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英雄の箱庭〜君と共に生きるための物語〜  作者: 松野ユキ
第六章 九月 力なき者の怒り
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五十七 光に向かって

 一・二年生合同魔法演習及び模擬戦の翌日、周囲の俺を見る目が変わった。


 朝はクラスメイトから模擬戦について質問責めにあい、休み時間に廊下を歩いていると多くの視線を感じる。


 三年生との選抜試合が終えた時点では、まだまだ三年生には及ばないという程度の評価であったが、今では永遠の生徒会のメンバーに匹敵するとまで噂をされているらしい。 


 実際はそんなレベルではないことは俺自身がよく分かっているので調子に乗ることはないけれど、苦手なことまで一挙一動見られるのは少し辛い……


 午前の授業が終わって、食堂に行っても視線を感じて食が進まなかった。


「あれ? カズヤ、全然食べれてないじゃないか。どこか調子が悪いのかい?」


 永遠の生徒会メンバーで常に注目をされているレイはいつもと変わらない食欲で山の様なハンバーグをどんどん崩しながら、心配そうな顔で話しかけてくる。


「いや、分かってはいたんだけど……あれだけ大勢の前で神具(しんぐ)の力を見せると注目されてしまうんだなぁと……」


「けど、そんなので悩んでたらこれから心も身体も持たないよ。はい、これ食べて元気だしなよ」


 レイは特大のハンバーグを一枚俺の皿に乗せる。

 

「レイ様のおっしゃる通りですわ。強くなるということは嫌でも注目されてしまうもの。気持ちの強さが大切さなことはカズヤもよくご存知でしょう?」


「お前たちみたいに何でもできて、注目されていることに慣れてるならそういう風に割り切りもできるけど……慣れてないと割り切れないよなケブ?」


「うーん、俺に話を振られてもお前たちと違って平々凡々で注目されたことなんてないからわかんねぇよ……」 

 

 大きな身体に似合わない大きさのランチプレートの肉をつつきながらゲブは困惑した表情で答える。



「――私にあんなに格好良くご指導くださったのに、そんな情けない姿を見せられたら幻滅しちゃいますよ?」


「本当、こんな姿をセレーネやアポロに見られたら幻滅されちゃう……ってセレーネ!」


 銀色の髪の少女が俺を無邪気にからかってくる。

 やっぱりこの優秀な後輩は本当に油断ができない。


「お食事中、すみませんでした。昨日はありがとございます」


「君も今から昼食?」


「私は改造されてるので別に食べなくてもエネルギーは作れるんですけど、どうしてもアポロちゃんが食堂に行こうって……」


 しかし、そのアポロはセレーネの側にはいないようだが……


「セレーネちゃん! お待たせ。ティタン先輩も呼んできたよ!」


「アポロちゃん! ティタン先輩まで来るなんて聞いてないよ……」


 小柄なアポロに腕をぐいぐいと引っ張られて恥ずかしがっている巨体のティタンを見て、セレーネは少々困惑している。


「せ、セレーネが嫌なら俺は戻るが……別にゴーレムだから食べなくてもいいし……」


 ティタンが気まずそうに頭を掻く。


 そんな姿を見たセレーネの口元が緩む。


「――――ふふっ……それは私も同じですよ。せっかく来てくださったんですし三人でどこかに座ってお話をしませんか?」


 セレーネが笑顔でティタンに手を差し出す。


「俺なんかが一緒に行っていいのか?」


「それは昨日お話しましたよね。過去を許す許さないは今決めなくてもいいじゃないですか。私たちは今はただの後輩と先輩。まぁどうしても気になるならアポロちゃんに何か奢ってあげてくださいよ」


「え? いいんですかティタン先輩?」


 アポロがキラキラと目を輝かせてティタンの方を見る。


「そうだな……アポロが俺を連れてきたおかげで三人で話ができるわけだしな。よし先輩が何でも奢ってやる!」


 ティタンが大きな胸を張り自信満々で答える。


「やったぁ! じゃあ私は売店で何か買って外で食べたいな。今日は晴れてるし」


「そうだねアポロちゃん。こんないいお天気だし、ティタン先輩がいるなら広い場所の方がいいよね」


 セレーネは窓の外を見たあとに愛おしそうにアポロとテイを見つめる。


「では、私たちは売店に寄ってから外に行きます。この度は本当に色々とありがとうごさまいました」


「何か困ったことがあったら俺でよければ相談に乗るよ。光の魔法のことならマルスさんを通じてもっと詳しいことも教えられるかもしれないし……」


 俺の光魔法の師匠であり神具(しんぐ)を持つ心優しいマルスさんならきっと力になってくれるだろう。


「ありがとうございます。先輩のおかげで光に向かって歩きだせそうです。では、二人を待たせいるのでこれで失礼します」


 セレーネは一礼するとアポロに手を引かれティタンと食堂を後にした。


「色々と心配したけどいい子だったね。これが君が導いた未来だ」


「導いたなんて大げさだ。彼女が自分の怒りと向き合って、本気で力を望んだ結果さ。俺は結局のところ彼女の闇を全て吐き出してもらえなかったし、理解できなかった」


 合同演習と模擬戦でやれたことは俺の光の魔法を見せて、黄照の剣(おうしょうのけん)を彼女のために創っただけだ。


 彼女を変えたのは彼女自身だ。


「どうしたら君はもっと自信を持てるんだろうねぇ……まぁそういうクソ真面目なところが僕は大好きなんだけどね」


 レイは最後のハンバーグを食べ終え、優しい眼差しでこちらを見つめる。


 窓から差し込む光に照らされるレイの微笑みを見ているととても心が温かくなってくる。


 こいつが破壊の悪魔の転生者とはとても思えない。


「――自信がなくてもお前が信じてくれるならずっと前を向けるさ……」


 つい最近まで普通の高校生だった俺が世界の(ことわり)を越えようとしている。


 この島のために、そして目の前にいるこいつと一緒に生きるために……


「――あの……カズヤ。先ほどまではあんなに目立ちたくなさそうにしてたのに、よくそんなに堂々とイチャイチャできますわね……」


 スカーレットがジト目でこちらを見てくる。


「いや、イチャイチャなんて……」


「僕は全然構わないけどね」

 

 レイはニヤついた顔をして動揺している俺の顔を覗いてくる。


「そんなぁ……レイ様……じゃあ私も交ぜてください!」


 スカーレットが身を乗り出してレイに提案する。


「三人で何やってんだ……」


 ケブが呆れている。



 力をつけていけば周囲の見る目も変わる、でもこの四人の関係はいつも通りだ。


 力を求め続ける機械仕掛けの後輩セレーネも、アポロやティタンたちとこんな日常を楽しんで、今を光で満たしてくれることを切に願っている。

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