表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄の箱庭〜君と共に生きるための物語〜  作者: 松野ユキ
第七章 十月 さまよう記憶の哀しみ
66/100

六十六 トラップ

「エウブレスさん、一つ聞いていいですか?」

  

「なんだ?」


「今日はあなたがメーティスさんの魂を可視化させたんですか?」


 この人は俺たちがメーティスさんの霊を目撃したときにはこの場におらず、マルスさんの後に駆けつけてきた。


 魂の可視化をどのようにするかはわからないが、エウブレスさんが可視化させたとは思えない。別の誰かが可視化させたのか。あるいは……


「今日はワシが可視化をしていないし、他の誰かがやったわけでもない。メーティスが自分で可視化したようだな」


 最後の予想が当ったか……


「つまりメーティスさんは何か想うことがあって自分で可視化したわけですよね……?」


「まだそうとは言い切れん。魂が暴走を始めてる可能性もある。いずれにせよ、早く対処しなければいけないわけだが……」


 しかしメーティスさんの魂にはプロテクトがかけられており対話ができないので、彼女が何を想い何を望んでいるかわからい。


 そうなると起点となる感情と望みがわかないので、俺の創造の力も使えないわけだ……


「うーん……一応僕の破壊の力ならプロテクトを破壊できないこともないけど……おそらくそれは危険なんですよね?」 

 

 顎を触りながら考えごとをしていたレイがエウブレスさんに問う。


「そうだな。プロテクトを破壊しようとしたとき、強制中断トラップが発動して、突破されたら排除トラップが発動する」


 エウブレスさんはそれぞれのトラップについてさらに詳しく説明してくれた。



 強制中断トラップは警告の後、メーティスさんの闇の魔力を流し込み、相手を洗脳することで侵入を防ぐトラップ。


 排除トラップは四体の機械人形が召喚され物理的に侵入者を排除するトラップ。



「――なるほど、でもこの二つのトラップがわかってるということは、エウブレスさんは一度トラップを発動させたんですか?」


「あぁ……最初のトラップはワシがメーティスに教えたものだから難なく突破できた。次の四体の機械人形は厄介だ。ワシだけでは全てを倒せなかった」


 冥王と呼ばれるエウブレスさんでも倒せない四体の機械人形……


「まぁ最大の問題はトラップを破りプロテクトを突破してもメーティスの魂が不完全であることだがな……」


「さっきも言ってましたけど、どういうことなんですか?」


「魂は長い間、肉体に宿らないままこの世にいると記憶が徐々に失われていく。メーティスが亡くなってから二十年は経つ……記憶が欠けていてもおかしくはない」


 未練だけでずっとこの世に留まれるほど甘くはないということか。


 このままメーティスさんを放置しておけば負の感情だけが残る悪霊になってしまう。


 そうなる前に記憶を取り戻して成仏してもらわないといけないわけか……


「そこで俺の創造の力が必要というわけですか?」


「察しがいいなカズヤくん。君にはメーティスが失われているであろう記憶の創造をしてもらいたい」


 記憶の創造……


 本当にそんなことができるのだろうか。


「――僕が記憶の破壊をできるのだからカズヤが記憶の創造をできてもおかしくはないよね……」


 これまで得た、物質の創造、力の創造は、レイの物質の破壊と力の破壊と対になっている。


 ならばレイが記憶の破壊をできるということは俺も記憶の創造をできてかもしれないのはあり得る話だ。


「とはいえ、メーティスさんが望んでくれないことには記憶創造も発動しないだろ?」


「それはそうだけど……」


 結局はメーティスさんと対話できないとどうにもならないわけだ。


「――このままメーティスの霊を放置しておくわけにはいかない。僕はトラップを発動させてでもメーティスに対話を試みるべきだと思う」


 これまで黙って話を聞いていたマルスさんが口を開く。


「まぁマルスがいればあの機械人形も余裕で倒せるだろう。しかしアドルたちと疎遠になってるワシに強力していいのか?」


「島の安全のためにメーティスを放置するわけにいかないでしょう」


 それに本当に駄目なことなら父さんと母さんが止めますよ、とマルスさんは付け加えて言う。


「結局、ワシはアイツらの手のひら上か……まぁメーティスとお前のためなら喜んで踊ってやるよ」


 エウブレスさんはため息をつき、マルスさんに微笑む。



「――あの……私とケブさんはどうすればいいのでしょうか……?」


 スカーレットが恐る恐るエウブレスさんに問う。


「君たちはなぁ……」


 エウブレスさんが額に手を当てて困ったような表情をして考える。


 するとマルスさんが口を開いた。


「スカーレットさんとケブくんにはコンビで機械人形を一体倒してほしい」


「この子たちにあれの相手させていいのか? カズヤくんやレイならともかく普通の学生だぞ?」


「普通の学生である二人で倒す意味があるんですよ。二人ともやれるよね?」


 スカーレットとケブが力強く頷く。



 こうして俺たちはプロテクトを突破するためにまずはトラップを破ることにした。


「それじゃあまずは第一のトラップを破るぞ」


 エウブレスさんがメーティスさんの霊体に手をかざすと、霊体は目を見開き警告の言葉を発する。


 それでもエウブレスさんが止めないことを確認すると、霊体の胸が紫色に光って闇の魔力に覆われた。


 どす黒い魔力は手の形になり、頭をつかみ闇の魔力を流し込む。


 その瞬間、エウブレスさんは闇の魔力で自身を覆うと、メーティスさんの闇の魔力をどんどん吸収していく。


「メーティスの闇の魔力をワシの闇の魔力に変換して吸収した。これでしばらくは強制中断トラップを発動できなくなるだろう。さて……次は君たちの出番だ」


 エウブレスさんが後方に退避すると、地面からメーティスさんを囲むように四つの魔法陣が浮かびあがる。


 四つの魔法陣からはそれぞれ異なるタイプの機械人形が出てくる。


 赤色の魔法陣からはオーガ、緑色の魔法陣からは騎士、青色の魔法からは女神、黄色の魔法陣からは竜。


 機械人形は全く異なる見た目をしている。


「カズヤくんは騎士型、レイは女神型、スカーレットさんとケブくんはオーガ型を頼む。僕は竜型だ。みんな行くよ!」 

 

 マルスさんの指示とともに戦いは始まった。



 白創の剣(はくそうのけん)を胸から出して構える。


 騎士タイプの機械人形は素早い突きを繰り出してくるが、今の俺には全て見切れる。

  

 なんせマルスさんと本気でほぼ毎日剣を交わしてきたんだ。


 こんな突きは受けるまでも……


 突きが墓石にあたり、墓石が砕け散った……


 ――前言撤回、全て受け切る。


 これ以上、共同墓地で暴れ回られたら死者たちからクレー厶がきそうだ。


 そもそもクォーツ先輩を倒すならこのくらいの相手に攻撃をさせていては話しにならない。


 今回は一気に決めるぞ!


 軽く息を吸って、頭の中のスイッチを入れる。


 左手足を強く蹴りだし、高速の斬撃を繰り出す。


 流石はメーティスさんが作った機械人形だけあってとても堅く剣が弾かれる。


 ならば、白創の剣(はくそうのけん)の剣を通じて肉体強化をする。


 両足! 左腕! 右腕! そして頭部!


 最後は胴体を十字に斬る。


 あんなに硬かった機械人形を豆腐のように斬ることができた。思ったより手応えがなかったな。


 ところが機械人形の残骸は切り口から触手のようなものを出して再生しようしている。


 なるほどエウブレスさんが苦戦するわけだ……


 だけど、こっちは一対一。

 そんな簡単に再生なんてさせてやるわけがない。


 すぐさま光炎を出し機械人形の残骸を跡形もなく燃やした。


 さて、他のみんなは……



 レイは黒壊の剣(こっかいのけん)を出しているが、力を解放はしていない。


 水でできている女神型の機械人形だ。

 身体を様々な形に変化させてレイに襲いかかる。


 でも妙だな?


 こういうのはコアを破壊すればいいのに目に見えてるコアらしき装置に攻撃をしない。


「――なるほどね。コアは二つある。一つはバレバレのやつ。もう一つは……」


 剣を掲げて、上空に紫のビームを放つと、ビームはクネクネと曲がり何かに当たると小さく爆発した。


 そして目にも止まらぬ速さで、斬ってくださいと言わんばかりのコアを剣先で細かく切り刻む。


 すると青と黒の箱だけが残った。

 

 黒の箱を高く投げ、再び紫色のビームを放つと今度は上空でとてつもない音を出して爆発した。


 爆発し終わったことを確認すると青の箱を握りつぶす。


「上空にあるすばしっこいコアと、爆弾入りのコアの両方を破壊しないと、どちらかがまた新たなコアを作りだすという仕組みかな? まぁ楽しめたよ」


 レイは黒壊の剣(こっかいのけん)を胸にしまうと、こちらの方を見て、ニコリと笑う。



「カズヤくんとレイはもう終わったようだね」


 マルスさんが何事もなかったようにこちらに駆けつける。


「あの……マルスさん。竜型の機械人形は?」


「メーティスには悪いけどすぐに塵にしたよ。何か特殊な機能があったかもしれないけど……それよりスカーレットさんとケブ君だ」


 二人は大きなオーガ型の機械人形と戦っていた。


「スカーレット! 分析まだか?」


「もう少し……もう少しですの」


 二人もただの機械人形ではないことに気がついているか。


 それにしてもケブはあの大型機械人形を相手にスカーレットとお墓を守りながら戦うとは成長したなぁ……


「わかりましたわ! コアを破壊する順番は右腕、左脚、頭部、右脚、左腕、最後に胸部ですわ」


「了解!」


 ケブはスカーレットに指示された順番でコアを破壊していく。


 そしてコアは残り一つになると……


「スカーレット、最後は任せた!」


「いきますわよ……地獄から這い上がってきた炎の令嬢の力を見せてさしあげますわ!」


 スカーレットは巨大な機械人形に向かって走りだし、仕込み刀に炎を纏わせ、高く跳ぶ。


 刀に纏っている炎はどんどん増えていき、機械人形の横幅くらいの太さになる。


 そしてその金棒のような巨大な炎刀で機械人形をコアごとぶった切った。


 いや、叩き潰したという方が正しいかもしれない。


 スカーレットゆっくりと仕込み刀を仕舞うと、駆け寄ってくるケブと笑顔でハイタッチをした。


「二人とも本当に成長したね」


 レイが満足そうにケブとスカーレットを見つめる。


「マルスさんはこうなることがわかってたんですか?」


「そりゃ、グリットさんに一ヶ月も鍛えられたらああなるよ。カズヤくんは優しい師匠でよかったね」


 俺は素直に首を立てに振れなかった……



「みんなよくやった。あとはプロテクトの解除とメーティスとの対話だ。ここからが本番だぞ」


 エウブレスさんがメーティスさんの方を見る。


 いよいよメーティスさんの魂のプロテクトを解除して、対話をすることができる。


 彼女は何を想い、何を望むのだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ