六十三 魔法パフォーマンス
パフォーマンスが始まると、マオ先輩を含む八人の生徒たちは、クラウン先輩たちを取り囲んだ。
そして残る五人の生徒はクラウン先輩とアルラウネ先輩を守るように囲む。
パンフレットによると午前中は演劇形式で行われるらしい。
これから行われる演劇は、魔王役のクラウン先輩たちがお姫様役のアルラウネ先輩を誘拐し、勇者役のマオ先輩たちが助けにきたというシンプルな設定だ。
少し離れたところにいる生徒たちが演奏を始めると、劇がスタートした。
魔王クラウンは左手でアルラウネ姫を抱きかかえながら、右手を高く上げると、巨大な炎の魔神が現れ会場が盛り上がる。
炎の魔神が火球を放ち、勇者マオが剣を振り豪快にかき消すとさらに観客はヒートアップする。
続いて魔王の手下たちが炎の矢で勇者たちを攻撃するが、三人の従者たちは水の壁で防ぐ。
さらに後ろに控えていた別の四人の従者は岩の防壁を構築し、魔王たちを隙間なく取り囲む。
これでもう魔王たちは逃げられないわけだ。
さてどうなる?
先ほど水の壁を出していた従者と勇者は風の魔法で岩の防壁の上に登る。
そして、防壁の上にいる三人の従者たちは両手を突き出し防壁内に水を放出する。
このままで魔王だけでなく姫も水没するのでは……
そう思った矢先、目に止まらぬ速さで勇者が防壁内に入り魔王の背後をとりニヤリと笑う。
しかし勇者は魔王に片手で応戦され、岩の防壁内に水がどんどん溜まっていく……
その時、魔王の五人の手下たちが同時に地面に手を着けると、船のような形の岩が盛り上がる。
これでひとまず助かったわけだが、今度は勇者の従者たちが渦を起こし始め、渦のスピードがどんどんと上がっていく。
姫様の安全は考えない従者たちだな……
魔王の手下たちも風魔法で吹き飛ばしたりして防壁の上にいる従者を落としているが、下で控えていた別の従者が登ってきた。
どっちが悪役か分からなくなってきた……
一進一退の攻防が続いていたが、勇者がついに魔王を舟岩の端に追い詰める。
魔王、頑張れ!
その時、魔王が足を滑らせ姫を渦の中に落としてしまう。
会場内に悲鳴が響き渡る。
それを見た勇者がすぐに渦の中に飛び込み、魔王も後に続く。
勇者の従者たちはすぐさま渦を止めるが三人はすぐに上がってこない……
ここで一旦演奏が止み、会場は静寂に包まれる。
――ゴゴゴゴ……
水の中から何か音がすると思ったら水位が低くなっていく。
そして、水中からオリーブの木が顔を出しどんどん伸びていき大木になる。
これはアルラウネ先輩、いやアルラウネ姫の魔法だ。
いつもは水魔法と地魔法を使って植物の種を急成長させるのだが、今回はたっぷりある水を利用したのだろう。
大木の幹は勇者と魔王を抱きかかえるように救出する。
水しぶきが宙を舞い、虹を作る。
姫様が大樹の根本から出てくると演奏が再び始まり、会場が沸く。
姫様は勇者と魔王を自分の近くに降ろすと二人に怒るような仕草をする。
そりゃあ姫様にしてみたらとんだ災難だ。
会場が笑いに包まれる。
姫様は大きなため息をつくと、勇者と魔王の顔を見つめた あとに二人の手を引いて握手を促す。
勇者と魔王は最初は戸惑っていたが、姫様の顔を見て微笑むとガッチリと握手を交わした。
音楽は最高潮に盛り上がり、勇者の従者は水魔法で、魔王の手下は炎魔法で、平和を象徴する鳩を作り飛ばして二人の和解を祝福する。
ここで劇が終わり十五人の生徒が礼をすると会場から割れんばかりの拍手に包まれる。
大勢の観客に手を振りながらクラウン先輩たちは会場を後にした。
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「――カズヤくん、どうだったかな?」
エウブレスさんが満足そうな表情で尋ねる。
「よかったですけど……予想してたより喜劇よりの内容なんですね……」
「辛気臭い内容よりはいいだろう? 人と魔族が演じたもので皆を笑顔にさせる。素晴らしいではないか」
言われてみればそうだ。
人と魔族が連携して魔法を使いこなしみんなを笑顔にする。
これを他国から観光客に見せることは魔法学園メーティスの存在意義をアピールすることになるのだろう。
「――それで先ほどの話の続きだ。どこまで話したか覚えているかな?」
「闇の魔力を持つメーティスさんは水の大国から追放され、火の大国に保護されてエウブレスさんの助手になった。でも天才ゆえに孤独を感じていたんですよね?」
あと、それもマルスさんが……ということをエウブレスさんが言いかけてたな。
「そうだ。メーティスは天才ゆえに同じ年の少年少女と上手く付き合えなかった。マルスと出会うまではな……」
「マルスさんも天才だったんですか?」
最強の英雄アドルさんと聖女フレイアさんの実子だ。
天才であってもおかしくはないだろう。
「優秀ではあったが周りの期待に応えられるほどではなかった。それでも真面目に努力し続けていたがワシにはあいつが孤独に見えた」
両親が偉大過ぎて周りが期待し過ぎてしまう。
よくある話だが両親が両親なだけに俺には想像もできないプレッシャーがあったに違いない。
「だがある日、ワシが留守にしていたときにメーティスは闇の魔力を暴走させてしまった。なんとかマルスが光の魔力を使って抑えこんだが、メーティスはまた追放されるのではないかと怯えるようになってしまった……」
暴走する闇の魔力と抑え込む光の魔力。
まるでレイと俺みたいだな……
「みんなが彼女を腫れ物扱いするようになる中、マルスはワシの研究室に閉じこもるメーティスを訪ねて『君は天才なんだろ? 僕に勉強を教えてよ』と言い出した」
「でもそんなすんなりと仲良くはなれないですよね?」
「まぁそうだな。メーティスはまたマルスに迷惑をかけたくないと断り続けた。でもマルスは『守ってあげるから勉強を教えて!』と諦めなかった」
――俺でもマルスさんと同じことをしたかもしれない。
だって自分が助けた女の子がさらに落ち込んでいるなんて放っておけるわけがない。
「マルスさんも相当なお人好しですね……」
「そうだな……結局はメーティスが根負けして勉強を教えることになったよ。まぁ、教えるからには一切手抜きはしなくてマルスはついていくので精一杯だったけどな」
エウブレスは顔を掻きながら苦笑いをする。
「おかげで彼女は自信と明るさを取り戻し、マルスに惹かれていった。そしてマルスも……ワシはこの二人が幸せになる未来を作ろうと心に決めた。だが……」
「何があったんですか?」
「――ワシはメーティスを魔王から守れなかった……マルスがこの島を守るために英雄と残ると決めたとき、ワシにメーティスのことを頼んだにも関わらず……」
やはりメーティスさんは魔王に殺されたのか……
マルスさんは島を守るために残った結果、島を魔王から守れても、恋人は魔王から守れなかった。
「あれだけ辛い思いをして島を守って、さらに魔王に恋人まで殺されて……なんでマルスさんはあんなに笑顔でいられるんですか……」
「それはこの島が、この学園が、そして君たちがマルスとメーティスの夢だからだ。それを守るためならあいつは何でもする。何でもな……」
君たちと言われても、マルスさんはレイが悪魔の魂を完全覚醒させてどうにもならなくなったら自分が殺す覚悟も持っている。
「――マルスさんばかりが哀しみを背負い過ぎている……俺に何かできることがあれば……」
「君たちがやるべきことをやることが救いだ。だが、それとは別にワシがマルスのためにしてやれることもある」
エウブレスさんを纏う空気が変わる。
この気配は闇の魔力だ。
「それは……なんですか?」
「メーティスの魂を一時的に復活させて、マルスに最期の別れをさせてあげられる。だが、そのためには君の協力が必要だ」
「俺の協力?」
「そう……創造の光の魔力を持ち他者の魂に直接アクセスできる力を持つ君の協力がね」
他者の魂に直接アクセス……
たしかに力の創造をしたときセレーネやティターンの魂に直接アクセスした。
「でも俺ができるのは力の合成ですよ? 魂の復活なんて……」
「君の力がさらに覚醒すればワシと二人ならできる。どうだ? 協力してくれないか?」
そんなことを言われてもすぐには返事なんて……
「ならば返事はいらない。ワシを怪しいと思うなら信用できる者と一緒に来るといい。どうせマルスもついてくるだろうがな。ただ来るなら夜にしてくれ」
そう言ってエウブレスさんは自宅の住所と地図が書かれている紙をくれた。
焦らなくても来たいと思う日の夜に訪ねてくるといいとも言って……
突然のエウブレスさんからの提案。
死者の魂を復活させることなんて許されることではない。
それにマルスさんもそれを望むわけもない。
でもメーティスさんはどうなんだろうか?
本当に満足しているのだろうか。
もし彼女の哀しみがさまよっているのならば助けてあげることは間違いなのだろうか……




