみませんか? 学園長の私からもお願いがあります」


「俺もメーティスさんにまた色々と教えてもらいたいです。もちろんマルスさんも教わりたいですよね?」


「母さん! それにフェイ」


 なんとフレイアさんが出てきた。

 

 その隣にはフェイ先生もいる。


「フレイアさん。それにフェイ先生これは一体……」


「カズヤさん、私は本来ならメーティスさんに学園長になってもらい私は理事長であるのが理想だった。そんな彼女に一夜限りですが教壇に立っていただきたいのです」


「まぁ、メーティスさんならどっちにしても教師をするってフレイアさんに学園長の役を押し付けるでしょうけどね」


 フェイ先生がいつもは見せない子供っぽい笑顔を見せる。


「――全く……よし、行こうメーティス! 今晩は君が教師だ。ちょうど生徒たちもいるしね」


 マルスさんが目を輝かせてメーティスさんに手を差し伸べる。


「でも……私なんかが人に教えるなんて……」


 前世の英雄の記憶の中の勝ち気なメーティスさんはこんな弱気ではなかったはずだ。


 よし!


「天才のメーティスさんがビビってるんですか? 俺もメーティスさんの授業を受けてみたいです。みんなもそうだよな?」


 レイとスカーレットとケブも笑顔で頷く。


「あなた達……」


「メーティスよ。このときのために魂の器を用意しておいた。今晩だけだがワシからもこの子たちの教師役を頼むよ」


 そう言ってエウブレスさんは地面に手をつけると、魔法陣が浮かび、メーティスさんにそっくりな銀の髪に眼鏡をかけた女性の機械人形が召喚される。


「――ありがとう……よし! そうと決まったら張り切って教えるわよ!」


 エウブレスに魂を機械人形に移してもらったメーティスさんはマルスさんに手を引かれて、学園内に入っていった。


 俺たちのクラスの教室に行くとメーティスさんたちが待っていた。


 マルスさんとフェイ先生は生徒の席に座っている。


 そしてエウブレスさんがメーティスさんにこう問いかける。


「メーティスよ。教師をやるなら生徒のことは知っておいた方がいいだろう。記憶を戻してみないか?」


「本当に哀しみを乗り越えるためには記憶が必要ね。それに私にどうしても記憶を取り戻してほしい生徒もいるし……そうでしょ?」


 メーティスさんはマルスさんの方を見つめる。


「そうだな……君が哀しみを抱えたままだと僕も哀しい。――カズヤくん、頼めるかい?」


「もちろんです。マルスさんとメーティスさんの哀しみから記憶を創造します」


 胸から白創の剣(はくそうのけん)を取り出す。


「メーティスさん、想いを込めて強く望んでください。必ず俺が創造します」


「わかったわ……私の欠けた記憶を、大切な人と過ごした思い出を哀しみを乗り越えるために創造して」


 メーティスさんがそういうと、俺の左手の白のリングが強く光りだした。

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