五十六 後輩と先輩
新たに習得した「力の創造」の能力を使い、俺とセレーネの光の魔力を合成し、その魔力を使ってセレーネの魂の奥にアクセスした。
そして「物質の創造」の能力で、彼女の魂、彼女の想いを武器として具現化することができた。
「約束通り、君の力を創った」
「これは神具なんですか?」
セレーネは月明かりのように光る黄色の剣を手に取りじっと見つめる。
「神具は魂を形にしたという物ならそうなのかもしれないけれど、俺にもそこはわからない。それでも君が仕上げた剣であることは間違いない」
この剣を創るのに光の魔力を使い過ぎた俺は、パートナーリングから供給されるレイの闇の魔力に蝕まれたが、セレーネはその闇の魔力すらも受入れた。
セレーネの勇気ある決断があったからこそこの剣は仕上がったのだ。
「本物ではないかもしれないんですか……でも私はこの剣は好きです」
愛おしそうに指先で剣身をなぞる。
「これまで力を求めるために色々してきましたが、どれも冷たくて私を闇に追いやりました。でもこの剣の力はとてもやさして温かい……」
この剣の発する光はとても温かい。
きっとセレーネの未来も照らしてくれるだろう。
「その剣の名前を決めないとな」
「カズヤ先輩が決めてください」
「――じゃあ、黃照の剣なんてどうだ?」
闇を照らす黄色い剣。
セレーネが持つに相応しい剣の名だ。
「申し訳ないんですけど女の子が持つ剣にしては微妙な名前ですよね……」
セレーネが苦笑いをする。
しまった。
もっとオシャレな名前にすべきだったか!
というか女の子らしい武器の名前ってなんだよ。
ムーンライトソードとかか?
「ちょっと待て、もっとオシャレな名前を考える……」
こんなところで滑ってしまっては台無しだろ。
センスを総動員していい名前をつけるんだ。
「冗談ですよ。『黄照の剣』でいいです。ありがとうございます。」
セレーネが剣の名を受け入れたとき、左手の掌が光り、魔法陣が浮かび上がる。
「先輩、これは?」
「おそらく俺の白のリングと同じでその剣を出すときの鍵みたいなもんだろうな。
「鍵?」
「それを胸に当てて光の魔力と力への想いをシンクロさせれば、君の魂にアクセスでき、剣を取り出せるんだろうと思う」
まぁこのタイミングで浮かび上がるのだからそういうもんだろう。
「そうですか……試行錯誤してみます。それでこれからどうします?」
「そりゃ、後ろで待機してる二人にも戦ってもらうさ。俺達だけのための模擬戦ではないからな。アポロを解放してやってくれ」
セレーネがアポロを解放すると、アポロは泣きながらこちらに駆け寄ってきた。
「酷いよ、セレーネちゃん! 入学して唯一私に声をかけてくれたあなたの隣に立ちたくて、私はずっと頑張ってきたんたよ! 今は足元にも及ばなくて邪魔かもしれないけど……」
目を腫らして抗議をする。
本当にこの子はセレーネのことを大切に思っているのだろう。
「――そんなことないよ。私こそ強くなりたいと思うばかりでアポロちゃんのことを考える余裕かなかった。今度は一緒に戦ってくれる?」
セレーネはアポロの肩を掴み真っ直ぐに見つめて想いを伝える。
「もちろんだよ! 二人で先輩たちに勝とう!」
涙を拭って、ニコリと微笑んだ。
さて、セレーネとアポロが仲直りをしたし……
「ティタン。ようやくお前の出番がきたわけだ」
「今の俺でセレーネとまともにやりあえるのか?」
「心配すんな。お前はこれまでの自分の想いを高めて力を望め。俺が力を創る。セレーネのことは任せた」
黃照の剣を創るためにかなりの光の魔力を消費してきた。
セレーネとの会話の間で多少は魔力は回復してきているが、ティタンに「力の創造」の能力を使えばしばらくは魔力の回復に努めなければいけないだろう。
したがって、これ以上は今のセレーネとやりあうのは厳しいというわけだ。
「わかった。セレーネは俺に任せろ」
ティタンの手に触れ、想いと願いを受け取る。
ずっとセレーネに何もしてやれなかったことへの無力感と自分への怒り、そして彼女と戦うための力を望む気持ちが伝わってくる。
「いくぞ! ティタン!」
ティタンに光の魔力を流し込むと白い光が包み込む。
そして、ティタンは全身は透き通った黄褐色に変色し輝きだす。
「カズヤ、これは?」
「お前の地の魔力と俺の光の魔力を合成した。魔法で強化された六方晶ダイヤモンドだ。セレーネにだって簡単に砕かれねぇよ。さて……」
セレーネとアポロの方を向く。
「先輩たちも準備ができたようですね。そろそろ決着をつけましょうか」
「そうだな。二人とも全力でこい!」
「セレーネちゃん! 私からいくよ!」
アポロは両手を前に突き出して炎魔法を放つ。
炎は輪となり俺とティタンをそれぞれ拘束する。
振り払おうとした瞬間、炎の輪は上下に伸びて筒状になり二人を分断する。
なるほど目くらましか。
炎の筒を振り払い脱出すると、後ろからセレーネが俺に斬りかかってきた。
「カズヤ!」
ティタンが腕でセレーネの剣を受け止める。
「これで終わりではないですよ?」
アポロが火球の連弾を俺とティタンに向けて撃ってくる。
「セレーネちゃん、今のうちに二人を!」
いいコンビネーションだ。
しかし……
「ティタン。セレーネを頼んだ」
セレーネの火球を剣でかき消しながらアポロの方に突っ込む。
「――こんなに速く間合いを詰められるなんて……」
「悪いな。今の俺にできるのはティタンのサポートだ。少し痛い目にあってもらうぞ」
剣の柄頭でみぞおちを殴り吹き飛ばす。
「まだ……やれ、ま、す……」
一度は立ち上がろうしたもののアポロはその場に倒れ込んだ。
アポロを安全なところに寝かせ、ティタンの元に戻る。
セレーネはティタンに斬りかかるも硬すぎるその身体に傷一つつけられずにいた。
「細かく斬りかかっても無駄ということですか……ならばこの一撃で終わらせます!」
セレーネは風翼を生やし、ある程度の高さまでいくと、光炎を剣に纏わせ勢いをつけて斬りかかってきた。
ティタンは両手でセレーネの会心の一撃を受け止める。
しかしセレーネの勢いは止まらず、魔法で強化した六方晶ダイヤモンドの腕にヒビが入る。
「砕け散れ!」
彼女の叫びに呼応して黄照の剣は強く光る。
これではティタンのが斬られてしまう。
「ティタン、今行く!」
二人の間に入り止めるために駆け寄る。
「カズヤ来るな!」
ティタンの強い言葉に思わず静止する。
「カズヤ、ここは俺に任せろ」
セレーネの一撃に耐えながら強い口調で語りかける。
「――わかったよ。絶対に勝てよ」
信じて任せたのだからここで邪魔をするのは無粋だろう。
ティタンは剣を両手で受けるのは止めて、左手だけで受け止めて、右手は反撃に備える。
左手は砕かれ、セレーネの剣はさらに勢いをつけて左肩からティタンを切り裂こうとする。
そのとき、ティタンは気力を振り絞り右手で彼女を殴り飛ばした。
「うぐぅ!」
強力な一撃にセレーネは剣を手放し吹き飛ぶ。
嫌な音がしたので俺は慌ててセレーネの元に駆け寄る。
「大丈夫か?」
機械でできたセレーネの左腕と左脚は凹んで全く動かなくなっている。
生身ならこれだけでは済まなかっただろう。
「ティタン先輩にこんな力があったなんて……いやこれもカズヤ先輩の……」
「俺はあいつを硬くしただけだ。この力はあいつ自身の力だよ」
「私、やっぱり弱いですね……」
セレーネは俺から顔を背けで意気消沈する。
「ティタンが強いんだよ。お前はあいつを舐めすぎだ」
「旧式とはいえ地の国のトップクラスのゴーレムですしね……」
「そうじゃない。あいつのお前に認めてもらいという想いが強かっただけだ。それに真っ向からやらなきゃお前の圧勝だろうよ」
ティタンは堅いとはいえセレーネの手札の多さなら何とでもなったはずだ。
最もそんなことは彼女もわかっているだろうけど……
「勝負を焦り過ぎましたね……それでもティタン先輩、いやティタンは昔と変わらず大きくて強いですよ……」
「なぁ……お節介かもしれないけど一度ティタンと話をしてくれないか?」
ぐったりと横になっているセレーネは少し沈黙する。
「――もう昔みたいには戻れませんよ……」
「別に昔みたくなくてもいいだろ。ここは学園だ。ただの後輩と先輩からやり直せばいい」
「後輩と先輩ですか……そうですね。私はまだ一年生なんですよね……」
ティタンが片手でアポロを抱き抱えこちらに向かってくる。
「セレーネ! 大丈夫か?」
「見ての通り普通の人よりは丈夫な身体なので……ティタン先輩こそ……」
「俺はゴーレムだし大丈夫だ。それよりお前の綺麗な身体をこんな傷つけてしてしまってすまない……」
「綺麗って……どうせ改蔵された醜い身体ですよ」
「お前は気に入らないかもしれないけど、俺はお前の白銀の腕や脚は美しいと思っている」
ティタンの表情はよくわからないが、おそらく微笑んでいるのだろう。
一方セレーネは一瞬照れたが、すぐに少し呆れたような表情になる。
「はぁ……人の苦悩も知らないでティタン先輩は……もうわかりましたよ。私たちの負けです」
「じゃあ、決着もしたし最後にセレーネに見せないといけない魔法があるな。ちょうど一発分の魔力は回復したし、希望を教えるという約束の仕上げをするか」
「カズヤ先輩、まだ何か隠してたんですか……」
「ティタンと君が和解したら見せようしてた魔法だ。受け取ってくれ」
青のサブリングを発動させると、上空に巨大な魔法陣が浮かび上がる。
そして、光りの雨が四人に降り注ぐ。
「私の機械の手脚が修復されていく……この回復魔法は一体……」
「これは『共存の天水』、水魔法に光の魔力を付与した強力かつ広範囲な回復魔法だ。まぁ、無差別に敵まで回復させてしまうから戦闘中はほとんど使えないけどな」
「多くの人と魔族を救うための光の魔法……やっぱり先輩は私の遥か先を行ってるんですね……」
「君はまだ一年生だろ。それにゆくゆくは黄照の剣で学園の生徒の未来を照らしてほしい。その経験は祖国に帰っても役に立つだろう」
そういうと、セレーネはとても驚いたような顔をする。
「――私がみんなを導く? そんなこと……」
「セレーネちゃんならできるよ! 私も側で支えるから……三年生になったら二人で生徒会に入ろうよ」
元気になったアポロが目を輝かせてセレーネに目標を語る。
「私が生徒会か……永遠には興味はないけど生徒会には入ってみたいな。もちろんアポロちゃんと一緒にね!」
セレーネがアポロに微笑む、
「――あの……お取り込み中のところ申し訳ないのですが……この試合は二年生チームの勝ちでいいですね?」
フレイアさんが突然現れてセレーネとアポロに確認する。
二人は少し悔しそうな顔をするがすぐに頷いた。
「それでは……一年生対二年生の模擬戦は二年生チームの勝ちといたします!」
フレイアさんの宣言で模擬戦は幕を閉じた。
ティタンは模擬戦が終わってからセレーネと少し話をしていた。
すぐに元通りとはいかないだろうけど、あの二人なら分かり会える日がくるだろう。
ちなみに、俺がレイの元に戻ると、試合前に宣言していた通り、後輩からの差し入れは全て彼女の井の中に消えていた。




